○第9回 全国市議会議長会研究フォーラム
期 日 平成26年8月6、7日
会 場 岡山シンフォニーホール
内 容 6日
①基調講演「人口減少時代と地方議会のあり方」
野村総合研究所顧問、東京大学公共政策大学院客員教授
増田 寛也 氏
②パネルディスカッション
「分権改革20年と地方議会のあり方」
コーディネーター 牛山久仁彦 明治大学政治経済学部教授
パネリスト 林 宜嗣 関西学院大学経済学部教授
穂坂 邦夫 元志木市長
土山希美枝 龍谷大学政策学部准教授
城本 勝 NHK解説副委員長
則武 宣弘 岡山市議会議長
7日
③課題討議「議会のあり方について」
コーディネーター 横道 清孝 政策研究大学院大学副学長
報告者 海老原功一 流山市議会議長
川上 文浩 可児市議会議長
高橋 健二 大津市議会前議長
※以下、文責は内田にあります。
1. 基調講演「人口減少時代と地方議会のあり方」 増田 寛也 氏
○ 全国1799自治体のうち896市区町村(49.8%)が「消滅可能性都市」、
うち523市区町村は人口1万人未満となり、消滅可能性がさらに高い。
その要因は20~39歳の女性が減少と東京圏への若者の流出。
ゆえに対策は少子化対策と東京一極集中対策を同時に。
○ 日本の人口推移と推計
1192鎌倉幕府 757万人
1603江戸幕府 1227万人
1868明治維新 3330万人
1945終戦 7199万人
2008ピーク 12808万人
2030推計 11662万人、高齢化率31.6%
2050推計 9708万人 高齢化率38.8%
2100中位推計 4959万人 高齢化率41.1%
○ パリ、ロンドン、ニューヨークなどと比べ、東京の全人口に占める人口は突
出して多い。かつ、現在も膨張している。(東京=1都3県の合計)
出生率が極めて悪く子育て環境も悪い東京に20~39歳の女性が集まり、東
京、地方ともますます少子化の度を増す。
○ 東京五輪のあと、東京は老人の都市に。2030年には相当厳しく。
待機介護老人は4万人。介護社会が成立しにくい。
東京圏は医療・介護サービスが極端に不足。逆に地方は過剰になる。
○ これからの「希望出生率」目標を1.8とする。これには、20代後半の 女
性の結婚割合を60%にすれば可能(現在40%)。きわめて高いハードル。
実現のためには「働き方」と「所得」が要因。
○ 晩産化で5人に1人は「35歳以上で母」となる。
そこで「25~30歳で出産したい」を叶える政策が必要。
現在の男性の未婚理由の1位は「経済的余裕がない」。
現在の子どもが増やせない理由の1位は「子育て・教育にお金がかかりす
ぎる」
○ 東京集中に歯止めをかけるには、若者を中心に「人の流れ」を変えること。
若者に魅力のある地域拠点都市に投資すること。「新たな集積構造」「地域経
済の基盤づくり」「呼び込む魅力づくり」「都市高齢者の住み替え」の取り組み
が必要。「コンパクト化+ネットワーク化」
○ 日本の企業中、グローバル企業が3割、ローカル企業が7割。そこで、地
域で営む旅館など、「あまり儲からなくても女性が働ける」環境を作ること。
○ 「スタバ」が経営できるためには「17万人」が必要。10万人の都市を道路
でつなぎ、30万都市圏にする。
○ 千人規模の山間集落であっても、毎年1世帯+男女2人=5人の移住がで
きれば小中学校を廃校せずに維持可能。→「魅力があれば生き残れる」
○ 地方大学も特色あるものしか生き残れない。大学も努力を。
○ これからの地方議会
地域自治が滅びようとしている今、議会がこの問題に向き合うことだ。
出産、子育て、働く場。
若い人または若い層の声を反映させる議会に。
圏域全体を見る目のある議会に。
今後、農地法、都市計画法は不要になる。条例で定めることになる。
人を集める力のある地方都市づくりを。
どくに出て行くのかを分析する力が必要。
足らざるを補う力。
他市と連携する力を。
2.パネルディスカッション「分権改革20年と地方議会のあり方」
○牛山
・地方分権で拡大する自治体議会の責任。
①住民の広範な意見反映②住民の合意形成③住民意見を踏まえた政策形成
