1. 概要
期日 平成28年5月18~20日
会場 東京ビッグサイト
受講したセミナー一覧(敬称略)
① 「自治体における空き家の利活用と課題解決に向けた公民連携
の取組み」 ㈱ゼンリン 舘田 祐一
本別町総合ケアセンター 木南 孝幸
② 「スマホアプリでつくる みんなにやさしいまち」
~子育て・介護…IT時代に対応した支援の仕組みづくり~
世田谷区高齢福祉部高齢福祉課
世田谷区子ども・若者部子ども育成推進課
③ 日本マイクロソフトの働き方改革
同社エグゼクティブアドバイザー 小柳津 篤
④ 持続可能な地方創生への展望
豊橋技術科学大学・日本学術会議 大西 隆ほか
⑤ クラウド化による電子自治体の推進について
総務省地域力創造グループ地域情報政策室
⑥ 豊島区の公共施設再構築と新庁舎の整備
豊島区施設管理部庁舎建設室
⑦ 平成27年 関東・東北豪雨の教訓から
~自治体に求められる防災・減災情報マネジメントとは~
NHK放送文化研究所上級研究員 入江 さやか
⑧ オフィスレイアウト手法を活用した効率的な庁舎建設
呉市企画部企画課長 川本 善信
⑨ まちづくりにファシテーションを!
~新庁舎建設から政策創造まで 氷見市の取組み最前線~
氷見市長 本川 祐治郎
2.講演詳細①「自治体における空き家の利活用と課題解決に向けた公民連携の取組み」 ㈱ゼンリン 舘田 祐一
本別町総合ケアセンター 木南 孝幸
〇㈱ゼンリンの会社紹介。1948住宅地図帳⇒1986GIS向け地図データ⇒
1991カーナビ向け地図⇒2000携帯向け配信地図。全国70拠点26万人。
住宅地図は「徒歩調査」。ゼンリン地図に載せてない情報も会社は蓄えている。
例えば「空き家」とは表記してないが、掌握している。これをもとに、個別調
査、所有者特定、意向調査、計画策定などの受託対応業務実績あり。
〇北海道本別町では、ゼンリンが現地調査、所有者特定、意向調査を、(一財)
日本不動産研究所が続く計画策定を担い、「福祉でまちづくり」の政策を実現。
一言で言うと「福祉+空き家対策」。空き家バンクよりもより積極的な施策。
〇本別町の紹介。28年4月、人口7479人、高齢化率38.5%。町長が「福祉でまちづくり宣言」。町民が「実行委員会」を設立、宣言文を起草。鎌田實先生を招いての講演会などで盛り上げ。
〇ローカルニュース番組『空き家が高齢者の笑顔をつくる』。
矢吹さん(79)は夫の介護6年ののち夫が老人ホームへ。妻は引っ越し。夫
のいるホームの向かい側に空き家を見つける。月2万円の低家賃。これは、古
い家を修繕できない高齢者が町営住宅入居を求めるが住み替えには限界があ
ることから、空き家に目を付けた。全町の空き家3000戸を調査の結果、60戸
が使えると判明。協議会を設置し、バリアフリーなどの改修を進めた。
〇兼松さん夫妻は杖を使わないフローリング住宅を希望。紹介に町役場が入る
ので安心。町がリフォームを所有者に依頼。改修費はかかるものの、月2万円
の家賃収入が見込める。町が改修補助はしない。
〇行政が直営で空き家を洗い出すのは大変だ。
〇厚労省によるモデル事業を紹介「低所得高齢者等住まい・生活支援モデル事業」
にH28年度は全国8自治体がエントリー。社会福祉協議会がサポートセンタ
ー(実施主体)を立ち上げるスタイル。
〇本別町の空き家等実態調査の流れ。全76自治会中4自治会を除く参加。全戸
3267戸を対象。まず1次調査で自治会長や民生児童委員がマークを付けて歩
く。次に2次調査はゼンリンが担う。町の知らない情報をゼンリンが持ち、活
用。3次調査はアンケート実施。これから4次「活用調査」、5次「住み替え
意向調査」と続いていく。これで借り手、貸し手のマッチングを促進。
〇雪のために冬の調査だけでは屋根が見えない。夏も調査。しかし雪が積もって
いるということは使われてないということがわかる。
〇3次調査で、「これからどうしたらいいのか整理がついてない」人が多いこと
が判明。費用次第で判断したい。家財がそのままなのが課題。収集日に小出し
にすることも、高齢者には難しい。
〇推進する「本別町居住支援協議会」の構成には、不動産関係団体、居住支援関
係団体(社会福祉協議会、連合自治会、法律相談所)、行政が入り、オブザー
バーとして北海道、高齢者住宅財団、全国住宅産業協会、家財整理相談窓口、
日本不動産研究所、ゼンリンが名を連ねる。
〇空き家活用の「三方良し」(貸し手良し・借り手良し・まちも良し)目指す。
