○「こどもの国基本構想」「郷育カレッジ」 福岡県福津市
1.視察意図
「こどもは宝」「ふるさとは宝」。そのような強い思いを政策に実現。
福津市がそのために構想した政策と取り組みは実にユニークです。同市のまちづくりプランそのもののタイトルが「かがやき!えがお!ふくつっ子プラン」。力の込められた同市の子育てプランを拝見しようと思いました。
2.「こどもの国基本構想」
・平成18年3月に制定。
・「福津市全体がこどもを生み育てやすい『こどもの国』である」と見立てる。
・いわゆる「次世代育成支援行動計画」はH16年度策定。これは小学生までを対象としたものだが、これ
を児童福祉法に定める児童(18歳に達するまで)に拡大したものとして、この構想を位置づける。したが
ってこの計画の対象は18歳未満のすべてのこどもとその家庭、地域、企業、行政すべての個人と団体。
・計画は市総合計画とタイアップしH18〜18の11年間。23年度までが前期期間。
・こども自身の活動の支援だけでなく、子育てと仕事、地域の子育て支援などの計画を総合的に樹立。
・基本理念は「こどもの笑顔があふれ、心豊かに育ちあうまち 福津」
・同心円に三重の輪。いちばん内側がこども、次が家庭、外側が地域。この3分野それぞれに基本目標
を掲げる。
◎こども…こどもの持っている力を最大限に尊重しよう
◎家庭…家族みんなが子育てや仕事、社会参画を楽しめる家庭にしよう
◎地域…こどもと子育てを喜びを持って支える地域にしよう
・上記それぞれの目標に沿い、具体的な目標事業量、施策の成果指標を定める。
・特に地域コミュニティに重点。コミュニティづくりとからめ、「地域でこどもを育てよう」ということに力点。
海、山、特性ある子育てをそれぞれのコミュニティが立案し、取り組む。
・「行政がなんとかせよ」との、いわゆる「依存型市民」もいるが、地域で始めていくことが大事。
・具体的に、「地域づくり計画」の中に、こども・福祉・防犯・環境の4項目は必ず盛り込むようにしている。
・「こどもの城」構想。「ここに行けばこどものことに関してすべてがわかる、用が足りる」という拠点。
新設予定であったが庁舎統合の影響で延期。23年度に整備予定。
・エンゼルスポット構想。駅の中に子育て支援施設。フリースペース、子育てサロン、子育てなんでも相談
のコーナーを設ける。就学前親子、小学生、中学生、児童福祉関係の各種団体が利用できる。
火曜日休館。開館時間は10時から就学前親子は14時まで、小学生15時から17時まで、中学生15時
から20時半まで(土日祝日は10時からなど、それぞれ異なる)。福間駅に設置済み。
積み木の部屋には積み木が4400個。
3.「郷育カレッジ」
・「地域で人材を育てよう」「地域で役立っていただこう」とのコンセプトで、福間市の生涯教育を「郷育」
(ごういく)と命名。ルーツは合併前の福間町の総合計画。「郷」とは「地域」「自分たちが住んでいる所」
「故郷」という意味。「郷」によって育てられ、「郷」を育てていくというイメージ。地域人材輩出システム。
・市民大学などに税金を使うが、単に自己が満足するだけでなく、「役立ってもらうことで初めて税金を使
う意義がある」との考え方。
・運営は市民有志で構成する「運営委員会」が担う。市職員も出るが、同運営委員会ができない部分を
担うのみ。協働。
・運営委員会には3部局。企画立案の「学習部会」、「学習評価部会」、学習成果発表など行う「広報部会」
・講座は講演会スタイルでなく少人数のクラス形式。講師はほとんどが市民。受講生が卒業して講師になる
ことも。地域密着の講座が多い。小学生から高齢者まで幅広い受講者層。全講座に託児あり。若い保
護者の受講者も増加中、などが特徴。
・22年度、登録者数は1000人超。
・20年度実績、110講座、登録949人、延べ受講者数2772人、託児30人。
・開催内容を毎号の広報に1ページを割いて周知。ネットよりも市広報と口コミが強力。
・「カレッジ通信」を全会員にDM。
・単位取得制。初級100単位、中級300単位、上級500単位。何年かかってもよい。単位を取得すると
「郷育スペシャリスト」「郷育ゼネラリスト」に認定される。励みにしてもらう。
・通帳形式で単位を積み上げていく。
・最初は老人引きこもり防止からスタート。次第に、子どもの体験学習の場として広がったことから、小学
生の登録が断然増えた。
・ハガキで申し込み。定数をオーバーすると抽選に。
・今年は試みに「夜間講座」を開催。「こんばんは講座」。11月から、毎週金曜日に開催する。
・3年に一度、内容を見直す。最近では、高校生を講師に迎える、転入者が語るこのまちの魅力、弁護士
による「遺言の書き方」など。
・人気の講座、ユニーク講座では、たけのこ掘り、福祉体験、登山、産直市場で漬物講座、ヒップホップ、
ざるそばは男性に人気、ジンバブエ、モンゴル、ケニアなどからの留学生による「外国文化に触れよう」
講座、などなど。
4.感想
市民が講師になり、市民が運営するカレッジ。反響のひとつとしてこんなことを紹介してくださいました。
NHKが何かの公開録画をするときに、市民に集まってほしい、といった場合に、ここ福津市では実にあっさりと、すぐに市民が集まる、というのです。これも常日頃、市民の動き、市民の声のかけあいがとても頻繁だからでしょう。
前述のとおり、カレッジは単位を取得するシステム。熱心な人では年間60単位を目指す人もいるそうです。
一人ではなかなか気が重い。けれども友だち連れなら気軽に参加できる。駅伝大会でポランティアをやってみた、それをきっかけに熱心なカレッジの一員となった人もいる、など、担当の方から熱意のこもったご説明をいただきました。
もう少し、上記報告に書き込めなかったことを書きます。
例えば北九州に紫川という、かつてとても汚れていた川があったが、市が市民に「きれいにしよう」と呼びかけても、「市民への押し付けだ」と反発された。しかしこれを「学習」として取り上げたときに、「汚していたのは役所じゃない、市民だ。ならば清掃も市民で」となった。
「ボランティア活動をしない市職員は市の勤務評定で評価しない」
「職員はまちづくりの専門家だ」
これが、市役所職員のモットーなのだそうです。地域づくりは、市職員が入らずに成しえない、ときっぱり。
「管理職以上は地域に貼り付け」それを実現する手法は「一本釣り」なのだそうです。
また、「○〇養成講座」と銘打って成功したものはない。ソーシャルキャピタルに貢献しない。市民力アップの
特効薬はない、とも。
ある40代の市民。パン屋さんを営んでいる。市主催のまちづくりの会合は面白くなく、誰も来ない。ところが市民が取り組む「まちづくりの会」は面白い。パン屋は奥さんにまかせてこちらの会に没頭。知り合いが増え、「パン屋が儲かりだした」というエピソードも。儲かる、友人ができる、楽しい、と、人生が良いほうに回転しはじめたというのです。
パン屋さんならずとも、市民がいきいきと、「本業も忘れるほどに」まちづくりに取り組み出せば、まちはおのずから活気付くことでしょう。説明を担当いただいた市職員の皆さん方も、自信を持ち、誇らかだった印象を受けました。
市役所のミッションそのものが、もう変わり始めている、いやすでに変わって、変わり果てている。それに気づくかどうか。そこがこれからの、地域主権の成否を決する分水嶺となるのでしょう。
手を変え品を変え、口が酸っぱくなろうとも、私はこのことを市役所に訴えてまいるつもりです。