○「健幸と観光」指宿アプリ 鹿児島県指宿市
1. 概要
平成28年7月21日
① 「健幸のまちづくり」の取組み
② 指宿市観光の現状と施策
2. 詳細①「健幸のまちづくり」の取組み
○H17から20年に人口が2割減少との厳しい見通し。75歳以上は2割増える。
65歳以上が現在の30%から41.1%に。これからは日常生活が制限されることなく、自立した生活ができる期間、=「健康寿命」が大事。
○平均寿命と健康寿命の差は、男性9年、女性13年。「誰かの手助けが必要な期間」。
○指宿市の国民健康保険の1人当たり医療費は42万円、県下19市中8位。後期高齢者医療費は119万円、同1位。保険会計への繰り入れは2億円。一般会計が国保の赤字を「肩代わり」している。本来このお金は地域の環境整備や福祉事業、子どもたちの教育費などに使われるべきものなのに。
○高齢になっても地域で元気に暮らせることは、それ自体で「社会貢献」である。
○健康維持努力することは個人と社会、双方にとってのメリットである。健康である責任がある、とも言える。
○そこで、運動を継続できる仕掛けづくりとして
①健幸マイレージ。健康づくりに取り組んだ人、健康診断を受けた人にポイント付与。ポイントがたまった人に抽選で賞品を贈る。高齢者の引きこもり防止、社会貢献活動への参加促進を図る。自主申告制で、30ポイント溜まれば応募、年3回抽選を実施。予算150万円。
②アロハ健幸ウオーク。4㎞を歩くイベント。血圧測定やストレッチ指導、抽選会も開催。
③チャレンジデーへの参加。
④子育てママ・パパの運動教室。子育て世代のコミュニケーションの場、ストレス低減を目的に、チューブエクササイズ、親子あそび、ベリーダンスなどの運動教室を開催。週1回。
⑤いぶすき散策健幸アプリケーション。市内観光スポット、イベント情報、日常的な運動習慣の活動計として機能する「いぶすきアプリ」を製作。健康だけでなく観光、防災マップの機能も持たせる。
⑥出張健幸鑑定団。スーパー、金融機関、イベント会場に出向き、買い物客、来場者を対象に体組成、血圧測定、味噌汁塩分濃度測定など実施して健康づくりのきっかけにしてもらう。
⑦健康運動教室。筑波大学教授が開発した「e-wellness」システムを活用。10月~3月に週1回開催。1回90分。会費1800円、定員140名。NPOと連携、県の補助金ももらう。ちなみに同大教授、久野譜也氏を招へいして「健幸づくり講演会」を開催。市長が共鳴して呼んだ。700人が参加。
⑧健幸ポイントブロジェクト。文科省補助金を活用し全国11自治体が取り組む。頑張った分だけ確実に特典がもらえるポイント制度。1ポイント=1円で地域商品券に交換。全事業費1800万で国補助1200万円。歩数計を配り、データを申告。初年度250人が参加。健康への意識が変わる。「ヘルステラシー」。今年度、680人が参加。システム使用料に一人500円かかるが、スポーツ庁から500万円もらって運営している。他に岡山市、川西市、伊達市などが実施している。
⑧ころばん体操。公民館等を活用した小規模の拠点型運動教室。寝たきり防止、転倒防止を目指し、足腰の筋力アップ運動をメニューにする。高知の「百歳体操」を参考にした。インストラクターは2名。当初5名でスタートしたが、あとは公民館の自主性に任せた。おもりを使った筋力改善、重さを増減し、歌を歌いながら6種類の体操。
○まちに賑わいの場を作る。健幸のまちづくり職員育成講座1期生が提案した「駅前商店街の景観」。「出かけたくなる」まちを目指す「歩いて楽しめるまちづくり」モデル事業を展開。歩行者天国や疑似商店街のイベント。
○ドイツ、フライブルク市を目標に、クルマよりも歩行者優先、駐車場を整備しまちなかへは歩いて入る、公共交通整備で「歩ける」中心地、などに取り組む。
3.詳細②指宿市観光の現状と施策
○新幹線が開通すると、指宿は「日帰り」のエリアになってしまった。宿泊激減。
○噴火あり、地震ありでさらに痛手。団体旅行、修学旅行が減った。
○「いぶすき♡観光ネット」を立ち上げ。「これ、なんて読む? 指宿」。観光情報を分散から統一へ。観光協会、商工会議所など相互に情報交換する体制を構築。
○メルマガ、FB、ツイッター、インスタで随時発信。沖縄除く九州内の20~40代女性を対象にYahooのディスプレイ、アド ネットワーク広告を実施しHPに誘導。2000件。