3.講演詳細②「スマホアプリでつくる みんなにやさしいまち」
~子育て・介護…IT時代に対応した支援の仕組みづくり~
世田谷区高齢福祉部高齢福祉課
世田谷区子ども・若者部子ども育成推進課
〇全国初。「せたがや高齢・介護応援アプリ」の概要。H27.10.1から配信。これ
までの紙ベース、冊子では情報量が膨大でなかなか必要な情報にたどりつけ
ない。介護は突然やって来る。予備知識がないことが多く、すぐに相談窓口に
かかること、「たどりつき易い」ことが必要。
〇H27.5調査。スマホ所持は50代で50%、60代で20%。
〇庁内検討会を4回開催⇒区政モニターアンケートでコンテンツ要望を調査⇒
これに沿って構築検討会を3回開催。業者は㈱スマートバリュー。機能、構
成、デザイン、継続性(普段使いができる)、速報性、たどりつき易さ、最小
限の操作など追究。
〇例えば高齢者の女性のイラストが配されていたが、「まげに割烹着」では古風
すぎる、と批判あり。「おさげ」とボタンの服に改善した。
〇トップページはシンプルで字を大きく。
〇「たどりつけない対策」として「よくある項目10」を掲示。3段階で到達で
きるよう設計。
〇条件絞り込みで検索も可能。利用者属性により探せる。年齢? 要介護? ひ
とりぐらし? などと絞り込んでいく手法。
〇施設の地図表示機能のほか施設種別ごとの一覧。
〇健康・認知症チェックも。5回分、結果を保存しておくことができ、過去と認
知の進行を比較できるようにした。
〇区全体のイベント情報だけでなく、住んでいる地域の情報を掲載。
〇お知らせ配信。インフルエンザ予防、振り込め詐欺注意喚起など各課と連携。
〇「お気に入り」機能でカスタマイズできる。
〇課題。まだまだ利用者が少ない。「アプリ」って何? との問い合わせも。利
用者増、使い勝手向上を目指す。
〇都の「先駆的事業」に認定。都から100%補助を受けた「せたがや子育て応援
アプリ」。H26.10.1から配信。対象は小学校就学前の子育て家庭。構築費約
1100万円、運用費月額約30万円。
〇核家族化、ひとり親増加、地域つながり希薄化。親が不安、孤立、負担感。待
機児童が深刻。3年連続全国ワースト1。さらに4年連続ワースト1は目前。
対策が追い付かない現状。虐待へとつながる可能性が大。
〇H25年度後半、スマホ活用を検討開始。H27子ども子育て新制度スタート。
それまで区には5総合支所の下に10か所の子育てひろばがありコーディネー
ターが常勤。それでも「ここに来ない人」をどうするのかが課題。利用者支援
事業として①横浜を参考に「保育コンシェルジュ」②身近な場所に相談所を置
く、ことを発案。
〇特徴①お知らせ配信。健康診断、予防接種の時期を自動でお知らせ。よく使わ
れて好評。ロック画面にも押し込んで通知が届く②緊急情報検索。救急病院な
ど③子育て支援ナビ④イベント一覧⑤施設マップ、の5つのツールを準備。このほか⑥施設空き情報検索⑦保育施設検索、の2つの検索機能。
〇2番目に使われているのが施設マップ。スマホの強みは「現在地から探せる」
こと。おむつ替えができる場所は、外出前から調べておくものではない。ここ
でスマホの威力を発揮。
〇区のHPは広すぎて「届かない」「探せない」。そこで情報量を絞って「たどり
つき易さ」を追究した。
〇課題。まだまだ利用者が少ない。H27から、母子保健手帳交付時にチラシで
周知。これのおかげで利用者が伸びた。毎月600人増えている。妊娠届から
出生届までの10か月間、行政は関わらない。そのためにH28からはトップ
ページに「妊婦のボタン」を設ける。まだ生まれてない子は生年月日がないこ
とから「プッシュ通知」ができない。そこで「出生予定日」で対応するなど充
実させる。
4.講演詳細③日本マイクロソフトの働き方改革
同社エグゼクティブアドバイザー 小柳津 篤
〇「会社の喜び」と「社員の喜び」の好循環をつくる。
〇「集まらないと決められない」「集まらないと始まらない」から「全員が集ま
らなくても始められる」体制に。ものごとは「たちどころに進める」。業務効
率を上げるのみならず社員の働きやすさをアップさせる効果あり。2003年か
らスタート。それを実感するまでに7~8年かかる。
〇日本人の仕事感覚は「大部屋」。一緒に残業、同じ釜の飯。コミュニケーショ
ンは大事だが、だからといっていつでもどこでも集まらなくても、という時代。
