○動物愛護地方議員の会研修会 京都市
1. 視察意図
私の加盟している動物愛護地方議員の会の総会が数年ぶりに京都で開催。その案内を受けました。
内容は①元国立大学法人帯広畜産大学理事・副学長、弁護士の吉田眞澄氏による講演会②京都動物愛護センター視察というものです。
期日 平成28年8月22~23日
会場 京都テルサ 現地
2. 吉田眞澄氏講演「動物愛護行政と自治体の役割」
○氏の動物愛護との出会い
氏は1970年に渡欧。83~85年、ミュンヘン大学で研究。
1800年代初めから、ヨーロッパでは動物愛護の取組みがスタート。ドイツ滞在中にその内容に大きな啓発を受けた。これが自身の動物愛護運動へ関わるきっかけとなった。
古くから欧州ではペットは領主のもの。それを移譲されて領民がペットを飼うというしくみで、飼う人には責任があった。飼い主責任が言われ、自分勝手に飼うことはできなかった。
ベルリンでは2割の人が犬を飼っている。これは日本と同じ比率だ。でもはるかに、ベルリンのほうが町で犬をよく見かける。レストランでも駅でも。犬の社会進出に大差がある。
「子供と犬のしつけはドイツ人に任せろ」と言われる。それくらい、ドイツでは犬の教育が徹底されている。犬の学校もたくさんある。
○日本では2000年が節目。1973年、動物保護管理法が議員立法で成立。これが日本初の、まとまった政策の始まり。ヨーロッパを意識してのものだった。
1973~1999まで、法律による「3万円罰金」の適用はゼロ。人的物的に動きなし。
2000年から本格始動、3度の法改正を経てかなり充実した法体系になった。
環境省の所管になってからは業者規制の色彩が濃くなった。体裁のうえでも「基本法」に当たる部分が中途半端。体形的にする、整合性を持たせることが課題。
子犬、子猫の社会性を身につけることが大切なのは実証済みである。法付則で明記すべきだ。
今年(2016)2月に札幌市で「56日」規定=8週例が条例に明記、10/1施行されるが、国からはクレームが出ている。軋轢を生じている。
兵庫県にはアニマルポリスの例がある。
このようにこれまでは全国横並びだったが、去年から自治体独自の動きもみられるようになった。「地方の動物愛護行政」に期待がかかる。
○社会でのペットの存在
集合住宅でペットを飼うことは絶対にダメ、という時代から「条件付き飼育を認める」という時代に。フランスで「ペット飼育を認めない」という契約中の規約は無効であるとの規則が出された(1970.7.9)。闘犬は基本的に禁止。
犬は社会の一員と考えられている。フランスのように「犬税」として犬に税金をかける国もある。大阪でも議論が出たが、大ブーイングだった。
犬の登録や注射の費用は、実費からすれば取りすぎだ。これには税金的な面もある。犬税は少数の国だ。
多くの国では公共生活の一員として犬は活躍している。リード付きも認められている。日本では身体障がい者の補助犬のみであり、事実上禁止されているに等しい。日本は犬に門戸を開いていない。多様な価値観の中でペット問題を解決、対処できないのでは社会が前に進まない。
ミュンヘンでの暮らしでは、6匹のネコを飼っていたが、ドイツは寛容だ。
ペット問題の究極は近隣との「折り合いの付け方」だ。
昔から「子は鎹」というが、動物セラピーなどでは「動物は鎹」となる。
ペットは分離不安があり、飼い主がいないと吠える。飼い主として賢くあるべきだ。
○ネコの餌やり
近所のネコに餌をやる人。「餌やりは生命を守ることだ」と、堂々とやる人がいる。思っているだけならいいが、行動、発言をするとトラブルが発生。どこまでも、相手の理解を求める気配り、心遣いが大切。人間関係の上手な構築が基本である。動物との社会共生が進めば、動物は社会の鎹ともなりえる。良い役割を果たすように、飼い主や餌をやる人はよく考えて行動しよう。
○ペットを捨てる人、餌をやる人、去勢不妊手術
これは社会現象の一つであり、目くじらを立てられない。
地域の人々も一枚噛んでいる。説明して納得を見出す。おだやかに、やんわりと進めることが肝要。
去勢不妊手術には計画性と短期性が成功の秘訣。民間との協力、連携なくしてはできない。
