○岐阜県、愛知県内市民会館類似施設視察
平成29年8月9日 可児市文化創造センター
同 10日 刈谷市総合文化センター
同 10日 知立市文化会館
同 10日 可児市文化創造センターにて講演聴講
同 11日 東海市芸術劇場
(以下、文責は内田にあります)
1. 可児市文化創造センター“ala”
○施設概要
・「可児市文化創造センター」愛称「ala(アーラ)」
→alaとは、イタリア語で「翼」。
・二つの多目的ホールと様々な文化創造空間、練習施設を持ち、建設・運営
に市民参加を取り入れた総合文化施設
・大ホール(宇宙(そら)のホール)1019人、小ホール(虹のホール)311人。小ホ
ールはスラストステージ形式にすると221人。映像シアター、音楽練習室3、
木工作業室、演劇練習室、美術ロフト、演劇ロフト、音楽ロフト、ギャラ
リー、インフォメーション/情報コーナー、レセプションホール、ワークシ
ョップルーム和・洋、研修室、レストランを備えた地上4階地下2階建。「翼」
を演出した外観。広大な芝生園庭、親水池と噴水を備える。
○建設経緯
2002年竣工なので細かい年次は省略。基金積み立て、2次にわたる建設研
究委員会、建設地決定、議会特別委員会設置、公募による35名の「基本構想
市民懇話会」設置、公募による46名の「市民活動研究会」設置、財団設立、
などの経緯がある。
○建設経費
最近の建築ではないので省略
○市民や有識者の意見聴取方法
・基本構想段階での一般公募の「市民懇話会」、施設を活用する内容を検討す
る一般公募の「市民活動研究会」。施設愛称、大小ホール名は公募。
・工事現場の仮囲いに市民参加のペインティグアート。参加者延べ130人で
全長200mに絵画を描いた。
・市民スタッフ組織。事業や運営に積極的に参加できるシステムを自らの手
で作る。ここからの提言で、企画運営に携わる市民の会「alaクルーズ」を
結成。120名。企画・創造、支援、広報の3グループで活動。
○衛館長の講義~テーマ「積極的な福祉施策としての劇場経営」
・開館から5年まで。ビギナーズラックで好調だったが5年目に底を打った。
売り上げも芳しくない。クラシック愛好者は全人口の1.6%。これを対象に
し、市民全部を視野に入れてない運営。バクールの言う「余暇文化行政」
の域を脱してない。全国1000席以上のホールの収支比率で比較し32%は
ワースト5位。100円で32円儲ける、という勘定だった。
・宮城大学にて奉職中の60歳の時に可児市から誘いがあった。
・一般受けしない「とがった」演目を見た観客は「首をかしげながら」会場
を出てくる。そして二度と来なくなる。東京で受け入れられても地方では
そうはいかない。そこで「可児市民の“半歩先”をやろう」。一歩先だと、
市民は迷ってしまう。知っている曲をやるのは「おもねる」という。知ら
ない曲をやりながらオーケストラの素晴らしさを知り、楽しんでもらう。
それが「半歩先」だ。文学座、新日本オーケストラの公演を、いつものフ
ァンだけでなく障がい者にも関心のなかった人にも来てもらうことで、経
費は包括的に安くなる。
・私たちは「興行師」ではない。創客経営をめざす。「瞬間最大風速」的な集
客でなく「継続客」「支持者」を創出すること。
・地域の公共文化施設は「政策目的」でなく「政策手段」である。施設を作
るのが目的化しがち。作るに際して、目指す「目的」を明確に共有し、そ
こへの「手段」つまり社会的投資としてホールを作る。行政とホールとが
協働して社会目的を達成するのだ。
・国の文化政策も転換している。「社会的費用」から「社会的投資」へ。文化
芸術は地域社会の「きずな」を回復し、創造文化都市を創出する。
・そのために「社会包摂」を進める。絶対に劇場に来ない人、それは貧困家
庭だ。「あしながおじさんプロジェクト」で企業から1口3万円の寄付をい
ただく。これでこうした家庭に封書で個別にチケットをプレゼント。席は
家族ごとに散らばっていて、席を探すところから鑑賞は始まる。「あしなが
おじさんfor family」のチラシはオモテには出ない。市民みんなが知ってい
るわけではない。鑑賞した子の感想文と親のお礼文が企業にフィードバッ
クされ、感動。「こんなに喜んでくれるんだ」。企業は、次はもうやらない
とは言えない。ひとかたまりの客席を与えない。団体で招くと、集中しな
い。席には一輪のバラの花。家に帰れば鑑賞した公演のことで話に花が咲
く。ダブルワークのお母さんと、日常の会話が少ないが、こうして語らい
の時間が持てた。「家族の真ん中に一本の樹を植える。樹を見上げながら生
きよう」。これは税金でやる値打ちのあることだ。
・地元にある東濃高校は130年の名門・伝統の進学校だったが、退学、遅刻、
問題行動の多い問題校となった。毎年1クラス分の生徒が退学。家庭が機
能していない。「お前はダメな奴だ」と親から言われる子ども。承認欲求を
満たされない子どもが高校を中退する。「家族みんなでいっしょに鑑賞しよ
う」という場を創り出す。学校に赴き、alaに来てもらってワークショップ
でダンスパフォーマンスをやる。最初は億劫。でもだんだんと、高校生は
動き、目が輝き始める。誰かに必要とされている時間を経て「承認されて
いる」「ここにいていいんだ」。クラスが居場所に。中退は激減。
・高校を出てないと、無業率は4人に1人。社会保障を受け取る人に。高校
を出ていると無業率は10人に1人。社会保障を支える人に。高校中退は社
会的損失。納税者を失うことになる。
・中途退学を30人減らしたことでの社会的インパクト効果。単年度で1900
万円の社会コスト削減効果と計算される。
・心が疲れた人が羽を休める。この人はなんで来ているんだろう? というよ
うな人がここに来ている。館長就任以降、イスとテーブルを増やした。「市
民の止まり木」に。
・何かをやっている時にだけ賑わう、イベントのない日は閉めているという
ところもある。何のために税金で?