〇働き方の多様性。会社の競争力を高めるため「速く決めて」「速くやる」。その
ために、共通言語は「コメント」でなく「数字」に。「まあまあ、そこそこ頑
張ります」を数字化。フレキシブルワークで「いつでもどこでも誰とでも交流」
を実現。
〇マイクロソフトの働き方改革は、国の「一億総活躍」に沿うもので、マイクロ
ソフトだから、外資系だからできたのではない。2015年7月7日、総務、厚
労、経産、国交の4省が報道発表「今年11月は〝テレワーク月間〟です」。
これまでもMSは2011から自社単独でテレワーク推進をしてきたが、国も推
進する「国民運動」になっている。
〇一般の「テレワーク」のイメージは、会社の業務の〝一部〟を切り取って家に
持ち帰ってやる、というもの。MS社はそうでなく、「全員」が「毎日」、必要
な時に、必要な人と、必要な対話・情報を交わす、というイメージ。そうする
と考えられるのは「さぼり」「働きすぎ」「情報漏れ」。これらは徹底した労務
管理と情報管理で対応できる。個人情報保護、情報の監視、追跡、雇用契約で
違反者に重いペナルティーを課し、十分に徹底している。性善説は取らない。
〇「なるべく上司のいるところにいる」「残業が美化される」。それはパフォーマ
ンスマネジメントができてないから。
〇目を離すとさぼる。そこで勤務時間は徹底的に自己管理。通信記録、歩いたと
ころまで記録されている。仕事の成果=エビデンスが求められる。仕事の成果
へのサポート、ここがポイントである。
〇オフィスのレイアウトも4年前とは一変。「壁だらけの空間」「捨てられない
紙」「固定席に固定電話」「話はすべて会議体」「非効率な空間設計」だった。事案が発生し、会議が「5日後に」招集される。これでは勝負にならない。会議の必要が発生した瞬間に会議が行われなければならない。
〇品川本社には70万人の視察者が訪れた。これは同じ品川プリンスの水族館以
上だ。
〇KPIの徹底管理と追究。これが達成しないと「儲け」はない。事業生産性だ
けなら3日徹夜すればいい。が、3日しか続かない。継続できるにはワークラ
イフバランス。この2つが両立して初めて効果=「儲け」が持続する。
〇MS社はフレックスタイム制も廃止した。「ようやく制度が追い付いた」。各自
の経験・能力・情報を多く活用するために、あらゆる働き方を尊重する。
5.講演詳細④持続可能な地方創生への展望
豊橋技術科学大学・日本学術会議 大西 隆ほか
〇SDG。サスティナブル・ディベロップメント・ゴールズ。持続可能な地方創生。
〇「地域の持続性」としての世界共通のバランス。経済的豊かさ、社会的公平、
環境保全。1990年代まではこの3つのバランスがあれば地域は持続できた。
しかしこれからはこれに加えて日本では(やがて韓国も)人口の持続性、都市
空間の集積性、が要件となる(世界は逆に人口爆発)。人がまばらになるとサ
ービスは低下。訪問サービスや道路の維持など。人口は1世代で70%になる。
100×0.7×0.7×0.7=3世代で39人に。千年でゼロ人に。人口減少への適応策
と緩和策が急務。自治体存立に関わる。ある程度の集積性を目指さないといけ
ない。増えずとも減少を緩和することも必要。
〇ブッシュ大統領の自宅は8㎢に家族4人。国立市では8㎢に7万人。
〇人口減少は今後4~50年続く。市長が一代で対応できる課題ではない。
〇国民の意識調査で、人口減少、高齢化を「実感している」「どちらかといえば
実感している」合わせて85%。人口減少は望ましくなく、「増加するよう努力
すべき」「維持すべき」「減少を小さくするよう努力すべき」合わせて80%。
国民は正しく理解している。が、将来担い手が減ることを心配している。
〇人口減少への適応策
・コンパクトシティ政策で都市集約
・技術を磨き、選択と集中で輸出力強化
・減少するGDPに対し、財政再建と集団的安全保障強化
・公助から自助、共助へ
〇人口減少への緩和策…合計特殊出生率回復、人口安定社会を実現。2.07以上
でないと維持不可能。そのために
・子づくり、子育て期を社会制度化。WLバランス⑭。残業廃止、週休3日
・女性の社会進出を妨げる制度、慣習の廃止「40代からの仕事では出世は見
込めない」との習慣を改め、職場のフラット化
・子育て期終了後、70歳まで就労「40代から仕事をしましょう」
〇富山市のコンパクトシティ成功例を分析。住宅ゆったりの習慣があり、郊外指
