○定住自立圏構想の取組み 滋賀県彦根市
1.視察意図
丸亀市も去る7月1日に中心市宣言を表明。国が進める定住自立圏構想に則り、中讃エリアでの自立権構想の中核都市として、これから進んでいこうとしています。
ここで彦根市の「中心市宣言」を引用し、定住自立圏構想の概要について、示します。
…近年の財政事情に鑑みれば、全ての市町村にフルセットで生活機能を整備することはもはや困難であり、「選択と集中」・「集約とネットワーク」の考え方に基づき、同じ生活圏に属する自治体は協力体制を強固にする必要がある…「魅力ある地方」を創出し、新しいライフスタイルの提供や、地域経済の活性化を図り、人々の定住と都市圏からの移住を促進していくことが求められている…
定住自立圏構想は、市町合併とは異なります。
また定住自立圏は中心市がまず「中心市宣言」を行い、周辺の数市町が足並みを揃え、広域行政のようにまとまった動きをするのではなく合意のとれた町、合意にいたった業務から着手していくという手法をとるもので、これに国が一定の支援を行います。
このように、かつて経験したことのない新手法で、丸亀市を中心とする中讃エリアの活性化、住民の利便、また将来にわたる発展を構想していくのが定住自立圏構想です。そこには未知の不安、とまどいもあります。
今回は市議会総務委員会の視察項目の中に彦根市を入れて、国が先行モデルの募集をしたときに応募した同市を中心市とする「湖東定住自立圏」の取組みについて、視察させていただきました。
2.概要
彦根市を中心に、愛荘町、豊郷町、甲良町、多賀町で構成。
これらの市町が連携することの背景の事情について、検討が加えられている。
@高度救急医療A高等教育B文化施設C商業施設D公共交通 以上5項目。
中心市が連携町と個別に協定書を締結する。その内容は、全町とも同内容のものもあり、また少しずつ異なるものもある。例えば消防・救急搬送の部門では、愛荘町だけが「記載なし」となっている。
3.経緯
H20 国の説明会に参加、モデルに応募
H21 彦根市で研修会を開催。1市4町の首長、議員、幹部職員
4月 中心市宣言
9月 協定締結議案を議決
10月 調印式
11月 推進協議会を設立
12月 共生ビジョン懇談会初会合
H22 共生ビジョン策定、セミナー開催
協定書の一部改正、15項目に3項目を追加
H23 共生ビジョンの一部変更
4.取組み事項の内容
@生活機能の強化
・医療機関役割明確化、機能分化、連携強化、ネットワーク化
・障害者福祉サービス、次世代育成支援策
・図書館のネットワーク化
・地域貢献人材育成モデルの構築
・企業立地促進など商工業振興
・観光と交流促進
・有害鳥獣対策
・低炭素社会構築と琵琶湖水質保全
・ゴミ処理広域化
・消防救急搬送業務のネットワーク化
A結びつきの強化(主なもの)
・公共交通
・農産物生産体制の整備、学校給食や直売所、地産地消
B圏域マネジメント能力の強化
・職員の資質向上へ、合同研修、研究
・職員の人事交流
・コンピュータの共同利用や開発
5.推進体制
@行政側…推進協議会、同幹事会、その傘下に13の実動部会
A民間側…共生ビジョン懇談会代表社会、その傘下に11分科会
6.補足と感想
彦根市にJRの駅が4つ。近江鉄道の11駅中7つが彦根市内。あとの各町に1駅ずつ。大阪まで78分というエリア。かつて平成の合併の流れの中で、愛荘町をのぞく1市3町は合併直前まで準備が進んだものの、住民調査が決め手となり、合併を断念した経緯があります。
説明をいただく中、例えば、彦根市のみで行っていたファミリー・サポート・センター事業をH23年度から自立圏域全体でスタートさせるなど、この制度の活用によって合理的かつ効率的な結びつきのもとでのサービス向上が図られつつあることに納得します。一方、彦根市の図書館は古い。そこで周辺町の図書館と緊密な連携を図り、市民町民の利便に供します。
さらに「戦国、戦(いくさ)」をテーマとした創意工夫の事業への支援。この事業も圏域全体に広げ、一体感を醸成しようとしています。
エコ交通環境の整備事業として、レンタサイクルサービスを圏域全体で行うなど、知恵を絞っています。彦根市が行っていた公共交通総合連携計画も圏域全体に拡大。予約型乗合タクシーを走らせることになりました。彦根市単独で取り組んでいた事業を拡大。駅前広場も彦根市民だけのものではない、駅前土地区画整理事業もまた、周辺地域とともに進め、共用するという発想の転換がなされています。
私が初めて「中心地宣言」という言葉を耳にしたとき、率直に感じたのは「善通寺市民が怒るだろう」ということでした。視察で、素直にそのことを尋ねてみました。自分の市を中心市、それ以外を「周辺」と表現することには抵抗もある。そこで「周辺市町村」とは言わずに「構成市町村」と呼び替えるという配慮をしたところもあったと教えていただきました。
さらに、「彦根市に引っぱられて負担を強いられるのではないか」との心配も構成市町にはあります。そうしたことへの配慮は欠かせないと思います。しかし一方で、国からは臨時交付金として、4割の「割り増し交付」が受けられる制度となっていることがメリットで、湖東定住圏の場合は、これを全額基金とし、必要な場面でこれを使うという手法をとったそうです。
各市町が策定している総合計画との齟齬を生じるのではないかとの質問もあります。それは、今年度スタートのものから順次、各市町の総合計画の中に、この定住自立圏の施策を取り込んでいくのだそうです。
市町合併を断念してのこの構想への決断ですが、合併との違いは何と言っても「名前が残ること」。そして特定の自由選択の項目でのみ連携すること。そのメリットを最大に活かす工夫が大切なようです。
終わりに、再び中心市宣言から、後半の部分を紹介します。
…住民生活の広域化やニーズの多様化に対応するためには、それぞれの自治体が持つ個性を活用し、圏域内都市農山村の交流など自治体間の連携によって圏域住民の生活を支え、より豊かに、より効率的に発展させていく必要がある…
私たちの中讃圏域には中讃広域事務組合が機能しています。
以前から私が提唱しているのは、観光部門その他でのさらに強力な連携強化でしたが、この定住自立圏構想は、いやがうえにもそれを現実のものとしてくれると思われます。
すでに丸亀市の中心市宣言はなされました。いかに構成市町の住民の納得を得ながら、市民町民から渇望される姿に仕上げ、お褒めをいただけるようにするのか。これは、行政の事務方がひとりで頑張るものではなく、今こそ、民間連携のステージを設け、オープンな議論の中で推し進めるものだろうと思います。議会もまた、受身の姿勢であってはならないと思います。