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〇セミナー「第54回 議員の学校」           東京都三鷹市内

.概要

                          

日時と会場 令和6年111314

      三鷹市市民協働センター

主 催   NPO法人多摩住民自治研究所

テーマ   急増する非正規公務員と住民福祉

講演(講演順。案内チラシと異なる)

       @「自治体の責務と自治体職員の役割」

         元東京都日野市役所職員 池上洋通氏

    A「会計年度任用職員制度の現状と問題」

         北海道名寄市立大学講師 菊池 稔氏、

         前東京都小平市議会議員 橋本久雄氏

    B「公務員志願者激減と増加する専門職非正規公務員という問題」

         立教大学コミュニティー福祉学部特任教授 上林陽治氏

    C「社会福祉専門職及び福祉事務所制度と地方財政措置」

         元日本福祉大学教授 石川 満氏

 

.講演の詳細(文責は内田にあります)

 

@「自治体の責務と自治体職員の役割」

 

〇今日までの経緯を概観。1989、鈴木都政の予算要求で、各課要求を歳入が上回った。バブルの始まり、ソ連崩壊。1995、日経連が財界の労組対策の役割を持つ。非常勤、専門職、常勤職という区分ができた。当時、非常勤とは「いつか常勤になる」という前提だった。その後、非常勤は非常勤、という「当然論」となった。派遣の始まり。小さな政府が土光敏夫によって提唱される。市町村合併の時代へ。1999年、自治法改正で「中央と地方は対等=vに。2000年施行。2003年、経団連が全国を「5つの道州」、最大でも10にするとの提案。2005年、これを1213にするとのプランが出される。その最大のねらいは「職員を減らす」ことにあった。

〇森総理の時代、当時3232あった自治体を、「1000にする」と明言。実際には現在、1770に。

〇英、仏、米の3大革命で自由主義が確立。しかし一方で大変な貧富の差を生んだ。そこから「社会保障」の理念に基づく政治が始まった。

〇データに見る公務員の激減(資料)94年と21年の比較。一般行政部門と教育部門の激減、警察と消防は増加。合計では48万人の減。

〇公務員を減らす3つの手法。@非常勤を普遍化するA民間委託Bデジタル化。

〇非正規はすごい勢いで増えている。

〇今の職員は疲れている。2022年、病休者は全国で25222人。2012年を100とすると140.7という指数になる。精神疾患に追い込まれる公務員。

OECD加盟国で比較する公務員数の全体に占める割合は北欧が2030%台に対して日本は5.9%、人件費のGDP比では北欧が1416%に対して日本は6.0%。学校のクラス生徒数比較では小学校でギリシャ17.4人を最少として日本は27.9(最多)、中学校ではイギリス19.5人を最少として日本は32.7(最多)

〇憲法第8章は「地方自治」だが、その条項では「地方自治体」とされず「地方公共団体」とされていることに留意。

〇以下、三鷹市役所の組織図と所掌業務の表を参考に、国と自治体の職務のあり方、地方公務員の仕事のあり方を検討。

〇質疑応答

 

A「会計年度任用職員制度の現状と問題」

 

〇菊池稔氏の実践報告。都西部地域の公民館で会計年度任用職員として勤務した経験を報告。月曜定休、あとの6日間を職員3人でシフトして回す。会計年度任用職員の私には「起案システム」にログインする資格がない。しかし事実上、私が館の業務の企画運営を任されていた。人事当局の見解は「会計年度任用職員はあくまで正職員の補助」とのこと。パートタイマー時代にはログインできていたものが、会計年度任用職員制度に移行してからはログインできなくなった。制度の主旨と事実が異なる。

〇仕事量に見合わない低賃金。月収173600円、賞与2.4カ月、残業代はなく、代休を取得(実際にはこのシフトで代休取得はできなかった)。総務省の定める事務処理マニュアル(2018)に著しく反する実態がある。その背景には役所の組織風土がある。公民館の仕事は、会計年度任用職員にはできないということになる。労基法32条では、残業代を出せという「カタチ」は示している。が、現場は「独自判断」をしている。議員は現場をしっかり監視してほしい。