向が強かった⇒これでは大変なことに⇒真ん中に集まろう、と提唱。1か所で
なく、たくさんの「〇」をつくり、それらをネットでつなぐ都市政策。
〇1年の出生数、1948年270万人、いま100万人を切る。子育ては国の政策。
〇「一極集中対策」はもう必要ない。実効性がない。どんどん人口は減るのだか
ら、一極集中はむしろこれからあるべき姿ともいえる。人間は東京を出るとし
てもどこか別の都市を好む。これを踏まえた政策が望ましい。
〇地方圏の振興のためには、「研究開発大学」+「橋渡し研究機関」+「企業」。こ
れが王道。
〇資源がないから「頭で考え手を動かす」。技術立国の原点に帰り「世界の役に
立つ」ことが地方の振興の道である。
6.講演詳細⑤クラウド化による電子自治体の推進について
総務省地域力創造グループ地域情報政策室
〇自治体クラウドの概要。外部データセンターの活用で複数自治体が共同運用。
コスト削減、業務の標準化、セキュリティ向上と災害に強いシステムを実現。
〇KPIとして、国は2018年度までに政府情報システムを半減。地方ではクラ
イド導入団体を2017年度までに倍増。
〇自治体クラウド導入事例56例を概観。大都市連合、人口差の大きいケースな
どいくつかのタイプに分類できる。秋田県の町村電算システム、埼玉県町村会、
神奈川県、新潟県、愛知県岡崎市と豊橋市の例、また県をまたいでいる例を紹
介。
〇電子自治体の取組み加速10の指針(26年3月)
① 番号制度の導入に併せた自治体クラウドの導入
② 大規模団体における既存システムのクラウド化
③ 都道府県が市町村のクラウドを加速させる
④ 地域実情に応じた体制の選択、人材の育成・確保
⑤ サービス向上にならない安易なカスタマイズを抑制、“棚卸し”を図る
⑥ 業者からのサービスの明確化など調達方法の検討
⑦ (言及なし)
⑧ ICT活用による住民満足度向上
⑨ (言及なし)
⑩ (言及なし)
7.講演詳細⑥豊島区の公共施設再構築と新庁舎の整備
豊島区施設管理部庁舎建設室
〇小中学校の統廃合、出張所の整理、児童館、「ことぶきの家」など公共施設の
再構築の必要に迫られた。区民ひろばは26か所ある。子育ての終わった世代
の女性が運営し、芸術家の活動の場、自治会活動の場として盛んに利用。
〇予算がなく、廃止した建物も壊さないままで推移。そこで土地を貸したり売っ
たりして資金を調達。これで新庁舎を整備することに。候補地は学校跡地に。
〇推進体制として「街区再編まちづくり制度」がスタート。税金を使わずに庁舎
を建てた。
〇「市街地再開発事業と新庁舎整備の事業スキーム」を確立。
〇旧庁舎の扱い。「市役所だった時よりもにぎわいを」とキャッチフレーズに公
募。
〇建設した建物の中に「庁舎床」を取得。3~9階が市役所。
1階には「としまセンタースクエア」が入る。
3階に総合窓口。3、4階部分は年345日オープン。事務室にパーティション
なく、見渡せるレイアウトに。
5階に災害対策センター。100人収容のキャパ。区内50台の防災カメラデー
タをここで集約。
3~9各階に回廊美術館。市長「倉庫からアートを出す」。
8、9階が議場。議場は休会中に一般利用可能。オープンガラス、傍聴席は左
右に配した。
10階は屋上「豊島の森」1000㎡。川が流れ、小学生が自然学習。高さ10m
の樹木がある屋上庭園とした。雨水利用の川は地下まで流れていく。「グリー
ン庁舎」
8.講演詳細⑦平成27年 関東・東北豪雨の教訓から
~自治体に求められる防災・減災情報マネジメントとは~
NHK放送文化研究所上級研究員 入江 さやか
〇過去の災害を教訓に避難勧告判断が間に合わなかった例。2014広島の土砂災
害では、県土木出張所からファクスで情報が届いていたにもかかわらず誰も
それを読まなかった、など。住民に伝わらなかった、サイレンが鳴らなかった、
鳴らす人を決めていなかった…。
〇2014丹波市の土砂災害では国からの助言とデータを解析した結果、避難勧告
を適切に発動。警報が出た場合は必ず市長に報せる。市は気象台に電話でしき
りに情報を取りに行く。雨が弱まったが、その時に警戒本部を解かなかったの
が幸いした。同市では個別受信機を使い、全戸に呼びかけを3回行った。1回
では、人は反応しない。市長「繰り返しやれ。もっと緊迫してやれ」「警報が
出ました、だけでなくアナウンスを速い言葉で短く、何回もやれ!」と指示。
「2階に逃げろ。垂直避難だ。外は危険だ」と呼びかけた。土の匂いがした、
