出版業においても、それぞれの出版社に特徴的な出版活動がなされているのが通常で、そのため本にいくらか親しんでいるひとであれぱ、出版社の名前を見ただけで、そこで発行される書籍のだいたいの内容が推定できる。それは、その出版社が自社のだいたいの継続的読者層を予測して出版活動をおこなっているからである。写真を多用した週刊誌などの雑誌メディアにおいてはその傾向がますます顕著になっている。
定期発行雑誌ではほとんどの場合、営業収入のうちで広告費の占める割合が多く、広告による収益の大きさとその提供者との関係が記事内容に大いに関係してくるし、広告主のほうもはじめからその推定読者層をねらって近づいてくる。だから雑誌の中には、前節であげた読売・毎日・産経各紙のように、広告提供者の名前をあげずに、いわゆる「ちようちん記事」を書いて広告利益をあげたり、広告費(じつは被買収費)を貰いながらその提供者名をあげずに、その企業(団体)の探訪記事などを書いて実質的に広告をおこなっていることはめずらしくない。また、これは新聞の場合でも同じで、電通や博報堂などの広告会社は、たとえば新製品が開発されるとその情報案内を新聞に書かせ、それが出ると、その商品の製造業者にじっさい代金請求などをおこなうことが日常化している。このメディアと広告主との相関関係は、テレビのようにある番組とその提供スポンサーがセットになっている場合とか、まさにその広告のためにだけ放送局が時間と電波を販売するスポットコマーシャルの場合によりはっきりする。
問題は、そうした放送番組と広告主との個別番組における利害の結びつきだけではない。さらに恐ろしいのは、民間放送局の番組編成とその提供者が電通に代表される広告業界に実質的に牛耳られているという事実である。新入社員の採用基準に各界有力者の子弟を優先し、そこから広告スポンサーとのコネをつくろうとすることから始まるすざましいまでのその仕組みについては、田原総一朗著『電通』(朝日文庫、86年)、などに詳しい。が、さらに現在の日本の放送界において、広告業者はそのスポンサー・顧客なしには当然営業できないから、その顧客利害重視の営業姿勢は自らの支配する放送業界にそのまま反映する構造ができあがってくる。ついで、放送業界のほうも自然に広告業界におけるそうしたビジネスパターンをおぽえこむ。
したがって、放送局はスポンサーから抗議される前に、それらの意向をおもんばかって「自主規制」するということがひんぱんになる。ちなみに本稿で問題にしている電力会社の広告費は、業種としては「エネルギー・素材」問係として分類され、CM中止事件のおこった90年の総計は559億円である(『電通広告年鑑』91年版より)。たいする(有)ちろりん村からの予定広告代金は年に60万円(月に5万円)である。この場合、おなじ業種の企業が対立するときにはより大きな収益をもたらすスポンサーが優先されるという、私のいう市民中心社会の原理に対立する、ある意味では資本主義に当然のきびしい「企業原理」がはたらくことになる。
私のこれまでの数々のテレビ番組のコーディネ−ターとしての体験からいっても、ドラマ制作だけではなく、いわゆる「情報番組」の制作においても、企画はもちろんのこと、編集の段階にまでスポンサーが口出ししてくることが珍しくない。番組提供スポンサーと放送される番組内容との問係は、テレビの場合にはきわめて直接的なのである。つまり、洋酒メーカーの提供番組では酔っ払いがひとに迷惑をかけるシーンはないし、自動車メーカーの提供番組には轢き逃げのシーンはタブーである。同様に、(株)瀬戸内海放送による今回の「バイバイCM」放映中止の背後には当然、日ごろの(株)瀬戸内海放送と四国電力および電力事業体との間における広告収益を介しての癒着構造が存在することを否定することはできない。電力事業界は日本の民間放送を支える巨大な広告スポンサーである。その構造のなかでは(有)ちろりん村からの月にわずか5万円、年60万円の広告収入などあってなきがごとしなのである。
このことは、第一に、エネルギ−・素材業界の支出する媒体別広告費の構成比がテレビ56.8%、ラジオ14.2%と断然電波媒体が多く、今度の問題がテレビCMで起こったことと、第二に、当該CMの制作をし、その放映を仲介した会社「(株)KSBウオーク」が(株)瀬戸内海放送の敷地内で営業をし、しかもそのほとんどの株式が実質的に(株)瀬戸内海放送によって所有されている広告会社であること、を知るときより現実的になつてくる。
この「バイパイCM」放映中止には、このコピーを気に人らないそれよりはるかに大きなスポンサー(群)、つまり、直接的には四国電力と中国電力という電力会社とその上部団体である電力業界(電気事業連合会)、間接的には、それらの背後で協力態勢をととのえ、原子力発電をおしすすめる日本政府の意向とそれにからんで利益をあげる利権団体(財界)や政治家たちの金権人脈という利益収奪構造の意向が「強力に作用」しているということである。
このことは最近の報道でも確認されている。朝日新聞93年10月5日付夕刊によれぱ、地域独占の公益事業である電力業界が90年から三年間で、自民党に広告費名目で計16億円の実質的裏献金をしていた。おなじくガス業界も同時期に2億6000万円を献金していたのである。
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