○東京、大阪、福岡、広島、名古屋でエージェントを対象にした説明会に参加。
○修学旅行誘致へ首都圏の学校を訪問し、セールス。
○姉妹都市提携の台湾でもアピール。
○ゆかりある人を観光大使に委嘱。郷土会の役員にもPRを依頼。市でそのための名刺を準備。
○官民一体となった受入体制。民間ボランティア、高校生が駅の構内でお茶を配る。観光戦略の特徴は「官民一体」と「広域連携」。
○市民に無料で「歓迎小旗」1000本配布。走る列車に旗を振る。
○市内9ボラ団体70人がガイド1組織化で再編成。
○駅舎の一室を市が借り上げ、ここを旗振りや高校生お茶配りほかボランティアの方々に使ってもらう。
○45分でスポットを一周する路線バスを運行。3路線、1日乗車券のほか知覧まで行ける2日乗車券も。
○市タクシー協会がJRとタイアップし、観光14コースを設定。別にタクシー協会独自で8コースも。
○漁師と観光ガイドの案内で観光クルージング3コース。
○スポットに電動アシスト自転車計50台配備。乗り捨てOK。
○修学旅行向け農林漁業体験、アウトドアスポーツ、温泉三昧体験などのプログラム。
○主要観光地に周辺も網羅した案内看板13カ所。
○今後のターゲットとしてイスラム圏へのモニターツアー、セミナー実施。
○台湾人を市観光課に配置。接遇向上、誘客促進を図る。中国語に堪能な人材を雇用し観光案内所に配置。アジアからの観光客のニーズに対応。ボランティアを活用した外国人受け入れ態勢の整備。
○誘客装置としてのJR「夢たまプロジェクト」などへの参加。
○スポーツイベント、合宿への奨励金。
○海外旅行団体のバス借り上げに5万円を助成し、「指宿宿泊」拡大へ。
○楽天トラベルと提携、市内で使用可能な商品券付き宿泊プラン。
○広域連携。指宿の東に大隅、北に霧島、西に南薩、南に屋久島。それぞれの特質を生かした観光、周遊ルートで広域誘客。
○観光各スポットの施設整備・周辺整備。
○今年度の重点事業。①インバウンド人材活用事業②観光コンシェルジュ配置③香港における鹿児島南部広域観光物流加速化事業④観光ビジョンマーケティング⑤「砂楽」バリアフリー対策⑥かいもん荘跡地利用事業⑦池田湖周辺観光地整備⑧唐船峡周辺整備基本構想策定。
4.感想
「健康と観光」。ひとつのアプリを構築することで、市民がポイントを楽しみに溜めながら健康づくりに挑戦する。一方で市民も観光客も使える観光アプリでもあり、指宿市を楽しみ尽くす工夫が凝らされている。その背後には、国の助成金、楽天など企業の知恵を活用することやJR、タクシー業界との連携、高校生のお茶の接待などの市民との協働、そして広域を視野に入れた、共鳴の中で共存を図っていく、理にかなった事業展開だと思いました。
研修では冒頭に「新幹線が走ったからここは日帰り観光地となった」との言葉がありました。指宿、といえば砂風呂のことを私も知っていますが、砂風呂を楽しんで帰途に就く、のでは泊りの客が見込めない。深刻な危機意識の中で、こうしたアイデアが次々と湧き、そして人が行動を起こしたのでしょう。健康づくりにしても、一般会計からの持ち出しで介護と医療を支えるということに私たちはともすれば「打つ手なし」のムードがあるが、こうしてあらためて「本来はまちの整備や教育に使わなければいけないはずのお金」と言われてみると、それへの危機意識が強く伝わります。ここでも市長の発案、熱い陣頭指揮で、市職員も「熱く」動いている、そんな雰囲気が伝わってきました。それはあの「砂風呂」熱量をも思わせます。
時代は刻々と進展を続け、観光戦略もアイテムもすぐに陳腐化します。誘客はまた時間との戦い、知恵比べでもあるでしょう。
危機感を持ち、アンテナを都会へ、世界へと張り巡らせ、「健康であることは責務でもある」との強い発信をしていく姿は行政のそれとしてとても頼もしい。そこから、観光や健康とは異なる行政のさまざまステージでも、職員が熱く取り組んでいる、そんなことさえ想像させます。
鹿児島・指宿と四国・丸亀は、シチュエーションは異なるものの、新幹線がもし来たら、ということに始まり、インバウンドのこれからのあり方まで、関係のないということはひとつもないように思いました。そして何より、近隣との広域連携は、首長外交なくして成り立たないと思われます。その意味でも、私たち議員・議会の外交手腕も含め、果敢な取り組みへ、背中を押された、そんな感想の視察研修となりました。