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〇自治体版エネルギー政策~多様なエネルギーの活用と議会の役割

 

1.セミナーの概要

2011825() 10:0016:50

剛堂会館・会議室(東京都千代田区)

講師 松原 弘直氏 NGO法人環境エネルギー政策研究所主席研究員

   竹内 恒夫氏 名古屋大学大学院 環境学研究科教授

   大沢ゆたか氏 立川市議会議員

   中山  均氏 新潟市議会議員

   谷口 直行氏 ㈱エネット 経営企画部長

 

2.講義1「市民出資と〝おひさまエネルギーファンド〟」 松原弘直氏

 

NGO法人isep(環境エネルギー政策研究所)とは

→持続可能なエネルギー政策の実現を目指す政策シンクタンク(環境NGO)

→グリーン電力、グリーン熱、市民出資(おひさまファンド)、飯田市で展開中の地域エ

 ネルギー事務所など、民間でできる仕組みづくりを行う。

→自然エネルギーと地域の合意形成、お金が回る仕組みを作る持続可能なエネルギーフ

 ァイナンスを研究

→自治体の政策アドバイザー、気象変動研究などを行う

3/410周年を迎えた。その翌週に、大震災が発生した。

 

・自然エネルギー政策プラットホーム

2008.7.1発足。isepが事務局になっている。全国小水力利用促進協議会、日本風

 力発電協会、ソーラーシステム振興協会、日本地熱学会、地中熱利用促進協会などの

 団体が加盟。太陽光でなく太陽熱。太陽光の方面だけが、このプラットホームとは別

 の動きをしている。

→大きな産業に育っている。輸出も。

 

・自然エネルギー≒Renewable Energy

→太陽光発電(東京ガスが取り組む)、太陽熱発電(砂漠やスペインで進んでいる)、風力、

 バイオマス(本命は森林)(熱利用と発電のコ・ジェネレーション)、水力(特にダムを使

 わない小水力)、地熱(温泉から発電も)(日本は世界3位。大きなポテンシャル)、海洋

 エネルギー(波力。海洋国家日本がなぜ取り組まないのか、と外国から言われている。

 韓国では満ち引きによる発電を始めた)

→これに必要な「カネ、人、技術」は日本にあるのに、日本には「政策がない」「(要ら

 ない)規則がある」

 

・FIT(固定価格買取制度)

 →世界75カ国・地域で成功している。

2000年にドイツでは成立。日本でも法制化の動きがあったのに、寸前、経済産業省の

 反対でボツに。

→太陽光は@40/kwh、それ以外は1520円。事業として成り立つ価額設定へ、審議

 が進む。24年度(7/1)からの施行を目指す。

 

   不利になっても優先して買ってもらえる→    ←サーチャージ(付加料金)

 発電事業者    ⇔    送電網運用者(=電力会社)   ⇔   家庭・企業

   ←1520年の長期固定価格で買い取る      電力を供給する→

→ドイツEEG(再生可能エネルギー法)で成果。自然エネルギー比率が10年間で10

 上昇。2000年と2010年の比較で風力4.5倍、バイオマス8.5倍に。

 2004年の法改正で太陽光発電が急拡大、04年と10年の比較で15.7倍に。

 ドイツでは34万人の雇用、200億ユーロの投資など、自然エネルギー政策によってカ

 ネが動く、雇用が創出される(09年実績)

 日本の「自然エネルギー白書2011」では自然エネルギーによる発電量は国内全体の

 3.4%。ドイツに対して10年遅れている。

 

・日本国内の自然エネルギー事情

→全体では3%と低いが、10%超の都道府県が7県、100%を超える市町村が57ある。

→大分県では地熱発電が盛ん。

→小水力は全国にまんべんなくある。

 

・エネルギー政策への提言

 ①日本に適した自然エネルギーとして小水力、地熱にもっと注目

②地域や地方自治体を中心としたエネルギー政策を立ち上げ

③国はエネルギー特別会計の一部を自治体の自然エネルギー普及に振り向け

④都市がグリーン電力証書購入で自然エネルギー普及に寄与(→「地産都消」)

⑤基礎データが有用な統計情報として定期的に公表され、活用されるように

 

