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○自治体クラウド(電子自治体・IT基盤構築)講座         

 

1.講座の概要

 平成23年8月26日 1317時 内田洋行 東京ユビキタス協創広場

 電子自治体推進パートナーズ主催、鞄燗c洋行が会場提供

 電子自治体パイオニア研修講座 平成23年度第T期全10回講座の第5回

 講演内容

 @webによる行革可能性検証の結果と自治体クラウドの今後

        ITbook且謦役副社長 伊藤 元規氏

 A市民生活を見据えた連携型自治体システムの現状と展望

        東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員 井堀 幹夫氏

 B電子自治体とクラウド

       …電子申請・納付・交付サービスにおけるクラウド活用

        電子自治体推進パートナーズ会長 諸橋 昭夫氏

 

 

2. webによる行革可能性検証の結果と自治体クラウドの今後

 

 @webによる行革可能性検証方法

  ・11業者、210自治体、総務省が協力しての検証。

  ・データ項目、処理機能、ITリスク管理について検証する。

  ・住民基本台帳、住民税、固定資産税、軽自動車税、国民健康保険、

   介護保険、国民年金、財務会計、人事給与、文書管理、以上を対象

  ・11業者がそれぞれ開発したパッケージについて検証。対象項目が異なる。

 Awebによる行革可能性検証結果

  ・課題を残したのは0.09%。クラウドに適していると判断。

  ・大分県・宮崎県自治体クラウド推進協議会の現状

   大分県情報政策課長を会長に、宮崎県同課長を副会長に、大分県下5市、

   宮崎県下32町が参画。

  ・クラウドのメリットはコストが安くなること。デメリットは、既製の仕

   組みに合わせる必要があること。データ項目の標準化は総務省がやるべ

   きだ。

  ・以下、詳細は総務省、自治体クラウドのHP(P.54)

 

 B自治体外字の問題

  ・100万〜200万字。標準化モデルを作成へ。

 

 C成果

  ・「仮想化」の技術が格段に向上。経済性、可用性、拡張性において、「そ

   んなに心配の要らない時代になった」。

  ・今次の震災により、クラウドはさらに加速。バックアップを行うことは

   必要。移したデータの責任をどっちが負うかなど、課題はあるものの、

   概ね進めることができる方向だ。

  ・利用拠点バックアップの効果。庁内に小さなのを置くしかない。それに

   よって住民へのサービス向上が可能。

  ・BPR(事務共通化)。「服のサイズに人間が合わせる」時代から一歩前進。

  ・複数団体での導入。大分・宮崎で心配ないことを実証できた。ただ庁舎

   外に出すことに抵抗があった。これに対し、大分では県が文書で大丈夫、

   と示し、県主体で推進。宮崎では業者主体で推進した。

 

 D今後の課題

  ・LGWANに関する課題

  ・ライセンスの課題(ウインドウズからの切り替え時)

  ・クラウド運用の責任分解点の明確化

  ・様々なシステムの共同利用化

   …これらに対してこの9月に学陽書房から3人共著で本を出す。

 

3. 市民生活を見据えた連携型自治体システムの現状と展望

 

 @電子自治体システムの現状と課題

  ・脆弱な電子行政

   1800の市区町村を調査した結果、台帳の電子化率で、

   固定資産台帳79.1 住民基本台帳78.9 公共下水道台帳49.6

   道路台帳37.4 公有財産台帳28.3 住居表示台帳10.2%など

  ・セキュリティ対策が遅れている。8割の市区町村が分析すらしていない。

   チェックもしていない。委託業者に「やっとけよ」が95.5

  ・市区町村全体の情報化推進体制の問題点。「とりあえず部長をトップにし

   ておこう」。庁内全体のことは誰も見えてない。全庁的なことは4割の市

   区町村しか把握できていない。

  ・遅れている申請・届出のオンライン化。手数料や地方税の電子納付実施

   5.3 物品納入電子入札8.5 公共事業電子入札21.8 公共施設オンライ

   ン予約35.1 図書館蔵書検索・予約のオンライン化63.8%など。…まだ

   まだ「わざわざ役所の窓口に行かなければならない」。

  ・市川市におけるオンライン利用率、証明書のオンライン交付利用者は

   12.8%。率は低いが9万人が役所に来なくてすんだ計算になる。

  ・不便で高コスト…共同利用率の現状は、手数料の電子納付1.5 内部管理

   4.3 基幹業務7.3 図書館蔵書検索9.6 公共施設予約13.7 と低調。

   共同利用しないことで不便で高コストに。共同利用が進めば、勤め先の

   市でも住民票を取れることになるが、まだまだ。

 

