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○市民と議員の条例づくり交流会議in東海2010               愛知県刈谷市

1.会議の概要、視察意図

  2010年11月27日(土) 13時〜17時30分
  愛知県刈谷市産業振興センター
  主催:「東海から変える!市民と議会のチカラ」実行委員会
     市民と議会の条例づくり交流会議
     自治体議会改革フォーラム
  地方分権、地域主権の時代だが、国から地方にまかせれば何でもうまくいくのか?
  当日いただいた資料はこのような言葉で始まっています(要旨)。
  何もかもうまくできるほど、私たちの自治体は、議会は、仕事ができていますか?
  市民は、選挙のときだけ議会に政治に関わればいいのでしょうか?
  「市民が議会を『使って』自分たちのまちをつくる」
  実は、そんなまちがあちこちに現れ始めています。
  「形だけの市民の代表の集まり」から「市民の考えを代表して、進む道を決める場」へ。
  ひとりひとりの市民が変わり、議員が変われば、議会も変わり、まちも変わります。
  市民も議員もいっしょになって、未来のまちをつくるための第一歩を、ここから始めましょう。
  (以上要約)
  フォーラムの会場には文字通り、関心の高い全国からの議員参加者と刈谷市民が混在していて、
  いろいろな意見の聴けた内容でありました。  

  第1部 全体会 「民主主義のイロハのイ〜市町村議会の必要性」
             山梨学院大学教授 江藤俊昭氏

             「議会って何? 基本のキ〜議会改革の今とこれから」
             法政大学教授・自治体議会改革フォーラム呼びかけ人代表 廣瀬克哉氏

  第2部 分科会 第1分科会 議会を使って考える〜市民が作った『議会のトリセツ』
                     「トリセツ」編集長 奥村有紀子氏

             第2分科会 自分たちで考えるまちの未来〜首長マニフェストと総合計画、
                     総合計画と議会の役割
                     山梨学院大学教授・前岐阜県多治見市長 西寺雅也氏
                     後半はパネルディスカッション
             →第2分科会に出席


  ※以下、文責は内田にあります。

2.全体会

 ○江藤氏
  ・三重県議会、京丹後市などの改革で、これまでの改革へのチェックがなされ、新段階へ進もうと
   しているが、ほとんどの議会ではまだまだ。未だに「一問一答」とか「対面式」とか言っているが、
   議会内改革から市民目線の改革へ移行すべき時代に入った。
  ・住民に情報公開せぬまま議会基本条例を作ってしまったところがある!
  ・いわゆる「口利き」。議員個人には何の権限もない。口利きをしてもらうのはいけないこと。「議会」
   として、大きな権限を持っている。「眠れる獅子が動き出す!」
  ・地域経営にとって重要な事項は議会の議決を経ることになっている(自治法96@)。
  ・その他地域にとって重要な事項が条例で追加可能(同96A)
  ・地域経営のヘソとしての「基本構想」
  ・自治法138条の2「執行機関は…議会の議決に基づく…事務を、誠実に管理し執行する義務を負
   う」
  ・マニフェスト大賞を取った流山市では市民1万人が定数削減の陳情運動。それに臆せず、11/14
   に議会報告会→今のままでいいことになった→市民は「敵」?の意見も聴いて行動すべき。
  ・会津若松市議会も胸を張り、萎縮せず。本日、会津若松の本が刊行。
  ・北川、片山時代があったが、今は二元代表制をつぶす方向だ。首長に都合のいい民主主義を作
   ろうという流れになっている。これは「印籠」が頼りの水戸黄門だ。旅人である黄門様に任せては
   いけない。「地域のことは地域で」を日本の文化にすることだ。

