○「環境基本条例」について 長崎県佐世保市
1.制定までの経緯
昭和40年代、公害が社会問題化。しかし当初は国内の一部地域における
問題と認識されていた。
昭和60年代に入り、公害は国を挙げて取り組む「環境問題」と認識され
るようになり、平成5年、環境基本法制定、平成6年には国の環境基本計画
が策定された。
佐世保市では平成9年に環境基本計画が先行して策定された。ここで環境
問題に対する市民参加の手法や条例化を急ぐことが議論されていた。
平成15年 市の経営戦略会議(後述)にて「条例制定に向けた取組方針」
の承認
平成16年 「環境パートナーシップ会議」発足。市民参加型の条例制定
がスタート
同年 「パ会議」からの提言書受理
同年 市役所各部署の庶務課長レベルで組織する「自然と共に生き
るまちさせぼ推進委員会」が骨子案を検討
以下、数回に及び経営戦略会議が骨子案を審議
同年 パブリックコメント実施
同年 環境審議会、清掃審議会への諮問
平成17年 両審議会からの答申を得て条例制定
ちなみに旧丸亀市の足跡をここに比較すると、
平成 8年 環境基本条例制定
平成11年 環境基本計画、市役所における環境保全率先実行計画が策定
平成17年 市町合併に伴う手続きとして合併期日に環境基本計画制定
平成17、18年度において、新・丸亀市環境基本計画の策定が予定され
ている。
2.この条例の特徴
@ 平成9年の「基本計画」策定時、条例制定へのムードは高まっていたが、
その後停滞の時期が続き、機運は環境部の職員の中から盛り上った。
A 当初、細かい規定まで盛り込む40条立てのものを構想。しかしあくま
で「理念」条例の性格とし、具体的な施策については「基本計画」や個別
条例に委ねる位置づけとした。ゆえに理念を謳い上げる前文を伴っている。
結果として29条立て
B立案段階からの徹底した市民参画手法
C市の庶務課長レベルによる全庁横断的な検討組織
D条例中に市、市民、事業者の役割のほか、「市民団体の役割」の条を置く。
その規定順をあえて市民→市民団体→事業者→市とした。
E旅行客など「一時滞在者等の協力」についても規定
F具体的な市民との協働推進のため、さまざまな工夫
3.特記事項
@前文
・「環境権」について言及した。
・市民満足度向上の大きな要素として、「豊かな自然」を認識。市民の意見
により、「豊かな環境を積極的に楽しむことができるようにするため、こ
こに佐世保市環境基本条例を制定する」との文言で締めくくった。
・規制することばかりでなく、市民が夢や望みを持って前向きに取り組む、
という思想が込められている。
A「市民団体」にも役割
・ここではさまざまに議論があった。
・具体的には、自然保護団体のみならず、自治会、PTAなども含む。
ただしダンスサークルなど単なる市民団体は含まない。
・ちなみに、平成15年制定の環境教育推進法第4条にも「国民、民間団
体は、環境保全活動を自ら進んで行うよう努める」と規定されている。
B「一時滞在者等」
・観光客、市外からの勤め人、単に通過する人を想定。この条例への理解
と協力を促す規定を設けた。
C社会的評価
・平成18年度から、功労者を顕彰することなどを検討する。
D支援と負担
・公害防止のための施設整備などに対して助成することを規定、また市民、
市民団体、事業者の理解を求めた上で、応分な経済的負担を求めること
も明記した。これに基づき家庭系ごみの有料化。ユニークな「佐世保方
式」(後述)
E徹底した市民参画
・常設型「環境パートナーシップ会議」から提言を求める。
・会議メンバーは20名構成。市民12(大学教授、PTA、町内会などの
ほか公募委員4)、事業者5(商工業、農業、ISO団体、クリーン事業
団体、商工会議所)、市役所3
F理念実現へ強力な実現体制
・啓発事業
「地球を冷やそう!キャンペーン」、「eカンキョウ@サセボ」のホーム
ページ運営、「基本条例のあらまし」リーフレット、「基本条例の解説」
と題した47ページ立ての詳細な条文解説書を準備、「環境白書」を毎年
発行、市環境部が発行する環境情報誌「エコ・プレス」など
・環境教育、環境学習の展開