・住んでいるところと“地続き”になっている施設。人と人との間に“まち”
がある。“まち”とは、区画整理でなく人と人との関係である。このことを
神戸シアターワークを通じて知った。
・激しい社会の変容に対する「処方箋」としての文化芸術。「ポジティブ・ウ
ェルフェア」。「ウェルフェア」とは経済概念でなく心理的な概念だ。おカ
ネで満足する(ベネフィット)以上に心で満足することが求められねばなら
ない。給付金プラス文化芸術で。両方で初めて「福祉」と言える。
・イギリスではブレア政権で12歳の労働者が排除された。そこに社会包摂ユ
ニットを行い、ソーシャルインクルージョンを展開。70%の貧困がなくな
った。
・“違い”が文化芸術の価値だ。貧困も障がいも包摂していくことが文化芸術
にはできる。
・「人の家」としてのala、「社会機関」としてのala。縦割りの役所に文化で
横串を刺す。
・ミュージカル、劇、ダンスの参加型事業で小学生から70歳代までが交流し、
新しい価値、新しい作品を生み出す。満足を生む。これが劇場、美術館の
使命だ。シアターフリーコンサートを実施したことは、参加した人たちにも
alaにとっても、その職員にとっても良い経験となった(別紙『MACHI GENKI
PROJECT』参照)。
・届かないトコロに、コチラから。障がい者施設、高齢者施設(「花とぴあ可
児」で劇団文学座がお芝居)、多文化交流施設(可児市人口10万人の中に外
国人が6千人)、小中高等学校、病院(「新日本フィル社会保険病院コンサー
ト」)、そしてご自宅まで。市民活動グループalaクルーズも活躍する。
・学校では今、算数で「5引く1」はわかっても「1引く5」がわからない子
がいる。九九も7から上はわからない。これは自己責任ではない。この子
を支え、自己肯定感を持てる人を育てることが私たちの仕事。
・今、子どもの6人に1人が相対的貧困家庭に育つ。7人に1人が就学援助
を受給している。8人に1人は将来、生活を維持する所得を得られない子ど
も。ここには支援学級の子が含まれ、それが増えている。月に1万4千円
の作業所で一生を暮らす人も少なくない。こうした人たちの能力を引き出
すための力になれる。
・棟方志功は小学5年生のとき、自分の描いた絵をみんなが欲しがった。こ
こから彼は画家としての生き方を決めた。
・姫路市で2000席の大ホール構想があった。しかし市民はコンサートなら大
阪に行く。私は提案した。2000席を1000席にしてあと1000席分を市民が
羽を休める場にしてはどうか、と。必要なのは鑑賞の場だけではない。
・1興行2公演制を考える。金曜日の夜と土曜日の昼に設定してコストを下げ
入場者を増やす。コストは倍にはならないし、収入は1.6~1.7倍を見込め
る。興行主は“ゲタ”を履いている。東京のプロモーターは地方が「言い
値で買う」ものと思っている。金額提示に「まけろ」と言うと「10%まけ
ます」。けれどそれでも興行主は35%くらい儲けがあるものだ。売れなかっ
た空き席を活用し、「あしながおじさん」を実行。もともとの収益で損勘定
の部分からも収益があり、しかも社会包摂に貢献できる。すぐにどこにで
もできることだ。
・2年前は赤字を出した。要因は貸館、貸室の利用が少なかったこと。そこで
会議室は「ロフト」「ダンス室」の形態をおすすめする。なるべく多くの人
が使えるように工夫することだ。
・alaの貢献度
来館者は市民1人が年4.7回
客席稼働率87.8%
市民の1.9人に1人が舞台鑑賞
パッケージチケットで利用者、売上増(次項)
経済波及効果12億余(誘発係数2.57=2009年度)
マーケティング投資収益率(MROI)5.62(2016年度)
・ユニークなチケット戦略
ア)ネット予約でコンビニ受け取りなどの便利さ
イ)フレンドシップ会員:登録無料で会員は24時間予約・購入、公演情報
ウ)DAN-DANチケット:1週間前になると20%off、公演当日は半額に。
エ)ビッグコミュニケーションチケット:友達たくさんで、家族で購入する場
合、4~5人で10%off、6~7人で20%off、8人以上は30%off。
オ)パッケージチケット:年間公演の中からA、B、C、Dまとめて買うと20%
off、さらに連続割引としてそれが2年連続で25%、3年連続で30%off
に。一般発売よりも早く良い席を購入できる。アラカルトパッケージ
では好きな公演を選んでパッケージも可。
カ)キャンセルサービス:通常、チケット払い戻しはできないが、どたキャン
でも80%分をalaクーポン券と引き換えてもらえる。後日、別のチケ
ット購入時や館内レストランで使用可能。
キ)お元気ですかサービス:チケット購入が不便な年配者には電話でお届け。
・館長ゼミを月に2回行っている。心を柔らかくする。
・閉館は10時半。図書館が閉館した後、ここに移動してくる子どももいる。
・コンサートにも演劇にも私は一生行かない、という人からも「ああいうの
あってもいいよね」との同意をもらえる。ここからチケットも売れる。す
ると企業も喜ぶ。「共感をマネジメントする」ことにつながる。
・まちに、市民に文化を届けよう。市民が「何らかの益を受けている」と感
じている施設に。鑑賞しなくても、創造しなくても、参加しなくても、誰
かと出会う、これが文化であり、その拠点としての機能を持たせよう、そ
れを基に、施設を構想するべきだ。“鑑賞者開発でなく支持者開発を!!”