・市民ファンド

→市民風車。1号機は北海道浜頓別町。石狩市、鰍沢町、天王町、秋田市、大関町など。

 「風車が回れば元金が戻る」

→長野県飯田市では国の「まほろば事業」で「環境エネルギー事務所」を設置し会社を

 立ち上げ。市内38ヶ所の保育所の屋根で発電。「屋根貸しビジネス」。地域住民の合意

 が大切。「組んでやる」、協力することが大事。核となる人がいることが大事。飯田市

 は人口10万人、「顔が見える」「意思決定が速い」。マキノ市長が意欲。

 飯田市の「おひさま進歩エネルギー」は、飯田市、環境省、飯田市内協力会社、NP

 O南信州おひさま進歩、が連携、公民協働の挑戦。儲けプラス社会貢献。

→各地の市民ファンド事業の例 北海道石狩市の「市民風力石狩発電所」、長野県南信州

 地域の「メガワットソーラー事業、南信州・地球温暖化防止エコ推進事業」、岡山県備

 前岡山地域の「晴れの国・市民太陽光発電から拡がる自然エネ・省エネのまちづくり

 事業」…太陽光だけでは効果低い。組み合わせてやる工夫。


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3.講義2「エネルギー政策への対応と議会の役割」竹内 恒夫氏

 

・「エネルギー自治」で脱原発、脱温暖化

 

3つの環境戦略

 →BAU(ビジネス・アズ・ユージュアル)…「このままいくとこうなります」

→時間の経過とともに環境負荷量が右肩上がりになっていくグラフ

→そこで①「効率戦略」。単品戦略。自動車、家電、家の密閉、断熱などの「効率革命」

 一旦は右肩下がりになる。が、数が増えるからリバウンド、結局右肩上がりが回復、

 という、「N字カーブのジレンマ」に陥る。

→そこに②「整合戦略」③「充足戦略」を加えることで、環境負荷量を時間とともに下

 げる曲線が達成可能に。

→「整合戦略」…バイオ燃料の自動車、電気自動車→ポテトチップスやカップ麺を揚げ

 るのはパーム油。これが森林を壊している、という認識から、バイオ燃料にも二次問

 題あり。大型風力発電→バードストライク、低音騒音、景観という二次問題あり。

→「充足戦略」…コンパクトシティ、公共交通+共有自動車、カーシェアリング。分散

 型・再生可能電源。→社会のしくみまで変える戦略となる。

 

・ハンブルグの地域熱供給施設

→コジェネ。ビルの中のコジェネから街単位のコジェネへ。

→市内に熱併給発電施設2、熱供給施設1、地区熱供給施設2、ゴミ焼却施設2、熱道菅

 網790km。電気熱を暖房給湯に供給。

→小水力、地熱、LNG中心に熱供給し、2020年までには原発半分で大丈夫、2030年に

 は原発ゼロでも大丈夫、とのメド。市が学校や水道、病院だけでなく電力も賄う。

 

・ベルリンの地域熱供給施設

→熱併給発電施設10、熱供給施設7、地区熱併給発電施設8、熱道菅網1516kmで、電気

 の78割、熱の3割を賄う。

→ドイツ全土では100tのCO2を減らしている。日本にはこういう発想がない。ビ

 ルの中、会社単位でしか発想がない。

 

・熱併給発電所

→CHP…コンバインド・ヒート・アンド・パワー。発電所は電気とともに熱も作る。

 これを供給するのが熱併給発電所。日本の電力会社の言い分は、日本は寒くないから

 熱は売れない。熱道菅を敷設していてはペイしない。しかしこのままでは原発をなく

 することは困難。

→EU諸国でのCHPのシェアの状況では、デンマークがトップで総発電電力量の半分

 がCHP。フィンランド、ラトビア、オランダと続く。

 

・資源としての廃棄物

→生ごみ、紙ごみ、プラスチック、缶びん…これからは焼却場を作らず、すべて資源に。

→江戸時代は低炭素社会だった。しかし日本の田舎では、1960年までは低炭素社会で、

 槙や炭など再生可能エネルギーの社会だった。この1960年まで戻すという発想。

→電気を使って熱を作る家電が増えてきたが、これはムダ。

→原子力の増設はCO2を減らしてはいない。

 