(『住民と自治』2023.4月号に匿名大学教授として寄稿。別紙資料に掲載)

 

〇小平市の状況として、橋本久雄氏の実践報告。2024年から同市議会議員。

小平市の職員数は2024年、2564人。うち会計年度任用職員は63%を占める。労働組合に入れない(立川市は入れる)。多摩エリアの各市と比較し、職員1人当たりの市民の数が多く、職員が足りていない。

〇会計年度任用職員T職員の懲戒免職処分の事例から「議会が機能していない」ことを示す。体調を崩して休んだが、「会計年度任用職員には公務災害補償等の制度はない」とのことだったが、雇用契約書には補償等が記載されていることを指摘するも、それっきり。議会で質問されるも理事者は「回答留保」を貫いた。公平委員会も、もう処分したのだから今さら議決しても仕方ない、との論調に終始した。いまだ論争中。


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B「公務員志願者激減と増加する専門職非正規公務員という問題」

 

〇地方公務員の定員削減の実態をグラフで解説。H1722年の間に「集中改革プラン」により約23万人が減らされた。

1997.11.28自治省行政局公務員部長通知に「個々の職員の持つ能力を最大限に発揮させることを人事管理の目的の一つとして明確に位置付け」「ジョブ・ローテーションを通じて様々な職場をバランスよく経験することで、視野や知識・技術を幅広く深いものにしていく」とあるが、定員削減により、「深くなる」はずがない。結果、専門的な知識は正規職員が非正規の人に訊きにくるという姿になってきた。

〇親世代は子に「公務員になれ」と勧めるが子は「嫌だ」。企業が弱まると公務員人気が高まる。受験者数激減、辞退率が高まるグラフ。競争率は20128.2倍から20215.8倍に。原因は、「社会的有益性」を感じられないような仕事(ブルシットジョブ)を押し付けてきたからと推察される。

〇その背景@OJTの機能不全。仕事を知らない先輩たち、デジタルがわからない先輩たちから指導を受けられないAやりがいの希薄化。仕事がマンネリ化、業務量が過多、仕事をこなすことで精いっぱい、精神的にも疲弊(ワークエンゲージメントの減退)B組織エンゲージメントの減退で暗黙のルールなどを受け入れられず、組織に不満。

22歳から29歳までの7年間で係長になり、これから、というところで辞めていく。住民から怒られる、議員はうるさい、上司がかばってくれない。これでは組織への忠誠心は芽生えず、辞めていく。「辞めるか病むか」の二択に陥る。

〇「心の不調」から辞めていく若い職員。長期離脱の数は40代が多いが率は20代が高い。20代の5%が辞めていく。10人に1人が「辞めるか病気になる」。

〇米ギャラップ社調査で「熱意ある社員」比率2022年。トップは米で30%超。インド、ブラジルと続き、日本は10%を切り、最低水準。しかもその差は広がっている。これでは官民とも、イノベーションはあり得ない。

〇「人のために役立つ」と公務員になったはず。なのにどうもそうじゃない。夢と希望もあったはず。けれどもそれは叶えられない。PSM=パブリックサービスモチベーションは入庁したときが最高潮。それ以降、高まらないデータ。

〇やりがいを感じている人の職位別内訳を見ると、所属長以上の上司にそれが高いが、下に行くほど低い。しかし会計年度任用職員を見ると高い。これは、「この仕事をする」と定まっている人は満足している、ということ。例えば「婦人相談員」。やりがい、仕事の満足度ともに高い。待遇は不満だが仕事には満足している。コロナの中、DVが増えた。でも使命感で、相談員を辞めなかった。相談員の10人に1人が正規職員で月額32万円。10人に9人は非正規で月額14万9千円。それでも辞めない。PSMが高い。

〇「配属ガチャ」。ここから逃れるためには「辞めるしかない」。

〇会計年度任用職員とは何か。非正規公務員問題の弥縫策である。

2023年調査で、全国1781自治体の平均非正規割合は41.4%。5割を超えている団体が388団体(21.2%)、6割を超えている団体が77団体(4.3%)。上位20団体はすべて町村。

