○「美しいひこね創造事業」と「市民活動助成事業」 滋賀県彦根市
1.「美しいひこね創造事業」
○市長の選挙公約に盛り込まれた「美しい彦根の創造」
・「美しい彦根は美しい心から、美しい心は美しい行為から」とのスローガンのもと、
@1週間に15分間、美しい行為をすることを提唱。
A美しい行為に対する「ご褒美」として地域通貨を発行する。
15分間の行為に対して市から25ゲン(彦)。(1ゲンは1円に相当)。
1週25ゲン×52週=1年間で1300ゲンになる。1人年間1300ゲンが上限。
これは彦根城、博物館などの入場料に使える。
○具体的な流れ
・対象者は市民、市内への通勤者、通学者。
・まず登録する。登録証と活動報告書の用紙が交付される。
・行為の内容は、
まちの美観を保つ活動
地域安全活動
助け合い活動
低炭素社会づくり活動
健康増進活動
・活動の報告 年度末まで活動し、翌年度4/1から5/31の間に活動を報告、市が認定、「彦」を交付。
○「彦」の活用
・偽造防止で「パール印刷」
・市民間、市民団体や事業所の間で「彦」を活用できる。
・市の施設使用料などに活用できる。
博物館、城山ほかの観覧料
駐車場、自転車駐車場の使用料
市の交付手数料や証明手数料
・登録団体へ寄付もできる。
自治会、老人会、子ども会、婦人会など
NPO法人、ボランティア団体
・寄付を受けた団体は、これを換金できる。
・エコバッグとの交換ができる。
○運用状況の公表
・この事業に関連し、毎年7/31までに次の項目を公表する。
美しいひこね創造活動参加登録者の状況
創造活動の活動状況
市民団体登録者の状況
地域通貨交付の状況
地域通貨活用の状況
○この事業の特色
・「美しいひこね創造条例」「同施行規則」により運営している。
・「自分でできることは自分で」という、補完性の原理に基づいている。
・市川市などが取り組む「1%条例」に似た、「所得再配分」の機能を持たせる。
・個人だけでなく事業所も参加している。
・ゆるやかな制度である。個人の良心に任せ、使途も問わない。
・個人が美しい活動を始める「きっかけ」となることを期待している。
○予算規模 約400万円。うち「彦」として換金する額は約250万円。
○参加登録者の状況 20年度末、4080人
○換金の状況 20年度の活動に対する21年4、5月の換金 2250人、約220万円
約7割の「彦」が換金交付されている。
○「彦」が使える協力店 21年9月現在、57店舗
・食事に対してドリンク1杯「彦」1枚
・飲食に対して「彦」1枚で5%割引
・お買い上げの方に「彦」3枚で粗品進呈
○美しい行為の活動内容
・健康増進が圧倒的トップで47千回
・美観を保つ活動17千回
・地域安全活動10千回
・地域環境活動9千回
・助け合い活動6千回(いずれもここでは概数で表記)
2.ひこね市民活動助成事業
○社会貢献活動の経費に助成。地域社会の新たな担い手である市民活動団体を支援する。
○対象とする団体は、市内に活動拠点、規則、会則、定款等に基づき活動している団体で、
・NPO法人
・ボランティア団体で、
福祉・環境・文化・スポーツ・青少年育成等の社会貢献
非営利
不特定多数の人を対象に活動(自分の構成員のためでない)
10人以上の構成員
活動実績が継続的にが1年以上、などの条件をすべて満たすこと。
・自治会は対象から除かれている。
○対象とする事業は、
・市内で実施
・上記福祉等の社会貢献
・主に市民を対象
・他の補助金と重複して受けない、もので、1団体が年間に1回とする。
○助成金の内容は、
・報償費、旅費、消耗品費、燃料費、印刷製本費、高熱水費、通信運搬費、保険料、委託金、
使用料及び賃借料、その他←人件費、食料費、賞金や賞品代を対象としない(但し活動中の
お茶は可)
・助成対象経費の2分の1、上限5万円。
○審査委員会
・市役所の各部次長クラス4名で審査委員会を構成。対象事業の審査を行う。
○21年度の流れ
・7/1助成金交付要綱制定