④政策形成を踏まえた自治立法⑤行政統制、首長権限チェック⑥コミュニ
ティでのリーダーシップ
○林
・地方議会改革への〝懸念〟
①議会改革が「経費削減」の延長線で語られることへの懸念
②強化されるべき議会の機能が弱体化し、さらに定数や経費削減を招くと
いう「負の連鎖」への懸念
③「負の連鎖」を断ち切ることが真の議会改革
・議員定数に関する議論
①議員定数は人口規模と面積でほぼ82%が決まる。
議員定数=14.78+0.0846×人口(千人)-0.0000655×人口(千人)2乗
+0.0061×面積(平方キロ)
②これに照らし、実際の定数がこの数字よりも大きい場合、上回る正当な理
由があるかどうかを検討すべき。ちゃんと仕事をしていれば、多くて多過
ぎることはない。議会の仕事と責任のセットで定数は決まる。
③海外の議会との比較やボランティア論は、上記議会の仕事と責任の違い
を考慮してから行うべきである。
④議員定数は住民が決めるべきとの意見に対し、決めるに足る住民への説
明、住民の理解が得られるのかがまず前提
・「長」にない「議会」のメリット、強み
①首長は交代のつど「リセット」。各自の個人的「思い入れ」「個性」「政治
信条」で判断する。
②議会は多様な住民の支持受けた議員で構成。これこそが強みである。
・議会改革の本質
①地方分権が進む(=長の権限が強化される)ほど、二元代表制の意義は大
きくなる。
②首長のサポート集団では存在意義がない。
③効率的に議事が進むことが良いわけではない。
④経理が合っているかをチェックするだけでは不十分。最大の効果をあげ
ているのかを住民の立場で監視すべき。
⑤議員一人ひとりが住民全体の代表なのではなく、議会全体として住民の
代表である。
・「ガバメント」から「ガバナンス」の時代へ。それに対応した議会に
ガバメント1 国からの予算制約 行政守備範囲拡大 財政健全化時代
↓ ↓ ↓ ↓
ガバメント2 住民ニーズに対応 守備範囲見直し 自治体経営時代
↓ ↓ ↓ ↓
ガバナンス 民間との協力強化 公民連携拡大 地域経営の時代
※自治体の役割は、これまでの行政の守備範囲にとどまらない。
・広域連携の時代。議会も他議会との連携の必要。選挙区の代表では限界
・やれるところからやってみる。すると制度上の限界が見えてくる。
○穂坂
・環境激変と政策転換の困難性
①議会は存亡の危機
②変えられない自治体体質。役所は「首長を支える前例主義集団」
③危機に気づかない住民の「お任せ民主主義」
・議会の意識改革
①「なくていい」「少なくていい」「何やってるの」の声に、議会は権限を再
認識せよ。
②チェック機能ならオンブズマンにできる。これからは政策提言機能を発
揮せよ。
③議会意思の統一を。議会が与党・野党に分かれているのでなく、1つか2
つ、基本課題に共通意思を持て。
④〝追及〟だけが議会だった。地域経営の時代、いよいよ議会の出番だ。
権限を認識し、活かさないと議会は〝消滅〟する。
⑤市民へのPR。議会が政策アピールを市民に向かってできてない。政策提
言でなく政策立案を目指せ。
⑥議会が市長の〝下請け〟でなく、課題設定できる議会に。議会内合意形成
をうまくやりつつ、課題をいっしょに作っていく。
○土山
・龍谷大学が開発した「質問力研修」。なぜうまくいかなかったか、どうすれ
ばよいか、を分析、考察する参加型研修。
・「残念な質問」と「もったいない質問」
公表数字を確認するだけの質問/論点を入れすぎてぼけてしまった質問/
個別要求的すぎる質問/合理的根拠なき批判にもとづく質問/国や他の自
治体についての質問/演説に終始している質問…
※その質問で市が少しでも良くなるのか、の自問
・一般質問のめざす「成果」として、「問題意識の共有」は重要
・「ひとりぼっちの」質問を、議会の政策資源として活かす。議員間討議の素
材として活かす。ひとつのテーマを複数の議員が異なる視点・論点で。関連
して追加質問を認める。
・議会はまとまれば強い。
・会派拘束で議論が無意味に。議論を「見える化」すべき。合意形成よりも、
少数意見もあったことを残しつつ、目指すべき意見の集約→意思の形成へ。