〇退職金を払わなくて済むようにするために、勤務時間をフルタイム正規より1日15分短縮するというアコギなことをやっている。

〇自治体は貧困ビジネスに手を染めた。

PSMを高める挑戦をする鯖江市、神戸市ほかの事例を紹介。

 

C「社会福祉専門職及び福祉事務所制度と地方財政措置」

〇社会福祉専門職をなぜ導入しないのかを解き明かす。制度も財政措置もできている。自治体がやらないだけだ。専門性に対する自治体の配慮が足りない。暮らしを守る根幹であるのに、整っていない。役割が軽んじられている。

〇社会福祉法14条に福祉事務所の設置について明記されている。県の事務所は生活保護法、児童福祉法、母子及び父子並びに寡婦福祉法の3法を所管する。市の事務所はこの3法のほか老人福祉法、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法の計6法を所管する。生活保護の被保護世帯数についてのみ所員の定数を定めている。ここから「生活保護事務所」と言われる。高齢者や障害者にも手厚くあるべきだが、実っていない。1970年は福祉元年とされるが、以降、後退傾向にある。

1951年以降、見直されていない。複雑化しているのに、所員の定めも増やされていない。しかも標準値が守られていないのは法律違反と言える。

〇社会福祉法15条には職員配置が定められ、「社会福祉主事でなければならない」と規定されているのに、実際は大学で3科目履修した者で読み替えている。これでは専門職とは言えない。これを「3科目主事」と言っている。国の怠慢である。桐生市での敗訴の事例。「毎日ハローワークに行け」は違法。桐生市が負けたのは当然。

〇身体障害者福祉法との関連でも、専門性の軽視、必置のソーシャルワーカーが置かれていないなどの不備がある。身体障害者福祉司を置くことができる、とあるが置いていない。なのに交付税はもらっている不都合がある。

〇知的障害者福祉法も同様。交付税措置されているのに置いていない。

〇老人福祉法では「老人福祉指導主事」を置くことになっているが置いてない。こちらは交付税措置がない。

〇児童福祉法による「子ども家庭支援センター」も、各地にできているものの、建物は建てて人がいない。

〇母子及び父子並びに寡婦福祉法。専門職を置くべきところ、多くが会計年度任用職員で対処している。

〇旧「売春防止法」改め(令和6年)「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」。市町村が計画を定める努力義務があるが、ソーシャルワーカー不在、議会が介在しない、コンサル丸投げ、などの問題がある。

〇児童虐待防止法。「児相に通告しなければならない」とあり、市にも責任がある。餓死、水死、暴行による死亡など、専門性の欠落で連携不足に陥っている。

〇障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律。「専門的知識に基づき」とあるのに実現していない。「審判の請求をする」とあるが、そのようなスタッフはいない。立ち入りは市職員専属の仕事であるが、専門の人を置いていない。命を守れなくて何の市役所か。正規職員を置く以外に道はない。それを、市長や人事担当者は知らない。

〇高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律。相談、指導、

助言から立入検査まで規定されている。こういう法律があるのに実施しない市町村がある。議員も勉強をしてほしい。

〇以上のように、福祉事務所の業務には高度な専門性を有する職員がひつようであるにも関わらず、堂々と、これを「非正規」で募集している実態がある。「ステキ」な相談員に会えるかどうかで人生が分かれる。

〇成年後見制度市長村長申立件数。2022年度、高齢者7803、知的障害者737、身体障害者731件。申立予算(@3万円程度)は確保されているのか。一人暮らしの認知症の人は騙され放題。これでいいのか。

〇地方交付税制度と社会福祉専門職のあり方の問題点。地方交付税は財源調整と財源確保の二つの機能を持つ。しかしプロセスに問題がある。ルールは閣議決定されることにされており、6団体の意見は形式のみ。このままでは地方は支配されるだけだ。ルールは国会で決めるべきだ。

〇これらの諸課題に対し、市町村はどうすればいいのか。まず人事当局は専門職採用に消極的。市長村長は必ずしも専門職が必要とされる法律に詳しいわけではない。生命を守る最先端が市町村であるべきなのに。そこで、議会、議員の力が極めて重要だ。

