レポートTOP

○「自治体決算の基本と実践~行政評価を活用した決算審査~」

 

   期  日 201441618

   会  場 全国市町村国際文化研修所(滋賀県大津市)

   指導講師 関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科教授 稲沢克祐氏

                            (3日間通し)

 

研修会の概要

 4/16 講義「決算の意義と審査のポイント」

    演習「決算審査の実践」

 4/17 講義「決算審査の新しいアプローチ」

    演習「決算審査の新しいアプローチを用いた決算審査の実践」

    演習「行政評価を活用した決算審査Ⅰ」

 4/18 演習・発表「同Ⅱ」

    講評

 

講義録 以下、文責は内田にあります。

    講義と演習が関連しているので、以下、資料に沿って書きます。

 

1.自治体決算の基本と実践~行政評価を活用した決算審査~

 

○自治体決算の基礎

 ・自治体の環境変化。ストックサイクル=人、モノ、カネの変化。

  人口減少、人口半減が66%、うち2割は無居住化、生産年齢+年少人口で

2050年には60%と想定される。単身高齢者の増加、民生費急増で〝クラウ

ディングアウト〟=〝締め出し〟への危機。

→この変化に、準備していればチャンスに。していなければピンチに。

公共施設・インフラ資産の維持管理・更新費は2倍に。

道路は陥没、水道は来ない、という事態も。市民も役所も議会も、土の中に

は目が行かない。

 ・ある有料化説明会でのこと。反対派が2時間、マイクを譲らない事態に。

  最後にアンケートを取った。結果は8割が「有料化はやむを得ない」、2

が「反対のまま」だった。マイクを持たない人は説明を受け「こんなにお金

が必要なのか」と理解をしている。「知らなかった」と。このことから、〝

総論〟を理解させる努力が大切だ。各論反対の人は、総論がわかってない人

だ。

 ・グラフで示されると、社会資本の維持管理コストは、2030年に枯渇するこ

とがわかる。それ以降は更新どころか維持管理もできない状況になる(国土

交通白書H23年度版より)。新しいものを作るとごろか古いものも修繕でき

ない。

 ・国の借金は増大、地方財政は硬直化、自治体債権が劣化(不良債権化)、投

資・出資金の劣化(公社、ビル管理会社の経営悪化で市が出資している金は

資産でなくなる)、合併自治体の合併算定替終了でいよいよ借金体制に。交

付金上乗せがあるも「焼け石に水」。

→この状態の下での決算審査で、債権や出資金の劣化がどこに表れるかを

知ることが大切。データはあるのに活用されてない、見過ごされている事実

がある。

→公社への出資金1億円がゼロに消えてしまった、という事態は、貸借対

照表を読み解くことでチェックすることができる。

・篠山市の再生委員として携わったが、いまや「貰えるものは使う」という考

えをやめる時が来た。

 ・地方財政の危機の足取り。①S30年。1万の自治体中3分の2が赤字団体

に。大合併で3300に。この時は〝良きインフレ〟により、借金の重みが目

減りした。税収増で借金を返せた。国にも余力があった。S40まで国債発

行なし。しかしS50、赤字国債発行へ。②1975年、オイルショック。国に

余力なし、支えられない。この時は〝ゆるやかなインフレ〟で復活できた。

③平成年間デフレの20年。借金ますます重く、抜け道がない。地方の借金

は減りつつあるも、国の借金が増えつつある。

 ・人口減少、児童も減れば学校施設が余っているはず。再構成が必要。

 ・「決算は終わったこと、これからの予算の方が大切」との感覚がダメ。

  「決算の結果を見て、予算を審議する」=決算重視の財政マネジメントに。

  「決算から予算へ」連続性で考える。

  「PD」(プラン、ドゥ。それで終わり)から「PDS」(シー)に。何の意

義があるのか、よく考える決算に。

  例:26年決算審議での質問に「検討します」と答弁→27年予算で「検討し

たのか」

 ・9月、12月議会は政策議論が行われるべきだ。

  次年度予算への提案は12月議会で。

  3月議会で見解を聞くことにする。3月に提言しても「後の祭り」だ。