・議会も〝キャラ立ち〟を。議会での〝市民参加〟を面白く進めよう。
○城本
・地方議員の不祥事報道を「おもしろおかしい報道」と思うだろうが、議会が
住民にもっと見えるようにすべき。住民を意識すれば不祥事はなくせる。
・住民からの「強いリーダー」への期待が高まる中、議会がしっかり存在感を。
・住民の意識を変えることが議会に課せられている。気づいてもらうことに努
力を。頑張っている姿を市民に示そう。
・「おまかせ」してたら「こんな議会に」
・可児市の先進事例。
①自由討議を討論・採決の前に行う。
②予算決算委員会はメンバー20人で、全会一致まで数時間~2日がかり。
③委員長には議長の技量が必要。
・これからの議会改革の方向性
①制度改革・権限配分重視の改革から利害調整・合意形成重視の改革へ
②「質問型」から「公開討論型」の議会運営へ
③「監視型」から「政策提案型」議会へ
○則武
・市長も市民とトークしている。
・政策形成過程に住民も参加する。
・議会がそれに反対すると〝悪玉〟になる。
・これからは「オール議会力」が必要だ。
・議会は市長より「市民との対話」が得意。ただ、「まとまる力」がない。
・「オール議会力」で首長と渡り合う。「オール議会力」で市民と向き合う。
・「オール議会力」を発揮し「オール地域力」を引き出そう。
・これからの議会は市の課題をたくさん市民に示し、たくさん市民の声を聴く
ことだ。
・岡山市ではごみ有料化で、市民説明会を170会場で開催した。
・岡山市議会のある会派が「政策提言集」を作成した。
・議会がどうやって市民といっしょに政策を練り上げるか。「住民無関心」か
ら「住民とともに」へ。「まちづくりを市民に呼びかける議会」へ。
3. 課題討議「議会のあり方について」
○海老原(流山市議会)
H12「地方分権一括法」施行を受け、H13「地方分権検討協議会」立ち上げ。
協議会の提案で①対面方式②本会議ネット中継③政治倫理条例④一問一答方式 が実現。
H21議会基本条例制定。①市民に開かれた②議員同士が討議する③自らが行動し、執行機関と切磋琢磨する 議会を目指す。
H21「ICTの推進を求める決議」。H22委員長による委員会室へのパソコン持込許可、議会活性化推進特別委員会をユーストリーム中継、スマホによる電子採決導入、H23本会議場にプロジェクター、スクリーン導入。
今後、さらに「市民が意見を述べて参加できる議会」へ。
○川上(可児市議会)
H21基本条例制定に向けた議員研修会、正副議長立候補制。
H22基本条例研究PT、H23議会改革アンケート調査、サイボウズライブを活用した議員間意見交換と資料提供。
H24第1回議会報告会、本会議ネット配信、基本条例パブコメと市民説明会。
H25基本条例施行、会議規則見直し、グーグルカレンダーで議会予定公表、議会フェイスブック、定数・報酬・委員会のあり方研究PT設置、委員会ネット配信。
H26高校生議会、地域課題懇談会(高校へのキャリア教育支援)。
アンケートの結果、「議会に関心がない36.7%、活動内容を知らない64.2%、
市民の声が反映されていると感じる6.4%。厳しい現状と改革の必要性を再認識。
→高校生キャリア教育支援は議会にとっても貴重な経験だった。高校生にとっても大人とかかわれる良い機会。地元への愛着育む。
→議会だよりは市広報にはさむ形態。カラー化、見てもらえるように工夫した。
→議会報告会はテーマごと。名鉄線存続問題、市内公共交通、空き家問題など。
→議長立候補制でマニフェスト。2年任期から、現在は1年へ。表明に対して質問が2議員から。次の議会への展望を持たないといけないから、議長マニフェストは必要。信任投票を2年ですべきと考える。
→若手議員、最大会派から改革が進んだ。やったことを後に条例化。
→資質の高い人が高得票とはならない。議会の活動をしていたら1票にもならない。「選挙活動しなければ」という意識が現状。
○高橋(大津市議会)
議員38人、1期生11人、2期生13人、女性7人。「ベテランが若手を育てる」「ベテランが率先して改革」。なんでも聞ける環境、事務局もいっしょに。
