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○「不規則・不穏当発言への適切な対応手法」セミナー

 

1.    概要

 日時 201987日 1013

 会場 京都テルサ

 講師 樺n方議会総合研究所 代表取締役 廣瀬和彦氏

 

2.    受講意図

 

議長に就任。わが議会でも時折発生する「議事進行」など、いざという時の

ために知識を学んでおこうと、今回のセミナーを受講しました。

 

3.    セミナー概要

 

○「議会だより」の記事は、議長に発行責任がある。編集委員ではない。

○フェイスブックの“炎上”。事実上の注意などの処理となる。その際、「議長に呼ばれた」だけで訴訟となり、議長が敗訴する場合がある。議運で協議をすべき。決議をまとめたほうが無難である。

○議員の発言には「議員は議員としての職責を全うするために議員としての発言が十分保障される」という「発言自由」の原則がある。

○国会議員の発言には憲法51条で免責特権がある。地方議員には憲法・自治法ともに規定なし。

○名誉棄損罪。刑法230条。公然と事実を摘示して人の名誉を棄損すること。3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金。

○侮辱罪。刑法231条。事実を摘示しないで公然と人を侮辱すること。拘留又は科料。

○発言における品位の保持。自治法132条。議会の会議又は委員会においては、議員は、無礼の言葉を使用し、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない。→本会議や委員会の場は地方公共団体の事務に関わる公の問題を議論する場であって、議事に関係のない個人の問題を議論すべきではない。無礼の言葉や私生活にわたる言論や人身攻撃等によって議会の秩序が失われることを防ぐ。標準市議会会議規則151条。議員は、議会の品位を重んじなければならない。

○無礼の言葉。議員が意見や批判の発表に必要な限度を超えて議員その他の関係者の正常な感情を反発する言葉。S26.9.5札幌地裁「議会の無能」、S28.1.7青森地裁「諸君のように利権がほしくて議員になってない」、S54.3.30青森地裁「女の腐ったみたいで浮草のよう」「ペテン」「悪代官」。

○他人の私生活にわたる言論の禁止(132)の意義。議事に関係のない個人の問題を取り上げて議論することは許さず、また公の問題を論じていてもその発言が職務上必要な限度を超えて個人の問題に立ち入って発言されることを許さない。S54.3.30青森地裁。議員と市長の私的な取引関係や金銭授受につき市長の行為を具体的に指摘する言動。

H27.9柏原市長。女性公債報道に「影響ない」と議会で弁明。

○浦添市議会「市長の実弟の会社が市の施設の指定管理者に」→出席停止。

○宮古島市議会「小泉改革で貧富の差」→出席停止。

○熊本市議「胸をわしづかみ」→懲罰委員会を設置。

○宮崎県議「共産党県議が天皇の戦争責任発言」→戒告処分。

○沖縄県議「先住民は顔も真っ黒」→発言取り消し、謝罪。

○長野県議会で行政側局長説明に紛糾。→局長が謝罪。

○さいたま市議「車いす議員はブルジョア障害者」→休憩中議長厳重注意。

○さいたま市議と横浜市議の「ダブル不倫」→家族が暴露しネットで暴かれる。

○執行機関の不穏当発言は議員自身の発言取り消しに準じる申し出により議会の許可により行う。→本人からの申し出がない場合、議長の発言取り消し命令は行うことができないため会議録に掲載。129条は議員に対してのみ適用される。

○発言取り消し規定。自治法129条。「議場の秩序を乱す議員があるときは、議長は、これを制止し、又は発言を取り消させ…従わないときは発言を禁止し…退去させることができる。→前段によりまず議長から注意があり、それを聞かなかったときに取消命令をするのが普通。標準市議会会議規則65条。発言した議員は、その会期中に限り…取り消し…訂正をすることができる。ただし…字句に限るものとし、発言の趣旨を変更することはできない。→「字句」つまり「言い間違い」のみ。言った、言わないという場合はいったん取り消すべき。会期中でなければ命令も申告もできない。発言取消留保宣言で「後刻…において」としておけば閉会後もできる。

○議会の公開が進んで不穏当発言はだいぶ減った。一方で、スタンドプレーが多くなった。

○長崎市長「天皇に戦争責任」→自民党県連から再三の発言取り消し要請も拒否。→手の打ちようがない。事実上の決議で対応するくらいしかない。

○和歌山市長の次期県知事選出馬に関する発言で「不穏当」の声噴出。議会から発言の一部削除と陳謝を要求されるも突っぱね、2週間で不信任に。

○群馬副知事の人事巡る発言で紛糾。一部議員が取消と陳謝求める。知事は応じない意向。

○東大阪市長「猿やないけど」「議員はたたけば全員ほこりが出る」発言で物議。陳謝。

○議員の発言手続き。標準市議会会議規則50条「発言は、すべて議長の許可を得た後、登壇してしなければならない」。自治法104条「…議長は、議場の秩序を保持し、議事を整理し、議会の事務を統理し、議会を代表する」。

