〇自治体総合フェア2024 3日目のみ聴講 東京ビッグサイト
令和6年5月17日 午前10時30分~
1.聴講したセミナーの概要
①変わる自治体窓口~自治体窓口DXの最新動向~
デジタル庁 窓口DX推進チーム 北 周汰氏
つくば市政策イノベーション部政策課主任、
デジタル庁窓口BPRアドバイザー 横田雅代氏
茅ヶ崎市企画政策部デジタル推進課副主査 松野友貴氏
飛騨市総務部総務課主査 桐山昭紀氏
②能登半島地震の学びから、国難級災害に備える
珠洲市長 泉谷満寿裕氏
③地方公務員アワード受賞者に訊く「影響力の高め方」
~人・役所を動かす公務員の処世術とは?~
川崎市経営支援課事業承継担当課長 木村佳司氏
取手市情報管理課長 岩崎弘宣氏
北九州市議会議員 井上純子氏
㈱ホルグ代表取締役(コーディネーター) 加藤年紀氏
2.セミナー詳細
①変わる自治体窓口~自治体窓口DXの最新動向~
【北】
〇目指すは60秒。お蘭院で60秒以内に行政手続きが完結すること。スマホで行政手続きを完結させる。自宅や外出先など、どこからでも手続き可能、住民利便の向上と行政効率化。
〇書かない、待たない、回らない→職員負担の軽減、サービス平準化。窓口でマイナンバーカードのメリットを実感。これが自治体窓口DXSaaS。
〇小規模自治体では、多くの窓口を多くの職員で対応→窓口集約し仕事に注力。
業務が属人的、口頭での伝承→業務標準化・自動化でどの職員でも正確に。
【横田】
〇窓口BPRアドバイザー派遣・育成事業。窓口DXSaaSの前提条件は、窓口の業務改革=BPR。「ビジネスプロセス・リエンジニアリング(Business Process Re-engineering)」
〇窓口が縦割りでバラバラ、分厚いマニュアル、紙だらけ、窓口を回される。職員間の縦割りと思考停止が横行。窓口業務は、情報処理である。BPRがあって初めてSaaSが生きる。
〇窓口BPRアドバイザー派遣事業。窓口BPRが「自走」するための「きっかけづくり」を目的として、ノウハウを共有する。自治体が自発的に取り組めるよう助言、サポート、他自治体の事例を共有する。次のアドバイザー育成。行政サービスをデジタル化するための第一歩。
〇支援スケジュール例として、3日間コースを紹介。1日目1.5時間、オンラインで学習、2日目5時間、課題共有、現地調査、ディスカッション、今後のスケジュールの検討、3日目オンライン1.5時間、アドバイザーからフォロー。
〇自治体窓口DXSaaSとは、窓口業務を支援するツールとして、デジタル庁が自治体職員と協力し、仕様書を策定すること。複数のツールが提供された中から、
各自治体が自分にあったものを選ぶ、という流れ。主な機能は、手続きガイダンス機能、申請書作成機能、マイナンバーカードの利活用など。公募の結果、㈱北見コンピューター・ビジネス、㈱ケイズ、日本電気㈱、㈱BSNアイネットの4社に決定。(以下詳細な改善プロセスの説明あり、省略)
【桐山】
〇飛騨市における窓口DXの取り組み。市民の窓口への個人的な印象。まず「とりあえず入りにくい」「不安げなおばあさん、不機嫌なおばさん」「どこに何を書くかわからない申請書」など。そこで市民になりきって窓口を体験。窓口が近い方がいい、パンフが多すぎ、総合案内がもっとわかりやすく、移動が多い、待合スペースが狭い、など。すぐにアナログ的に改革できたものもある。レイアウトや総合窓口の業務改善など。しかし今後は、業務フローの検証とBPRによる抜本的な改革、体験調査の結果を考慮したシステムの導入・運用(R6予算計上)。
〇大事なこと。まずは「業務改革」の精神、窓口担当と喧嘩しない、困ったら詳しい人に相談、話しやすい人を巻き込む、体感を信用しない、どこでも同じことができるように、システム導入を目指すのではない、自分の自治体でやりたいことを明確に、変われないことを恐れる、市民も職員もハッピーに、公務員も楽になって良い!