・広報とHPで募集
・7/末、審査委員会開催、決定。希望団体には概算払い
・8月〜 決定結果を広報とHPで公表
・9月 2次募集
・9/末、審査委員会開催、決定。
○助成実績 22事業、約90万円
○決定された対象事業の例
・未就園児対象の親子スクール
・子育て研修、情報交換の場
・認知症進行緩和のハンドマッサージ
・親子で劇の鑑賞会
・彦根藩主ゆかりの「小泉紅かぶら」の復活
・よさこい踊りで多世代交流
・地域の宝さがしでまちづくり
・苔玉づくりや味噌づくりを通じて元気活動
・読書講演会
・剪定講演会
・井伊直弼ゆかりの「大江戸吹雪」の舞い
・オーナー制で八重桜の管理
・野良猫の避妊、去勢手術普及活動
・駅周辺美化活動
・絶滅危惧種「オニバス」の保全
・プランター設置運動
・山野草保護
・外国籍住民の日本語学習支援
・子どもの冒険遊び場提供
3.感想
市役所にお邪魔すると玄関でまず「ひこにゃんの特別住民票」がもらえます。
「お一人一枚でお願いします」。ごもっとも。私などはすぐ「おみやげに」と何枚かもらいそう。住民票には元気にひこにゃんが飛び跳ねています。
ひこにゃん専用の特別な市長印も捺され、訪問した日のスタンプを入れてもらって、記念となります。
同様に、「美しいひこね創造活動」の展開でもらえる地域通貨にもひこにゃん。またこの通貨5枚でゲットできるオリジナルエコバッグもひこにゃんのイラスト入りで、ちょっと欲しくなります。
彦根市の人口は丸亀市とほぼ同じの11万人余。これに対し、「美しい彦根創造活動」への参加登録者は少ないという印象を受けましたが、市も懸命な努力をしておられます。
年度当初の活動スタート時と、秋のチラシ全戸配布時に、登録申込みが集中するようで、コンスタントな増加が検討課題。町内会、活動団体などの団体登録にも「当たれるところには当たりつくした」感があるようです。協力店も地道に店舗数を増やしていくのは、簡単なことではないでしょう。
これらが市長の公約に掲げられたことからスタートしていることが彦根市の特徴です。見本としていただいた地域通貨の「お札」、そして活動報告書。これは、今のカード式になる前の保険証みたいなスタイルで、短冊になり、受診記録みたいに活動日時などを細かくメモできるようになっています。これらに、市長が立候補するときに描いたこのまちの理想の姿が具現しているということでしょう。それはたやすいことではないということをも物語っているように感じます。これをきっかけに、体力づくりに励んだり、美化運動をしたりする市民の、喜びの声を聞けたらよかったのですが、機会がありませんでした。
目立ってまちが美しくなるとか彦根市民が突出して健康になるとかではないでしょうが、ここに彦根市民の一体となったまちづくりへの取組みの情熱が、ひしひしと感じられるように思います。
「美しい彦根創造活動」と対をなしているように感じられる「市民活動促進助成事業」。こちらも、助成上限額5万円と、大きな事業ではありません。しかし記したとおり、市民が具体的に、それぞれの持ち味、長所、経験、得意分野を生かしての活動をしていることをメニューに見ると、やはり何か、心強い市民活動の「手応え」を感じます。
地域通貨や市民活動への助成金。これらを通じて、行政が、なかんずく市長がほんとうに実現したい姿が、私には見えるように思います。
作家の童門冬二氏は江戸時代の研究を通じて、各藩の善政の「先進事例」を、参勤交代や奉行制度の中で中央において掌握し、自然に善政が全国でまねをされ、また国政にも反映された、と指摘しています。十割自治こそ、国を良い方向に導いていく、そんな姿が、私には説得力を持って感じられます。
彦根といい丸亀といい、城下町です。
その歴史的遺産を観光にただ活用するということでなく、「このまちをなんとかしたい」というその思いを、行政のトップ以下すべての市民が共有して、全国に誇れる政策を全国がマネをする、そんな良き地方自治の、これはひとつの模範ではないでしょうか。