〇第90回教育委員会対象セミナー GIGAスクール構想
ICT機器の整備計画/校務情報化の推進
1.開催概要
日 時 令和4年(2022)8月1日(月) 10時30分~16時40分
会 場 松山市内
2.セミナーの詳細
①「1人1台端末の活用を広げる松山市の取組」
松山市教育研修センター指導主事 小田浩範氏
〇松山市教委では小学校53校、中学校29校、計38,000台を一気に導入。導入スケジュールを先取りし、「一歩先」の活用を意識した研修や情報発信を心がけた。教委全体で取り組む中、教科等ICT活用部会、情報活用能力育成部会など5部会がそれぞれに情報発信し、本格導入へ入念な準備。校内に「ミドルリーダー」を置く。情報教育主任ではなくこれを助ける人。パソコン室で学ぶのではなく「日常使い」の中でスキルを高めた。
〇習熟度に差が出るので、フォローアップ研修を行う。教員以外、ALTやICT支援員を対象とした研修も行う。
〇アカウントの持ち帰り。ロイロノートに家庭の端末から接続できるか通信確認。これは臨時休業時の学習保障となり、持ち帰りへの第一歩となる。6~7割が家庭でロイロを使った。
〇持ち帰ることのメリット:家庭学習の充実、学習意欲の向上、学校の授業の充実、欠席・長期欠席・不登校への対応、教職員の働き方改革。
〇持ち帰ることのデメリット:情報モラル、登下校時の重さ、タブレット忘れ、持ち帰り忘れ、充電忘れ、充電ミス。
〇ルータは貸し出すが本来家庭が負担するもの。3万人が持ち帰り。8千人が家の端末を使用。端末持ち帰り、家の端末のいずれもできない児童も1%未満だがいる。プリントで対応している。R4.1 0.79% → R4.6 0.26%
〇これからは学校と家庭の学びをつなぐことが大事。
〇持ち帰りの本格実施。充電器は家庭に置き、家庭で充電して持ってくるルール。
〇クラウドサービスの活用で、これからは場所や端末を選ばない「学び」の姿に。
学校だけが学びの場ではなくなる。これにより学校の授業が変わる。便利さ、効果が上がる。紙はPDFに置き換わる。NHKの動画を視聴するのは授業で一斉にしなくても良い。一人でできることは家庭で、みんなでやることは学校で。話し合いなどの時間増、充実が図れた。宿題は完成した子から提出されるから教諭の机に宿題の山が積み上がらない。
〇登下校時の「重さ」対策で、使わない教科書は置いて帰る。教室には各自が教科書を置くスペースを確保。
〇親から学校への問い合わせに学校事務職員が答える場合もあるから、事務職員にも研修。同様に放課後児童教室を担当する子育て支援課職員、児童クラブの職員にも研修を。関係各所で見守る体制を作った。これにより、タブレットがあれば学校、家庭だけでなく児童クラブ、放課後子ども教室、市立図書館、青少年センターなどでも学習ができるようになる(Wi-Fi整備が前提)。ロイロノートを活用する日数は月ごとに確実に増えていった。
〇まとめ。GIGAスクールの実現で「教える授業」から「学び合う」授業へ。「主体的・対話的で深い学び」へ。学校間・教職員間の格差解消。学級活動など授業以外での活用の広がり。これらをさらに推し進める。課題は大規模校での通信渋滞。これの解消へ新年度予算化。
②「GIGA端末を活かしたこれからの学習指導の考え方」
東北大学大学院教授 堀田龍也氏
〇毎日の授業で端末を使う。その使い方をいくら説明しても、先生の心はくすぐれない。教育を変えることとICTは関係ない。でも世の中がすべてICT化しているとき、なぜ教育だけが「紙」なのか。
〇そもそも「授業」とは? 「授業を受ける」とは、先生が教えて児童が受ける。昔はそうだったが、今ははずれている。「授ける」は「伝える」だけでは不足する。本人の自覚、「何のために」なくして「学び」なし。これがアクティブラーニング。身に付いているものは知識だけではなく「学び方」。それが次第に自律的な学び手になる。「学び方」「自己学習力」をまず身に付けさせることだ。学ぶ目標が次第に個別化されていく時に間に合うのか。そばに教師がいない学びを体験させておく必要性がある。「教える先生」から「学び方の指南をしてくれる先生」へ。これがコンピテンシーだ。「わかりなおす」ために、違う見方や話し合いを身に付ける。みんな違う人生を歩む。右肩上がりの時代のままの教育ではだめだ。見直す必要がある。学び直すこと、学び「足す」ことが、先生がいなくてもできる人に。「問い直し」ができる人に。