【松野】
〇茅ヶ崎市デジタル推進課で「書かない窓口導入プロジェクトチーム」の一員を務め、窓口DXSaaSの導入に関わってきた。
〇プロジェクトチームの設置。R5.2月設置。6課12名、担当者中心の構成。目的は①市民に優しい、職員にも優しい、コンパクトな新しい窓口②コンビニ交付の利用促進など「行かなくてよい窓口」の推進。6課とは、資産経営課、行政改革推進課、広報シティプロモーション課、デジタル推進課、市民課、保険年金課、こども政策課。12人がタグボートの自覚で進める。
〇市民目線の窓口体験調査、専門家目線のデジタル庁窓口BPRアドバイザーの両者が「サービスデザイン的思考」で改善案を作り上げていく。
〇これまでの活動。新規採用職員との窓口利用体験調査、先進都市(深谷市)視察、システムベンダ選定。1月に窓口DXSaaS稼働開始。
〇効果。 R5.4.3 → R6.4.1
証明発行手続き 27.1分 20.4分 ▲ 6.7分
住民異動手続き
141.5分 92.6分 ▲48.9分
記入回数 氏名 8回 1回
生年月日 6回 0回
続柄 6回 0回
計 20回 1回
アンケートで満足度は5段階評価で4.87。これまで5枚の用紙が1枚に。通路に置かれていた備品も撤去し広くなった。記載台もなくなり椅子やレイアウトも変更。
〇職員にも好評。書き方の補助も不要、他課への案内漏れも少なくなり、入力作業に追われた職員が他の業務も扱えるようになった。異動してきたばかりの職員も短い研修で窓口に出ることができる、など。
②能登半島地震の学びから、国難級災害に備える
【泉谷市長】
〇元旦夕方、自宅にいたところで地震発生。4時6分。これまでの地震経験で「ま
た来たか」の感覚だったが、同10分、今まで未知の揺れが来た。12分、津波警報、22分、大津波警報発表。自宅から市役所へは徒歩5分の距離。倒れた家屋の下敷きになり、身体の一部が見えている人もいたが、どうすることもできなかった。「ごめん。必ず来るから」と立ち去るしかなかった。しかし津波が到来。再び来ると、冷たくなっていた。1600戸のうち全壊3割、全半壊含めると6割。4割の人が家を失った。高齢化率53%。「家も墓もなくなった」。孫が帰り「ふるさとが壊れた」と。
〇断水。浄水場がやられた。浄水場から配水池まで70日間不通。3/10一部通水。4月からエリア拡大。昨日、72.6%復旧するも未だ1314戸が断水のまま。風呂、洗濯、トイレも使えず手も洗えず。1/8の雪で初めて顔を洗った。それまで、ウエットティッシュは配給されても爪に入った土は取れず、みんな指先は真っ黒。石鹸で洗えたことはほんとうにありがたかった。
〇1/6にシャワーボックスとウオッシュ(後述)を持ち込んでくれて助かった。同日、自衛隊の入浴施設を4カ所で実施。しかし入浴場まで行けない人にはすぐ使えるシャワーボックスがありがたかった。93カ所で7600人が利用した。自衛隊の入浴施設の浴槽のヘリが高くて跨げない老人、子どももいた。シャワーボックスなどは介助しながら使える。
〇1/4。市役所そばの緑が丘中学校に800人が避難していた。市役所職員200人では手が足りず、240人が全国からボランティアで支援に入り、93カ所へ。良かった点は①トップダウンで決定できた②避難者自らが運用した。シャワーボックスは、中高生が手伝って使った。③日本財団が「費用は持つ」と宣言してくれた。旧知の人物経由で実現。国の手続きでは助成金が来るまでに2週間かかるが、これが1日で実現した。ある早稲田同窓生から心配の電話が寄せられたのがきっかけで日本財団へ働きかけ。これに呼応し、この後登壇する前田社長にもたいへんお世話いただいたことが幸いした。
〇シャワーボックス28台、ウオッシュ55台が稼働。緑が丘を訪問した天皇陛下にもこれを説明した。