・「駅そば生活圏」

→名古屋が取り組む。生活の質の向上の結果としてCO2を減らす構想。しかしそうい

 うコンパクトシティを作ろうと市が考えても、地方に権限がない。

→インフラ整備(公共投資)に27兆円を見込み、対して税収増見込みは37.3兆円。将

 来の税収増でペイできるとの見積もり。

 

・エネルギー政策も地方の時代に

   集中型エネルギー供給システム   ⇔   分散型エネルギー需給システム

        国主導                  地方分権

        巨大                   適正規模

        非対話的                 対話的

  →エネルギー政策は従来の国の所感から地方が担う時代へ。

   「エネルギー自治」の時代へ向かうべき。

   「中部のエネルギーは中部で決める」…議会の権限と責務

 

4.講義3「地方自治体での電力自由化の推進」大沢ゆたか氏

 

・PPSへの契約変更

→以上に電気代の高かった立川市の中央図書館。原因は「ファーレ立川」12棟の冷房供

 給がまとめて配管されていたことにあると指摘。

→PPS(特定規模電気事業者)からの電力購入が2005年から可能になっている。

 

→立川競輪場も20104月からPPSに変更。電気代は6200万円から4500万円へ、25

 削減できた。

→その後、小中学校、福祉施設などでも節約を実現。

→今後は本庁舎での利用を検討

→発電能力の限界。全国で34%、首都圏で7%程度しか能力がない。PPSは独占事

 業者に「安く」売るしかないのが実状。これからは競争原理を電力業界にも働かせ、

 自治体がPPSから直接電力を購入できるようにしていくべき。

 

・その他

→飯田市でクリアしている「屋根貸し」の施策は、立川市では、「行政財産の目的外使用」

 となるから、不可との見解。

 

5.講義4「環境に配慮したエネルギー(電力)調達の可能性」中山 均氏

 

・新潟市のエネルギー政策

→新潟市は本州日本海側最大のLNG受け入れ基地。LNG火力(コンバインドサイク

 ル発電)は発電コスト比で石油10/kwhに対して5.8。CO2排出量比で石油0.742

 ㎏-CO2/kwh、石炭0.975に対して0.608。エネルギー移行期においてLNGを活用す

 べき。

→東日本大震災でも被災地に新潟から運んだ。

 

・新潟市本庁舎の電力契約

→政令市移行(2007)に伴い、200812月に本庁舎の電力を競争入札。WTO政府調達

 協定案件により、一般競争入札に付することを義務づけられていることによる。

 東北電力とPPS1社が応札。PPSが落札。380万円(6)の節約。

 現在は本庁舎だけだがこの率を区役所、出張所にも適用すると2200万円の節約効果と

 試算。

→新潟県は随意契約。これは「特殊な事情」条項を適用したものか?

→全国の政令市の状況では、PPSでないところのほうが少ない。

 

・エコ発電プロジェクト

→夏、高齢者の健康などに配慮すれば、節電対策にも一定の限度がある。そこで自家発

 電+バイオディーゼル(市が収集した廃油から精製した燃料)で施設の冷房電力を賄う。

→新潟市が回収する廃油は79,500?。しかし公用車に使うのは半分以下の26,000?。そこ

 でこれを自家発電に用い、公共施設の冷房電力に賄うことに。

→市民グループが運営する貸館ほか公共施設で実証実験を進めている。

→新潟市では廃油の運搬のみの委託に800万円以上投入している。ここに障害者雇用を

 組み入れることも視野に入れる。


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6.講義5「自治体の電力購入/売電におけるPPS活用」谷口 直行氏

 

・電力自由化

1951年、地域毎に9電力会社体制が発足→1995年、発電事業の規制緩和→2000年、

 電力小売事業の自由化=PPS(Power Producer & Supplier)の登場

→自由化領域① 特別高圧電力(26%、3兆円規模)、大規模工場、デパートなど

→自由化領域② 高圧電力(36%、5兆円規模)、中小工場、スーパーなど

→規制領域   低圧電力(38%、7兆円規模)、一般家庭、町工場など

→電力自由化により、料金単価が下がる効果がある。

 

