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○高校体育館を利用した氷見市役所庁舎        富山県氷見市

 

1.視察意図

 

 私が愛読する「公職研」という月刊誌では、先進地の紹介がほぼ、担当部署の職員が執筆によってなされていますが、ここでは氷見市長自身が登場。

 単に「高校体育館を活用した」という、庁舎建設の手法への興味だけでなく、そこに盛り込まれた市民との協働のコンセプト、さらには市長ご自身の「熱い思い」を読み取り、私は何としてもここを訪れたい、と願いました。

 

2.庁舎建設の詳細

 

 H23、庁舎の耐震診断調査

 H24、全議員で構成する「市庁舎整備検討特別委員会」設置。10月、臨時会を開き、市役所移転の設置条例改正案と事業費補正を可決。12月、プロポーザルを実施。なおこの年4月に現市長が就任し「市民意見を取り入れた庁舎づくりを」と声明。

 選択肢として①現庁舎の継続使用②現庁舎耐震補強③現在地に新築④旧市民病院改修⑤旧市民病院跡地に新築移転⑥廃校となる高校校舎棟を改修⑦廃校となる高校体育館を改修、があった。

 H25、「新市庁舎デザインワークショップ」を610月に4回開催。1回目は職員のみ、2回めからは職員+市民で。4回目は市民への発表会とした。

 富山県の県立高校が廃校となることから、これを利用することが決定。県との用地売買契約締結。ワークショップでは「花見ができる道を作ってほしい」との声があり、これを受け「新庁舎の花と緑のデザインを考えるネットワーク会議」を年度末までに5回開催。メンバーは20人余。

 H26、工事完了。連休最終日となる5/6に開庁式。式典は一般開放し、お茶席、職員によるカイドツアーも実施。これは継続して実施している。当日は「市長のイスに座ってみませんか」のコーナーも。集った市民は1000人余。

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3.感想

 

 ここで、恵与いただいた新庁舎パンフレットから、補足します。

 表紙には

「市民と行政がともにつくる未来へ

 ハートの議論から生まれた

 新市庁舎がはじまります」

とのフレーズ。

表紙をめくると市長のメッセージ。タイトルは

~市民と行政が〝共に創る〟未来へ~

そしてメッセージ中に、「市民の中にこそ、政策を創りあげる叡智がある」という成熟した民主主義に寄せる期待と信頼、とあり、市民のことをあえて〝志民〟と表現しています。「5万志民皆さまの衆知による経営が望ましい」と。

「開かれた庁舎で対話のある市政、皆様と政策を創りあげてゆく場を目指します」

市市庁舎のプランニングワークショップに参加した市民の声も載せられています。

「新庁舎の顔の部分にあたる植栽をワークショップで決めた。自分たちで生み出した感じがしてうれしい。訪れるたびに思い出してわくわくするだろう」

さらにページを進めると、各フロアの特色が強調されています。本文で紹介したことのほかに、

・授乳室、おむつ交換室

・個別相談室は2室から6室に

・オーシャン、フォレスト、ドリームと命名された3つの地域協働スペース

など。

「市民が知らない間にできた」という結果を極力避けるよう、そしてこの庁舎が老朽化するまでの未来を見据えたリーダーの知見が、ここに込められ、実現しているように感じます。

なお、私の撮影させてもらった写真のほうもぜひご覧ください。

 

 新庁舎移転に際して最も力を入れたのは「市民のアクションが起きる場所」ということ。費用面だけでなく市民の利便性でも優位となった選択肢⑦に決定。1階を見に来た市民には「2階も見てください」と案内。これまでに2000人が視察に訪れたとのことで、私たちも氷見市に一泊。市役所庁舎が誘客効果を持ったユニークな例といえるでしょう。

 特徴として力説されたのは、①市民課、福祉課、健康課、税務課といった市民が多く利用する窓口をワンフロアに配置。写真でわかるように、色分けの案内でとても親切でしかも明るく親しみやすい空間になっています。②来庁市民の利便を考え駐車スペースは400台。③高齢者や障がい者に配慮したバリアフリー、④ソーラーパネル、省エネ機器で環境配慮。⑤防災機能の強化。が挙げられています。

 とりわけ、前述の月刊誌で市長が熱く語っていたのは市民との協働。

 各課が閉じられていない空間。その真ん中、どこからも見える場所に、体育館という熱効率の悪さを克服するための空調設備がどんと置かれ、地元産木材で美しく飾られた一面にはホワイトボードを準備。ここに誰でもが集い、ミーティングを始められる。またガラス張りで喫茶風なミーティングスペースも準備。1階にも色ガラスで半透明になったミーティングスペースも豊富に準備されていました。

 市民と市職員がいっしょにまちづくりのテーブルに就く。そして議論を始めれば、得てして、「市役所が何かせよ」「予算がありません」の応酬に。そうではなく、お互いに強みと得意を活かしての行動へ、前向きな話し合いが求められるところ、そのために重要なのが「ファシリテーター」という存在。

 過日、丸亀市でも「まちづくり夢カフェ」というタイトルで、いわゆる「ワールドカフェ」という、テーマ別にテーブルに分かれて話し合い、またそれを散らして別のグループに分かれて話し合うという手法でにぎやかに100人が意見を出したり聴いたりする催しがありました。そこでもテーブルごとに、この日のために来てもらった若いファシリテーターグループが活躍していました。氷見市では、「協働のデザイン課」という課の中に「ファシリテーション」という部署も設けています。庁舎そのものの様式は丸亀市に直接参考にならないものの、与えられた制限もものともせず、むしろ既存の施設を〝逆手に〟取り、このような演出を市役所庁舎に盛り込んだのは、知恵の勝利、市長の発想力の成功、そして未来を先取りした職員の皆さんの情熱の賜物と言えるのではないでしょうか。

 新年度に入り、いよいよ丸亀市でも議論が本格化します。

 どこまで先が見えているか。リーダーたちの力量が、まず問われていきます。今だからこそ最大に情報を集め、最善の選択をしなければならない、その一員として、私も勉強し発信してまいりたい。大きな刺激を受けた視察訪問でした。

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