○この項目の感想
設計コンセプト冒頭から「建設、運営に市民参加を取り入れた」とあり、
時代を先取りした施設への思いが伝わります。その一環として、建設工事現
場の仮囲いに市民が200mの壁画を描いたとは痛快です。
いただいた資料に、2013年5月17日付け岐阜新聞の切り抜きがありまし
た。このセンターが「文化庁特別支援施設に」という見出しです。少し記事
を引用します。
…全国有数の施設と肩を並べて最高品質の舞台芸術を提供するとともに、
地域の文化拠点として芸術振興をリード…市民を巻き込んだアウトリーチ(出
張)活動やワークショップ、全国から実力派の演出家や俳優を招いての演劇創
作など、ユニークで精力的な取り組みが認められた。
これ以上に書き加えることがありませんが、直接に館長から親しく講義を
いただいた1時間余りは、私どもにとってこれからの市民会館構想の方向に
大きく影響するものでありました。それにとどまらず、税金を使い、政治や
行政は市民にどんな使命を果たすべきなのかという大きな命題にも示唆を与
えてくださったとの深い感慨です。
母はダブルワーク。子は孤食。そんな母と子に企業協賛の「あしながおじ
さん」からプレゼントが届き、「ここがあなたたちの席ですよ」と与えられる
のでなく、「お母さん、ここだよ」と自分たちの席を探すところから観劇が始
まる。そして帰っては「お母さん、ボクが学校で習った野口英世と、今日の
お芝居の野口英世はずい分違っていたよ」と、会話の花が咲く。こうしてこ
の小さな母子の家庭に文化芸術の一本の樹を植えていく、その樹を見上げて
家族が生きていく、との衛館長の言葉は、何度思い起こしても感動を呼び起
こします。
年間行事を綴ったしゃれたブックレットがあり、多彩な催しが紹介された
あと、各ページで気になっていた「符号」の解説を巻末に見つけました。そ
れが本文で紹介した「DAN-DANチケット」や「ビッグコミュニケーション
チケット」「パッケージチケット」などです。観劇はしたいけれど当日が近づ
くまで行けるかどうか日程が不確実。こんな悩ましい経験は何度かあります。
まずは良い席を早めに確保し、万が一行けなくなったらキャンセルサービス
を受けられる、などなど、利用者の心をくすぐる、まさに「痒いところに」
のシカケです。国内他館がどうして追随しないのか、これもこれから検討し
なければなりません。
いただいた「MACHI GENKI PROJECT」2015年版実績レポートを開い
てみます。新日本フィルおでかけコンサート、文学座おでかけ朗読会、児童・
生徒のためのコミュニケーション・ワークショップ、ホームカミング「家(う
ち)においでよ」、文学座と作る子ども向け芝居、同紙芝居、歌舞伎とおしゃべ
りの会、常盤津教室、ドラム道場、公開座談会「町が元気になる座談会」(後
出)、平田オリザのモデル授業、50歳から始める芸磨き講座、親子de仲間づ
くりワークショップ、ココロとカラダの健康ひろば、スマイリングワークシ
ョップ、世代、国籍、障がいを超えた「おはなし工作ものがたり」、市民参加
「オーケストラで踊ろう!運命」、プロと市民が演劇を創作「すててこてこてこ」、
東海エリアを勝ち抜いた若者が集う「ロック・ジャム」、映画祭、イルミネー
ション、未来の演奏家プロジェクト、被災地へ祈りのコンサート、新日本フ
ィル団員によるオープンシアターコンサート、県立高校改革・演劇表現ワー
クショップ…。めくるページごとに、笑顔や市民、若者の汗と情熱、喜びが
伝わってきます。ちょっと異次元。ここまでやるか、の感。圧倒されるコン
テンツ群。まさに連携のなせる技。強い発信力と魅力、ひとりよがりになら
ない配慮やしたたかさがにじんでいます。
「私のあしながおじさんプロジェクト」では、社会包摂をされる人もいれ
ばする人もいなければならない。それが自動的に結びつき、流れを起こすこ
とはなく、こうして誰かがどこかで流れを回していかなければならないこと
を改めて教えられます。制度が、社会保障をする。この機械的制度的な枠組
みを超えて、人間的、情感的なアクションを行政が仕掛けていくということ
自体に何か感慨深いものがあります。行政は何よりも公平、公正でなければ
ならない。それはもとよりのこととして、社会に不均衡不平等があるときに、
何が何でも行政が画一である必要はない、そのように考えるべきなのでしょ
うか。画一的な行政は楽。国の枠組み、国の指示通りに地方行政が動くこと
は楽。しかしここにある格差を解消するために画一行政から抜け出て、私た
ちならではの知恵を絞り行動に出るところに、私たちはalaの真面目があると、
こう考えるべきではないでしょうか。
のみならず、同館がala発の地域通貨「エコマネー」、文化ボランティア団
体「alaクルーズ」というように次々と戦略を発している姿は、館長の唱える
「芸術の殿堂ではなく“人間の家”」とのスローガンを体現して余りあるも
のと圧倒されます。
ホールの稼働率も気になるところながらひとつの公演にどれだけ席が埋ま
ったのかも経営上は気になるところ。香川県下には高松に2000席のホールが
2つもあり、JRで30分足らずで行ける。そんな丸亀の立地でクラシックの
現代ものなどできるのか。興行収益を考えるなら演目はやっぱりドボルザー
クの『新世界』になってしまう。この迷いに、衛氏の言う「市民の半歩先を
行く」という指針は参考になります。
私たちにとってはあまりにも強すぎるインパクト。でも気おされてはなら
ない。新市民会館が姿を現すまでに手を打たなければならないことがあまた
ある。まずは何より、市民をどう巻き込むか、というテーマです。
2. 刈谷市総合文化センター
○施設概要
・「刈谷市総合文化センター」愛称「アイリス」
・ホールを中心とした文化芸術施設とともに「中央生涯学習センター」機能
を併設した地上5階地下1階の本格的な施設。刈谷駅からデッキで直通3
分。
・指定管理者制度を開館当初から導入。
・大ホール1541人、小ホール282人。小ホールはロールバック式チェアで「車
座」にもなれる。リハ室2→リハ室1は大ホール主舞台と同サイズ。地下に
多目的練習室2、音楽室2、音楽スタジオ1、1階に展示ギャラリーA~C。
ギャラリーは1週間単位貸し可能。このギャラリーがエントランス脇に位
置することで、ホール以外の利用者も入ってくる。
・2階以上は生涯学習機能で陶芸室、創作活動室、調理実習室、和室、研修室、
講座室など。
○建設経緯
刈谷駅前活性化の話題が発端。89年「街づくり説明会」、90年、権利者を
中心とした研究会が発足、93年「市街地再開発準備組合」設立→ここまでは
