いくらオーガニックや無農薬野菜や有機野菜が欲しいと思っても川や海が汚れていては徒労に終わります。
川を守っている春日川のハクセンシオマネキにエールを送ります。

■春日川の淵瀬常ならむ(妄想 春日川干潟の戦い)■

初めての方はトップページからお入り下さい。

webカメラで24時間実況中継中(妨害が多いため切断中、希望者は連絡下さい) | 春日川の記録

 ここは香川県高松市、市内中心部から東へ2キロ、屋島から西1キロ地点、国道11号が春日川を横切った新春日川(シンカスガガワ)橋の上です。橋上に雛壇が川上と川下に向かって張り出され、総理大臣以下政府の要人はもちろんのこと全国の自治体首長やゼネコンの社長、全国の九電力会社の社長他幹部、世界のNGO、NPOの代表、日本各地の住民運動団体など黒山の人だかり。

夏の暑い盛り、片手に缶ビール!もう片方の手には割り箸を持ち高価な弁当を食べていた。「やれるものならやってみろ!コラー早く始めんかい!」「誰かビールを持ってこい!」「だれだ!昼間からビールとは、真面目にやれ! 俺はコーラをくれ!」「そんなもの飲んではいけません!」「誰だ貴様は!」「週間金曜日の別冊ブックレットの買ってはいけないを書いた著者の一人、渡辺雄二だ!」「ふん!ごろつきめ!ウイ」と、にぎやなこと。

そんな中、橋の西側付近で中山建設大臣と徳島県知事が口喧嘩している「大臣、貴方が余計なことを仰られたからこうなったのですよ」「だまれ!お前が投票率50%未満は投票用紙を焼き捨てる!なんてことを言ったからだ。そんなことを言ったら日本中から市長や町長や村長はいなくなるではないか!日本の自治体で投票率50%を超えて首長に成っている者が、何人いると思っているのだ。この馬鹿者!」「馬鹿とは何ですか馬鹿とは!お言葉を返すようですが徳島にはりっぱな村長がいます!大臣もよく御存知の木頭村村長(株式会社きとうむらの社長でもある、木頭村で採れる無農薬野菜や有機野菜の宅配(通販や通信販売)もしている)ですよ、しかも投票率が100%近いです、どうです?先ほどのお言葉を撤回して下さい」「では、言い直そう・・・アホだ!アホ!アホ!アッホ〜まだあるぞ!その村長を簀巻きにしろ!これは命令だ!」「ううう・・・言わせておけば!こうなれば私にも覚悟があります!」「ほう、どんな覚悟だ!」「まあまあお互いそう興奮せずに」と今度は徳島市長が口を出した。「何だ!貴様!洞が峠の日和見順慶ではないか!お前は死刑だ!国からの金は一銭たりともやらん!」「何を仰います、大臣こそ民の声は神の声だと投票後テレビで言ったではありませんか?」「そうだ!民の声というのは投票に行かなかった人のことだ!」「それにしても半分以下ですよ!」「お前足し算がでけんのか?行かなかった奴と行って賛成票を投じた奴の合計が民の声っちゅうもんだ!」「ああ、なるほど???」「市長!感心してる場合か!こんな馬鹿な大臣なら俺にも覚悟がある・・・もうこれでは次の選挙は負けたも同じ・・・そうだ!俺も反対だ!」「なにおっ!ぶっ殺すぞ!もういっぺん言って見ろ!ここは橋の上だぞ・・・それに周りは8万人の機動隊で河口の堤防から山のてっぺんまで包囲している、ふぬけのマスコミは恐れをなして誰もいないがもういっぺん言えるか?」「ででも大臣、市民がいるでしょ、ここには?」「市民?そんな物はこの町にはとうからおらんよ、きみ!豊島を知ってるか?しらん?勉強したまえ勉強を・・・わしが香川県民だったら絶対に許さん!・・・ところで突然話は変わるが香川県では200億円をかけて贅沢な県庁を作ったが、君の所も立て替えたくはないかね」「エへへへ、それはもう・・・」と馬鹿な話が続いている橋の下では・・・

