〇意見募集プラットフォーム「アイデアボックス」

 

.視察の概要

 

 面談日時  令和4年(2022)511日 東京都内

 面談した人 株式会社自動処理 代表取締役社長 高木祐介氏

 内容    同社が開発し、デジタル庁ほか国の省庁、千葉市などの自治体で

       採用されている意見募集プラットフォーム「アイデアボックス」

       について、その概要と導入に際してのステップなど

 

.面談の詳細

 

〇同社社長、高木祐介氏は丸亀市出身。丸亀在住のご両親と親しく、父上は市民活動家として知られる方。ご子息が国や自治体でも使われている「市民意見募集ツール」を自ら開発、東京で活躍中と知り、内容を教わるべく機会を設けた。

〇各種ソフトウェア開発でこれまで12年間、採用実績を重ねた。首相官邸、内閣官房、デジタル庁、経産省、国交省、文科省などと取引がある。自治体では三重県、千葉市、浪江町。民間ではIBM、日本気象協会、NTTなど(詳細別紙)

〇アイデアボックスは、202010月9日から翌年1011日まで、デジタル庁立ち上げに伴う官民対話システムとして採用された。今回の政府採用が12年間で16回目となる。

〇現行の、国や自治体による国民からのアイデア募集の仕組みでは、寄せられる意見の数も少なく、一方的な意見になりがち。限られた行政資産を活用し、応えることになるため、結果として一部の意見に偏った対応になりがち。意見を寄せた市民相互の議論や意見交換もなく、練り上げていくというプロセスは持てないので、あちらを立てればこちらが立たない。

〇アイデアボックスは、国民が困っていることをみずから提案し、解決し、優先順位をつける仕組みで、行政や政治が今何をすべきかを可視化する。中立公正な対応が可能になる。国民市民と行政とが直接つながる環境が実現。

〇住民からアイデアを投稿このアイデアにコメントアイデアに投票。

〇内閣官房からの評価。投稿された応募数が大幅に増加した(パブコメの500)。参加者の半数以上が行政への信頼感を向上させた(54.4)

~以上は資料に基づく説明。ここからは社長との問答の内容~

〇行政に意見やアイデアを持つ人は多い。しかし誰もが忙しく、公募委員になったりパブコメを出したりする時間がない。アイデアのある人が政治や行政に参加できないという実情がある。気軽に手軽に市政に参加するツールが求められる。

〇選挙で民意を反映する。それだけでなくそのつど、案件ごとに市民から意見を求めるのが理想。自民か民主かの選択でなく、テーマごとに市民の多様な意見がもらえるようになるのが望ましい。

〇提示されたアイデアに投票する。「いいね」「ふつう」「そうでもない」。反対意見もコメントでき、さらに議論が深まる。千葉市や福井県で反響が大きい。市民により近い意見が集まっている。衆人環視のもと、公開で意見交換をするところがメリット。クレーマーが登場してもそれへの反対意見が多数を締めれば炎上するには至らない。恣意的にならない。

〇行政側は、まずチームを作り、制度設計をする。これに基づき、市民にどう参加してほしいかを議論した上で部署ごとにテーマのアイデアを発出する。市民は登録制。スタートに当たってはしっかりマスコミにPRし入念に準備を。高松市のDXで活用中。

〇このシステムの特徴は、①コメント・ブレストがしやすい②投票・評価がしやすい③検討・分析がしやすい④実現への道筋がわかりやすい。

〇意見募集のこれまで  これから

 意見が一方通行    活発な意見交換、ディスカッションにより

             バランスの取れたアイデアを醸成

 発展性が乏しい    市民と行政・政治が共に課題に向き合う

             発展的な環境、関係性を構築

 意見が少ない     参加やコストのハードルを下げ、投票や

             コメントなどにより意見の発信も活性化

〇パブリックコメントは行政で一応の完成形を提示するものだから細部の修正程度にとどまる。アイデアボックスは原案から市民と議論するツールである。パブコメやタウンミーティングでは意見が偏りがち。大きな声、数の力が圧倒。「市民の声を聴きました」のアリバイ作りでなくちゃんと聴くためのシステムだ。

〇アイデアボックスで出されたアイデアへ、そのあとの諸機能。

 ・投票・評価機能。賛否表明や評価を行える。

 ・アイデア分析機能。全体の意見の傾向を横断的に分析。

 ・プロファイリング機能。AIを駆使してユーザーの属性や傾向を分析する。

〇アイデアボックスの活用で「対話のうまい役所」へ。富山市の活用事例では、 課題をチラ出しし、そこから市民の肌感覚を課題解決に導く。日常的な市民との対話ツールになっている。

 

 

.感想

 パブリックコメント、なる言葉が出始めたのはいつ頃だったでしょうか。この言葉すらなかった頃には、「市民意見」などという言葉自体が実感されなかったのでしょう。私も20年間、市職員を経験しましたが、パブコメなる言葉にはご縁なしと記憶しています。また行政の各部署が持っている行政委員会もたくさんあります。そこに「公募」という枠ができてからもだいぶ経ちますが、これらは果たして真に機能しているでしょうか。

 市民意見を出す場としては「アンケート」という手法も古くからあります。坂出市役所職員から丸亀市議会議員になって、驚いたことのひとつがアンケート実施の多さです。ずい分民主的なんだ、と、当時は思いました。しかしそれはほんとうにそうだったのか。「アンケートがこうだったから」という一見筋の通った論理は、ともすれば、それを隠れ蓑に行政が判断を停止する、責任を回避するツールとなっていなかったのか。してみると、本文中に「民意の反映は選挙ばかりではない」とありましたものの、ヘタに民意を徴すれば、間違った方向にいくリスクもある。それなら選挙で選ばれた首長と議員がしっかり議論してものごとを決めて執行する方が筋は通る、そう言えたのかも知れません。

 世は移り、さまざまに民意を反映させる試行がなされています。が、拝見したところ、必ずしも万全の機能発揮とは言えないとの感想です。おりしも、私がこの視察に出かけたのと軌を一にして、新年度、行政では「℮-モニター制度」がスタートしました。大いに期待しています。また良い反響も聞こえています。1年程度を経て、一度検証してみたいと思っています。「アイデアボックス」は市民が議論を重ねるツールであることがアンケートとは根本的に異なります。例を示します。私の知人が「市民会館など建てないで、あそこは雑木林にすべきだ」との意見を私にくれました。実話です。さて、これをアンケートに書いたらどうなるでしょう。まったく採用されることはないでしょう。それで終わりで、本人は「握りつぶされた」と思うでしょう。一方、アイデアボックスに投稿した場合はどうでしょうか。あくまで推測ですが、このアイデアに「よくないね」が多数寄せられるでしょう。ここで、口汚くののしる応答に陥って炎上する、という心配を私も社長に投げかけてみましたが、これまでにそういうことはなく、またそこはうまく表現し、リードすることで回避できるとのことでした。結局、このアイデアは採用されないとの結果は同じでも、「皆の賛同は得られなかった」との、一定の得心がゆくのではないでしょうか。市民と市民との意見交換、議論こそこれからの政策決定の大切な、いや根本的なプロセスとして欠くことができないのであり、繰り返しますがその点で、アンケートという手法はもう時代の遺物と言わなければなりません。まずは、丸亀市において、このレポートを機にこのシステムの研究を始めてもらい、ぜひ、社長に出身地丸亀でその性能をプレゼンできる場をと、私個人の利害得失などはるかに超えて、念願するものです。

レポートTOP
レポートTOP