  12月に提案をするなら、9月の決算がその元となる。

  12月には決議など行い、方針を表明すべきだ。

  12月にこそ手を打て。そのための決算である。それでこそ連続性が保てる。

  増額修正には限度が設けられている。財政統括が議会の責任だ。

 ・予算には「一部修正」があるが決算に「一部認定」はない。まず認定してお

いて、次の予算に持ち込むようにする。

 ・法定書類の用語基礎知識。とりわけ

  「収入未済額」。これを経年で聞くことが大事。未済のまま放置しない。歳

入放棄となる。未済額が減ってない、増えているという事態に着目。努力を

せよ、無理なら欠損に、と。債権管理しているのかを問う。

「不用額」。効率化の努力で余ったのか単なる切捨てで余したのかを見る。

前者なら「よくやった」となる。公会計では「予算は使うもの」。しかし民

間出身市長なら「予算は余すもの」=〝余算〟と考える。

ひとつの課の効率化で生んだ「余算」は全庁へ波及。そうすれば10のイン

センティブを20にもできる。健全化へのインセンティブへも回せる。

 

○公会計制度改革の理解

 ・発生主義の導入。公会計制度改革で議会が提言できるようになり、結果、市

が変わっていった秩父市の例。

 ・財務書類4表の理解。

 ・公平と衡平。両者のバランスが取れていることが重要。公平と衡平は同じで

はない。貸借対照表の「負債」は、企業なら他者から調達するものだが公会

計では将来世代から調達する。世代間の〝衡平〟負担が求められる。

 ・(関連して)外部評価はやるべきか。外部評価は議会がやるべきだ。評価者

は〝代表者〟なのか〝専門家〟なのか。議会こそ評価者にふさわしい。外国

では議会がやるのが普通。議員定数は〝真のリストラ〟。単に削減するので

なく、〝評価者〟にふさわしい陣容の議会に。ぶれない「評価軸」を設けれ

ば、内部であっても「お手盛り」とならない。客観性のあるものとなる。そ

のためにも議会がまず評価を。それに対してさらに外部評価があるのなら

OK。議会が評価の主体に。

 

○行政評価

 ・行政評価の2層構造。

  →予算編成活用なら「事務事業評価」課長が評価責任者

  →総合計画策定や進捗管理なら「施策評価」部長が評価責任者

  →2層構造なのは〝活用〟するためだ。活用するための評価でなければ職員

の負担を増やすだけだ。使えば〝情報〟、使わねば〝ロス〟。しかしシート

記入が目的化する傾向がある。

 ・茅野市の評価はしっかり機能していてレベルが高い。市民評価が進んでいる。

市民が総合計画を作る。市民が作った総合計画だから、市民が評価する。

「市が作り、市民が検討」から「市民が作り、市が検討」へ。

 ・「評価」と「格付け」は異なる。「評価」とは課題を見つけるポイントだ。

 ・「評価」を査定に生かす。総合評価「C」だと「けしからん」と言われる。

するとすぐに「A」にしてくる。これでは意味がない。

総合評価は格付けでなく、方向性を示す記号だ。

 ・「よく見せる」評価より「よくなる」評価を。秩父市では「C」が多い。こ

れによって課題が見つかる。改善策が見つかり、予算に反映させられる。「C」

が多いほど頼もしい。「A」ばかりの評価は何もならない。「A」にこそチェ

ックを。「C」「D」にこそ予算がつくように。

 ・評価シートの例として名古屋市の「基本健康診査」。指標を「早期発見率」

とせず「受診率」とした。前者が目的ではあるが、調べるのに手間とコスト

がかかり、プライバシーに差し障る。そこで第2指標として「受診率」とし

た。

  開始年度も記入する。漫然と繰り返していないかをチェック。

  「事業の目的」の項目で、単に「市民の健康保持」としている例もあるが、

名古屋市では「早期発見」としている。正解。それでこそ「成果」の書きよ

うがある。ここがポイントである。

  関わる職員の人数を明示することで人件費の「可視化」ができた。

  評価項目の構成は必要性、有効性、達成度、効率性、としている。その背後

に、それぞれの評価視点の理解が徹底されている。

  舵取りは議員だ。漕ぎ手が職員だ。

 ・「効率化」と「削減」は異なる。投入量を変えても同じサービスを維持する

努力をするのが効率化。投入量を減らしてサービスが低下すれば削減。

 
レポートTOP

2.演習での個別指摘点

 