 まず、春日川河口の塩止め河口堰より下流には野田海軍大将率いるカヌーイスト艦隊その数1998艇のシーカヤックと筏(某四国の大学の教授とお寺の住職が乗っている)が一隻、所狭しとイモノコ洗い状態で結集している。なにしろ川幅200メートルたらずの小さな川である、義経ならば一息に向こう岸まで行けるぐらいの混雑である。カヤック(カヌーのことです)の船腹にはキリとモリが全艦艇装備され野田将軍がまず「すぐ美味しい〜♪〜すごく美味しい〜♪」とインスタントラーメンをすすりながら歌うと全員がそれに続いて歌い出した。「こら〜そんなもん食うな〜!」と、渡辺雄二。

 一方可動堰の上流では木頭村藤田村長以下村民998人が電柱大の木頭杉の丸太の中程より少し後ろにすっくと立ち、しかし鎧甲の重みで胸まで水に浸かり998個の首だけが水面から出ているのだ。ちょっと不気味ではある。手にはバランスを取るための細いしなやかな棒を持っているようだが水面には棒の先しか見えない、その先には一寸釘が鋭く光っている。木頭村の宣伝も兼ねて来ているようです、中にはハッピ姿で一本乗りの曲芸を披露している名人もいる。「♪〜ゆず、水、大豆、きとうむら〜♪」ときとうむらのテーマソングを全員で歌っている。

 

 県の職員(春日川は二級河川のため県の管轄です)は両者の真ん中、ゴム式可動堰の上に2998名が乗ろうとしたのだが、ゴムでしかも蒲鉾状になっている上に2998名が乗ればどういうことになるのか想像して下さい、せいぜい百人ぐらいしか乗れない場所ですから後の二千何百人は川へ落ちることになる、そして上に登ろうとするが丸くてつるつるのため一度落ちると二度と上がれないのだ。泳げない者はおぼれて死ぬしかない、すでに数百名が溺れてプカプカと浮いている。助けようとする者はいない、自分のことで精一杯なのだ。平職員から順にゴムチューブの上へ乗ろうとするが順番に川へ滑り落ちている。

 

 橋の上。先ほどの建設大臣と徳島県知事と市長の件は収まったようだが、なにやら次のもめ事が起きていた。

「大臣、そのお弁当はおいくらですか?」と地元の県議が質問したら。「いくらでもいいではないか、俺が払っているわけじゃなし。お前も食え!うまいぞ!」「結構です!私は手弁当ですから!」「それにしても、呑気だな!目の前でお前の仲間が死んでいっているというのに、ヒック!」酒臭い息を女性議員に吹き掛けた「大臣あなただって同じ公務員ではないですか?人のことが言えますか?」「ウイッ!違う!おれは国家公務員、しかも大臣だ!地方公務員と一緒にされてたまるけぇ!」「大臣!命に上も下もありません、それでもあなたは男ですか?」「目の前で人が死んでいっているのに男も女もあるか!」と、何を思ったのか大臣は橋の欄干からパンツ一丁になり大見得を切って飛び込んだ。辺り一帯どよめきが走った。拍手する人もいた。機動隊は感激のあまりジュラルミンの盾を隣同士で擦り合い足を踏みならし歓声をあげた。「ズボッ!」鈍い音がして堰のせいで溜ったヘドロの中に頭が突き刺さりお尻から先が足をVの字にして水面に突き出ての即死だった。満潮であったが水深1メートルの川。ゴムひもが弛んでいたのかヒラヒラとパンツが風に吹かれて舞い、小さな魚がチョボンと跳ねた。

 

 「こちらは北京、いやひょうきん、いや、ひ、ひ、ひょうたん島放送局です!ぜぜ全世界のみなさん!い、い、今の見た?」と、静寂を破ってひょうたん島の大型スピーカーから大音響が辺り一帯に轟いた。しかし、誰も反応しない。彼は小心者で妙な建物を作り時々やってきては酒を飲んだりしているただの酔っぱらいで世間からは完全に浮いた存在なのだ。最近サーバーを立てインターネットで干潟の現状を全世界に公開するのだ〜と一人悦に入っている、先程の大きな声もインターネットに向かって喋っていたようだ、声が外にも聞こえるようになっている、もちろんwebカメラでリアルタイム映像を流しているようだ。そんな変人奇人でもファンがいて「ひょうたん島ファンクラブ」があり、そこだけは機動隊もいない。珍しいことに堤防でありながら民有地なのだ、所有者の許可無しに勝手なことは出来ない。それをいいことに今日も飲んだくれ達が集まってわいわいと遊んでいる。本人の名誉のために有名人以外はフルネームでの紹介は控えさしていただく。

 