○不規則発言。「ヤジと拍手は議会の華」と、これまである程度黙認されてきた。黙認される不規則発言…議会の審議を活性化する相槌や掛け声等による野次は場合によってその効用からある程度黙認。問題となる不規則発言…明らかに発言の品格を欠いた特定の人格等に対する誹謗や中傷等の野次は許されない。

H28.6月都議会定例会ビデオ。「そうだそうだ」は黙認される。公用車の公私混同で「せこい。せこすぎる」。野次に議長が対応せず、これが先例になってしまう。議長の不手際。

H26.6月都議会定例会ビデオ。妊婦支える仕組みの発言の途中「早く結婚したほうがいいんじゃないか」でセクハラ問題に。侮辱に対する処分要求権→議会対応がまずかった。野次の主が名乗り出なかった→処分要求は3日間→名前空白で提出→不手際であった→要求期限切れた後で名乗り出て、謝罪。

○不規則発言に対する発言者の対応。形式主義を採用。原則「不規則発言に対し無視して発言を続ける」。野次に言い返すと自分だけ損をする。その場で我慢する。例外「発言者が看過できないような場合には、議長に対し注意を喚起する発言」。

H24年泉南市議会ビデオ。選挙後の臨時議長は最年長。事務局長に振り、紛糾→陳謝。

○不穏当発言の該当基準。@無礼な発言。誹謗中傷、見下すA他人の私生活にわたる発言。副市長同意議案で副市長の人格に及ぶ発言B発言の根拠が不明確である発言や事実と異なる発言。うわさなどC基本的人権を侵害する発言。宗教、LGBTなど人権侵害。

H28.3月大館市議会HP。市長に対し「まだ結婚もしてないし、子供もいない。これでは同じ土俵で議論できない」「任期4年間の間に結婚してもらいたい」。

H27.12月岐阜県議会HP。「同性愛は異常」との野次。発言者が特定できれば懲罰できる。

H27.12月川口市議会HP。「外国人が犬より多い」の野次に議場は笑いが起きたが。議場の秩序維持→その日のうちにしか命令できないというのが総務省の考え。129条の制止、取消、禁止、退去のタイミング。取消命令は会期中ならできるとするのが実務家の説。それぞれの議会が決めることになる。

○発言の引用に当たっての留意。@新聞や雑誌等の記事を引用して発言する場合は、問題ない。しかしひどい記事は良識が疑われるAうわさや流説などの根拠が不明確な事項を引用する場合。投書、誰からかわからないものは、責任を取らされる。

H25.3月柏崎市議会HP。「こんな話を聞いた」。根拠があるようでないものは、責任を問われる。

H18年八街市議会。議員から市長へ「儲けの半分の5千万円位をもらったのか」とした発言につき「謝罪文」。「辞職して責任を全うする」。

H27.12月米子市議会HP。「学芸会議会」「議長は市長の応援団」などの発言に動議で懲罰委員会を設置するも懲罰は反対多数で否決。

○不穏当発言に対する対応手法。@議事運営における対応。発言の取消しによる対応A会議録における取扱い。原則として記載する必要はないB秩序違反としての対応。侮辱に対する処分要求又は懲罰による対応。

○発言取消方法。@発言者自身による発言の取消しを行う場合(標準市議会会議規則65)。申出によるのが原則A法1291項に基づく議長の秩序維持権による取消命令又は取消留保の宣言の場合。命令は「明らかなとき」、留保の宣言は「これから精査するとき」B他の議員による発言取消を要求する動議の場合。「取消動議」は違法、「取消要求動議」は適法。半数以上が求めている場合に、それでも命令を出さないと議長の責任となる。「取り消す気がない」と開き直る場合もある。閉会後も可能。次の本会議冒頭で報告するべき。

○発言取消留保宣言。「先ほどの○○議員の発言につきましては、後刻速記を調査の上議長において適宜措置いたします」。

H23.12月逗子市議会チラシ。「てめえ、調子に乗るなよ」と女性議員を脅し、恫喝して発言妨害。辞職。懲罰がないのは珍しいケース。

○発言取消と当該発言に対する議員の責任の関係。発言の取消しが議会において許可されれば当該発言は最初から発言がなかったこととなる。但し原本にはすべて残っていて、配布用のもののみ、なかった扱いとなる。発言取消の効果によって当該発言に対する発言した議員の責任は消滅しない。そのあと懲罰もあり得る。

H23年城陽市議会ネット記事。市長は「義理も人情もない」「冷血漢」との議員発言に、地元紙への謝罪広告掲載求め、市長が提訴。大阪高裁控訴審で「市議は特別職の公務員であり、職務上の行為で市長の名誉を棄損したとしても、国家賠償法上の責任を市議個人は負わない」。免責特権に近い。謝罪請求を棄却。(日経新聞2013.5.10付け)

○会議録における取扱い。発言者が不規則発言に関連した発言をした場合、正規の発言だけを記載しても発言内容として十分でないため正規の発言を補完するため不規則発言を会議録原本に記載する。不規則発言が品位を欠き不穏当発言であるときは懲罰の対象となることからその内容等によって会議録原本に証拠として記載する必要がある。