 ○廣瀬氏
  ・阿久根市の姿を通し、議会骨抜き、首長中心のありさまだ。
  ・大阪府で橋下知事が提唱する「議員内閣制」。議会が予算編成にも携わり、責任を分担するとい
   う考えがある。一見良さそうだが、議会が骨抜きにされる心配がある。将来の選択メニューのひと
   つとすべき。
  ・議員内閣制は10年前に英国で導入されたが、失敗していることを、橋下氏は言わない。
  ・英国はもともと一元制。市民は議員を選ぶ。議員が、
   @主任(行政のプロ)を外から雇う→このスタイルだと雇われたプロが偉い人になるのでダメ。
   A議員の一人が市長になる。
  ・英国の地方議会では市職員の採用も議会が行う。
  ・憲法93条を見れば、憲法が地方自治体に想定している必置機関は議会だけ。市長とは書かれ
   ていない。(これは自治体が存する以上、市長が必要なのは当然のこととされている)
   →議会のない民主主義は存在しない。
  ・議会がなくては、
   @多様な意見を反映できない
   A公開の場の議論を通して論点、争点を発見、公開することができない
   B決定過程の公開、共有で「納得」のいく結着が図れない
  ・栗山町議会基本条例前文に、
   「論点、争点を発見、公開することは討論の広場である議会の第一の使命である」
   →議会の使命としては、決定することよりも論点、争点を発見、公開することのほうが大事、と、
    町民に宣言している。
   →議会内秩序の基本を明文化したものではない。外に向けられたものである。
  ・自治体議会の「三重苦」
   @政治に対する行政優位…19世紀、民主主義発祥の段階では議会が優位。ところが20世紀、
    福祉国家となり、プロ人材のプールが必要とされるに至って「行政優位」へ。
   A地方に対する中央集権の支配…2001年3月31日までの「機関委任事務」により市役所の半分
    は国の出先であった。
   →2001年3月31日までは、市長は大臣の部下であるとともに選挙民に責任を持つ立場。二重権
    力構造であった。2001年以降、前者はなくなったことになっているものの、システムは残ってい
    る。これを誤って使用したのが阿久根市であり夕張市だ。
   B参加型民主主義への希求による議会への反発…日本では近代主権国家がこの百年、参加型
    民主主義を排除してきた。(⇔お任せ民主主義)
    →米ではシンクタンクが2チームある。行政に依存しなくてもやっていける。
  ・解決策はあるのか。
   @政策開発は議会が、政治が担当すべきである。
    →住民との多チャンネルが議会の良さ。これを活用しながら政策能力をいかに高めるか。
    →専門的知識、政策技術の活用体制
    →議会事務局の強化
    →ローカル・シンクタンク
   A何よりもまず議会による政策立案、評価の取り組みを進めるべき。そのサポートをするのが
    議会事務局。ルーチン作業は議会事務局員でなく外注もできる。
  ・分権の担い手としての議会機能の強化
   中央集権の道具だった首長中心主義
   分権の担い手となった改革派首長。これに対して「足を引っ張る」存在としての議会にならぬよ
   う。市長のマニフェストの「足を引っ張る議会」か「磨き上げる議会」か。中味を良くする議会たれ。
  ・参加型民主主義は議会の敵か?
   政治参加の3つのあり方
   @能動的市民の自発的参加…公聴会で可能
   A無作為抽出による「住民の縮図」による参加
   B選挙で選出された代表による参政権行使…投票でオワリでなく選んだ人を動かすこと
  ・ある会津若松市議会議員の言葉「市民に信任され市民といっしょにやって、議会はこれほど強い
   ものと感じた」
  ・議会基本条例への警鐘
   条例づくりが自己目的化。理念のみで実践を伴わない条例
   定数半減、報酬半減マニフェストの人気
   改革派首長の足を引っ張るだけの議会
   自治法抜本改正の、10年、いな、60年に1度の大チャンスだ。
   変な作り方をすると何が起こるか。改革ではなく迎合だ。「定数を5分の3にして、報酬と調査費を
   上げてください」というならわかる。
  ・議会基本条例は必要か?
   議会の存在意義が市民には共有されていない。「役に立たない、費用がかかる機関」と。
   「わが議会はこういう議会です」との宣言。住民に示すミッション宣言だ。
  ・「作ったふり」
   作り方とそのプロセスで、「作ったふり」の条例を見分ける。
  ・気づきの道具としての議会報告会
   議決内容について説明責任がある。議員が「答弁する側」に。
   議決過程について説明責任がある。論点、争点を明らかにし、議論を尽くしたのかを説明する
   責任。
   →「私は反対したんだけど」では不十分。プロセスを説明できなければ、議会報告会は乗り切れ
    ない。
  ・会津若松モデルなどで、「条例は、市民と議員が作る」ということがようやく知られてきた。
  ・栗山町議会と総合計画
   町長は町民参加のもとで基本計画を策定。議会もまた「対案」を準備(基本構想議会案)。
   本会議場に総合計画審議会を招いて意見交換
  ・会津若松市議会の政策形成サイクル
   住民との意見交換会、広報公聴委員会、政策討論会で重層に。
  ・チェック機関としての議会の機能強化
   議会による決算審査を施策・事業の評価の場に。
   基本計画の議決事件化で事業仕分けを。「書いてあることはやる。書いてないことはやらない」
   その公開の場は、議会しかない。