 さて変人のことは捨て置き話を元に戻しましょう。先ほどまで川幅一杯になっていた川が、あっという間に干潟になり野田海軍大将ほか1998名はカヌーを干潟に転がしてスコップで穴を掘り捕まえたシオマネキをカラアゲにして日清のチキンラーメンに載せて食っている、干潟は穴だらけで危なくて歩けない。もちろん「すぐ美味しい〜♪〜すごく美味しい〜♪」と合唱を忘れない。側にはテレビCM会社のスタッフがぴったりと寄り添いビデオカメラを盛んに回している。そこへ静々とめかしこんだ数十人の女性がプラカードを高々と掲げてあらわれた。■■■と自分達の組織の名前を大書している。「野田さん!私達は安全な食品を広めるために日々行動しています、今!貴方達が食べているのは添加物だらけの危険な食べ物です。社会的に影響力のあるお立場でありながらなぜそんな物を食べたりCMに出演なさったりするのですか?川を守れ!自然を残せとおっしゃられるなら、まず御自分から生活態度を改めるべきではないでしょうか?立派な本までお出しになってますわよね、わたくし大ファンでございますの。サイン頂けます?あ、そう、だめ?だったらここであたしとツーショットの記念写真よろしいでしょうか、お時間は取らせません。あ、そう、だめ?ふん!けちねえ、何様だと思っているのよ!ちょっとばかしカッコ良くてハンサムで有名大学卒で冒険家で小説家で現代の超ナウイ男がなによ!内の主人と大違い、あら何をおっしゃっているのかしら私としたことが。」「ちょっと!いつまであんたばっか!しゃべっているのよ!私達にも回してよ!ねえみなさん!」「そうよ、そうよ、独占はいけないわ!あなたより私の方が以前から野田様のファンなのよ」。「飯ぐらい静かに食わせてくれよ」と野田は干潟に転がっていた墓石(右野家代々と記名あり)に片足をかけチキンラーメンをうまそうにすすっていた。やはりテレビカメラは回っていた。「カッコいい〜」「カットカット!」なんと映画監督の声、映画の撮影隊まで来ているではないか。「野田さん、いいよ、いい、グッドグッドだ」「いいんすかね!じゃ次の撮影やりますか」「ちょっ、ちょっと待った!待った!」また、手強いのが出て来た。環境保護観察のベテラン千木某である。

 