○会議録規定。会議規則87条。前条(配布用)の会議録には、秘密会の議事並びに議長が取り消しを命じた発言及び第65(発言の取消し又は訂正)の規定により取り消した場合は掲載しない。空欄、傍線の扱いなので、何文字かはわかる。

○侮辱に対する処分要求。議員は、本会議又は委員会において他の議員から侮辱を受けたとき、議長に対し侮辱した議員に懲罰を科するよう要求することができる。侮辱に対する処分要求とは、懲罰処分を意味する。短期時効がかかる。8分の1の発議を要しない。一人でできる。

○侮辱規定。自治法133条。「議会の会議又は委員会において、侮辱を受けた議員は、これを議会に訴えて処分を求めることができる」。除名以外は裁判にならない(S33判例)。最近、これを覆す判例あり。「出席停止」は利害に関わるので、判決が変わった。実害かどうかで決める。

○処分要求を行うことができる者と処分要求者の相手方の範囲。処分要求を行うことができる者は侮辱を受けた議員のみ。処分要求の相手方は議会の構成員である議員のみ。傍聴者や理事者は範囲外。

○処分要求の要件。@侮辱された年月日A会議の種類B侮辱を与えた議員の氏名C侮辱の内容。

○逗子市処分要求書の実例。2011.12.12付け。

○処分要求書不受理。東京都議会2014.6月。セクハラやじの処分要求書に対し「被処分者の氏名が把握されていない」との理由で書類を返還。

○侮辱に対する処分要求。侮辱に該当するかどうかの判断権は侮辱を受けた議員の判断にゆだねられている。客観性は必要ない。

○処分要求の制約。場所は、本会議及び委員会における議員の言動。時間は標準市議会会議規則1602項のとおり侮辱を受けた日から起算して3日以内。発言は本会議又は委員会における議員の発言に限定。

○執行機関による侮辱発言又は議員の執行機関に対する侮辱発言に対する措置。処分要求をすることはできない。手の打ちようがない。謝罪申し出を発言許可する、又は問責決議しかない。

○懲罰。懲罰とは、議会の秩序違反者に対する制裁をいう。提出要件は議員定数の8分の1以上の発議。自治法184条。懲罰の対象となる人は議員に限定。当該会期中に行使される必要がある。原則として本会議と委員会における言動に限定される。

○議場外での行動に対する懲罰の是非。最高裁S28.11.2。「議会の運営と全く関係のない議員の議場外における個人的行為は、懲罰事由とすることができない」。これが原則。最高裁S28.10.1。「会期外の議員の行為でも、議会の開会を阻止し流会に至らしめるような…行為は懲罰理由となる」。これは珍しい判示。

○議員のSNSでの発言関して桐生市議会での懲罰事例。会議規則151条「議員は、議会の品位を重んじなければならない」。「議員としての品位を職務外のことについて規定するものではない」。

○議場外における不穏当発言の取り扱い。法的措置として懲罰、処分要求の対象とならない。刑事・民事の裁判で対応。事実上の措置として、議員に対する注意勧告等の決議。

○議員としての発言に対する法的責任。@正当な職務行為による名誉棄損発言(H17.5.12東京高裁判決確定・H9.9.9最高裁判決引用)。「議員質問において個別の住民等の名誉を棄損低下させる発言がなされ結果的に個別の住民等の権利等が侵害されたとしても、直ちに当該議員がその職務上の法的義務に反したと断定することはできない。正当な職務なら、責任を取らなくていい。発言に保障がされている。これが原則。例外として東村山市。「虚偽であることを知りながらあえてその事実を適示するなど議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いて行使したと認めうるような特段の事情がある場合は違法な職務行為である。A違法な職務行為による名誉棄損発言(H15.2.17最高裁)。議員の一般質問における発言により第三者に違法に損害を与えた場合、議員個人として責任を負う必要は、ない。議員の本会議における一般質問は国家賠償法11項における公務員がその職務を行うに該当する。菊池市の産廃施設をめぐる判例。議員個人への訴訟は成り立たない。市を相手取ることになる。ただし市はその場合、求償権を持つ。重過失と故意の場合のみ。

○まとめ。会派内、議運の同意を求めながら、議長が判断することで解決を目指す。それが議長として誠実な対応といえる。1回でも注意をすると、それが前例となる。

 

4.    感想

 

議員は多士済々であり、選挙での支持を背景に、自信をもって行動、発言しています。議員間で、ときに意見が合わず、さらに感情的になる場合や、本会議での野次についても「いかがなものか」との印象を受ける場面もあります。その「一言」が、場合によっては謝罪、辞職などにつながるケースがあることを学びました。品位の保持、秩序の保持など、社会常識の範疇であるように思うが、それが表現の自由や保障との兼ね合いで、議長がその采配に苦慮する場面も大いにあり得ます。

議会は民主主義の象徴的な場であり、議員はその自覚を常に身に着けて、その上での行動や発言をしなければなりませんが、モノサシを当てるように単純でない場面もあります。今回学んだことを定期的に、議会でも研修し、互いに確認し合うことも必要かと感じました。

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