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〇国立市「職員の人材育成基本方針」          東京都国立市


 

 視察日時  令和5年1114日 午後2時~3時30

 視察場所  国立市役所

 

1.視察意図

 

 国立市ではシリーズ化して新書を刊行している。その第3弾、準備号から通算4冊目になる本が市職員の人材育成基本方針を取り上げた内容になっていると知った。どうしてそういうことをしたのか、何がねらいなのか。そこには、一般通例的な自治体の「人材育成方針」と異なる何があるのか。そこを学びたく、視察をお願いしました。

 

2.視察の概要

 

①新書「学びと成長~国立市人材育成基本方針」の概要

 本の冒頭から詳細を極めた、研究書かと見まがうような編集長による補注というのが続く。ウェルビーイングとは。ネガティブ・ケイパビリティとは。パースペクティビズムとは…。これが本編でスラスラと使われていてなるほどすごい配慮と構築だと舌を巻く。

 第1部。大学を出てダイレクトに国立市の職員になった人もいれば一つあるいは複数の民間企業や別の公務経験を経ている職員もいる。第1部では冒頭に、そうした民間や市役所以外での職場経験がどのように役立っているかをテーマに座談会。席上、「市役所で最も自分の席にいない部長」と定評の部長が話を向けられて、「よその部署の職員からもいろいろ学んでいるんです」と。

 次は副市長を囲んでの、新規採用職員が集っての座談会。ある新人職員は「前の損保会社での勤務経験が対人折衝力として役立っています」と。

 第2部。人材育成基本方針の本体。後述。

 第3部。それぞれの部署のミッションについて自信と意欲にあふれた紹介が続く。

 最終第4部「市政に活かされる学び」。まさに人材育成とは「学び」である、そして市民の喜びこそがわが喜び。そんな雰囲気が記述に横溢。ある保健師は新人時代、先輩から「地域で活動する保健師は、地域をみる力、つなぐ力、動かす力が必要」「自席で座っている暇があったら、地域へ出て地域の人の話を聴いてきなさい」と言われたことを今も大事にしています、と語る。まことにすがすがしい読後感。こうして書籍にすることで、どの職員も本を座右に気軽におさらいができる。市民もこのように市民に開けた姿勢を見ることで納得もし、賛同もし、アイデアも寄せてくれるようになる。味方になってくれる。いわば行政と市民が一体になれるツールとしても機能しているように感じた。

 

②視察の概要

・現在、正規職員は489人。これとほぼ同数の会計年度任用職員を擁する。人材育成基本方針の対象はその両方である。国立市内在住の職員は2割。

・定年延長の時代となり、今後、若い人をどう確保するかがテーマだ。近隣市町で人材「取り合い」の様相を呈している。

・国立市総合基本計画の基本理念は「人間を大切にする」。この理念から、さまざまに政策が派生していくなか、政策9「自治体運営」基本施策26「変化に対応できる柔軟で効率的な行政運営」展開方向3「職員の人材育成と職場環境づくりの推進」と位置付けられ、ここから「人材育成基本方針」が樹立される。

・基本方針ができるまで

 副市長ヒヤリングフィードバック会議若手係長による座談会原案作成・起草委員会での確認職員アンケート全庁意見募集。このプロセスにH30

からR3まで要している。

・「国立市民の幸せの土台づくり」に資するため、正解のない時代に適応し、多様な知を組み合わせて最適解を探し出すことができる職員を育成する。これを掲げ、市職員が口を揃え「誰かのためになりたい」をモットーに。この志で市役所を目指す。

・副市長はまちづくりコンサルタント出身。「正解のない時代、正解の変わっていく時代だ。そこで正解を探せる職員を目指すのだ」と。

・仕事を通じて、「職員も幸せになる」ことを職員共通の価値観として掲げる。

・基本的な仕組みとして、市役所のM:ミッション、V:ビジョン、V:バリューの3本柱を据える。これらを全職員が共有しよう、民間マネジメントのフレームを自治体で取り入れたことが、他にない国立市の特色である。

・これからの人材育成は「誰かに育成される」のでなく「自ら育つ」というあり方であるべきだ。

・これまでの職員採用試験の経緯。大学を借りて一斉試験を行ってきたが各地のテストセンターで行うように変更。試験に合格しても入ってくれないことが課題であった。民間に行こうか迷うだけでなく、他の自治体に行こうか迷う。自治体間での奪い合いが激しい。