・PPSの販売シェア

→電力会社98.09%に対してPPSは1.91%。

→そのうち49%をEnnet社が占めている。

 

・PPS事業の概要(日本型)

→売る自由化であり、送る自由はない。送配電は電力会社の独占。PPSは電力会社に

 託送料金を支払う。

→「30分同時同量制度」。電力会社エリアごとに、過剰分は電力会社が買い取り、不足

 分は電力会社が補給することで、電力量合計値を30分単位で一致させるように制御す

 る。

→事業者は45社あるが、実際に小売を行っている(実際に入札に参加している)のは20

 社。

→電力会社よりも安く売れる理由。①販売管理費の抑制。電力会社で10%→PPSなら

 1%。②全国横断的な余剰電力の最大活用。うまく組み合わせることで効率利用。③I

 CT活用による最適オペレーション。NTTが株主である。これらにより、発電所か

 らは高く仕入れても、お客様へは安く販売することができる。

 

・自治体におけるPPSからの電力購入

→コスト削減効果は平均▲15%。

→皇居、日銀、防衛省、大使館、国立病院、刑務所・拘置所、動物公園などで実績あり。

 電力の入札件数は毎年増加している。

→首都圏自治体での入札状況(ここでは市のみ紹介)

 さいたま市 庁舎、病院、体育館、清掃工場等

 上尾市   清掃工場

 草加市   庁舎、小中学校

 町田市   清掃工場

 太田市   庁舎

 桐生市   清掃工場

 横浜市   庁舎、図書館、病院、清掃工場等

 川崎市   競輪場、市民ミュージアム

 三浦市   小中学校、市場等

 千葉市   庁舎、小中学校、清掃工場等

 船橋市   庁舎

 習志野市  清掃工場

→環境配慮法でも、電力の入札を対象に含めている。

 

・自治体からの売電

→清掃工場、小水力発電で、「売り」の方でも入札にかけていただきたい。

→さいたま市クリーンセンター大崎の実例。余剰単価で東京電力は7.80/kwhに対し

 10.76で落札。

 

7.感想

 

電力は電力会社が独占。そういう固定観念が、環境面、化石資源の枯渇、地方分権や地域活性化の流れ、雇用やビジネス創出、コスト面、そして震災対策・原発依存脱却など多方面から突き動かされ、これを受講した825日をはさみ、国でも、23日に再生エネルギー特別措置法案が衆院可決、26日に参院で可決というさなかで、真に迫ったセミナーでありました。

「エネルギー自治」。エネルギー政策も地方分権が進む。3.11の大震災はそれに拍車をかける形となっています。EU諸外国が発電とともに発生する熱もまた大切な資源として供給していることを聞き及び、確かに、日本はそんなに寒くない、と言うのも一理ありますが、インフラ整備のコストと対比してどう判断すべきなのか、積極果敢な検討と決断とが求められていると思いました。それは確かに、オールジャパンでなせるものでなく、北海道と九州では、電力供給と消費のありさまに当然違いがあり、都市部と地方でも異なり、効率性、経済性を求め、やはり「エネルギーは地域主権で」というのは、もっともなことだと考えるようになりました。

しかし「地方がいくらやろうとしても、地方にはその権限が与えられていない」、また、「国には政策がない、余計な規制ばかりがある」との指摘には、地方を担う立場の者として、大いに考えさせられました。

さらに、飯田市の取り組む「屋根貸し」。これが飯田では進むのに立川では「公共施設の目的外使用になるから」と、難色を示されているというのも、一面には国の見解が邪魔をしており、また一面では自治体そのものもまだまだ及び腰なのではないかという思いにもさせられました。

現今、自治体議会への市民の声は厳しく、その存在価値に疑問すら寄せられています。「何を審議しているのか」「たくさん議員が必要なのか」「仕事をしているのか」。私はこのセミナーに参加して、自治体議会が不必要どころではない、今こそ出番、これからが大変、との認識を強くしました。ただ、それが市民に理解してもらえないことは、ひとえに私たちの側に原因があると言うべきでしょう。

気持ちを引き締め、さらなる勉強、先進地の取り組み、国の動向、さらに世界の潮流まで、私たちはローカルな場面で、しかもグローバルに展望・発想していかなければなりません。

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