 ○Q&A
  ・江藤 国会では多数派の中から首相が出る。地方議会では住民が直接選んだ議員が対等で
   与党も野党もない。住民参加は、実は市長部局よりも議会のほうが向いている。多様だから。
   自由な議論がなければ議会ではない。
  ・江藤 (期数について)内部に向いている議会なら「期」の多い人が偉いとなる。しかし外向きに
   なるなら、「住民にとって誰が役に立っているか」がすべて。
   しかし栗山町議会でも7〜8期の人が張り切っている。三重県議会でも改革推進したのは7期の
   岩根議長。古い人も自覚をもてばすごい力を持つ。
  ・江藤 (基本条例のポイント)規則でなく条例なのが大事。議会の根幹にかかわること。
   栗山町「議論する」と明記。「切磋琢磨」とまで書いた。会津若松市議会「意見交換会」、多治見市
   「対話集会」と表現は異なるが、大切なツール。
  ・江藤 (反問権)「論点を明確にするため」の反問権でなく、「中味に踏み込む」ものにしている。
  ・江藤 (制定までのプロセス)わずか6ヶ月で作った市がある。審議会を作らないでやった市があ
   る。これらは開かれていない。市民がこちらを向くまで、メッセージを送ること。打って出る議
   会に。
  ・江藤 議会改革は行政改革と同じコストの論理でやってはいけない。民主主義が細くなってしま
   う。
  ・廣瀬 本気で違うことを考えている人が集まっているから議会は必要。市長提案をともかくOKでは
   議会ではない。「本当にそれでいいのか」と、深める人がいることが必要。
   市民から見て、「あっちがいいらしい」「こっちが説得力がある」と、見えるプロセスが議会本来の
   仕事だ。
   「あそこまで明らかにされた。となれば、不満だけれどナットクできる」と、ここまで論点を明らかに
   するのが議会だ。
  ・廣瀬 「あらゆる政策はしがらみの中のベター探しである」それには意見の異なる議員が議論を
   することだ。独任制の首長は期を重ね、だんだん「間違える」ようになる。最高裁の憲法判断を15
   人でやることにも、ここに意味がある。




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3.第2分科会

 ○西寺氏
  ・栗山町で総合計画策定条例案が出されている。策定委員は町民から選出。
   財政計画や行政のしくみまでコントロールしようという条例案はユニーク。最高水準。
  ・多治見市での取り組み「多治見モデル」
   →98年に「総合計画策定指針」夢物語を排し、実現可能性にこだわる。
   →縦割り組織を温存したままで選択と集中もせずに計画を立てれば、「総花」となる。
   →討議課題集を策定。前計画の総括と地域の課題を抽出。市民の委員と市職員の委員が課題
    を整理。
   →市長の任期と計画期間の整合を図る。「市政基本条例」に明記。5年ごとの計画策定では、選
    挙を勝ち抜いた新市長が旧市長の計画を実行することになる。このことから、市長の「総合計
    画無視、自分のマニフェスト優先」が始まる。
   →掲載されてない事業は予算化しない。
   →「行政の計画」ではなく「多治見市の計画」、「自治体の計画」であることに留意。
   →財政と総合計画をリンク。財政主導の予算編成から政策主導へ。企画課による予算編成。
   →予算に「総合計画経費枠」を設ける。
   →インドネシアではリンクが当然。スタンダード。日本ではただの積み上げだ。
   →「右肩下がり」の時代の総合計画は、市の方向を定め、政策を選び管理する自律のために大
    切なものとなる。
   →市長のマニフェストは選挙後、議会によって「事後検証」される必要がある。選挙前にやると選
    挙妨害の可能性も。
   →基本計画のみならず総合計画の議決化必要だ。議会の議決を経て、はじめて市長のマニフェ
    ストは自治体の政策となる。
   →首長の思いつきで、総合計画を首長がぶっ壊す傾向がある。
   →市長マニフェストは議会で修正される可能性もある。市民とも議会とも合意形成する必要があ
    る。
  ・総合計画策定における議会の役割
   →策定作業に入る前に、総合計画のあり方についての議論を徹底的にやることが大事。案が出
    されたら間に合わない。追認のみになる。
   →「討議課題集」が重要。作製段階から行政に情報を出させる。
  ・自治法改正で「基本構想」義務付けが廃止されたら
   →議決を経てない計画はただの「行政計画」にすぎない。
   →市長マニフェストしかなくなり、暴走の危険性もある。行政はその方が楽だ。
    議員発議ででも作るべきだ。