地権者がメインで推進。95年、事業が大きいことから事業主体を公団施行へ
転換。98年、再開発事業が正式スタート。03年、都市計画決定。07年、着
工。10年、開館。
○建設経費
本体150億円、立体P35億円、計185億円。権利床取得方式=できたもの
を購入する方式。市の権利床31億円を差し引き実質154億円。
○市民や有識者の意見聴取方法
・アンケートによる市民意識調査2回。ほかに市民会館や公民館に登録する
市民団体(利用者)から無作為111団体にアンケート。規模、部屋、時間帯、
利用料など。ユニバーサルデザインの検討調査。障がい者団体など30団体
から意見聴取、報告会を開催。
・有識者による検討委員会を大学教授と専門家10人で4回。大学教授と専門
家5人と市部課長7人で専門委員会を3回開催。ユニバーサルデザイン検
討会は29人で6回開催。
○反省点
・大ホールとリハ室が離れていて連動利用が少ない。木工・手芸・陶芸の部
屋は稼働率が低い。レストランの利用が少ない。
○建設コンセプト、特質
・商業、住宅、公益(立体P)、道路等面的な整備で駅前の一体感。
・「駅から傘不要」でホールにも商業施設にもPにも行ける。
・「練習も発表も鑑賞もここで」との複合施設の強み。
・ユニバーサルデザインに特に注力。
・にぎわい創出への工夫。無料鑑賞「アトリウムコンサート」(エントランス
のエスカレーター部分で月に1回)、芸術普及「アウトリーチコンサート」(こ
こまで来れない人に案内に出向く)、若者を呼ぶ「中高生の居場所づくり事
業」(火・木は学生に開放、学習コーナーも)。
○この項目の感想
駅から歩き、まずその威容に驚きます。エントランスの真ん中にエスカレ
ーターが設置され、殿堂の趣です。
経緯をお聞きすると、まず「駅前開発ありき」とのこと。完成した施設の
床を市が買い取るという方式。そして駅前のにぎわいが第一義とされたアク
セス、P、生涯学習機能との連動が特徴。
目の不自由な方は白い床に白い柱では識別しにくい。そこで柱のすそに工
夫を加える。杖が滑りにくいコルク材質の床。ホールでの鑑賞では、イヤホ
ンで聴取できる配慮、休憩時間に女性トイレに行列ができるのは宿命的。そ
こでトイレの数もさることながら、女性のトイレは“一方通行”とし、流れ
をスムーズに。さらに個室には着物やドレスを汚さないためのステップまで。
徹底的に快適さとユニバーサルデザインを追求したことがよくわかります。
関係機関からこれで表彰を受けました。
隣接する立体Pは4時間まで無料。
中高生の居場所づくりは好評。
市内に3つの生涯学習センターがあり、ここはその中央館としてホールを
備えるという仕組み。市の所管も生涯学習課。
大ホールの稼働率は81.7%。1年前の同月1日に申込み、抽選。
以上のようなことを、館内を案内いただきながら聞きました。
案内をいただきながら、あるカウンターの上にメモサイズの手書き感あふ
れるチラシを発見しました(手間がかかっているのに部外者が持ち帰り、す
みません)。そこには「学習支援がスタート」と蛍光ペンで見出しが書かれ、
「申込み不要です。自分の基礎学習を見直したい市内在住・在学の中学生と
高校生を対象。質問を学習支援員がお答えします(^_^)」とあり、開催は毎週
木曜日の18時から20時。メモの最後にまたペンの色を変えて「ちらっとで
もいいから、ぜひ来てみてね(^_^)」と添えられています。
施設の規模も相当ですが、こうした手書きチラシの熱意にも圧倒されます。
施設の内容には、上には上がある。しかし予算上の「適度」というものは
専門家に相談すればおのずから絞られてくるものと思います。私たちはハー
ド面での専門家ではない。けれどもこうして一人の、授業から遅れた中高生
に寄り添うような使命を果たす場所になるかは、私たち“地元民”が知恵を
絞らなければならないと強く思います。
パンフレットをもう一枚。こちらはちゃんとした作りの『BUN-KA』と銘
打たれた文化発信紙。隅に、
「市民目線の文化発信:
カリジャンとカリジェンヌのための新しい“刈谷文化”を紡ぐ情報紙」
と添えられています。
見開きにはクラシック音楽をポップなタッチで案内する記事と写真やイン
タビュー記事。発行しているのは「カリチャー倶楽部」。とことん「かりや」
のネーミングにこだわる地元愛が伝わってきます。ほかにも「アイリス」の
自主事業であることがわかる「ブラスプロジェクト」とか「タイコ・ワーク
ショップ」とか、にぎやかに元気に発信する文化の拠点として機能している
ことがわかります。
丸亀市民会館が昨年度末で閉館し、解体作業が進んでいますが、なるほど
文化の拠点が消え去るのは、貸室がない不便さ以上に、文化の風が途絶えた
ようで心細い感じもします。ならば、新しい市民会館は「生まれ変わる」の
ではなく「新しい誕生」でなければならない。そこには「ちらっとでもいい
から、ぜひ来てね」といざなう、チラシの手作り感と肉声があり、そのいざ
ないが市民に届かなければならないのだと、改めて感じたことでした。
3. 知立市パティオ池鯉鮒
○施設概要
・「知立市文化会館」愛称「パティオ池鯉鮒(ちりゅう)」
・一般財団法人ちりゅう芸術創造協会が指定管理
・収容1004人の「かきつばたホール」、293人の「花しょうぶホール」、
日常的なワークショップスペースからなる総合文化施設。2000年。
2008年に茶室を増設。
・かきつばたホール主舞台と同サイズのリハーサル室、中リハ室、小リハ室2。
工芸室、和室練習室。ギャラリー、講義室、ワークショップ室。
○建設経緯
・1990年に構想。シンポジウム、先進施設調査。
・1994年、建設計画着手、96基本構想。プロポーザルに22社から設計案。
市民参加の運営枠組みをこの時期から構想。市民による活用協議会から250
項目の提言あり。99館長は民間登用、運営は民間参加に決定。
○建設経費 総計78億円余
○市民や有識者の意見聴取方法
①建設委員会 有識者4、市民13 1994~95 基本構想作成
②施設設計・運営計画委員会 有識者6、市民4 96~99
③ホール活用協議会 公募市民20 96~97 250項目の設計提案
○反省点
・館内案内表示の不足→追加した
・大道具の収納場所不足→機械室を活用
・P不足→国道高架下にプラス100台確保
→駅から遠い。ミニバスを活用。大きな催しには駅から臨時バス運行。
○建設コンセプト
スローガン:地域にねざす したしみと にぎわいの会館
位置付け:文化の入会地(いりあいち=広場)であり、芸術文化活動の拠点
(もと農地だった)