・職員の(定年退職を除く)離職状況に危機感を抱く。

・具体的な手法は、MVVの仕組みに基づき①人が育つ土台づくり②人を育てる仕組みづくり③人が活きる職場環境づくり、でそれぞれに展開。

 ①人が育つ土台づくり

 労働市場の流動性を踏まえた戦略的な人材確保。筆記試験や通常の面接では人物はわからないことから、人事担当だけではなく他部署複数の職員、3名1チームで5~6チーム編成し面接。「いっしょに働く人を自分たちで選ぶ」組織一丸となった採用活動。人事異動は紙一枚でなく内示の場で丁寧に。自己申告もあり。提案制度、FA制度あり。

 ②人を育てる仕組みづくり

 人事評価制度を活用した、組織力の向上と職員の向上目指す。計画的なOJTOff-JT、職員自らの学びを促す風土づくりとして例えば学生時代からこつこつ研究している人、地域でNPO活動に参加している人などに補助も。

 ③人が活きる職場環境づくり

 職員のライフステージ(子育てや介護など)を踏まえた働き方の改善(テレワーク、時差勤務、残業削減)。夫婦で市職員というケースもあり、それぞれの部署は大変。だがその経験を組織としての学びとしていく。国立市は男性育休取得が近隣市の中で多い。女性の活躍推進では現在女性の管理職割合は16%。年々増加している。対話とコミュニケーションの充実による、職員間の信頼関係の構築。メンター制度を採り入れ、新人が入ると1~2年先輩が悩み相談に応じる。似た職、同じ経験を持つ人が相談に乗る。これにより、直属の上司には言えないことも相談できる。その情報が職員課に入ることで生かされる。昇任は、主任から課長補佐へは試験を行い、係長から課長へは推薦で行う。人事異動は原則5年だが実際には3年が多い。

 

3.感想

 

 「1+1=2.5」に。これをモットーに、副市長がその持てる民間コンサルタントの腕前を振るい、職員を鼓舞しているとのことでした。私はここまで丸亀市の人材の采配を眺め、まず、国立市のこの人材育成方針の「陣立て」の精巧さ・緻密さが丸亀にあるのか、次に「方針」がいくら文章として完成されていたとしてもそれを実行し「魂を入れる」ことがトップと担当部局の力量には必要で、それがなされていないと言い切る資格と材料が私にはありませんが、議会人として眺めていて、これで万全かといぶかる場面は少なくありません。一方で、「ちゃんと仕事をしてよ」と言えば、言い方によればそれが「パワハラ」認定されるとなれば、あるいは議会という市民からの「カスハラ」とでも呼ばれるとすれば、これはもう職員に何もモノが申せなくなる。そういうことも感じつつ、「納税者は切ないのう」とため息をつくしかないのか、そんな思いにかられたこともかつてはありました。

 例えば、官民協働が民間企業、市民活動の両面で行政の最大のテーマであることは論を待たないところ、マルタスの運営や民間企業との包括連携協定などにおいて真に実効ある足跡を積んでいるのか。議会でのやりとりではきれいな言葉で済む、あるいは私たちは職員や行政を「やり玉」にあげるのが自分の仕事とは思っていないからそれなりに婉曲な言い方をしているが、それに甘んじず、それ以上に回り込んで私たちに理解を求めよう、自分たち職員の取り組みを何としても議会・市民にわかってもらおうという積極意欲はほんとうに見られない、それが率直な私の議員として持つ今の印象です。国立市が本を出してまで市職員の人材育成方針を市民と共有し、理解を求めようとしている、市民を味方につけようとしている、そこに、私は丸亀市との相違点を見ます。

 視察直後の12月定例会の一般質問で、このことを取り上げさせていただきました。私ができることはここまでです。ご当局にこの視察報告もお読みいただき、本も読んでいただいて、ぜひ、これからの丸亀市役所職員の人材育成の参考にしてほしいと願います。

 昭和の時代の、私も市役所職員でしたが、それと現代とでは職務の中身も職場の様相も一変です。国立市でもおっしゃる「これからは教わるのでなく自ら育つ時代」というのは、本質的には古今、洋の東西を問わずどこでもどんな職域でもそうであるしこれからもそうだろうと思います。だからといって育たぬ人を捨ておくことはできない。自ら育つように道筋をつけていくことは至難です。給料や待遇にモノを言わせることも公務員には難しい。どこまでも、上司との面談、励まし、双方向、信頼。それらが欠かせないのだと今、自分の公務員時代を振り返ります。「内田さんがこれまででいちばん、上司らしい上司だった」と、私が退職後、偶然会った元部下から評されたことを今も忘れません。国立市で掲げられている「職員も幸せに」というスローガンを、ぜひ丸亀市でも体現してほしい。人材育成部局の熱と力に期待します。

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