 Aこの現状から来る影響

  ・震災、障害時に機能停止。データ消失、漏えい、システム停止、情報不

   通の心配にさらされている。

  ・市民視点での行政刷新が停滞。縦割り申請主義、多い添付書類

   →西宮市の救援システムはすばらしい。が、それもまた役所が困らない

   ためのシステムだ。情報が保てることが支援ではない。使えることが支

   援。職員のシステムでなく住民のためのシステムへ。

  ・独自仕様、個別システムによる負担増。連携不足、不便、重複、時間が

   かかるなどのデメリットあり。これを転換できるチャンスが到来してい

   る。それが「番号制度」。官公庁だけが情報連携する姿からさらに進めて

   病院、介護など民間も参加させていくこと。その土台はネット。

 

 B情報連携基盤への期待と不安

  ・戸籍抄本を取る、保育園の入園申請、児童扶養手当の請求、所得証明な

   どで住民が役所に出向く現状から、手続の簡素化、確実化を導き、結果

   として行政コスト、市民負担を軽減させる。

  ・市川市の数値から試算…添付書類を減らすことで年間12億円削減。ヨー

   ロッパ、韓国では実施している。日本では同じ役所の中なのに所得証明

   や住民票を添付しなければならない。

  ・行政機関間のデータ連携。法務局(登記)、社会保険事務所(年金異動通知)

   税務署(確定申告)らが連携することにより、市川市試算値で5億円、全

   国で692億円が削減できる。ほかに軽自動車税や国保のレセプト、後期

   高齢者医療なども連携の対象に。

  ・書類中心の業務処理を改革。職員の入力労働時間削減効果は525時間。

  ・総務省、内閣官房て、119月から123月まで、地方公共団体におけ

   る番号制度の活用に関する研究会が設置される予定。

  ・情報連携基盤実現への課題。効果が見えない、任意だから始めようとし

   ない、行政の縦割り、後ろ向きな職員の感覚、民間の利用制限、財源と

   人材不足、などの課題がはだかっている。先に手をつけた市がソンをす

   ることになる。「紙(添付書類)を受け取るな」という法律で厳しくリード

   している国もある。そのような強力なリーダーシップがないと連携は進

   まない。

 

 C利用事例

  ・市民と行政のデジタルコンタクト。市川市では10年前から導入。

   市民意見を反映させる…事前に登録市民5200人に、年に26回、市民意

   向を調査投げかけ→1回当たり1500人に送り、回答は年に39000件。逆

   に市民から市への質問も年間3000件、2200人が利用。これらを市民の声

   として、庁内共有のデータベースとして活用できる。市民からの苦情を、

   その日のうちに市長が自分のPCでチェックでき、ちゃんと手を打てて

   いるかも確認、指示できる。トップから現場までが市民と11でコン

   タクトし、共有化できる。道路工事情報も全庁で共有。教育委員会も通

   学路の工事個所を把握している。

  ・コンビニで証明書交付。市民の利便性向上、行政コスト削減。現在すで

   にサービス実施している住民票、印鑑証明に次ぎ、戸籍抄本、税証明も

   準備中。間もなく全国で利用スタートへ。

  ・英国では旅行代理店でパスポートも取れる。

  ・コンビニで住民票を取り、それを市役所に届けるという笑い話。

  ・官民問わず情報連携で徹底的に「証明書レス」。これにより、住民とのや

   りとりという本来の公務員の仕事が成り立つ。

  ・情報共有システム実現で、医療・介護でも最適な分析、シームレスなサ

   ービス提供が可能に。病院、検査機関、リハビリ通所、訪問看護、薬局、

   デイ、ショートステイなどが連携し「どこでもマイ病院」。多職種チーム

   形成で高規格なケア。→その先導は、自治体しかできない。

 

 D自治体クラウドへの期待

  ・サービス品質向上、縦割り解消、格差解消、財政負担軽減、セキュリテ

   ィ対策の促進、人材不足解消、コスト削減などの効果が期待される。

  ・クラウド化を阻む要因は市長や幹部の「もういいよ」という意識。自治

   体に判断をゆだねられている現状。これを何とかしないと、前に進まな

   い。役所は「大事な情報は役所の『あの場所』に置いておかなければ、

   という古い考えのまま。

  ・「クラウドは危ない」という前に、「現状のままのほうが危ない」という

   認識を。

 

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4. 電子自治体とクラウド

       …電子申請・納付・交付サービスにおけるクラウド活用

 

 @初期電子自治体

  ・証明書の自動交付機。

  ・市の業務の7割はサービス業であることを知るべき。

  ・コスト比較。住民票交付に要するコストは職員900円、交付機500円、

   コンビニ250円。

  ・公文書の電子化は国税局かe−TAXで実践している。世界の先端を

   行ったのだがそれ以外は使われていない。

  ・公文書も私文書も電子化する。税申告に必要な通院のタクシー領収書も

   紙文書でなくてよいこととすることで、民間が助かっている。

 