・人と自然にやさしい環境の創造
・知立らしさを想起させる施設
・文化交流のシンボルとなる施設
・日常的な市民参加を促す施設
○特質
・にぎわい創出に民間活力を生かした運営
「ちりゅう芸術創造協会」は99年(オープン1年前)、公的な任意団体とし
て設立、00年、業務開始、06年、指定管理者、14年一般財団法人認可。
理事長のもと、事業企画制作担当6人、施設の管理運営担当8人。
・4つの重点活動
① 地域に根ざした自主事業
ア)創造事業:市民劇オリジナル公演他
イ)鑑賞事業:歌舞伎公演他
ウ)育成・普及事業:小中学校巡回公演等
エ)連携事業:著名人共催公演
②気軽に会館に立ち寄ってもらう来館者創出活動
ア) 市民講座開設
イ) 廉価なチケット料金→歌舞伎は名古屋17000円⇒知立6600円
ウ) 入会地ギャラリー展…地元ゆかりの美術展等
エ) 地元大学との連携
オ) 館内外彫刻展示(写真)
③「サービス」と「利便性」の良い貸館事業
ア) リハーサル利用
イ) まなびや支援
ウ) 来館者支援…特殊舞台消耗品常備と販売
エ) きめ細かい事前の舞台打ち合わせ
④「安全・安心」で「快適」な施設管理(定期的な情報交換会)
→施設管理、設備管理、警備、舞台管理、備品管理に専門の業者常駐
・ホールボランティアの導入
① パティオ・ウェーブ設立
→文化協会会員から会館運営に参画したいとの意見があり、ホールボラン
ティアを設立(応援団意識)。99年、63人で設立。世話人会として企画
制作7、広報9、フロント26、舞台美術9、舞台技術12人が受け持つ。
各セクションの代表は2年ごとに交替。
→フラットな組織運営。活動内容は世話人会で協議決定。無報酬だが年2
回、公演に家族招待、年1回、視察ツアー招待がある。
→参加者が固定化、高齢化しているのが課題。
・知立の伝統文化活動拠点
ア) 東海道53次 39番目の池鯉鮒の宿、山車文楽・からくり(2016ユネス
コ無形文化遺産登録、国指定重要無形民俗文化財)などの伝統文化活動の
拠点。保存会の定期公演を開催
イ)大阪文楽座との連携で人形遣い育成講座
ウ)市内中学3年生を対象に大阪文楽鑑賞事業
・将来に向けたビジョン
文化芸術活動における「社会包摂」的な事業を展開。文化芸術を通して社
会の要請や地域の課題に貢献。コミュニケーション、交流の場として貢献。
→ハートフルコンサート:障がいのある人ない人ともに文化・芸術に触れる。
障がい者自立と社会参加の促進
→多文化共生事業:外国人生徒の多い小学校へ芸術家を派遣
○この項目の感想
「市民参加型のホール運営」がモットー。会館構想の段階で「私たちも関
わりたい」との市民有志の声がここに結実していると思います。これこそが
これからの公共施設の運営の在り方として理想だと感じます。これを実現す
るには、市民からその声の上がるのを待っていて事が成るはずもなく、どこ
まで行政が市民の中に分け入り、シカケを施していくかに成否がかかるので
はないでしょうか。さもなくば、やはり巨額のランニングコストは覚悟しな
ければなりません。ただ安上がりな運営というだけでなく、市民が参加する
ことですでに会館設置の目的の一部分は達成している、そのようにも考え
ます。
ちなみに池鯉鮒「友の会」は464人。会館運営をこの人たちが下支えして
くれているのでしょう。
館長は民間からの登用、と構想段階からの方向性だったようです。従来の
単なる貸館事業から文化創造事業へ、そこには傑出した理念と発信力を持つ
人物がいるはず。それを行政の視点でなく市民活動の視点から支える。まこ
とに理想的な運営形態がここにあります。
それだけでなく「日常的な市民参加を促す施設」とのコンセプトが活かさ
れている。私たちが訪問した日はたまたま高校生の演劇祭が行われており、
その幕間にかきつばたホールを見させていただきました。外にも無形民俗文
化財の見事な山車が飾られ、日常的な「市民の居場所、活動場所」として機
能していることが伺えます。そこには「あるものを活用」することに満足せ
ず、「気軽に立ち寄ってもらおう」との来館者創出を意識した配慮もあり、市
民講座、チケットの名古屋市との価格競争? 大学や地元アーティストとの連
携など、ありとあらゆる方策を講じていることが見て取れます。
また「使ってよかった」「また使いたい」と好感度を高めるために、特殊な
備品まで欠かさないといった配慮から綿密なステージ打ち合わせを心がける
といった人的な面、専門の業者を常駐させるなどのこだわりの一面も伺いま
した。
端的に言って、「ハコは易く市民参加は難し」。それを克服している姿を見
させていただきました。
大阪文楽座との連携で中3生を鑑賞に派遣し、このことで伝統文化の後継
者を創ろうというのは意欲的。ここに従来の私たちのイメージしていた「市
民会館」とは似て非なる機能があります。市内のすべての学校から、来ても
らうか、または出かけていくという活動。巡回事業やロビーコンサート。市
内7小学校へのデリバリー。前出のパティオ・ウェーブに登録したアーティ
ストに協力してもらい、音楽室で演奏会。いただいた「知立市内幼保育園小
中高等学校巡回事業」のパンフレットは、文化庁の「劇場・音楽堂等活性化
事業」と隅に印刷されています。表紙の言葉を引用すると、
~子どもたちに芸術を~
子どもたちが優れた生の舞台芸術を鑑賞・体験し
身近に触れる場を提供することにより
芸術を愛する心を育て
豊かな情操を養うとともに
コミュニケーション能力の向上に資する事業を
パティオ池鯉鮒から発信しています
ページをめくると幼稚園の遊戯室での人形劇から室内オーケストラ、お芝
居まで、多様な演目がずらりと並んでいます。なるほど、これは貸館ではな
い。文化の拠点だ、と改めて知ります。
さらにオリジナルの「市民劇」ではプロの演出・脚本で市民が演じるのだ
とか。近隣の他の会館との連携にも積極的とのことです。
各室の利用率は、かきつばた71%、花しょうぶ72%、リハ室95%、会議
室90%など。説明くださった職員は「事業で市民に還元する」と胸を張って
語ってくれました。
ハコモノをどんなデザインにするか、これからわが丸亀市でも議論が高ま
りますが、いちばんの課題、それはにぎわいと利用者創出。このことを知立
市から学びたいと思います。
4. 可児市文化創造センターにて講演聴講
館長のおしゃべりシアター『町が元気になる処方箋~子どもの貧困と劇場』
8月10日 午後7時 Ala 映像シアター
パネラー 劇作家・演出家 平田オリザ氏(このシアターシリーズの常連)
NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク理事長
栗林知絵子氏
進行 Ala館長 衛 紀生氏
○講演の抄録(あくまで内田の聞き取りです)
栗林 長岡市出身。自然の中で育った。
わが子が骨折。友達が見舞いにやってきて「ボクも頭の骨を折ったんだ」。
どうして? と聞くと「パパが壁に打ちつけたんだ」。世の中で家庭が家庭を
なしていないのを知った。
そうした子どもたちのための居場所として自然の中で遊べるプレイパー
クを作った。そこで子どもが「食べてない。何かちょうだい」と言う。ど
うして? 「車の中で暮らしていた」「ママがパパに叩かれてパトカーが来た」。
こうした中で「年越し派遣村」のニュースを正月に見て衝撃。日比谷で
炊き出しをして年越しする光景。これはプレイパークでの会話と共通して
いる、と気づく。
原因は子にも親にもない。社会にあるのではないか、と、貧困に取り組
み始めた。まず自宅で、無料学習支援を開始。地域で勉強を教える、ご飯
を食べる。その仲間を広げた。家庭に団らんがないなら、地域で作ろう。
これが豊島区の番組「ズームアップ」で紹介された。手伝いをすると無
料でご飯が食べられる。一緒に食べることで心にも栄養が届く。
1日1食。母子家庭であることをからかわれて引きこもった子。「ママが
やつれて、おなかがすいたと言えなかった」。母はダブルワーク。子ども食
堂で明るくなり、学校にも行くようになった。
プレイパークには既存の遊具はなく、ロープでぶらんこを作るなどを通
じ、しつけ、褒める、依存体験などをしていく。タテでもヨコでもない、
ナナメの関係の大人と出会う。ここでは苦労もせずに育った大学生が交わ
り、演奏をしてくれたり、家にあるクレヨンやリュックなどを持ち寄って
くれる。お母さんは煮物を作ったこともないが、そんなお母さんを大事に
するようになる。
「食う寝る遊ぶ」を地域のつながりで作っていく。
空き家とひとり親とをマッチングさせる。
“地域を変える 子どもが変わる 未来を変える”これが「豊島子ども
WAKUWAKUネットワーク」のスローガンだ。
衛 可児市では10年前、児童扶養手当の受給者は2世帯だった。今は400
世帯に。金子みすずが「昼の星は見えない。見えないけれどもあるんだよ」
と歌うように、昼の星を見るように、孤立している人を見ていくことだ。
文化芸術劇場がどんな人をも受け入れる寛容性の目と耳を持つことだ。
平田 商店街で育つ。クルマの入らない路地裏があり、遊ぶ。こういう場所が
実は東京にはある。だから東京ではそれができる。地方ほどコミュニティ
が根絶やしになっている。地方はのんびりして豊かだ、との幻想が永田町
にはある。地方にこそ、劇場や図書館といった文化が必要なのだ。
かつては地縁・血縁の社会だった。これが企業社会となり、90年代以降
は社員をも守らない「無縁社会」となり、あっけなく人が孤立する。今の
日本に宗教はなく、人はそこに逃げ込めない。ここからは“関心”共同体
を作らないといけない。何かでとにかくつながる社会が必要だ。そこで、
劇場、公共文化施設は“出会う場所”として機能しなければならない。い
ま図書館をコミュニティスペースにしていく流れが全国で広がっている。
居場所づくり+出番づくり。これが劇場の役割だ。ここで異文化を理解
し「こんなものがあるのか」という体験をしていくことだ。
明石市は子育て支援で人口増に成功した。社員が子を産むところはみん
な産んでいる。あれかこれかの時代だけど、こどもの政策は「あれもこれ
も」であるべきだ。人口増を達成すれば税収はアップ。子どもへの投資は
すぐに結果が出る。そして犯罪が減ることにつながる。
衛 “知縁”を作らないと人間社会は危機に陥る。人権が守られない時代が
来る。高校中退者を減らすこと。中退すれば社会にごやっかいになる可能
性が増える。なんとか卒業し、社会に貢献する人生を歩んでもらう。その
ために、関わりあうことが大切だ。いま世の中は「自己責任」と言うが、
それは「縁を切る」ということだ。
夫婦の片方が亡くなることで、引きこもりが起き、孤独死につながる。
栗林さんはおせっかいだ。昔はみんなそうだった。それを「ウザい」と
は誰も思わなかった。
「自己責任」とは、新自由主義の言葉だ。昼の星を見る目とは逆行。
承認欲求の大切さ。「必要とされている」「役に立っている」という自覚
が生きる意欲につながるが、子どもも大人もそれを失っている。
栗林 行政と市民がネットワークで居場所づくりをしていく。しかしそこに来
てほしい人が来ない。おせっかいが芸術と人を出会わせる。
夏休みは給食がない。フードバンクが必要。先輩ママが訪問してアドバ
イスする「ホームスタート」も大切だ。
平田 来てほしい人に届かないのが文化政策だ。劇場に、お菓子をあげてでも
来てもらう。パリではそうしている。「来てくれてありがとう」の気持ちで。
PCを買えない家の子どもたちが、劇場にMACを10台置いたら来てくれ
た。このことで非行が減った。
劇場を、人を引き寄せる“磁場”に。「劇場は面白い」というよりも「あ
そこは面白いよ」と。愛せないことが不幸だ。フランスでは3人子どもを
育てるとチケットが大割引になる。
衛 劇場の興業は7割の入りを見込む。あとの3割はタダでもいい計算がで
きている。マイレージと同じように、行けばいくほど特典があるようにす
る工夫も。多くの企業が加入して「あしながおじさん活動」を展開してい
る。
母と子にプレゼントされたチケットで野口英世のお芝居を見に行った。
帰宅して母と子の会話を作り出せた。
西成と横浜で図書館カフェをやっている。いわばツルンとした人生にフ
ックを作っていく。何かがそれに引っかかるようにと。
日本財団のフォーラムで、貧困から脱して「納税者になれた」、普通の人
生に喜びを感じているという話があった。
岩波新書、神野直彦『わかちあいの経済学』。北欧では税のことを「オム
ソーリ」という。悲しみの分かち合い、という意味だ。「私も荷を負う」と
の意味だ。納税とは、喜びと悲しみの分かち合いである。納税者になれた、
という喜びは、納税で誰かを支えている、という喜びなのだ。
「助けて」と言えない人がいる。文化芸術の出番だ。
(会場とのやりとり)
平田 (ここに市議会議員が来てない。行政ももっとこうしたことを学んで行
動すべきだ、との会場意見に)行政がやるべき、親が、学校がやるべきと言
わず「いいね」と褒めて、行政を協力者にしていこう。
(活動の「きっかけ」について)それは、いろんなことをするしかないで
す。ちっちゃな営みをたくさんやるしかない。それを行政ができるわけが