〇現在、避難者は32カ所、485人。学校に避難していた人が金沢などのアパートでみなし施設、公民館、自宅へと移り、学校を再開。
〇女性のうち10人1人は生理中である。入浴できない、不衛生の問題がある。
〇復旧活動に1万人来てくれたが、この人たちにも飲料水が必要となる。
〇電気やガスは復旧が早い。食料、衣料、医薬品も他からカバーできる。しかし水は、作るだけでは使えない。排水ができないと。川までの距離は500m。どうやって誰が運ぶのか。全国の給水車を持ち込んでも足りない。上水道・下水道ともに復旧しないと水道の完全利用はできない。技術的にクリアできても準備していないと対応ができない。準備不足が悔しかった。これからは自己分も備え、さらに他自治体とも融通し合う社会全体のシステムが必要だ。
【ウオッシュを提供したWOTA㈱CEO 前田瑤介氏】
〇年間予算100億円の珠洲市では、災害対応に1000~2000万円しか割けない。ウオッシュは高い。水を通しても排水できないエリアがある。浄化槽は大きく、土地がいる。こうした問題を解決できる。
〇大規模集中型システムと正気ほぼ分散型システムの併用を提案。
〇2018年、西日本豪雨でも活躍した「水循環システム」。濾過、分別、殺菌、使用のサイクルを説明。災害対策と過疎対策の両面で可能性がある。
③地方公務員アワード受賞者に訊く「影響力の高め方」
【木村】
〇川崎市役所で、常に現場回りで中小企業を支援してきた。行政職員が企業人と「顔の見える」関係を築く。「つながり力」。やっていることをキーワードで示すと、「チーム力」「おせっかい」「えこひいき」そして「顔が見えるネットワーク」。
呼ばれてもいないのに中小企業に行く。
【岩崎】
〇取手市役所で、一度市民相談室へ異動した以外は27年間、議会事務局に勤務。議会愛♡は誰にも負けない。
【井上】
〇北九州市役所「バナナ姫」で大ブレーク。今は市議に。
Q:アイデアはどうやって思いつくのか?
【木村】
〇中小企業の社長さんに会って思いつく。
【岩崎】
〇もともとアナログ人間。タブレットを使うとこのようにいい、ということを人にわかりやすいように説明する。3歳児の「怖いもの見たさ」で発言してきたのが行動の始まり。何事も、苦手な人、できない人に合わせて、その人からフォローしていくことが成功につながる。「お前は黙っていろ」を乗り越えてきた。「安心してください」で乗り越えてきた。
【井上】
〇北九州市の職員は7千人。最初は思い付きでなく、差別化をどうつけるかをちゃんと理論づけしていた。ハロウィンコンテストでグランプリ。そこで上司から声がかかった。バナナ姫で出演しているときもマネージャー的な上司が常に横にいて、メディアへの条件出しのもとで取材を受ける。きちんと「仕事」としてやっていました。
Q:影響力の発揮の仕方は?
【木村】
〇市役所職員として役職が付くと、面談も相手のポストが高くなった。企業の2代目にとって「アニキ」的になれる。世代交代を経て、関係が広がった。外で動きやすくなった。
【岩崎】
〇「聞く」「聴く」「訊く」で信頼を構築。スポ少でドッヂボールを教えていたことがあり、その経験から「どうしたらこの上司にYesと言わせられるか」を、児童心理学を使って体得した。おこられても上司になれる。計画はこの人に、数字はこの人に、と、他者の力を借りることだ。
〇やっかむ人や内部の敵もいるが、キーパーソンを仲間に引き込み、内部でグリップ。自分1人のスキルでなく、27年やっていると接したメンバーが各課に散らばり、そこで生きてくる。
〇「議会愛」とは、議員と事務局職員が上下でなくなり、市民が良くなる、ということのために仲良くなること。
Q:これまでに「有効」だったことは?