と思ったらすぐに土砂が崩れてきた。一瞬の判断が命運を分けた。
〇常総市の今回の被害を分析。河川事務所からは「シミュレーションを見てくだ
さい」と市に話があったのに、行わず。「水が溢れる」との情報が「決壊する」
という認識につながらなかった。すぐに決壊という深刻な事態を想定すべき。
〇夜中の情報は伝わりにくい。状況は刻々と深刻になりつつある深夜。なのに勧
告は伝わらなくなっている。氾濫をテレビで知った。避難は防災情報無線で知
る。テレビを見ている状況ではなかった。
〇後日の聞き取りで「氾濫危険情報を知ってどう思ったか」との問いに「大丈夫
だろう」。決壊を知ってもなお「うちは大丈夫だろう」と多くの人が判断した。
〇市役所が浸水した。1階に非常電源装置がある。2011年に新築した庁舎。そ
れまでに同地で浸水はあったのに、生かされなかった。全電源喪失。
〇「市役所が電話に出ない」という事態に。緊急通報メール、Lアラートは便利
なツール。だが使いこなせていなかった。
〇河川事務所のシミュレーションでは市役所も浸水する可能性が示されていた。
しかし周知はされず、NHKも把握していなかった。
〇ここから学ぶ「しておきたい備え」とは。
① 「ハンドリング人事」を決めておく。「誰がそれをやるのか」を決めておく。
② 事前シミュレーション。河川事務所のHPを見るだけでよかった。
③ 電源、庁舎機能喪失を想定した行動計画や訓練を。
〇(内閣府HPより)豊岡市では年に3回、市民に呼びかけ。6/5、5/23、10/20。
市長自らが発信している。
〇NHKは必ず伝える。使ってほしい。
〇NHKでは、最終のニュース放送が終わった後、アナウンサーが30分、訓練
をしている。漫然と「逃げてください」では誰も逃げない。必死の形相で「す
ぐに逃げて!」という訓練をしている。また万が一、東京の放送局がダメにな
ったときのために、大阪放送局でも毎晩、やっている。
9.講演詳細⑧オフィスレイアウト手法を活用した効率的な庁舎建設
呉市企画部企画課長 川本 善信
〇広島県呉市の人口は約23万、職員数約2千人。丸亀市のほぼ倍。丸亀と同じ
く17年3月、近隣8町合併で新生「呉市」スタート。
〇本題に入る前に呉市の紹介。海軍、海自ゆかりの呉市では、カレーと肉じゃが
が名物。カレーを食べてシールを集め、30枚たまると海自オリジナルグッズ、
コーヒーカップセットがもらえる。市内に30店舗。味は海自がチェックして
いる、という話題あり。
〇旧庁舎の隣に建設。この講演の段階ではまだ旧庁舎は取り壊し前。完成パース
では、ここが駐車場になる。
〇庁舎建設の課題点。合併で職員増、権限委譲で仕事増によるスペース不足、窓
口分散、老朽化、耐震不足、そしてICTなど庁舎に求められる「新たなスタ
ンダード」への対応。
〇庁舎の1階には十文字に通路が走り、これにより庁舎棟、市民ホール棟、議会
棟、北側コアに4分割される基本レイアウト。通路は「シビックモール」と名
付ける自由通路になっている。エントランスは5方向から。議会棟の上階部
に危機管理部門と市民協働センターが入る。シビックモールの広さに市民が
びっくりしている。公園の噴水も見え、市役所に用がない人も通り抜ける。
〇地震津波対策。免震で震度7を4に抑制。地下なし。地盤かさ上げ、防潮板。
〇豪雨対策。隣の現庁舎地下に雨水貯留槽。
〇執務室は壁なし。高い収納キャビネットなしで見渡せる。ローカウンターとハ
イカウンターを配置。相談ブースは1.5mの高さまですりガラスで配慮するが
その上は透明ガラスで明るく。
〇建設に当たり、公民館の稼働状況も調査し、会議室を積算した。
〇どこに何がどれくらいあるのかを数値化。A4書類のタナに換算した。
〇ユニバーサルプラン。人事異動、機構改革のたびにレイアウト変更しないです
む設計に。
〇什器サイズの統一・車いす配慮の通路幅。卓は統一サイズで汎用性、安価に。
コピー機を置く位置は利用頻度を調査の上決定。
〇浸水被害を想定し、書庫・倉庫は1階に置かない。
〇リフター、台車を通すため、廊下は幅120㎝を確保。
〇倉庫は6段、深めを採用。
〇会議室は市民駐車場からの距離を配慮。北側コアエリアに集中させた。
〇会議室の椅子はスタッキングチェア。応接室もソファは利用しづらい。
〇3室ぶち抜きの会議室。テーブルやいすをパーティションで隠し、スッキリ。
〇防災会議室も「普段使い」する。