「どこでも環境教室」、こどもエコクラブ及び同サポーター研修会、「お
もしろエコ塾」、環境プラントバスツアー、自然観察エコスクール、「さ
せぼっ子環境サミット、環境教育ワークショップ、教職員向け環境教育
研修会、「佐世保の川の仲間たち展」の開催など。また市内小学校跡地に
「させぼエコプラザ」を開設。
・環境情報ネットワーク「エコネット」
上記「eカンキョウ」とは別に、市民と行政の相互発信の場としてホー
ムページを開設運用。ごみ収集日などのメール配信も行う。
4.関連事項
@九州で唯一、「努力は報われる」佐世保方式ごみ有料システム
・まず1年分の「無料ごみ処理券」が家庭に届く。
・「無料券」を使い切れば、「有料券」を購入する。
・指定ごみ袋にこれらを貼付してごみを出す方式。
・余った券は来年に持ち越せる。
・パンフレットの文章をそのまま紹介↓
「どの袋を使えば、配布した無料ごみ処理券の枚数内で出せるのか」を
よく考え、限りある無料ごみ処理券の枚数を有効に活用してください。
・市民に呼びかける目標は「1日1人100g減らしましょう!」
・市として総量を15%減量させることとしたが、1年を経過し、25%
を達成した。(可燃30%、不燃20%)
・市民への周知には、市内400箇所を職員が歩いた。
A経営戦略会議
・基本方針や重要施策の決定を行い、「統一のある市政を行政経営の視点か
ら総合的かつ戦略的に遂行するため」(佐世保市経営戦略会議規程第1
条)に設置
・市長、技術助役、事務助役の二人の助役、収入役、水道局長、交通局長、
教育長、企画調整部長、総務部長、財務部長で構成
・月例、毎週第1水曜日に開催
・これと連動して、企画、総務、財政部長、教育長、水道局長等プラス関
係部局長で組織する調整会議が機能。月例毎月末に開催。この結果を翌
月の戦略会議に持ち込むサイクル
・別に「佐世保市ステップアップガイドライン」があり、このシステムか
ら「経営戦略シート」が毎年度末に付議され、行政評価のサイクルが出
来上がっている。
5.感想
冒頭に述べたとおり、旧丸亀市においても国の環境施策に遅れることなく、
環境基本条例が制定され、続いて基本計画も策定されています。
昨年、佐世保市が基本条例を制定しましたが、その足跡を振り返ってみる
と、条例制定のプロセスにしっかりと市民参画の仕組みを敷いていることが
明らかとなります。これは時代の要請であり、18年度に予定されている丸
亀市の「基本計画」策定にあたっても、ぜひともこの仕組みを用いなければ
なりません。
佐世保市が議論の末に「市民団体」についても条例中に「役割」を持たせ
たこと、また平成8年制定の旧丸亀市の条例を引き継ぐ現行の「基本条例」
には、市民の「責務」と見出しに表現していること、などを考えあわせると、
19年度の新総合計画策定に向け、市のさまざまな基本計画を抜本的に見直
すチャンスである新年度18年度において、場合によっては、現行の「基本
条例」も適切に改正するのが望ましいかもしれません。このことについては、
今回の佐世保で視察させていただいたことを基に、これからさっそく検討を
始めたいと思います。
視察の席上、説明担当者の方が力説しておられたのはあくまで「市民意識
を変えてもらうことに力を入れる」ということでした。
なるほど、紙に書いただけの条例が、まちの環境を向上させてくれるわけ
ではありません。策定段階からの市民参画とは別に、いったん出来上がった
条例をいかに「血の通う」ものとするか、これは制定後の実際の展開の如何
にかかっているというべきです。条例は、その円滑な目的実現のためにさま
ざまに工夫を凝らされていますが、やはり、そこからの具体的「戦略」が大
事と言えます。
本市における、新年度の「基本計画」策定にあたっても、その計画策定の
先に、どんなビジョンを描き、持続可能で実現力のあるものを、ぜひとも作
らなければなりません。市民の声が飛び交うワークショップ、そして子ども
からお年寄りまで、市民みんなでこれら条例や計画の企図するところを歓迎
し、実践していけるものの樹立が望まれ、また担当する市の部局や職員の皆