〇19万人が不登校。「登校」「下校」というように、学校は「高いところにある」という前提がある。これでいいのか。成績は良いけれど気力がない子。それでもこれまでの日本ならやって来られた。でももう変えないと、その子はやっていけない。
〇病人は増えるが病院の勤務者は減る。当然病院での待ち時間は増える。日本はゆでガエル国家で、人手不足644万人、いずれ持ちこたえられない。世界が注目する「世界最速人口減少」国ニッポン。日本が失敗したら、他の国は「日本のようにしなければよい」となる。先生は自分の授業を変えたくない。親は自分の受けたことを基準に物事を考える。これではいつまでも変わらない。一方、民間企業は変えている。学校だけが大変なことになっている。いまだに「いちいち紙で」自宅の地図を書かされる。
〇世界を見渡すと、教員が公務員である国は少ない。
〇新入社員の勤続予定年数を聞くと「定年まで」は16.6%、「3年以内」が28.3%。「4~5年くらい」が14.4%、「6~10年くらい」が8.3%。3~10年合計で51%。人材流動性はこれからの日本で当たり前。50代は4回転職する計算になる。キャリアチェンジが普通の時代になった。CBT、E-ラーニングが必須となる。このような時代、オンラインでの学びは当たり前になる。
〇これからは俗にいう「ちょっと変わってる子」が生き残る。普通の仕事はITにとって変わられるから。機械に置き換われない職が残る。学び直しの時代。探究をこつこつ続けられる人を育てることだ。
〇教育環境が良いところに移り住む時代が来た。まじめに授業を聞いている子か良い子だ、との考え方ではもうダメ。世の中の変化に気づいてほしい。
〇IMD世界競争力ランキングで、世界200か国のうち100か国を比較。日本は30位。もはや日本は「すごくない」。英語ができない。これだけで取り残され、競争力はこれからも着々と落ちていく。私たちが受けた教育の再生産ではいけない。
〇これからは「紙とデジタル」の時代だ。それを「紙かデジタルか」と勘違いしている。どちらかに決めたがる。変えることに億劫なのだ。資質・能力の変化が求められる。
〇今も学校に「百葉箱」はある。けれども中身は昔と一変。ほとんどはセンサーだ。象徴的だ。
〇全国学力・学習状況調査の結果。ロジカルに考えることができない傾向。
〇自分のポリシーにこだわる先生は良くない。教育公務員としての資質に疑問を感じる。これからは「学び方」を教えることが大事だ。
〇長らく国立大の受験は5教科7科目だった。これが25年共通テストから6教科8科目になる。「情報」が追加されるのだ。GIGAスクールの時代に、ソフトの習得以上に根本的に大事なのは学校の授業を変えること、教員の意識を変えることだ。
~昼食時、企業展示あり~
③「教職員の主体性と同僚性を育む2つの仕組み」
高松市総合教育センター研修係長 河田祥司氏
〇教委と学校をオンラインでつなぎ、月2回、放課後30分開催する「放課後ちょいスクール」の実践報告。双方向のニーズの発掘、立案を行うだけでなく、学校間のつながりも生みだし、OJTを促進するきっかけとなりつつある。「ちょいスクール」は「Choice Cool=選ぶことは、カッコいい」をひっかけている。
〇GIGAスクールが始まり、研修を受けたいが授業があるから少人数に絞られる。コロナもある。端末の台数に限りがある。年度途中の変更も難しい。これらを克服するために絞り出した知恵。
〇これまでの研修との違い・特徴は、教職員の希望制(Choice)。30分という短時間だから参加しやすい。希望者はビデオ会議に参加。集まらないから移動時間ゼロ、旅費ゼロ。水曜の放課後と日程が明確。人数制限なし。周知も1か月前HPで行い、簡便。
〇重視していることは、主体性の尊重、双方向性、同僚性(仲間意識でいっしょにOJT)、即時的で柔軟な内容設定、参加しやすい状況づくり。
〇まとめ。R3年度は34回、750名参加。R4年度は7月末で380人。「自分で決めて、容易に参加」「気軽に参加」「質問しやすく悩みも言えた」などの反響。
〇ただし中学校でこの時間帯は、部活があるため困難。