 可動堰の付近では知事が職員に激を飛ばしている「諸君!郷土と、そして県民を守るために命を賭けて堰を守ってくれ!塩害を防ぎ洪水を防ぎ、はたまた水不足の折は飲料水として役に立つこの堰は市民の生命線だ!」。「そんなことないでぇ!ほんならいったいどこの誰が塩害で困ってるか言わないかんわ!洪水と言うたって1メートルの堰でどう守るいうんな、肝心の満潮時には潮位と堰の上が同じ高さになってるやんか、そんなんで役に立つんな?堰よりも堤防を丈夫にするのがほんまなんちゃう?飲み水にする言うたって誰がそんな臭い腐った水を飲むんな!」と、橋のたもとの右野家所有の櫓の上から干潟の守人右野が街宣車についているよりも大きなスピーカで訴えた。「あんな〜あんたら国と県はな〜昭和44年に黙ってうちの堤防の上に国道11号とやらを通して今日まで只でつこうとるやろ、犯罪やで、世間でそんなことしたら刑務所に入れられるんやで、ほやのにぜんぜん謝りもせんと責任を国と県が擦りあいをしてるだけや。高松市は高松市でうちの堤防の法面まで姑息にも無断で取込んで知らん顔や、こんなことしてええんな?。うちの先祖はな〜今から数百数十年前頃当時の大名高松藩松平のお殿さんに欲しくもないのに無理矢理堤防を買わされたんや、買うた以上はお前の物や、自分の物は自分で守れよと、もし堤防が決壊したら一族磔の刑に処すと言われたんやで。ようはお上の出費を押さえるために先祖は利用されたんや、小さな女の子を人柱にと、生きたまま埋めた事もあるんやで、堤防を守らないかんけんな。まだあるで、あの太平洋戦争で負けた時な〜うちの六町歩の田んぼを只同然で取られて残ったのがこの堤防だけやがな。まだあるで、人柱までたてて守った堤防を1メートル四方が四百円で買うてやる!と言われた時は情けのうて・・・隣の旧11号の詰田川付近では同じぐらい広さの土地(もともとは河川敷だった所を不法占拠していた)を三億円で買うてるやん、そこの橋の架け替え工事のために印刷会社の駐車場を借りて使用料として年間二百万円払ってるやん。いくら時代が変わって世の中が変わったからといってもあんまりや!ドンドン、こうなれば命の限り抵抗の限りを尽くさんとするものぞ、ドンドン、まだあるぞ、最近作った可動堰と橋の間の堤防に自然堤防と振れ込んで高価な石を使っているが、その石垣の隙間にはモルタル詰めて騙してござる、なんとする?見かけ倒しの張り子の堤防貴重な税金湯水のごとく使ってござる。ドンドン、まだまだある、実は今、目の前にある可動堰、ついこの前まではゴルフ場、驚くなかれ只同然の貸し出し料、何処へ貸したか御存知か、泣く子も黙る、あ!宗教団た〜〜い。それをとがめたわたくしめに意趣返しとは、あ、なんたることか、して店前面の〜あ!干潟を〜〜真っ平にしようとしたではござらぬか〜。これでは商売あがったりと〜やむにやまれぬ心の内をあ!腹かっさばいて〜見せましょか、あっしはここでカヌーショップを営んでおりますケチな野郎でござんす、エッ死ねとおっしゃるのでござんすか?シオマネキと私といったいどっちが大切なんでしょうかねえ?」と続けようとしたその時!機動隊の放水車が9台と装甲車1台突然現れ櫓の右野目指して放水「そこの櫓男!超騒音防止法違反で逮捕する!問答無用!」装甲車は櫓に体当たりして右野と櫓は川へ転落、勢いあまった装甲車は欄干から半分川へはみだし中ぶらりでグラグラ揺れている。櫓の下敷きになった彼は両手足が付け根から取れていた。蟹の祟りかも知れない。橋の上に居た野次馬五十名と干潟にいた三十八名は即死。櫓男を逮捕しようと機動隊が干潟に降りたが腕がないので手錠がかけられない「隊長!どういたしましょうか?」「どうせすぐ死ぬ、逮捕するまでもないだろう、行こう!」「でも、まだ生きてますよ!助けないのですか?」「あほ!周りをよく見ろ、死体だらけだ、今さら一人や二人助けてどうなる、どうせ今日ここで起こった事は何もなかった事になるさ、何時ものやり方だ!電力本社ビルが蛆虫どもに一晩占拠された時のことを忘れたか!」

 

 橋の下の干潟で先程まで野田氏を囲んでわいわい騒いでいた■■■女性達は足の取れた蟹のようになって転がっている右野を見て泡を吹いて倒れている。千木氏は卒倒寸前だが、ここは野田氏の前だ、毅然として「ところで野田さん、ハクセンシオマネキのお味はいかがですか?」「ふむ、不味くはないがパンチ不足だな!」「それが希少種に指定されているのは御存じないのですか?あなたともあろうお人が!」「いや〜まいったな〜我が郷里では塩辛にして食べつけていたものだから、すまんすまんこれは失礼した。それにしてもそんな希少種のいる干潟を調査もせず工事をするなんて話は聞いたことがないので気にもしていなかったよ」「そんな非常識なことがこの県では日常的に繰り返されているのです、分って頂ければいいのです」と、そこへ新川の河口からマウンテンバイクを背負って町村氏が蟹の穴を踏まないように走らなくてはならないため真直ぐ走れず、あっちへピョンこっちへピョンと跳ねながらやって来た。「ゼーゼーヒーヒー!こ、この野田は今仲間と一緒に何千匹もの蟹を食った奴だぞ!」「そうだ、町村の言うことは正しい、バイクを背負って来たのだって蟹を殺さないためだ!分からんのか千木!お前は有名人には弱い、弱すぎる、まだまだ修行が足りん、僕みたいに半日は新聞を読み半日は干潟を観察するという根性がない。」右野は最後の力をだしている。「でも、右野さん、町村はどうしてバイクなんか背負ってるんだよ?それに、あんただってシオマネキを何匹も殺し、剥製にしたではありませんか!」「初めの質問は本人に聞いてくれ、時間が無いのだ、僕が思うには彼にとってバイクは亀の甲羅ではないかと・・・。二つ目の質問は君と僕との秘密ではなかったかな?しかし、こうなってはしかたない、答えよう、後世に残さんがためだ・・・」と、たいした答えでもなかったが瀕死の右野氏のことだ許そう。「なんだって!右野さんあんたは本当にシオマネキを剥製にしたのか?」と町村「ああ、したよ・・・」「見損なったよ!右野さん・・・ヒー」と、町村はバイクを背負ったまま失神した。グシャと音がして右野はこと切れた。バイクが右野の頭に落ちて来たのだ。と、その時橋の欄干に引っ掛かっていた装甲車が静かに落ちて来た。「グワシャ!」干潟にいた野田氏、千木氏、町村氏ほか六名が潰れた蟹のようになって即死。