ネコ対策は短期決戦。1、2年で地域全体を制覇し、よそからの流入を見逃さない、強い意志で臨むことだ。
去勢予算は10年分まとめて予算化すべき。猫が何匹産むかを計算すれば、だらだらとやるのでなく、短期に一気にやることだ。
3. 京都動物愛護センター視察
○平成26年12月12日、「京都動物愛護憲章」を制定。
○平成27年7月1日、「京都市動物との共生に向けたマナー等に関する条例」施行。
○これと並行し、センターは27年4月1日開所。5/2オープニングイベント。5/3から供用開始。8時30分から17時15分まで。休みは木曜日と年末年始。ただし動物の世話は365日。
○敷地面積17000㎡。うち野球場が7000㎡。それ以外がセンター部分。
710㎡の動物棟。470㎡の事務所棟。ドッグラン3000㎡、ふれあい広場1000㎡。ほかに駐車場。災害時の動物救護スペースとして使われる。
○国の補助を受け、あとの建設費、運営は京都府と京都市が費用を折半してセンターを設立。
○京都夜間動物救急センターを併設。診療時間は21時半から深夜2時、年中無休。
○獣医師、県2人、市6人の計8人で運営。
○ボランティア83人が4チームに分かれて活動している。
・普及啓発、プログラム開発チーム
・機関誌「アイランド通信」(年4号)チーム
・展示チーム
・元気アップチーム
○まちネコ支援事業
①地域で同意してもらい、登録、適正に飼う。センターで無料去勢して地域に
帰す。年間に180~200頭。
②年間に予算は250万円(犬と猫)。1件当たり市から3000円、獣医師会か
ら3000円、計6000円を補助している。最近の実績で年間833頭。月、木曜
日に手術。1日平均3~4頭。
手術したことがわかるよう、右耳にカット、左耳に入れ墨を入れる。両方で
識別できる。メス、オスともに対象として、1代限りにする。メスだけでは完
全には達成できない。
③譲渡猫は室内で飼うよう、約束してもらっている。外で飼うと餌が散らばり、
病気、事故が発生する。
○ドッグランの利用状況
2300人が登録。今年は去年に比べ1.5倍に。冬は1日に90頭が来るので、待ってもらう日もある。
○マイクロチップ
無償で提供。登録費用は1000円。実費では5000円かかる。
○センターの役割
①犬の運動会、写真会などのイベント。猫を初めて飼う人のための講座、親子
教室で「命の大切さ」を学んでもらう。
②二度とここに帰って来ないよう、引き取り手を選ぶ。約束してもらう。末期
がんの動物は殺処分に。殺処分の期限は決めていない。(センターの前身から
通算して)5年間ここにいて、引き取られた子もいる。誰にも引き取られない「四天王」というのがいた。死ぬまでここにいるのか、と思われたが、やがて4
頭とももらわれていった。
③昼は去勢手術に使う。10年前から獣医師会がセンターの必要性を感じて資
金を貯めてきた。これを市に寄付した。
④譲渡事業。里親希望者以外は動物棟には入れない。犬のストレスに配慮。
⑤子猫の一時預かり在宅ボランティア(2か月になれば自分で餌を食べる)。
○犬の殺処分は年間8頭にまで減少した。一方で猫は年間1200頭。うち8割は産み落とし、目が見えないなど。
○基金募集。5万円寄付者はセンター内の銘板に発表。
4. 感想
超党派で結成している全国ネット。ANOC「動物愛護地方議員の会」。前の開催は熊本市で、「殺処分ゼロ」の活動に大変感銘を受けました。
数年ぶりの開催は京都で。
去年完成したばかり、府と市が共同出資をして設立した愛護センターを視察するとともに、弁護士でありながら帯広畜産大学で教鞭も取っておられた吉田先生の、とても興味深い話を聞くことができました。
まず吉田先生の講演。
動物好き、というのがありありとうかがえる、動物の話になるとついついご自分の愛猫の話、6匹も海外に連れて行くのに苦労した話、でも空港のゲートも大家さんもとても好意的、という話は渡欧体験記としても貴重でした。