〇更衣室の男女間仕切りは可変。将来的に男女比率は変わる。
〇職員の食事スペース。これまでは各自席で食事していたのを改善。気分転換の
ために給湯室に食事スペースを取る。
〇7階に和室の緊急宿泊室。災害時に寝泊まりする土木職員に配慮。
〇ほとんどの部屋はICカードによる出入り。カードはネームホルダーに入れ
ておく。
〇議会図書室と「市政資料室」を共用。市民が使える。司書を常置。
〇多目的室は間仕切り使用可能。期日前選挙、給付金の部屋、パネル展などに利
用。
〇総合窓口では180中109の業務を受付対応できる。窓口の表示は用務別に色
分け。発券機による呼び出し式。
〇1、2階に「おやこトイレ」。それぞれ授乳室を併置。
〇「くれ協働センター」「国際交流センター」のほか600席の劇場式「くれ絆ホ
ール」。平土間の可動式。災害時に拠点とする。
〇9階に食堂。
〇ファィリングシステム。新庁舎への移転前に「5割削減した」。
〇供用開始後、市民に窓口アンケート。95%が「満足」。
〇講演者いわく「部門間のカベはなくなったが組織のカベはこれからだ」。
10.講演詳細⑨まちづくりにファシテーションを!
~新庁舎建設から政策創造まで 氷見市の取組み最前線~
氷見市長 本川 祐治郎
〇会場に着席すると、講師、氷見市長は後ろの入り口から入場。歌手が客席から
登場する「ノリ」。通路側に座る人たちとハイタッチで演壇に向かう。そもそ
も聴講者がそぞろ会場に入るところから、それを待ち受ける市長の側近が「ど
れがいいですか?」と、何種類も異なる図柄で準備された氷見をPRする市長
名刺を入場者に配布するという気持ちの入れよう。これまでのセミナー受講
とはムード一変。そして3日間の講義の最後にふさわしい期待感が。
〇市役所職員はパソコンに向かい「左脳」で仕事をしている。これからは「右脳」
で、共感力で仕事をする時代だ。「氷見はひ・み。左脳・右脳の〝ひだりみぎ
〟に通じる」といきなり市長の独断場。
〇氷見市ではファシリテーショントレーニングを職員も、希望する市民にも受
けてもらう。そして市民が職員とともに「ゼロから」政策を創る。
〇「フューチャーセンター」を設け、中央から地方の時代へ、地域分権の時代へ
の流れに即応、市民が課題発見をする。7つのフューチャーセッションルーム
を有する。
〇氷見市の〝ウリ〟はブリと藤子不二雄A。市長は高岡市から婿入りをした「民
間企業出身」。氷見市は漁村を中心にかつてきれいな都市計画だったのに、イ
ンターチェンジができて変形、スクロール化した。「補助をもらえる」という
視点で変えて良いことではない。「市民が議論しているのか?」
〇市役所は〝幸せ創造〟企業。「ハードの前にハートを」をスローガンに立候補。
〇住民から移転することは「空き地」ができること。市役所は見事な分業だが、
戦略の議論がない。
〇〝デザイン〟よりも〝考え方のデザイン〟が求められている。
〇みんながWantsを感じる場所を考えよう、と呼びかけている。土木課が設
計した公園をやめさせ、女子高校生が部長になって企画した公園を採用。
〇空き地ができると、氷見市の近隣住民は「ここをどう使うか」と考えるのに集
まって来る。
〇氷見市長に就任してからの3年間。PM2.5の問題、和食文化、五輪からG7
まで、次から次へと課題やテーマはやって来るが、市役所の中に専門家はいな
い。それならば市民から知恵をもらおう。「それぞれが町の専門家だ」。
〇例えばイノシシ対策。3500万円の予算が計上されたが、市民の知恵。100円
ショップでネットを買ってきてそこに人の髪の毛を入れておく。すると人の
臭いがするのでイノシシは来ない。これは市民の知恵。「テレビを見ている専
門家」だ。「左脳」の発想では、補助金がもらえるのか、いかに殺すか、檻を
買うのか、という発想しか出ない。
〇世田谷のアサウミさんから啓発を受けた。プロセスデザイン、プログラムデザ
イン、まちづくりの先生だ。4日間で市職員をファシリテーターにする。それ
はパソコンで言うならワード、エクセルの世界からパワーポイントの世界へ
ということ。
〇博報堂から「よしもと」まで、人材を結集。
〇来庁した市民へは職員が案内をする。そのときの市民の「つぶやき」を逃さず、
職員がメモを取る。付き合いで新庁舎見学に連れて来られた人。こういう「興
味・関心がない人こそ大事」。そういう方の声から、思いがけない知恵がもら