 

 可動堰の上流ではあまりの惨状に興奮した平家落人の末裔木頭村の村長、「見ろ!あれは屋島じゃ、思い出さぬか!見える!見えるぞ!源氏の船じゃ!千年の怨念をはらさでおくべきか!お主達にも見えるであろう、この場所じゃ、ここをわれらが先祖は追いやられ、苦節一千年目の機会到来じゃ!」「村長!あれは友軍ですぞ!野田大将の死を悼む気持ちは分かりまするが、お気をお確かに!」と日野氏「弓を持て!もはや一刻の有余もならぬ!」「村長!我々は首まで水に浸かっているのですよ!弓を引けません!」「だったら、肩車せい!」「えっ!私めが馬になるのでございますか?そんなことしたら、私の丸太が沈んで息ができません」「息ぐらいなんじゃ!シュノーケルをつけておけ!ほら、これをやる!」と懐から出した。「前方の堤防に真紅の旗があるではないか!きっと友軍じゃ」「殿、確かにあれは我らが平家の旗色でござるが、義経の奇策かも知れませんご油断為さらぬよう」「ふむ、お前もやっと現実が見えたようじゃな!川は水の流れるところじゃ!塞き止めるところにあらず!我々が今日ここに居るのは今を遡ること一千年の怨念を晴し四国の山河を守るためじゃ、よいな!」「ハハー御意!」「♪〜ダム、堰、壊せ、きとうむら〜♪エイエイオー!」と、株式会社きとうむらの裏テーマソングを全員で歌っている。

 

 すでに県の職員と彼等を助けようとした機動隊員は合計2000名あまりが溺死して周りにゴロゴロしている。死体には慣れたが大将を失ったカヌーイスト達は烏合の衆と化し潮が満ちて来たら全員が口に千枚どうしを加え水中に潜ってときどき首を出し左右をキョトキョト見て再び頭から潜った。それを見ていた海鵜が一目散に水面を羽ばたき走るように飛び去った。その海鵜が消え去って行く空に一機のヘリコプターが機影を大きくしながら接近し上空でホバリンングしている。「みなさ〜ん!椎名誠でーす!遅れてすみませ〜ん」どこから現れたのか次から次にヘリコプターがやって来た。新聞社、テレビ局、ラジオ局、日本中のマスコミと自衛隊、米軍のアパッチ・・・無数のヘリとジェット機まで飛行機雲を吐きながら飛び回っている。椎名誠に続いて久米宏、筑紫哲也も撮影スタッフと降り立った。そのころになると堤防上も橋の上も野次馬達で黒山の人だかりになった。

 