そしてレストランで食事をするときにじっとおとなしくしている飼い犬の姿が目に浮かびます。映画などで見ることがあるあの光景。そういわれれば、日本ではそれは皆無。社会の一員として認められていない。犬の教育ならドイツ人に任せろと言われるくらい、徹底して社会の一員として定着している。片や日本ではレストランなどとんでもない。犬も飼い主も、肩身の狭い日本の状態ではあります。そして愛犬家と嫌いな人とでもめ事ばかりが起きている。私も議員として、しばしばそれに「巻き込まれ」ます。
お城には犬も出入り自由、しかも門限なし。それで「もっと自由に」という愛犬家と、「犬をお城から閉め出せ」という市民まで、私の耳に双方の意見が入ってきます。そんな中、先生から聴いた「あくまで穏やかに、やんわりと」というのは説得力があります。先生ご自身、弁護士として法廷で戦う、という居住まいではなく、ほんとうに「穏やかな」お人柄でありました。
そして犬猫の去勢、不妊手術に対しては議会の中でも議論が二分。「もっと強力に予算措置を」という議員もいれば「いつまでやるのか」と廃止論者も。議会の中でも、私は悩ましい立場に立っています。
その点でも、「短期集中」「公費を注入し、一気に」「そしてその後の流入を見逃さない」という毅然たる手法は、とても効果的なように思いました。
このセミナーを受講した直後の9月定例会で質問、提案をとも思いましたが、他の案件がひしめき、後日に回したままになっています。市民にも、議員の皆さんにもこの講演の内容を早くお伝えしたいと思っています。
次に、市の南に位置する愛護センター。広大なドッグランの施設は人気も高く、県外からもやって来るとのこと。
右側には会議室も備えた事務所棟。京都産の木材を使用したウッディな建物。左側には深夜2時まで365日、「急患」を受け入れるという夜間動物救急センターの看板がかかる動物棟。特別に、中に入れてもらいました。
上のネコの写真は、通常の収容室は動物のストレスに配慮し中からしか見えないが、外からも見える「飼育モデル室」にいたネコです。
施設の運営で特徴的なのは「京都方式」。外部専門家、職員、ボランティアの緊密なネットワークで動物行政の拠点として機能しています。
私たち議員に寄せられる動物の相談は、やはり圧倒的「迷惑だ」というもの。
先生のお話のとおり、気長におだやかに解決しなければなりませんが、一方でこのセンターのように、きちんと動物の命に向き合うインフラ整備も、行政の使命だと思います。すぐにこれだけ立派な施設ができ、職員配置、獣医師会の理解、そして市民ボランティアの活動などの結集は難しいでしょうが、ここに事例があることを学べて、有意義でした。
これを参考に、香川県とも協議を進めて、こうした理想のあり方を提言してまいりたい。
かつて高松市内にある保護センターを視察したこともあります。目の前で、二酸化炭素の部屋に追い込まれていく犬、猫たちがいました。折も折、その日は丸亀の保健所から連れて来られた動物たちが到着していました。
最後に火葬にされ、小さな骨の山を、小窓から見ることができます。その光景を忘れることができません。
また保健所で話を聞けば、担当者は獣医師さんで、「殺すことを仕事にする」ことの不本意さを語ってくれたことも忘れられません。2階から生卵をぶつけられ「帰れ」とののしられたこともある、とのことでした。
これまでの経験や思い出が、これを書きながら蘇ります。
最近では土器川の河川敷に「我がもの顔」でくつろぐ10頭程度の野良犬。餌やりの「現場」情報も寄せられています。我が家に何日にもわたり、自称「愛護者」から「命を助けて何が悪い」と罵りの電話をいただいたこともありました。
丸亀城を散歩させる犬が大手門のおしっこをひっかける。それで重要文化財が根元から傷んでいる、との指摘に、現在の黒く立派な「防護柵」を作ってもらったのも私です。
してみると人間と動物とは切っても切れない間柄。人間の側の賢明さが問われている。研修ののちに瀬戸内国際芸術祭で訪れた島で、研修で聴いた「さくらネコ」を実際に見たのも偶然ですが、身近な問題であることを教えてくれました。
私の質問はどうしても「人間が先」になってしまうのですが、これを思い起こし、どこかで市民、市役所、議会を交えて前を向き、議論することになればと願い、この研修を生かすことを考えてまいります。