ない。ちっちゃなことを厭わずにやる。それを行政が支える、ということ
です。
衛 Alaの備える食堂では残念だが子ども食堂はできない。しかし学習支援は
できる。教え込むのでなく、一生に寄り添うとの思いのある人であればす
ぐにでもできる。「税金を市民のために」。
サルトルは「飢えた子の前に文学は可能か?」と問うた。ルワンダの学校
では国語、算数、その次に音楽、ダンス、演劇を教える。文化はライフラ
インなのだ。
○この項目の感想
自分のメモが読み取れないのでこれを書くのに一苦労。聞き違い、人名の
間違い、発言者の違いがあればご容赦ください。しかし思い起こして書きな
がら、また再び、深い感動が蘇りました。
国語、算数、理科、社会。学校の教科に小学生が疑念や不満を持つはずも
ない。しかし「ルワンダでは」と教わると、60年も生きてきて、ほんとうに
これが正しいのか、これでよいのかと常識の根底が崩れます。そして生きて
いくとは、こうして何度も地殻変動を味わい、乗り越えて、人格完成、幸福
達成というよりも、昨日よりもちょっと幸せになる、カシコクなるというこ
との積み重ねなのか、と思う。この一夜の対談は、まさに私にとって大きな
大きな地殻変動として私を揺らしました。
進学試験制度がこうなのだから、詰め込み式、暗記優先の学校なのはしか
たがない。誰も悪くない。誰も悪くないが、世の中は良くならず、人々は幸
せでないとしたら、そのメカニズムを疑うことをしなければならない。ちょ
こちょこと入試制度を変更して、今や私は私の時代と様相一変の現行受験制
度をまったく理解していませんが、でも「詰め込み式」に変わりはないよう
だ。そんな「変われない」日本に指針を示す、大きな意義と深まりが、この
短い対話のステージに垣間見えた気がします。
「私もついに納税者になれた」と喜ぶ。節税や時には税逃れに汲々として
いる人々の中、静かに「そうだな」と認めなければならない、人が社会を形
成するときに生まれた税というものへの原点回帰。気づき。文化や芸術は実
生活とかけ離れた文化会館や美術館の“壁の中に”あるものと信じて疑わな
い日常に、その壁を打ち砕くような、そんな破壊力のある対談。その実践者
たち3人による、揺るぎない確信の言葉。昨日、衛館長のお話を聞いて出席
者一同が目からウロコを落としましたが、今宵はさらにまた一枚、というよ
りも、さっさと帰って行動に出よ、と、背中を押された心地です。
平田氏の「何かでとにかくつながる社会」「図書館をコミュニティスペース
にしていく流れ」との言及は、市民会館議論以前の大きなテーマと考えさせ
られました。その上で「居場所づくり+出番づくり。これが劇場の役割」「来
てほしい人に届かないのが文化政策だ」との氏の言葉には強い説得力があり、
たまたま彼が善通寺市の四国学院で演劇指導の役を担っておられることから、
何かしら丸亀市にも関わっていただけないものかとも思った次第です。
この報告書を書いている時点で、すでに衛館長に丸亀にお越しいただきご
講演を賜りましたし、さらに新市民会館へのアドバイザーとして衛館長に
今後もご指導をいただくことが決まっています。漫然としてはいられません。
ここに居なかったたくさんの関係者と市民に、この方向性、この時代性を伝
えなければならない。そして丸亀の市民会館は、一時代を突き抜けたね、と
評されるものを創り出さなければならない。そんな思いを参加者一同で確認
しながら、閉会後に名残惜しく館長を事務所に訪ね、記念のカメラにも収ま
っていただいて、Alaを後にしたことでした。
5. 東海市芸術劇場
○施設概要
・「東海市芸術劇場」、これを含む再開発ビルの愛称は「ユウナル東海」
・市の直営
・収容1025人の「大ホール」、移動式274人の「多目的ホール」。
特徴的な「嚶鳴広場」は郷土の偉人、細井平洲を童門冬二氏が解説。常設
展示、姉妹都市関連の学習ができるコーナー、季節の企画展示を行う。
・ほかにリハ室、ワークショップ室、大練習室、中練習室2、小練習室、美術
室、和室、バンドスタジオ2、キッズルーム、ギャラリー2、会議室、ミー
ティング室2、パフォーマンス室。名鉄「太田川駅」前、地上5階まで。上
階16階まではマンション。駅直結の店舗の入る複合施設。1階は通路とし
て開放。
○建設経緯
・2008年「駅前公共施設整備特別委員会」が議会に設置され、「大型文化ホ
ールを中心とした複合型施設」が目指された。10年基本構想策定委員会、
「文化によるにぎわいづくり市民研究会」が設置。11年基本構想、12年基
本設計、13年実施設計、着工。15年オープン。
○建設経費 建設費80億、土地10億、総計約90億円
→再開発組合が建設し、床を取得した形
○建設コンセプト
理念:『ひとづくり』『にぎわいづくり』『いきがいづくり』
・文化芸術の創造拠点、交流施設
・文化芸術活動を通じ、次代を担う人材育成
・施設を核としたまちづくり
○特質
・「直営」であること
→直営にこだわった。市の顔として、市の思いを出せるようにとの願いか
ら。指定管理にすると利益優先となる。そのために真っ先に切られるの
は「人づくり」の予算だ。そうであっては理念に反する。
→スタッフ体制
市職員
館長(ハード面を担当、次長職)、芸術総監督(ソフト面を担当、同)
…外部から招いた芸術総監督も市職員との扱い
文化芸術課 正規職員9、臨時6、社会教育指導員1
管理課 正規職員6、臨時2
施設管理(委託) 防災センター24時間1、受付業務1階1、3階3
舞台管理(専門業者) 大ホール、多目的ホールに9(催しがないとき3)
正規職員の勤務時間は 早番0830~1715 遅番1230~2115
委託職員の勤務は2215まで
・芸術総監督の配置
→可児市の衛館長から紹介受けた名古屋フィル出身の人
・様々な用途に対応した貸室、設備、備品の充実
・文化芸術活動に対しての安価な料金設定
・パブリックスペースの充実 →学生も気軽に立ち寄り、休憩も
・ガラス張りによる「見える化」
→どの部屋もガラス張り、どこからも見える
・児童合唱団、市民合唱団、子どものオーケストラの育成
→これらも直営。次世代人づくりの意味
・市民スタッフの育成
→劇場オープン前に募集し、結成した。レセプション、自主企画、イルミ
ネーションにも関わる。現在50人。40~60代女性が多いが高校生、大
学生もいる。年5回、講師を招いて研修。構想に関わった市民研究会の
メンバーが続いてスタッフとなり、さらに友を呼ぶ。プランにも参画、
建物運営にも参画。
・ひとづくりパートナーシップ協定