~ここで企業提案、ICT機器のプレゼンあり(別紙に企業一覧)~
④「授業も校務もクラウドを活用、教員間・生徒間の質の高いコミュニケー
ションを実現」 愛光中学・高等学校 ICT推進室長 和田 誠氏
〇きょうお伝えしたいことは①TTPS=徹底的にパクッてシェア②マインドセット=失敗に寛容になる③心理的安全性=なんでも皆が話し合えるチームに④楽しむ=ICTは目的じゃなく単なる手段。
〇ICTは手段だ。目的は個別最適化、創造性を育む学び、特別な支援、働き方改革、社会の形成に参画するための資質・能力の育成、ネットリテラシーなどの情報活用能力の育成、である。
〇よくある質問:生徒は悪いことしませんか? 仕事が増えませんか? 授業時間が足りなくなりませんか? これに答えるGoogle創業者、ラリー・ペイジの言葉「失敗しても構わないが、失敗するなら早くしろ」。これが会社のコンセプト。デザインシンキング。Googleでの研修でこれを教わった。失敗しないのは挑戦してないから。
〇ICT教育成功の鍵は、クラウドとマインド。愛光の実践例を以下紹介。先生のための「クラスルーム」だった。朝礼をやめた。8時20分までに書き込むことにした。クラウドが前提の時代に入った。コミュニケーションもクラウドで。生徒の中から自発的に、グーグル「マイ」マップを作成する者が現れた。コロナ禍でダメージを受けた店を救おうと、テイクアウトの店と内容を調査し、これをマップに。店と客の双方から大変に喜ばれた。こういうことができる若者を育てなければならない、それがこれからの教育だ。
⑤「GIGA端末による情報の共有が、あらゆる活動を活性化する
~授業や校務で多様に活用~」 上板町立高志小学校校長 中川斉史氏
〇この2年間で「当たり前」になったこと。保護者からの欠席連絡はスマホで→朝の電話が鳴らなくなった。毎日の検温記録・水泳可の判断、行事参加申し込みなどすべてスマホで→複数でチェックできる「共有」が強み。先生がコロナを心配し念のために休む場合→先生が自宅から教室へビデオ会議で授業できる。一斉に集まれない行事→教室間をMeetで接続。学校に保護者を呼べない→アーカイブ配信で親も時間を選べる。その時間に合わせて来なくていい。家にいる子に連絡したい→ロイロノートやGoogleクラスルームで担任が児童と連絡を密に。
職員間の連絡も密に→Googleチャットや共有ドライブで刻々とした変化に対応。
〇校務のなかの共有。夏休みのプール開放をスプレッドシートで。教師が編集でき、児童は閲覧のみ。プールの水抜きで、水位を遠隔チェックできる。学校に来ていない先生も情報共有できる。参観日の受付簿は校長室でも職員室でもみんなが見えている。
〇カメラで180度見渡せる。行事予定のホワイトボードがなくなった。保護者向け、職員用、自分用の3つのGoogleカレンダーを駆使。ブッキングを防ぐ。共有ドライブで今何が行われているか誰もが一目瞭然。職員会議は著しく時間短縮。玄関施錠もオートで。履歴もわかる。グループチャットで夜間土日の学校への連絡は続きを書き込めるのでとても有効。
〇子どもたちの中の共有。「気分を入力」するツールで登校後と帰りに体調や心理をチェック。「怒りのままで帰さない」。危険信号を皆で共有。廊下で声掛けもおこない細やかに対応できる。
〇家で宿題をやる。学校でやるとネタが同じ。家でやるとバリエーションが広がる。5年生が「6年生を送る会」を企画した。すごい。こんなことが普通にできるとは。
〇給食では、食べる前の調理風景を画面に流し、黙食も楽しく。調理員さんの思いも込める。
〇各教室をMeetでつなぐ。5年生が迷路を作り、それで4年と6年が対戦することも。こういうことがクラウドで当たり前に。「防空頭巾の作り方は、僕がここに入れてあるよ!」。
〇これまで、縄跳び検定表は自分で手書きし自分で保管。これを親、本人、学校が共有できる。
〇今までの授業をデジタルに置き換える。これで終わってはいけない。今までの授業がデジタルで広がらないといけない。じっと先生の教えを聞く授業から話し合う授業へ。さらに、新たな価値や役割をデジタルに求めていく。紙なら作図の出来上がりしか見えないが、デジタルならそのプロセスを見ることができる。