大学との連携による政策提案。H23龍谷大学とのパートナーシップ協定締結。その後、立命館、同志社とも。専門的知見の活用。マニフェストグランプリを受賞。活動実績としてH23「政治倫理条例」H24「いじめ防止条例」H25「議会BCP」H26「防災基本条例」など。「いじめ」では17回に及ぶ政策検討会議。政策検討会議の設置で議会の政策立案能力強化。政務調査費について、議長の是正措置命令権。
H24予算決算常任委員会設置。H25通年議会導入、毎月議会開催。メリットは①専決を防ぐ②予算流用も審議→予算充実に効果。頻繁すぎるとの声はない。
広報・広聴関係ではH22「はやうち」市議会だよりを配信、迅速な情報提供。ベタ打ちで1ヶ月前にHPに発表。H24議員研修会をネット中継、傍聴席改修。H25電子採決で賛否を公式記録化。議会報告会。H26大型スクリーン設置、賛否表示システム導入。タブレット端末導入、議会資料ペーパーレス化、議場通信システム。
H24グループワークで「質問力向上研修」。議会報告会でのファシリテーター導入。
4.感想
まず、これからの丸亀市議会での議会改革に参考にしたい項目を列挙したいと思います。
流山市議会のパソコン持込、委員会をユーストリーム中継、スマホによる電子採決導入、本会議場にプロジェクター、スクリーン導入。
可児市議会の議会改革アンケート調査、サイボウズライブを活用した議員間意見交換と資料提供。グーグルカレンダーで議会予定公表、議会フェイスブック、委員会ネット配信。地域課題懇談会
大津市議会の事務局もいっしょになっての改革、大学との連携による政策提案、専門的知見の活用。電子採決で賛否を公式記録化。大型スクリーン設置、賛否表示システム導入。タブレット端末導入、議会資料ペーパーレス化。グループワークで「質問力向上研修」。議会報告会でのファシリテーター導入。
特に、流山の「市民が意見を述べて参加できる議会へ」との意気込み、可児市のアンケート結果、大津の「事務局もともに」という方針に、感銘深いものがありました。
さかのぼって増田氏による基調講演は、まさしく「基調」というにふさわしい情報提供、問題認識の共有化ができました。話のまとめ方として「悲観的になってはならない」という思いが込められていましたが、受け止めるほうとして、決して希望の抱ける、光明の見える現状ではなく、私たちの覚悟が問われる、というべきと思います。
パネルディスカッションでは各界からの議会へのメッセージが。
2000年の「一括法」から早くも14年。制度や文言は変わっても、為政者の意識はそう簡単には転換できない、ということでしょうか。これを書いている2015年2月、いよいよ「地方創生」が国を挙げての大テーマとなり、私は、このフォーラムで学んだ「議員定数」への考え方を基礎に、去る12月定例会で「定数削減条例案」を提出しました。減らすのが良い、とか「市民の目を気にして」というよりも、機動的で横断的な、そして「発言しない議員」がいなくなるところまで、また「町内代表」が出られなくなるところまで定数を減らす。私には、それもまた「議会が変わる」ための方策(市民の投票意識が変わることもセットで)という考えを持っています。
パネラーから出た「オール議会力」という理想。オール議会として市民に対峙する。受け止める。学び、立案形成する。一方では「資質の高い議員が高得票するとは限らない」との現実、「議会活動をやっていては1票にもならない」という認識が微動だにせず存在し、議会が変われというならまず市民が変わってほしい、という弱気のつぶやきも漏れ出しそうです。
が、決然として、私たちは議会を改革するために選ばれた。「地方創生」とは地方議会改革の異名である、そう言い切りたいと思います。
貴重な情報を学んだこのフォーラムへの、丸亀市議会からの参加議員とさらに語り合い、「市民が参加する議会」の実現へ、道のりを歩んでまいります。
…市の課題をたくさん市民に示し、たくさんの市民の声を聴くことだ。
…議会がどうやって市民と一緒に政策を練り上げるか。「住民無関心」から「住民と共に」へ。まちづくりを市民に呼びかける議会へ、との報告者の声を、わが思いとし、歩んでまいります。