【木村】
〇返報性がすべて。利他の精神を中小企業から教わった。
【岩崎】
〇一体性を重んじる。いっしょにご飯を食べ、ワンチームになることから。
【井上】
〇好意。ファンからの励ましがうれしくて、それで市議になった。
Q:これからの公務員へメッセージを。
【木村】
〇人脈づくりは「返報性」で生まれる。だからこそ現場へ出よう。聴き上手になろう。
【岩崎】
〇始めることは怖くない。始めないことこそ怖い。「バカになるとき、バカにならなきゃ、ほんとのバカ」。
【井上】
〇与えられたことをやって終わるのでなく、目の前のことにチャレンジしていれば運が回ってくる。
「ルーティン」の公務員から「生み出す」公務員の時代へ。
3.感想
北海道3泊4日の帰途でありましたが、せっかくの東京経由でしたので、フェア最終日のみでしたが、聴講のため1泊しました。
市役所に用事があって市民は来るのだが、まず「とりあえず入りにくい」とはまことに真実を射抜いています。この印象は、市役所採用後間もない職員に見聞してもらったゆえの率直な「成果」だったでしょう。新採の職員の感性を大切にしたいものです。そこから先、市民は用を果たすために意を決して、受付に「挑む(笑)」。よくわからない答えが返ってくるが、とりあえずあそこの窓口か。そこで早口に指示され、何やら漢字だらけの申請書に立ち向かう。住民票の申請書に、「要る人」「ここに来た人」という言い方は、役所サイドからは親切な言い方なのだが、記載台に、市民は立ちすくむ。
私は議員です。議員だから窓口でももっと良い待遇を期待する、ということは絶対にありません。それにしても、です。旧庁舎時代、マイナンバーカードの申請に意を決して臨みました。忘れられません。待たされ、あちらこちらに行かされ、説明はほとんど理解できず、あれが足りない、写真が、とまくしたてられ、ついに私は「もういいです」と立ち上がったことでした。
今、新庁舎に移り、写真まで撮ってくれる御代となりました。最初からそうしてよ、とこぼしたい。何事も経験値なのですね。だんだんに、進化しなければなりません。ところが、進化や改革から取り残されているような世界がある、とすればそれは役所というところかも知れません。セミナー中に「職員の思考停止」
という厳しい表現がありました。もちろん全員ではありません。でもいつか、だれもが多かれ少なかれ、その傾向に陥る。儲けなくていい、クビになる心配もない、となれば、どんな聖人が前向きな人生を送れるでしょうか。でも、それを課せられているのが、特に令和の今の、公務員像なのだと思っています。DXSaaSという、病名を連想してしまうこのテーマのもと、病気にならないように、わが公務員人生のため、それ以前に市民のために、腰を上げていただかなくてはなりません。もとより、現場の職員ひとりの発案や独断でできるプロジェクトではありません。しかしセミナー3コマ目に登場した公務員、元公務員の方々がおっしゃったとおり、上から「号令」をかけて成就する類のものでもありません。困難だが、だからこそ面白い。だからこそ公務員冥利に尽きる。そう受け止める職員こそ、令和の時代に待望されます。
居住まいを正して聴いたのは珠洲市長の報告。これ以上ない困難に直面し、いきなり自宅から役所までを歩く途上で、身体の一部が見えていて生きておられる、その人を助けられなかった、という話から始まる。それでも、知人とのコネクションから思いがけない日本財団の援助を受けられた僥倖を得た。そして前田社長という、得難い知己も市民のために大きな武器となった。非常時に、どう責務をまっとうするか。胆力、判断力、さらに平常時の、防災対策ではない「人との付き合い」もまた大いに防災力、人間力であることを知ります。ポンプや重機が人を救うが、その基礎にあるのはどこまでも人。市長ひとりではがれきもままならない。自らも被災しつつ、使命感に押されて立ち上がる職員こそ神々しい。
3コマ目の結論のフレーズをもう一度かみしめます。
「ルーティン」の公務員から「生み出す」公務員の時代へ。
5月に参加したこのフェアから、さらに時が経過しました。総理も交代し、「地方創生2.0」だと言っています。そして交付金を倍増するのだと言っています。地方公務員の皆さん、どうしますか? 倍働け、ということですよ。
考えることを停めてはなりません。議会とひんぱんに連絡を取り、市民のために議会と行政が両輪をなして、新時代の自治体を体現してください。決定的に、丸亀市役所の風土には議会対応力、市民協働力が欠けている。それが私の、26年間の議員経験の結論です。