○教育クラウド 静岡県富士市
1.視察の概要
市議会教育民生委員会から視察。
昨年、私は「自治体クラウド」についての研修を受けました。
昨年の東日本大震災からにわかに脚光を浴びることになった「自治体クラウド」については、市役所庁舎ごとすべての機能が失われるという危機的状況の中で、住民データの保全という観点から私は注目していましたが、ここで富士市を視察し、教育委員会が導入した「教育クラウド」のメリットは、それではなくて教職員と生徒・児童にとっての毎日の学校生活、業務の中に直接反映されるものでありました。
以下、詳述します。
2.「教育クラウド」の概要
@富士宮市役所に先行導入の「シンクライアント」
まず、富士市では市役所がクラウドコンピューティングを先行導入しているという背景があった(H13〜)。
コンピュータ導入によりメンテ要員の増員が必要にならないことを目的として、シンクライアント方式を導入している。H15に個人情報保護法ができ、「データを残さない」ということに力点が置かれるようになった。
1200台から2000台に増やしてもメンテ要員を増員する必要がない。データ管理を各課任せにするのでなく、すべてサーバで一括保管される。
この方式で、リプレイス作業にこれまで年末年始を要していたものが3秒で完了することとなっている。
A学校現場でのニーズ
教育クラウド、正式には仮想化技術を利用した校務システムの構築は、先行した市役所の導入実績を参考に、ハード面では市総務部情報政策課が進めた。
静岡県下において富士市は校務でのコンピュータ導入が遅れている状況であった。
ニーズ調査を行い、成績処理、写真の管理、文書の配布、文書の提出といったことにパソコンを活用したいという結果が出、また事務遂行の効率化、データの紛失防止、多忙感の解消、スキルアップといったことが導入によって期待されるという結果が出た。
ちょうどその頃、教職員が自宅で成績付けなどの作業をしようとUSB端末でデータを保存し、そのUSBを紛失するという事件も各地で相次いだ。前述@の方式なら、学校で作業をしても自宅でしても、USBでデータを持ち運ぶのでなく、教師の持つノート型シンクライアントには、電源を切れば何も残らない、サーバ側にすべてが保管される。だから紛失、盗難、悪用の心配がない。教師がノート型PCを操作する上では、まったく手元にデータがあるのと同じ操作感覚。しかし実際にはサーバで作業が行われているという仕組み。教師の持ち歩くノートPCにはデータが一切入っていない。
B学校現場での実際
サポート体制として、市庁舎に2名、24時間365日のサポート(市内43校を2名で巡回もしている)。コールセンター機能で、教師からの使い方質問にも答える。業者によるヘルプディスク(平日9時から5時)で逐次、教師からの質問にも答える。
教師の退職、異動などに伴う更新作業、富士市に特化したカスタマイズ、操作研修費用なども含んだ契約内容。
これまで教頭が放課後に手作業で書いていた「今日の校務日誌」もボタンひとつで作業を進められる。行事、出張などの今日の校務を各自が書き込み、教頭が取りまとめるのは早い。
これまで手計算していた出席簿(これ担当の先生もいた)の自動集計、毎朝の会など会議の時間短縮や廃止、紙媒体の削減、掲示板の活用、添付資料の迅速化。周知事項は確実に全員が見るようになった。
C課題その他
慣れるまでには習熟の研修が必要。混乱もある。学校側に不安もあった。
まず「名簿管理」。それから「要録」「出席簿」「あらわれ」と使いこなしていく。
ソフトの活用でさらに便利に使えるので、今もカスタマイズ中。
研修は、各校から1人が参加するというのでは徹底しない。各校に出向いて全員に研修を行うのでないといけない。仕様段階から分厚い研修体制を準備することがポイント。
1200人の教師以外に、午前だけの特別支援の教師などがいる。これらの教師にはIDが与えられていず、PCも持たされないことから、「知らない」ということが発生する。
5年リース。リース契約期間は固定された内容なので、将来の変化への対応が課題。
文科省が現在も「一太郎」を標準に使っていることから、「ワード」「一太郎」の両方を入れなければならない。コスト高。
容量に限界あり、運動会の画像などは膨大。DVDに落としてもらう。
3.感想
リモート・アクセス。PCを家に持ち帰るというシステム。費用対効果において、アナリストは「3年でモトが取れる」と分析していたが、今では11ヶ月でモトが取れる計算になっている、と伺いました。
小学校でのデータも中学に持ち上がって計9年間使える。
子どもの転校、教師の人事異動に強い。市内全校共通。
すべての教員がPCやクラウドについて習熟する必要はない。ITのことはIT専門家が、使う先生は先生のことをやればよいという仕組み。
こうして、導入の効果として、@必要書類に手間取る時間が省け、子どもと向き合う時間の創出、Aセキュリティの向上 Bペーパーレス化などの経済効果 が達成できたとのこと。いずれ劣らぬ、いま求められている重要事項です。
余談のようですが、市役所を訪問し、案内された会議室からは富士山が一望できるロケーション。当日は残念ながら雲の中でしたが、「これぞまさにクラウド」と言った人あり。私は視察の前にNHKのドキュメンタリーで、この富士山が次の大噴火によってこうなるというあまりにリアルな画面を見ていたものですから、クラウドコンピューティングといえばどうしても「市役所がなくなっても情報は生き残る」という観点ばかりが脳裏にこびりついていましたが、説明を受け、そうではなく学校現場の実務の中で日々、その効果が上がっていることを知りました。
ただ、大きなポイントは、富士市がすでに10年前からこのシステムを導入していた、その長短もすべて承知で、学校現場での応用にこのたび挑戦した、という背景が、丸亀市とは大いに異なる状況ではありました。
静岡県内で、まだコンピューティング未実施なのは2市だけだったと伺いましたが、聞けば香川県下でも、丸亀市は同じシチュエーションに現在、置かれているとのことです。「今こそ導入しよう。議会の教育民生委員会も応援するから」と、帰途の車中で教育次長を「激励」する一幕もありました。
導入に際しては小中各1校をモデル校として先行スタート。全面導入ではやはり、不安、心配、混乱もあったとのこと。せっかくの導入を失敗に帰せしめないために研修システムを倹約してはならない、その後のフォローの体制も手厚く、など、ご指南をいただきました。
丸亀市の教育現場においてこれをどう活かしていくのかが問われます。導入費用については視察先に配慮し、ここには紹介しませんでしたが、少ない額ではありません。習熟した専門職と、現場に精通する教育委員会の人々との綿密な連携で、ぜひ実効ある導入を実らせてほしいと思います。