→名古屋フィル、よしもとクリエイティブと協定。名フィルには子どもの
指導をお願いしている。小4でアウトリーチ、小5と中2でホールにて
公演鑑賞。年2公演を依頼。よしもとクリエイティブにも年1回公演の
ほかコミュニケーションワークショップを開催。地域の公民館へ赴き年6
回のアウトリーチ。芸人3~4組で1か所を担当。名古屋よしもとから来
てもらう。これにより「劇場に行こう」とのムードにつながる。
○この項目の感想
稼働率は28年度、大ホール85.0%、多目的ホール88.5%。
駅前に降り立つと、広場はバリアフリー車の展示催しが行われ、自由に行
き来できる1階は通路であって劇場に来る人なのかどうかはわからない。ま
さに駅前のにぎわいに溶け込むように、劇場はありました。
エスカレーターを上がっても、ここにいるのはホールに来た人ではない。
ミーティングルームも使用中。ベンチには高校生が陣取る。そして細井平洲
を中心にミニパビリオン風に展開された嚶鳴広場には、おじいさんと孫、ス
マホをかざして記念撮影する外国人の姿。
今、館内案内図を見ながらなるほどと納得しますが、案内されてはまるで
迷路。きわめて大きなスペースをたっぷりと、市民が使い、活かせるように
間取りされている印象でした。
まことに幸運なことに、バンドスタジオの前を通りかかった際に偶然、芸
術総監督、その方と出会いました。スタジオ内部を見たそうにしていたら「ど
うぞ」と招き入れてくださり、話は盛り上がって、昔、ウデに覚えのあるド
ラムを叩かせてもらうと、「では私も」と、総監督自らもスティックをふるう
場面となりました。こうなるともう旧知同然。総監督が「直営」についての
思いを語ってくれました。
「直営の良さは、市もスキルをきちんと持って運営できること。直営だか
らできることはたくさんあります。指定管理だと、いちばんいいのは何もや
らないこと、となります。あえて行政がやる価値があるからこそホールを作
るのです。市と私のコンセプトが合った。着任し、ホールを見て、人づくり
ができると確信しました。必ず、人材が帰ってきます。目的、思いがはっき
りしていることが一番で、ほかは乗り越えられます。行政は条例を動かす。
それで課題をクリアしてきました(以上趣意)」
とても得心のいくお話でありました。スティックをペンに持ち替えて、急
いで以上を筆記したのです。
直営という、独自のこだわりに、私たちは「指定管理が当然」という概念
を一度捨て去り、ゼロに立ち返って運営スタイルを検討すべきことを学びま
した。しかもそれは単なるスタイルでなく、劇場の「果実」に大いに、いや
決定的に影響するものではないかと思います。深い議論を避けてはならない
と思いました。
「社会包摂」を説く衛館長の息吹がここにも注がれていました。いただい
た年間プログラムを開くと、オーケストラ、宝塚、よしもとなどの公演や興
行に交じって、市民合唱団、児童合唱団のステージもあります。またコンセ
プトを語り合ったところから引き続き、運営にまで関わる市民の活動があり
ます。市民が支えてこそ劇場は成功するのだと改めて確信します。劇場、ホ
ールの建て方はいろいろですが、究極に学ぶべきは、お客さんの数でなく、
お客さんを呼ぶ市民の数なのだと。その覚悟は大丈夫なのか、それを議会か
ら見つめてまいりたい。
6. 視察を振り返って
まずは内田の個人談から始めることをお許しください。
2016年の秋に放送された民放番組で、岡山に計画されている新市民会館の
ことが報道され、ここにコメンテーターとして出ていた可児市の衛館長のこ
とを初めて知りました。
文化施設は「社会包摂」という使命を担うという、氏の論陣に強い刺激を
受け、これから始まる丸亀市の市民会館議論にこの観点を看過してはならな
いと考え、個人としてでもぜひ、衛館長にお会いし、可児市の取り組みを学
びたいと思うようになりました。
幸いにも議員各位からも共鳴の声をいただき、また市の担当者サイドから
も高い関心を持っていただくことができ、市庁舎及び市民会館整備等特別委
員会プラス有志議員、並びに関係する市職員が連合して、可児市“ala”の視
察及び衛館長との面談、さらには近隣市で最近誕生したホール施設を視察す
るという企画が実現しました。
衛館長からのレクチャーに受講者一同、深く心を動かされ、このことを契
機に、秋には衛館長を丸亀市に招いて市民に開かれた講演会を開くというと
ころまで話が広がり、さらにこれからの具体的な本市新市民会館構想に衛館
長に直接関与いただくことまでが決まったことはすでに述べたとおりです。
ここまでの足取りに、議会として一定の足取りを刻めたことと喜んでいます。
また館長自らが公開座談会を主宰し、発信している。HPでの連載モノをは
じめ、発信量も半端ではありません。よくぞこの人物を招いたものだと、可
児市の先見性にも敬意を表したい。丸亀の新市民会館建設で、いちばん心配
なのは建物のことでなく、人のことではないのかと思います。
今回の視察で、駅前再開発の大きなウェーブの中で組み立てられた構想も
あれば、伝統文化の保存と後継者育成を前面に打ち出しての設計をしたもの
もありました。共通するのは施設が住民の幸福に積極的に関わるものである
こと、そのために「打って出る」コンセプト、「市民とともに」の哲学を備え
ていることでした。しかしこれがいちばん難しい。予算さえ確保できれば建
物は建つ。それが住民にどのように文化という高度な“福祉”をフィードバ
ックできるのかは、これは構想に携わる私たちの深い洞察と行動とにかかっ
ている。いや、今回視察をした私たちを除いて、おそらくこんな理念を、住
民は夢にも思っていない、そのような地点から議論をスタートさせなければ、
きっと妥協的なものに終わってしまう、そう危惧します。
あるテレビのまち歩き番組で、案内者が探訪者に「このお寺は誰が建てた
かご存知ですか?」と、歴史上の人物を当てさせるシーンがありました。とこ
ろがひょうきんなその探訪者は「ひょっとして、大工さん?」と笑わせるオチ
となりました。私たちはこれから新市民会館建設に当たり、後世「誰が作っ
たんだ?」と問われるときに、特定の建設業者の名前でなく、「われわれ市民
だ」と胸を張れるようになりたい。立地、建設物価、使い勝手、運営形態、
稼働率、市民満足度などなどたくさんのことを検討しなければなりませんが、
まずはそれが「人間の家」であるのかというチェック項目を忘れないように
したい。今回の視察行全体を通じて、この地に適した最善を目指すことは当
然ながら、その上にも上を行く、全国模範の「家」を作る。このことを遥か
に展望したいと思います。