○「天草アーカイブズ」 天草市
1.視察の概要と視察意図
平成30年5月15日 9:30~11:30。
同僚議員、福部氏がライフワークのように訴える「公文書館」。
天草のそれは取り組みが本格的で、全国有数の機能を有しているもの。
その必要性、機能の実態、メリットについて伺いました。
2.視察の概要
〇旧本渡市時代の平成14年度に開館。総務課の出先として位置づけ。館長、
職員2名、非常勤学芸員3名、嘱託員9名、計15名。
〇きっかけ。平成12年、情報公開条例に基づく公文書再整理を実施。その際、
招いた大学教授など有識者が1週間の調査を実施し、最終の懇談会の席上
で市長に「公文書は市民の宝です。捨てていいのですか」と警鐘。その翌日、
市長から総務課長へ「文書廃棄凍結」の指示。ここから文化課おいて公文書
保存に向けた作業が始まった。
○合併により利用しなくなった旧庁舎を利用。建物は古く、耐震工事をしたら
エレベーターが使えなくなったなど、苦労がしのばれる。
○地域史料と写真資料を収集、保存、活用する。地域史料とは、行政資料以外
の資料を指す。古文書、写真、図書、新聞、映像、音声。古いものだけでな
く現代資料も対象。
○公文書館法、公文書管理法において、地方公共団体では公文書館が公文書の
みを扱うのでなく、その地域の民間資料も扱うことが望ましいとされる。
昭和の「公文書館法」…公文書等とは公文書その他の記録。これには民間ア
ーカイブズすなわち「地域史料」も含めると解釈している。
平成の「公文書等の管理に関する法律」で、公文書とは①行政文書②法人文
書③特定歴史公文書等、と整理。
○地域史料の具体例として、町村会資料、天草広域連合文書など。公的な資料
ではあるが天草市の機構には含まれないもの。また江戸時代の村の庄屋文
書、個人、家、民間団体の史料、資料も独自の地域像を創造する上で欠かせ
ない。これらが地域の行政の補完史料となる。
〇環境問題等で役場と住民が争う例もある。公文書が守られなければ地域の
歴史を守れない。
〇このようなことから、行政資料、地域史料のいずれをも多角的な視点で捉え
ることが必要。
〇現在の史料数、保管状況。
本館に書庫3部屋で730箱…古文書、郷土の新聞、町村会資料など利用が多いもの。新聞は5紙、劣化しやすい。
閉校した小学校を利用した館外書庫に2900箱…現代資料中心。
資料点数にして12万点強。戦後資料が70%。公開率(目録作成率)は約
50%。
〇小学校にはエレベーターがない。屋根瓦の作業に用いる「荷揚げ機」を採用
し、1階の天井=2階の床をくり抜き、これで階上に上げる。
〇地域史料の扱い。寄贈、寄託で収集、順次目録作成、公開。クリップや留め
針を除去、中性の箱や紙(=「うすよう」)で保存。退職しているものはコピ
ーやスキャンで代替資料を作成し永続性を確保。閲覧で破損する恐れがあ
る場合はマイクロフィルムで閲覧に供する。さらにそれをデシタル化、紙焼
きを進める。
〇活用事例。市民からのレファレンス「過去の年金受給記録を知りたい」→郷
土新聞の広告欄で発見できた。「昭和40年代以前の道路の状況を知りたい」
→行政文書には記録なし、出版社や観光協会の地図が役立つ。
〇地域史料調査協力員制度。精通者に調査協力員として登録してもらう。年度
ごとに募集。夏期資料調査事業では、毎年夏に1週間ほど。全国から30人
程度の参加。市内の人はボランティア、市外からの人には報償費。交通費は
本人負担。
〇写真資料は利用が多いため、別扱いとしている。デジタル化、現在24万コ
マ。うち団体・個人からの提供が8%、広報・学校など行政資料92%。最近
はすでにデジタルデータとなってやってくる。これは逆に目録化が進まな
い。紙にプリントした写真はアルバムに整理されていた。今は未整理のまま
である。昭和30年頃から行政が広報写真を撮るようになった。昭和40年
代には各家庭にカメラが普及。この10年間が重要だ。
〇今後の課題。統合データベース化=エクセル化、施設の環境整備=空調、
地域史料の所在調査、戦中・戦後資料の劣化、退色対策(工事写真などがくっつく)
〇「全量移管」。「ハナガミ以外はともかく移管して下さい」と呼びかけ、貴重
な資料が現場の判断で失われないようにしている。廃棄権限はアーカイブ
ズが持つ。
〇市町合併前にシステムがあったわけではない。合併を機に一から開始。作業
は5人で5年かかった。
〇年間予算4500万円は人件費がほとんど。今のところ予算カットされないで
来ている。
〇展示活動。企画展を平成21年から毎年開催、市民センターで1週間。ほか
に地域の文化祭からの要請があり、出張展示を5回。企業からの依頼で写
真・文書展示。学校との連携で夏休み活用もある。
3.感想
公文書の保存は大切。いまこうしてテレビやメディアで過去を知り、役立てることができるはそれらを保存してくれた労苦があったから。公文書だけでは十分でなく、街角のポスター、学校のチラシに至るまで、未来には貴重な資料となり、あるいは決定的な証拠となることもある。それがむざむざと捨てられている…。それが現在の実情ではあります。
ここで必要なのは「何を残すか」を選別する専門家の存在。そしてそれを保管し、活用するノウハウの存在です。しかしこれが、人々に認識されないとなかなか難しい。場所、人、経費。大切とわかっていても、誰が、どこで、どのようにやるのか。なかなか踏ん切りがつきません。
天草市で学んだことの中でいちばん劇的だったのは、市長を突き動かした学識者の発言。「市民の宝を捨ててもいいんですか」の警鐘。しかしそれに答えて翌日、市長が担当課長に「廃棄を止めよ」と指示したのは、当時の市長の勇断というしかありません。
しかしこれとても、日本全国で後続が現れ、アーカイブズが“標準装備”化されているとはとても言い難いのが今の状況だと思います。一口に年間経費4500万円、そのほとんどがスタッフ15人の人件費、保管場所は合併前の旧庁舎や廃校となった小学校校舎、となれば、たちまちわが丸亀市に引き当てても、それに該当する「使える」場所がない。
市民に向けての活用として、展覧会も開催はしているが、利用するのはほとんどが行政職員の仕事上のものであると、以前、別の視察先で伺ったこともあります。だから市役所のそばに、と、私の同僚議員は訴えるが、お城の前の一等地にそれを建てよというのではますます現実味が薄れていく、私は密かにその心配もしています。市長がよもや前向きになっても、逆に議会が反対を唱えるかも知れない、と。
もっともっと市民の中に、ということを言い換えるならその代表である“議会”の中に、アーカイブズへの必要性の世論が高まらなければならない。そう思っています。必要度合いの市民認知度で、学校、図書館、スポーツ施設、市営住宅、公民館、市民会館などと比較して、「公文書館」はどうでしょうか。
ですがその必要性が低いとは言えない。それを天草市で、あらためて学ばせていただきました。
その気運をさらに醸成し、丸亀市の現実の立地条件などを考察して、具体的に賛同者を確実に増やしていくしか道はないのだろうと思います。
「全量移管」。この4文字を強烈に印象付けられました。役所と職員の意識そのものを変えなければ、これは実現しません。全職員に「捨てるな」と号令をかけるのです。相当なトップの指示と議会の合意、応援が必要。天草市の事例は、はるかな先の理想のようにも思えますが、理想ではない、ここにあるまぎれもない現実です。