○事項別明細書での着眼点(秩父市を例に)

 ・歳入確保で、収入未済=債権管理の状態を見る。

・財産収入の中に不動産売払収入がある。いくらで買ったものがいくらで売れ

たのかを見る。努力が表れるところ。

 ・市報への広告掲載料収入100万円。よそがやっている収入を取れてないな

らば「機会損失」。

100万円の広告収入がもし取れなければ、その分、税金が使われたはず。こ

のことから大きな節税貢献と評価する。能力の高い公務員からアイデアを

引き出す努力を、上司も議会もすべきである。

これらは「雑入」の中にあるが、雑入の中に努力の跡がある。

 ・歳出の説明をわかりやすくする首長と、それを使いこなす議会は、車の両輪

である。

 ・市民と議会がわかってこそ決算である。予算が成果と不一致ではわからない。

ここは首長の質に関わる。議会の改革に関わる。

 ・評価と予算が突合していない。秩父市もかつてそうだった。それを1ヶ月か

けて突合した。やればできる。

 ・「障がい者生活福祉手当等給付事業」に2.4億円、「障がい者生活支援事業」

2800万円等とある。「何をしたのか」、主要成果報告書に連動させて一目

瞭然とわかるように。

 ・「実質収支に関する調書」で、「翌年度へ繰り越すべき財源」の欄がマイナス

になっていた場合、赤字になってからでは遅い。マイナス情報は何年も前か

らあったはずである。それを見落とさない。

 ・「財産調書」で、市庁舎等の「現在高」が金額でなく「㎡」で書いてある。

これは欠陥。

  普通財産は、売ろうと思えば売れるもの。昨年と比較し、減っていないこと

は、努力してないことにつながる。

 ・現金主義と発生主義。どこまでも現金主義はなくならない。しかし、これだ

  けでは、税金がどれだけ土地建物に入れられたのかわからない。お金が足り

ないことのない時代はそれでよかったが、今は改善の必要がある。

 ・「出資による権利」の表では、当初の出資を書いてあるだけ。これでは上が

ったのか下がったのかがわからない。経営悪化の子会社があることもあ

るのに、この表ではわからない。

○決算カード、財政状況資料集、類似団体比較カードの留意点を解説。省略。

○秩父市の「基本事業評価シート(主要な施策の成果報告書)」

 ・決算予算が同一情報に一本化されている。決算情報の中で、次年度の方向性

がつかめるようになっている。

 ・「改善提案」の項目では、スクラップ&ビルドの方向が示される。具体から

抽象に戻した改善提案。決算が次年度予算に連結し、次年度予算の方向性が

ここに示される。

 ・職員によって提案された改善案に予算がつけられるのかどうかが分かる表

として、「重点化欄」が設けられている。表は縦に成果の方向性を下から上

に休廃止→縮小→維持→拡充、横にコスト投入の方向性を左から右に皆減

→縮小→維持→拡大となっていて、拡充の拡大ならば「コスト投入して成果

拡大せよ」であり、拡充の維持ならば「コストを上げないで成果を上げよ」

であり、拡充の縮小ならば「予算を減らして成果を達成せよ」(つまり市民

が担うなど)となる。同じく「達成していない」ものであっても、止めるも

のと、もっとコスト投入するものとが判別される。

○芦屋市の財務書類(総務省方式改訂モデル)