える。ある日、日本には珍しいズックをはいた子が市役所見学に来た。「かっ
こいいね」と声をかけるとスペインから買って帰ったという。そこから、スペ
インとの交流が始まった。「パソコンを見ないで人を見よ」。
〇ファシリテーターは参加者から意見を出しやすくする人。リソースでアイデ
アを出しやすくする人。フラッシュアイデア、単発は取り上げない。ファシリ
テーターは意見を出してはいけないが、選択肢は出していい。
〇庁舎建設では樹木にも市民意見を取り入れた。「この木は10年で何メートル
になるよ」「この木は土を変えないと枯れるよ」「癒しのライトアップをしては
どうか」…職員には出せない知恵が出る。いま、市役所の樹木の水やりは市民
が買って出てくれている。
〇氷見市に視察は年間3000人。
〇ファシリテーター育成はジョウムラ先生にお世話になった。体験を通じた理
解が、世界にも町にも必要だ。世田谷、新潟、奈良など、まちづくりセンター
に参加した。
〇陳情によるまちづくりはしない。つぶやきを市政へ。市民満足の前提は職員満
足だ。「市役所」を「志役所」に。
11.感想
まず講演ごとに、印象に残ったことを記します。
① ㈱ゼンリンの持つ情報とノウハウを行政が活用。また自治会長が自分のテリトリーをくまなく歩き、家々を全戸マークする。このような「全庁」「全町」体制こそが、政策を成功へと導く。このことに開眼の思い。また空き家と言えば都市計画課かと思いきや、福祉部門がそれを担う。ここにこそ政策成功のカギがある。このことも新鮮でした。
② 子育て情報は「量が多すぎると読まれず削除される」。まげを結ったおばあさんのイラストは「古風すぎる」と配慮のゆきとどいた設計。この「プッシュ型」と呼ばれる検索しなくてもお知らせが届くシステムはかなり普及してきました。それでも関心がない人には一般の広告メールと同様、読む前に削除されることも念頭に置かねばなりません。ともかくテンコ盛りすればよかった時代から前へ。工夫に終わりや完成はないようです。また世田谷区は全国ワーストを更新する「待機児童に悩む町」。保育施設の空き情報検索は便利だが、「今日も空いてなかったわ」と失望のため息も。それにもめげず「妊婦にも役立つコーナーを」と、胎児に生年月日がないことからプッシュ通知ができないならば「出生予定日」でと、苦闘の足跡が伝わってきました。
③ 働き方改革。家に持ち帰って仕事をする、ラッシュを避けて出勤したり、子育てもやりながら自宅で仕事をする、などといったイメージしか浮かばない。MS社ははるかな先を走り、すでにフレックスタイム制さえ廃止したという。メンバーの持つあらゆる能力を尊重した先に見えてくるのがテレワーク制。それをすでに国も提唱しているということも初耳。効率や「儲け」優先でなく、3日徹夜は3日しか続かない、という言葉に象徴されていたように、働き方が社員にも会社にも、公務員なら市政と市民の暮らしにも影響を与えるということ。公務の現場で直ちに実践することはできないけれども、この危機意識と執念を、学ぶというより感じなければならないと思いました。働き方改革というより、それは働き方の〝進化〟なのではないかと思います。「会社の喜び」と「社員の喜び」の好循環。とても含蓄ある言葉でした。
④ さまざまなデータから読み解く、世界の中の日本の人口減少の特殊さ、深刻さ。その上で、東京一極集中の対策などはやめて、都市集積を図るべき、との観点は新鮮でした。もとより「新鮮」で片付く問題ではありませんが、地方が「国の指示待ち」「予算待ち」の姿勢では、本当に日本の国に未来がない、静かにそう諭してくれているようでした。
⑤ どこまで理解できたのか疑問。資料に活字がびっしり。難語、専門語を口の中で早口で話され、聞き取りにくい。「…というように考える次第でございます」といった口調が耳につき、十分な理解ができなかった。
⑥ 新庁舎建設に際して一切の資金なし。「にっちもさっちもカネなし」という状況だったからこそ実現した、と講演者。なお職員は3000人から2000人に減らしたとのこと。勇断ですが、蛮勇ではない。市長のリーダーシップのもと、スタッフが懸命に働いた、知恵を絞った成果だと思いました。