「臨時ニュースを申し上げます、本日香川県高松市の春日川河口堰に於いて可動堰を守ろうとする香川県とそれに反対する市民達が睨み合いを続けています。周囲は異様な臭気が立ちこめ見学者達が何十万と押し寄せ非常に危険な状態です。あ!先程の異常な臭気の原因が分かりました、それでは現場から中継どうぞ。そちらの筑紫さん聞こえますか?」「はい!聞こえてます、皆さん今晩は、今日は香川県高松市の小さな川からの中継です、えーわたくし先程高松に着いたのですが早速おうどんを頂きました、やはりなんと申しますか、えー非常に美味しいもんですね。ところで、きょうは」「筑紫さん〜筑紫さん〜聞こえますか?実はですね最初に異常な臭気の原因が分かったと、そちら現場の方から連絡が入っているのですがそれから伝えてもらえませんか?」「えー、じゃそうしましょうか、入ってる?そう、ちょっと君喋ってよ」「ええ!私がですか?」「そう、たまにはいいだろう」「それでは現場の声からお届けいたします、今、水中カメラマンが可動堰でできた小さなダムに潜っているのですが呼んでみましょう、立松和平さ〜ん聞こえますか?」「はい聞こえています僕は今まで沖縄のうつくしい海や北海道の湖や川で撮影の仕事をしてきましたが本当にうつくしいなあとしか表現できない男ですがここ春日川では見てはならないものを見たような気がしますどうやって皆さんにこの世界を伝えようかと先程から思案中です」「立松さ〜ん、そこにきとうむらの日野さんが居るはずなんですが聞いて頂けますか?」「はい目の前に居ます、日野さんお久しぶりです御機嫌はいかがですか」「ブクブファ!」「そうかここは水の中でした僕は酸素ボンベを背負い水中眼鏡をしているので日野さんの苦労が分かりませんでした本当に申し訳なくて言葉がありません」「モゴボグァ!」「彼は何といってるのでしょうか立松さん」「はい自分はシュノーケルなので臭いは気にならないと申しています」「それでは日野さんの肩の上に乗っている村長さんに聞いて下さい」「村長さんこの臭い気になりませんか」「何のこれしき、肥えタンゴに落ちたと思えば楽なもんじゃ」「と申しておりますしかし何と美しいきれいだなあ河原では機動隊と市民が一緒になって溺れた人たちを助けている風景もすばらしいがこんな人と人の助け合いも本当に美しいものです何十万人もの人人がお互いを思いやりかばいあうこれが本当の自然だなあ」「結局臭いの原因はなんなのですか!」「僕が思うには多分たくさんの人々のオシッコではないでしょうかオシッコは不浄なものではありませんこれも一つの自然なのではないでしょうか機動隊員が若い女性のトイレの盾となり河原のあちらこちらに盾で作られた簡易トイレがありますこうやって世の中には不必要なものは作られていない事の証明ではないでしょうか」「もういい!筑紫さんに返しま〜す」「はい!御苦労さん、いいんじゃないですかね、世の中にはいろんな見方があるという事で」

 

 こちらは新築なったばかりの豪華絢爛華美荘厳希望小売価格二百億円也の香川県庁舎最上階の指令室に先程可動堰から逃げ帰ったばかりの知事が青ざめている。「知事どうします?可動堰のゴムからエアーが抜けています、原因は不明です!ある空気圧まで減圧になると一瞬に堰がペッタンコになり塞き止めていた土砂と汚水が海を目指して土石流になって流れます、新たに何万という人が死にます」「すでに職員がほとんど死んでいる、俺の知った事か!俺が何をした?豊島のゴミは直島で処分すると言う英断を下したのだぞ!俺以外の誰ができるのだ!たかが小さな堰の一つでどうしてこんな事になったのだ!お前!確かお前はあの可動堰のコントロール室の責任者だな!どうした!返答せい!」「ち知事確かに私は責任者ではありますがコンピューターで自動制御する仕組みになっていましてプログラムのことは全くの素人であります」「誰がプログラムをやったのだ」「い伊藤と申しまして腕は確かです」「腕は確かとはどういう意味だ!」「は!最近ひょうたん島に出入りしておりまして今もインターネットを使用して全世界に向けてリアルタイムに可動堰付近の動きを発信しています、御覧になりますか?」「見たくはないが見せろ!」指令室の壁いっぱいに現場が音声付き動画で現れた。映像の真ん中で可動堰がブルブルと震えている。「・・・」「みんな逃げろー逃げてくれ〜頼む!これ以上死なないでくれ〜」「知事!間に合いません、終わりです!」

 

「異常な事を異常と感じない時代になってしまったのでしょうか?では次のニュース」と筑紫キャスターが話すや否や「ドドーン」塞き止められていた水と土砂と杉丸太と人間が一気に下流の干潟目指し押し寄せ何百本もの杉丸太が橋の橋脚に激突!橋はスローモーション映像のごとくゆっくり干潟に落ちて行った。

 

 その日から三ヶ月間一万五千年に一度の大雨が降り続き日本中のダムと堰を全て濁流が飲み込み海へ流してしまい四国では吉野川が阿波池田から讃岐山脈を削り取り瀬戸内海へと流れを変えた。讃岐平野の中程にポツンと県庁舎の屋上部分だけが見えている。どうしてなのか分からないが豊島のゴミも四国の山間部に埋めた最終処分ゴミも全て県庁舎を取り囲むようにして集まっている。後世の人はそのゴミの山を県知事山と呼んで何時までも大切にしたそうな。  文責 ちろりん村 大西光明

 

戻る


Home