 ・財務書類の変遷

  最初は1987年、熊本県の細川知事。3300団体のうち27団体が作った。→

バブルで止まった。→英国でNPMが始まり、民間経営の理念や手法を取り

入れることが提唱される。→1990年後半に三重県庁、臼杵市、仙台市など

で取組み。→これを受け、自治庁が研究を始める。→2001年頃、総務省方

式(旧方式)ができた。→2003年、新・地方公会計改革ができた。

 ・新・地方公会計の〝新〟たるゆえんは、『資産・債務改革に資するツールの

整備としての公会計改革』であった。「地方は企業のように整備せよ」とい

うこと。

 ・茅野市は、11月に議会に「財務諸表」を提出する。翌年の3月に提出と言

う市もある中で。しかも60ページの解説付き。

 ・現在のところ、基準モデル採用が西宮市など10%、総務省改訂モデル採用

が芦屋市など85%、都のモデル採用が1%。ほかに独自のモデルもある。

 ・現金主義は幼稚、というのは間違いである。企業会計が優れているなら黒字

なのか、というのと同じだ。

 ・日本とドイツのみ現金主義。英米仏、ドイツの州、オーストラリアなどが発

生主義に。10年から20年かかる。ただし、税金が現金で入る以上、現金主

義は手放せない。消えることはなく、並存していく。

 ・芦屋市の財務書類の構成

   ○普通会計財務書類4

   ○市全体の財務書類4表…普通会計+公営事業会計…市役所職員の範囲

   ○連結財務書類4表…市全体+一部事務組合+広域連合+大学や病院な

どの地方独立行政法人+3セク等

 ・以下、貸借対照表、行政コスト計算書、純資産変動計算書、資金収支計算書

に沿って解説。省略。

○某市の「集団資源回収事業の基礎データ」を素材に演習。グループ討議。発表。省略。

 

3.感想

 

 3日間に及び、稲沢先生から決算の見方、指摘の仕方について詳細に、現実に即した勉強をしました。

 実際の評価シートに取り組み、グループでディスカッションを行い、進行、記録、発表と係を決めて実践モード。まったく気が抜けない、そして漏らしてはならない重要なポイントがしっかり詰まった内容でした。

 とはいえ、何事も数日が経つと忘れてしまいます。必死で先生の講義を資料に書き取りましたが、レポート作成にあたり、それを読み返してみて、これが即、決算の実践に生かせるのか、心もとない部分もあります。

 市職員として、しかも財政当局で来る日も来る日もこの仕事に携わる身ならば忘却は許されませんが、いかんせん、これがたちまちに私の「身につく」ということにはならないことが残念です。

 とはいえ、「なるほどそうか」と納得し、また急所を示されて忘れまいと心に期したところも多々ありました。このレポート作成の時間は、良き復習の時間でもありました。

 ここで改めて記しておきますが、

 ○予算について3月に提言しても「後の祭り」だ。12月にこそ手を打て。そ

のための決算である。それでこそ連続性が保てる。

 ○財政統括が議会の責任だ。

○民間出身市長なら「予算は余すもの」=〝余算〟と考える。

 ○外部評価は議会がやるべきだ。

○議員定数は〝真のリストラ〟。単に削減するのでなく、〝評価者〟にふさわ

しい陣容の議会に。議会が評価の主体に。

 ○秩父市では「C」が多い。これによって課題が見つかる。改善策が見つかり、

予算に反映させられる。

○舵取りは議員だ。漕ぎ手が職員だ。

こうしたフレーズを、何度も記憶に蘇らせ、同僚議員と切磋琢磨し、議員力をさらに磨いていかなければならぬと覚悟を新たにしました。

まとめとして、

1.決算カード中心の財務情報の分析

 一昨年の分析をして昨年の決算を評価する。そして来年の予算に連動。

2.ストックの視点を財務4表で捉える。

3.行政評価

 →行政の業績は財務数値以外で出る。決算と予算でこれを押さえることが

行政評価だ。

そして「財政民主主義」とは。市民にどう負担させるか、どう使うかを決定していくことであり、それは議会の大きな責任である。

議会の責務を、決算審査のノウハウから高く大きな観点で俯瞰し、3日間の濃密な勉強が幕を閉じました。

グループ演習を通じ、77通りの意見があり、1010通りの政策があるのだと認識しました。議会は複数議員の集合体。これが議会という仕組みの「強み」であると思います。しかしながら、考えない人、しゃべらない人が何十人いても決算のチェックや政策提言はできないし、むしろ1人の正論に6人の謬論があれば後者が採用される、そんな不都合も議会制民主主義は伴います。いたずらに紛糾する。議する能力なく多数決がまかりとおる、そんな局面もはらんでいます。このたびの決算審査の勉強を通じ、決算審査のノウハウとともに、そんな大局的なことも改めて思いました。

私自身、丸亀市議会の一員として、議論の場を開いていく、議論を実らせていく、そんなシカケのできる一人にと自分に期します。

来年度からわが市議会でも制度上、決算と予算が連動する仕組みが動き出します。基本条例制定に続く、議会改革の第2弾ともいうべき大きなステップ。これを生かすも殺すも、われわれのスキルと情熱次第。緊張して向き合います。


レポートTOP