 A行政手続きの電子化プロセス

  ・添付書類を電子化、添付不要化。公文書の省略。そのためには連携基盤

   が必須となる。

  ・10年後、2010年には官民情報連携が実現するだろう。

  ・明治〜昭和時代の「紙」仕事の時代

   第1ステージ2003〜電子申請システム

   第2ステージ 自動交付機の紙文書発行時代(韓国では自宅で公文書を取

          れる)

   第3ステージ 国税の電子納税証明書(日本では国税一例だけ)

   第4.5ステージ 国民ID制度。「紙」が1枚でもある限り、サービスに

           ならない。

  ・講師は川越市に引っ越しした。前の居住地で前年の所得証明が必要にな

   った。連携し、前の居住地にいかなくて済む。

  ・群馬県の調査で、戸籍附票、住民票など住基法関連の証明書交付28%、

   印鑑登録15%、戸籍法10%など、公文書を発行する業務にこれだけかか

   っている。電子化することによって業務が軽減される。

  ・川崎市のデータで、市役所の申請・届出手続き(1200)の総受付件数の

   30%が住民票、印鑑登録、課税証明で占められていた。地方ならば50

   を超えるであろう。公文書の利便性を考えるのはこれからの役所の大き

   な仕事だ。

  ・自動交付機は2000万円していたが、韓国製で300万円に価格破壊。コン

   ビニ交付の時代到来で、自動交付機の時代はもう終わる。

  ・コンビニ交付先進例 22.2.2実施、渋谷区、三鷹市、市川市。

             22.4.6実施、相馬市など

   23.4.1現在、41団体

  ・市川市のすごいところ。電子申請サービスと交付機サービスがドッキン

   グ。ネットで申請→メールが届き→駅やスーバー、公共施設で受け取り。

   市民の痒いところに手が届くサービスを実施している。

  ・e-文書法で私文書電子化、認証の問題クリア。収入印紙も不用に。

  ・連携なくして廃止なし。紙をなくする、職員の窓口業務をなくする。

  ・国民ID制度、社会保障・税番号制度、マイナンバー、マイポータル、

   法人番号制度へ。

 

5.感想

 

 最近さかんに耳にする「クラウド」という言葉です。

 その「正体」も見えないままに上京、講座を受講しました。すっきりと明快に理解できたわけではありませんが、現在の「役所の業務」を思い浮かべながら、なるほどそういうことかと、イメージをつかめた程度です。

 これを書いているのは、受講からすでに4ヶ月を経た12月。今月の定例議会の私の一般質問で、未消化ながらも懸命に資料を復習し、このことを取り上げました。「市役所の仕事は市役所の外にある」。クラウドで窓口業務、証明書交付の業務から解き放たれ、市民と対面しなければ進まない仕事にとりかかろう。この言葉が胸に響きましたので、質問の中でも取り上げました。

 通告から質問日までの間に、ある職員から質問をされました。「仕事は外にある、とはどういうことですか?」。なるほど、言葉足らずでした。そこで質問当日は、そのことの解説を強化しました。それにしても、「あなた、なぜ私の質問を知っているの(担任部門でもないし)?」答えは簡単。すべての職員の机上のPCは庁内LANで結ばれていて、情報は共有化ずみ。庁内メールに振り回される始末、とも聞いたことがありますが、ともかく、「情報連携」はそんなに異次元の話ではありません。

 講座の中にもあったとおり、「クラウド化を阻むのは市長と市職員の『もう、いいよ』という気持ち」にあるとのことです。謙譲の心から私の質問中では「職員と政治家の」と言い換えておきましたが。

 現に市川市の、講座中の言葉どおり「痒いところに手が届く」住民のためのサービス改善で実証しているところもあります。「もう、いいよ」の克服の向こうに、市民が見えてくるのでしょう。

 しかしどこまでもスッキリしないのはオンラインゆえのリスクのことです。

 皮肉にもあの講座受講以降にも、大企業や官庁をねらったサイバー攻撃は容赦なく続きました。私の脳裏にはかつての住民基本カード導入での大激論が思い起こされます。国の方針を振り切った自治体までありました。技術の進展もまためまぐるしいのでしょうが、何より、市民を安心させながらのシステムでなければなりません。その上で、限られた財源からの必要、サービスの向上追求、そして、データの安全の面からも、「今のほうが危ないのだ」という認識で、クラウドコンピューティングを進めていかなければならない時代なのは自明なのでしょう。そのことだけは、深く認識させられました。

 12月定例会で質問させていただいた以上、「言いっぱなし」に終わらずに、これからも追跡、勉強を重ねてまいります。

 

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