⑦ さすがNHKと言うべきか。これまでの時系列の雨量データ、画像などをスライドで駆使。ビジュアルでもとても理解できる話の進展で、内容に引き込まれました。特に、市民が被害の命運を分けた行政の判断は身につまされるものがありました。まだ記憶に新しい常総市の水害の記憶。避難が氾濫している川の方に逃げるようになっているのはおかしい、と思いながらも大渋滞を作りながら皆、「川のほうへ」と逃げた。反対に、隣の市になるが、反対方向に逃れる判断をした人は、高台であるゆえに問題なく避難ができた。「市域」というものが時に足かせになるという警告を、ここで学んだのではなかったでしょうか。そうした生々しい記憶もよみがえりつつ、最後のシーンで、いつもNHKのニュースに出ているあのアナウンサーが、いつもとはがらりと違う表情で画面から「すぐ逃げて」と訴えている動画も見せていただきました。なるほど。こうすれば私も心を動かされるだろう。人はやっかいなもの。でもその上を考えてこその災害対策だと、改めて深く心に刻みました。
⑧ 講演資料にアンケート用紙が挟み込まれていました。この東京で行った市役所職員による講演。これにも聴衆の「満足度」「改善点」を追究するのか、と新鮮な驚きでした。しかし申し訳なかったが、これを記入、提出しないで持ち帰ってしまい、協力できずに申し訳ないことをしました。というのもアンケートのワンコーナーに、「最近の新庁舎で「視察した・参考にした」「これからする」予定のある自治体はどこですか?という問いがあり、ご丁寧に最近完成した市の名前がずらり。これはとても参考になる。そういうわけで、私は自分の1枚を持ち帰らせてもらったのです。この呉市の取組みはとても共鳴できました。まず何より市民協働のスペースが併設されていること。それが議会棟にあり、議会図書室は市民資料室と併用で市民がいつでも利用できる。これは議会にとってもとても有用なことだと思います。後日、丸亀市からも呉市のこの庁舎を視察に行かせていただきました。帰ってきたある職員が「図書室に司書がいた」と教えてくれて、その「本気度」を改めて知りました。講演の締めくくりに語っていた職員のこの一言、「部門間のカベはなくなったが組織のカベはこれからだ」。けだし名言です。これから始まる本市新庁舎構想に当たり、スタイルや立地は違っても、その「スピリット」を大いに学び、取り入れてほしいものです。
⑨ 今回のセミナー聴講。事前の案内資料を見ながら参加を決断したきっかけがこのコマ、氷見市長の講演があったからでした。受講し終え、帰途で「市長とは」と思いを巡らしました。政治家とは? 財政に精通していることも必要。市民に安心や方向性を示せるキャラクター。職員のリーダーとしての力。議会や対外全般の交渉力…。この、型にはまらない市長、というより、本川祐治郎というこの人物。圧倒的なスピーチ展開、確信にあふれ、さりとて嫌味もなく、タレントのような軽さとテンポでずっしりと重い内容を語っていく。かつて庁舎建設の参考にと氷見市を視察させていただきました。市長にはお会いしませんでしたが、市長室の入り口に座る等身大のハットリくん越しに、文字通り「ガラス張り」の市長室が覗けて見えました。市長の思い、考えの中身もまたガラス張り。短い講義はあっという間。必死で走り書いたメモは、残念ながら自分でも判読できない、そんなスピードの講演でありました。締めくくりの市長の呼びかけは、氷見一番の〝ウリ〟であるブリをもじって、こうです。「再会のときは〝お久しブリー!〟で」。添えていただいた関係資料がまた半端でない。あちこちから取材を受けた記事をいただきました。圧倒され、やはり「市長とは」の自問に答えが出ないまま。ともかくこの市長のキャラをコピーすることはできない。いただいたお知恵の一端を拾い集めて、わが丸亀市に写し直し、どこから手を付けるのか、とにかく何かに着手しなければなりません。私にはとても新鮮に、そして重く響く「右脳で、共感力で仕事を」「パソコン見るな、人を見よ」というメッセージを、これからも丸亀で、いたるところ、あらゆるチャンスに発信し、まさに共感力でのまちづくりを、これを聴講した私がまず責任者と自任し、行動していくことなのだろうと考えました。
今回の自治体総合フェアを概括しての感想を述べます。
その姿そのものが、官民一体となったシチュエーションで、行政特化の催しとは大きく様相が異なります。私たちの行政の現場もマーケティングの大きなターゲットであり、民間活動の現場であり「お得意先」「顧客」です。逆に民間人は納税者でもある。その混然一体の姿は、これからの行政の在り方そのものを示している。とりたてて官だ民だと建て分けることがおかしかった。この〝正常〟な感覚にあらためて〝気づく〟、そんな3日間でもありました。