 ○市民・議員等によるパネルディスカッション
  ・JC出身、日高議員。まちづくり市民会議行政部会メンバーとしての経験などを通じ、総合計画策
   定に際して市民参画が難しいことを実体験。
  ・誰が書くのか? コンサルが85%書く、というコンサル業者からの実話。
  ・北名古屋市議会議員の桂川氏。さきほど江藤氏から厳しく指摘された(開かれてない)議会はウ
   チだ。自身、総合計画策定委員会、市民ワークショップメンバーとして携わったが、意見は出るの
   に修正にほとんど反映されない実体験。出てくる意見を「見える化」する手法なし。「北名古屋 
   ホワイトボードは出てこない」 これでいいのか?
  ・(参考)全米で最も自治の進んだ町、カリフォルニア州デービス市。1970年に20条からなる住民
   憲章を制定。内容には、
   @スローライフを実現する。住民投票も活用する。
   Aあえて人と人が顔を合わせるような都市計画。
   B隣町の景観を畑のままとしてもらえるよう、隣町にお金を払っている。
  ・西寺 総合計画審議会でよくある光景。自分の関心のあることしか語らない委員。あとの議論で
   は黙っている、というありさま。→情報の共有を工夫する必要がある。
  ・西寺 コンサルなんて言語道断。多治見市を見よ。政策のことしか書いてない。美辞麗句なし。
   コンサル使わず出来る工夫は職員の問題だ。コンサルは問題整理まで。本文を書いてもらうな
   んてとんでもない。
  ・西寺 栗山町の条例案は興味深い。議会が行政を動かすことが現実になる。財政への危機感
   を行政よりも議会が強く持っている栗山町。
  ・西寺 義務感で基本条例を作っている自治体は多い。自治法が改正され、総合計画に根拠が
   なくなればなしくずしになる危険。議員もまた「口利き」のほうが好ましいと思っている、総合計
   画はイヤ、と思っている人は多い。
  ・西寺 政策を管理する道具、行政を管理する道具、財政を管理する道具として総合計画を活用。
  ・コンサル業者は行政から受注するあり方から、調査支援、議会対応支援に進む。議会のあり
   方の変化の中に、コンサルのビジネスチャンスあり。
  ・桂川 市職員がしっかりとした上で、コンサルをその及ばないところでフォローに使うべき。良い
   職員が市の未来を担保。そのことに議員も責任を持て。
  ・どうやって「市民の総合計画」にしていくのか?


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4.感想

 フォーラムに参加させていただいたのは11月27日。
 丸亀に帰るとほどなく12月定例会が始まりました。論点、「台風の目」と目されていたのは議員定数削減の問題。これに直接は関係しませんが、すでに「丸亀市議会基本条例」の素案を整えている議員もおられ、議会は混戦模様に。その混戦を潜り抜けるように、「議会改革特別委員会」を設置しようという私の悲願が脚光を浴びるところとなり、ご推挙もいただいて私がその委員長に。年があらたまり、いま審議が進んでいるところです。ようやく、委員会の議事録の抄録を、議会HPにも掲げるところまできました。実はこのレポートも、来週に控えた第4回目の会合に資するために、あらためてHP掲載の体裁で書いています。
 この春、善通寺市やまんのう町でもあいついで議会基本条例が制定を見ました。そして5月。私たちの4回目の会合と前後して、観音寺市では2年目となる議会報告会を開催するとの報せを受けました。
 また丸亀市では現在、総合計画後期計画も策定中。私自身が議会選出の策定委員の一員となっていて、このたびのフォーラム出席、そして第2分科会選択となったものです。
 レポート本文の末尾に紹介した言葉、これがすべてだと思います。「市民の総合計画」「市民の議会基本条例」をどうやって実現するのか。
 今回のフォーラムで大変に示唆に富む、そして経験に基づく豊かな知見に触れて、大いに啓発されたことはいうまでもありません。全国、どこの例を見ても、すんなりと理想どおりに、という足跡をたどったところはないはず。これからあらゆる手法を委員の皆さんと熱心に討議しながら、「丸亀もなかなかやるね」と言われるモデルを目指したいと思っています。
 HP上のレポート報告が遅くなったことをお詫びし、しかし特別委員会に直面しての「復習」は得がたい勉強になったことを申し添えておきたいと思います。


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