○北本市新庁舎 埼玉県北本市
1.北本市の新庁舎建設の概要
旧庁舎は昭和38年築。増築で狭隘化、分散化。エレベーターもない。
「緑に囲まれた健康な文化都市」を目指し、その拠点として、
①市民自治の拠点となる市民に親しまれ市民に開かれた庁舎
②将来的な市民サービスにも的確に対応
③地球環境に配慮
④周辺地域との調和を図りながら市の将来都市像を表現する庁舎
を目標とした。
なお現市長の公約である「こどもプラザ」も併設される。
市民アンケートなどを通じ、庁舎建設の合意は得られるも可能な予算の範囲内で、との注文も強い。半分を建て、後半で残り半分を建設するという方式。訪問時は今秋の後半工事完了へ向け、シャッターで仕切られた建設途上の庁舎で、視察を行わせていただいた。
2.建設への経緯
○H4 市制30年となるH13完成を目途に検討委員会を発足。
○基本計画まで策定されたが、H11、財政難のため再検討、凍結へ。
○H18 再度の見直し。19 基本構想策定。
○H19 市民説明会、基本計画パブコメ実施で本格スタート。
3.建設についての詳細
○建設地の条件から、Ⅰ期として空き地に建設→取り壊し→取り壊したところにⅡ期建設、という手順。
○パスポート交付、土曜開庁に対応できる設計。
○近隣「コナミ文化センター」や住宅地に配慮し低層、緑の広場のある庁舎。
○北本市は地盤が良いという特徴があり、免震でなく耐震構造とした。
○建築単価30.6万円。建設のタイミングは、結果的には「安くつく」ラッキーな時期だった。 労務単価、建設費、消費税の面で、単価30万円が今なら36万円くらいにつくだろう。
○防災拠点としての機能。72時間自家発電、地下に軽油1万㍑の貯油槽。職員が4日分の貯水量、7日分の緊急排水槽。防災倉庫、テントサイト、ボランティア活動拠点、ヘリポートを備える。市役所近隣3施設(市役所、文化センター、中学校)が有機的に防災機能を果たす設計。
○市内業者の優先。この規模になると地元一括は難しい。外構の一部、倉庫は市内業者に発注。大手業者には「市内業者を使えば3点追加」との条件を付けた。
工事本体でなくても、工事にまつわり弁当、文具、ガソリン、クリーニングなどで市内業者を使えば加点。
○市長がマニフェストで「25億円以内で庁舎本体工事」と発表。これを守る必要があった。
○基本計画での市民意見の集約。障がい者、商工会など5団体への説明。8公民館で市民説明会。広報と同時に資料を全戸配布。パブコメ。
○基本設計での市民意見の集約。基本設計検討会議(40人会議)を8回開催。市民説明会を9箇所で開催。パブコメ。
○実施設計では議員が出前講座、市長も出席したタウンミーティング。
○これら市民意見で、庁舎建設自体への反対は少ないが、事業費についての意見は多かった。
○議会では、庁舎等建設特別委員会が11議員で構成、61回開催。
○建設業者選定のプロセス。基本計画時点でプロポーザルを実施するも申込者なし。公共建築協会に随意契約。基本設計は公募型プロポーザル。実施設計は基本設計受注者との随意契約。建設工事は施工者選定手続等検討委員会が方法を検討し、条件付一般競争入札、総合評価方式で実施。
○食堂は、隣の文化センターに100人収容のものがある。
○市民の要望で、急遽、Ⅱ期工事の1階部分に「市民ホール」を作ることにした。
○庁舎レイアウトを考える際、執務をまず考えたほうが良い。先に建物ありき、スペースありきで、後に苦慮した。職員の声をどこまで反映したのか。それが設計にどこまで込められたのかが課題。
○象徴的なのは屋根のない自転車置き場。評判が悪い。必要なものは必要。「車庫のない家だ」との批判もあり。
○パソコンの引越しは大変。各部署10業者が関わって30業務にわたる。事前調整も大変だった。間をあけることは許されない。しっかりと準備することが大切。
4.感想