〇ほかに、江戸川区で白骨化した遺体が発見された例などを通して解説あり。担当のケースワーカーは「遺体を見るのが怖かった」と言っている。若者一人に負わせていた行政に問題はなかったか。組織としての対応、仲間との連携、先輩が

後輩を育てる、など、人の尊厳を守れる役所に。


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.感想

 

 会計年度任用職員という制度そのものが、実は市役所「ブラック企業化」の温床なのではないのか。以前から漠然と、そんな印象を抱えています。

 今回、上京して専門家のレクチャーを聞いたからとて、私が本質まですべてを理解したとは思いません。むしろ逆に、「そうではないよ」との制度擁護の意見にも耳を傾けなければならない、と、そう思えるほどに、今回の講師陣の方々の話は極めて深刻であり、胸に迫るものでありました。

 私も20年間、市役所職員でした。昭和から平成への我が国の地方公務員の像、イメージはですから手に取るようにわかります。そして議員になってからの20余年の間に、国も変わり、地方公務員の様相も激変しました。その年表をしっかりと俯瞰し、そうか、そういう流れでここに来て、公務員の志望が減り、そればかりか、自分には公務員という身分だからこそ思う存分、何の疑問も迷いもなく日々の職場の仕事を全うできた、それは実はこの地点から見ればまことにありがたい、「良き時代」だったのだと振り返ります。若い職員が辞めていく。その背景に、こういうことがあるのか。PSM。この用語もここで初めて知りました。公共サービスに人生を賭けていくことへの誇り、モチベーション。私も公務員時代、それほどご立派な意識で日々を過ごしていたわけではないが、「辞めようかなあ」なんて思ったことはたぶん一度もなかった。自分のことだからこんな言葉をあえて用いますが、「お気楽」だった、そしてだからこそのびのびと、挑戦もでき、迷いもなく仕事にいそしめた。そのように私は自分を振り返ります。

 昔話はこれくらいにして、さてこの局面に来た日本の公務員制度はこれからどこに向かうか。そして何より、丸亀市役所内の実情はどうなのか。議会の本会議や予算・決算の委員会審議の場で、職員個々人の「ホンネ」がこちらに届いているとはとうてい、言い難い。最前列に居並ぶ幹部、上司の後ろで、どうしてホンネなど語れるものでしょうか。ホンネを各人がぶちまければ組織でなくなる。だからこそ、行政はよくも悪しくも議会と「距離」を取る、そういうことになっているのでしょう。でもそれでは、これ以降、何にも事態は改善に向けて動き出さない。最後の講師が「ギインがんばれ」と結論として語りましたが、議員がさらにツッコめば、それは結局のところ詰問になってしまう。だから、行政がしたたかに議会を「味方」にしていく、コントロールの掌に収める、そのような心根こそが待望される、との、私の持論に行き着きます。

 感想を書くべきところ、はしなくも持論展開となってしまいました。

 このセミナーで聴講したように、日本の地方自治体の人事制度がこのように「取り繕い」に「取り繕い」を重ねる実態なのであれば、ひとり自治体がこれに抗ってなんとかなる問題ではもはやない。しかし、現場では現に白骨の一人暮らしの方が見つかり、職員が心を病んで辞めていくという姿が消えそうにない。議会と首長がもう一度、冷静に事実確認を行って、国がここを改善すれば解決のめどが立つ、あるいは私たち地方自治体が、ここをこのようにすれば手立てが見えてくる。そのような議論と検討が、ただちになされなければならない。そのことを強く感じ、学ばせていただくセミナーでありました。

 それにしても、私たちはどれほど、何も知らずに公務員をやり、議員を勤めていることでしょうか。

 こうして勉強の機会をいただき、帰宅したら忘れている、では公務の意味がない。議会としてこうした勉強の成果を共有し、理解を、議員としてというレベルを超えて議会として深めていくシステムは夢のまた夢か。「命を守る最前線が市役所のはずだ」との厳しい訴えもありました。夢のまた夢、などと言ってはいられない。この研修の成果として何かに実を結ばせなければとは思うが、理想は遠い。残すは3月定例会のみ。チャンスを最大に生かし、このセミナーの実りを注ぎ込みたいと思います。

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