〇年度末のアンケートで、長期休みが明けたときに「学校に行きやすかった」「規則正しく生活できた」の半面、「目が疲れたように思う」も。長期休業中も昼間、担任が子どもとコミュニケーションをとる手段になる。
〇夏休みの「オンライン日記」。オンラインだからすぐに教師がレスポンスできる。
〇ICTを活用し、子どもたちの話し合いの場は少なくなるのでなく多くなる。
⑥「愛媛県独自のCBTシステムを活用したICT教育の充実」
愛媛県教育委員会義務教育課担当係長 加賀山芳明氏
〇学習成果と課題の早期把握で「個別最適な学び」を実現、教員側は採点・集計の自動化で「業務負担縮減」。そのためにCBTシステムを開発した。
〇県内すべての公立小中高、特別支援学校の日々のドリルや定期テストを作成、出題、解答するシステム「CBT」。これと連動して瞬時に採点・集計し、成果や課題を多角的に分析する「調査結果分析システム」で構成。対象児童生徒数は13万人。まず小テストをやり、それで理解度を把握した上で授業に移ることで授業の効果が高まる。教員が作成した良問の共有も可能。約800教材、1万問をCTB化して活用できる。
〇今後は、不登校の子のための動画制作、苦手克服、読書通帳デジタル化、タイピング検定アプリにチャレンジしたい。
3.感想
教育委員会対象セミナー。門外漢ではありますが、もちろん無関心でいられません。お誘いを受けましたので、参加させていただきました。
昼休みには通路で17の企業が出展したり、午後の時間で短いプレゼンテーションをしたりしました。昔は黒板。いまは自在にカラーで太く細く、自在に字も書け、図も描ける。そして保存も共有も。さらに動画も。機器の環境がここまで変わって、講師のどなたかが述べたように「変わってないのは、変わらねばならないのは教育者の意識」ということになるのでしょうか。ことのほか、東北大学の堀田先生の論旨には目からうろこであり心から得心しました。こうした理論上、観念上のICT時代の認識整理がまず必要。同時に、こうしたいわゆる「メカに強い」方々がそうでない人を柔和に包み込みつつ(笑)、時代の潮流を教育現場で推し進めていく、その両方が必要なのでしょう。
コロナで商店が困り果てている。ならばテイクアウトのお店の地図を作ろう、こう思い立つ。そしてそれが手元のタブレットで容易にできあがる。ハートとワザの両方を備えてこそのICT。紙かデジタルか、火花が散るということではないのだと、そもそも気づきもしない。最近ではもう当たり前になりましたが、「高齢者にはスマホは難しい」との先入観をひっくり返して「高齢者こそデジタルの恩恵を」というのが本来の認識。しかしその実現と実感までにはしばらく時間がかかりそうです。日々成長、羽ばたく日までの貴重な学びの時間を、いたずらに過去の呪縛、先生は去年までの教え方にこだわり親は自分の子ども時代の感覚のままでものごとを考えるという二つの呪縛の下で過ごさせてはなりません。同時に、教育予算を審議、議決していく私たち議会と議員も、これら時代の変化に疎くあっては許されません。まず、私たちの持つ議案書などが基本的にタブレットに収まるようになりました。議論もしたが、やってみればできるものだとの感想を持っています。とことん使い切っているかと問われればはなはだ疑問ですが、それでも「習うより慣れよ」を実感します。「子に教わることを恥じるな」ともどこかで教わりました。まさに、GIGAの時代は子に教わる時代と言えましょう。
かつて「オフィスオートメーション」、略してOAなる言葉が一世を風靡しました。市役所にワープロを導入するのにA社かB社か、値段でなく機能の面で判定に携わった私の市役所職員時代。年は取っても心持ちはあの頃のままだが、時代はDXへ。もう何世紀も生きてきたかと錯覚するような時代の転変のさなかにいますが、議員という重責にある限り、「良きにはからえ」では失格。不透明な時代相に突っ込む子らを「教わる」のでなく「考える」子らに、「待つ」のでなく「行動する」子らに。私がくどくどと繰り返している政治参加教育もまた、まさに「考え」「行動する」ことに鍵があります。いつの世も、大人が子どもを台無しにする、そんな警告を胸に、これからを生きていくのに心配ない素養を身につけさせたい。情熱あふれる先生方の現場からの報告を学ばせていただきました。