いよいよ今日からⅡ期工事の杭打ちがスタート、という日の訪問でした。
市役所近隣3施設が有機的に防災機能を果たす設計、というところは、丸亀市における大手町の有機的活用について、参考にさせてもらわなければならないことだと思いました。東中学校は確かに災害対策のときに市役所と一体活用ができなければならない。ヘリポートとしての運動場だけでなく、避難所としても市役所と連携が求められるし、また市民ひろばは、市民ボランティアの活動拠点として活用される、というように、具体的に構想が広がります。
庁舎建設位置を市の南部に、という意見もいまだにありますが、このことも新たに、現在の大手町に、という方針の説得力になると思います。
また冒頭の基本指針の歌われているように、市役所は市役所職員が仕事をするところ、ということを超えて、「市民自治の拠点」であらねばならない、このことも深く銘じたいと思いました。
市長マニフェストで工事費用の上限がまず示されたという特徴ある進め方で、確かに市民も納得する廉価で完成するものの、使い勝手の面では困難が伴った。建設に関わる部局がひとりで進め、職員には「明日、引越しです」という突然のことになってしまうと、引っ越しがスムーズにいかない、引っ越してみると予期しない問題も起きる、など、詳細に説明いただきました。「一丸となってやろう」、これが反省から生まれた重要なポイントです。
備品についても2億を1億に。倹約をするために現在のものを引っ越して使う、としたときに、新品を整えた場所に移動するのとは異なる大変な引越し作業と経費がかかる。見栄えも悪いし、またいつか、中途半端に買い足さなければならないことを思えば、倹約のようだが要検討、とのこと。現有の備品は捨てるものもあるが公民館や自治会に回して使っていただくこともできる、と。セットで買うことで、長い目で見れば安くつくとの考えもある。
高い評価を得たものは、①仮庁舎を作る経費が要らなかったこと ②吹き抜け、採光、換気で省エネを図ったこと ③二重ガラス、S構造でコスト削減を図ったこと、が挙げられていました。
経費と機能とのせめぎあいの中で、十分な議論を経て、どこかにひとつの結論を見出さなければなりません。さまざまな課題が渦巻きますが、できるだけ、英知を結集し、そして市民の賛同と評価を得る工夫もしながら、全国に誇れる先進事例を、残していかねばなりません。
東日本大震災から3年が経ちました。先日、NHKで「3.3兆円」というタイトルの、復興予算を検証する番組がありました。人口流出に歯止めがきかない現状でも、ひとたび国のメニューに則れば、「歯抜けの住宅街」「海が見えない14.5mの防潮堤」といったことがクローズアップされるなか、やはり「寄り添ったまち」「機能を集結させた設計」がこれからのニーズと、改めて痛感しました。のみならず、それ以降の新聞記事でも、14.5mの防潮堤を建設するために地中深く「矢板」を打ち込む、そのことで地上から海に注がれる養分が途絶え、海が枯れていくという現象があるのだそうです。先見性ということの、どれほど難しいことでしょうか。
ここに大きな責任を担い、決断をしていかなければならないという、私たちの引き締まる思いがあります。さらにさらに研鑽を重ね、市民の皆さんとやりとりを繰り返し、そして市内部の検討に私たち議会もしっかり口を出して、自らの責務を全うしたいと思います。
なお、視察時にご恵与いただいた資料中、全戸配布した「別冊 広報きたもと 新庁舎特集号」、「基本計画概要版」はコンパクトで、今後丸亀市においての市民への資料提示として、参考になると思いましたので付記しておきます。内容もさることながら、広報別冊はA4サイズながらタテを0.5cmほど長くし、広報紙からインデックスが飛び出しているような工夫がされています。「何としても知ってもらいたい」という思いを、ここに見る思いがしました。