〇牧瀬稔セミナー2「人口減少と共存する方策」 東京都内
令和5年10月31日 午後2時〜午後4時30分 新宿区内
1.牧瀬稔氏のプロフィール
セミナー「1」レポートのとおり
2.セミナー概要
〇令和6年4月、地方自治法が改正。議会に関する規定で89条に、憲法に照らし「議事期機関」と明記された。くれぐれも「議決機関」でないことに留意。もし「議決機関」とするならば、そこで可決された条例、予算に対して首長でなく議会が訴訟の対象となる。「議事あっての議決である」。なお自民の憲法改正案に、これを「議決」にしようとの動きがある。
〇観光庁、令和5年の調査結果。「定住人口1人当たりの年間消費額は、旅行者の消費額に換算すると外国人旅行者8人分、宿泊を伴う国内旅行者23人分、日帰り国内旅行者75人分にあたる」。だから人口が減っても旅行客で消費はカバーできる、と結論づけているが、疑わしい。基数となる年間消費額は130万円とされているが、赤ちゃんまで入れての換算なのか。そんなはずはない。
〇ここから、地域活性化の成功事例。境港市「水木しげるロード」。地域経済衰退に悩み、1989年、商店街活性化策として「緑と文化のまちづくり」をテーマに。だから最初の「ロード」は住民をターゲットにしていた。行政、事業者、地元住民がコラボ。2010年「ゲゲゲの女房」放映で入り込み客突出。人口3万人の街に年間372万人が押し寄せた。以降もほぼ200万人台を維持。経済効果は2008年120億円が2011年436億円に。商店街だけにとどまらず、成功は市全体に波及。成功要因。行政がまずブロンズ像を整備。事業者が追って事業に着手。地元住民も「音頭保存会」「しげる会」など立ち上げ。「妖怪そっくりコンテスト」「妖怪川柳コンテスト」「妖怪ジャズフェス」など年間20を超えるイベント。3者の協働が成功要因。目標を共有化できた。また「妖怪」という「一点突破」が特筆事項。商店街全体をテーマパーク化、非日常の提供。巡査部長のパトロールも鬼太郎、ねこ娘の着ぐるみで、雰囲気をこわさないこだわり。リピーターが多いことも特徴。寄付制度や定期的な情報提供による。ブロンズ像には寄付制度が奏功。60体からスタートし現在180体。100万円の設置費で名前を刻んでもらえる。申し込み殺到。
〇上勝町「葉っぱビジネス」宇都宮市「餃子」川崎市「工場夜景」阿智村「天空の楽園ナイトツアー」五所川原市「地吹雪体験ツアー」横須賀市「海軍カレー」。
〇地域活性化の原則は「あるものさがし」。探していく人を見つけ出すこと。
〇向日市「激辛商店街」。京都へ20分の距離で客は京都、大阪へ。「キケン!!辛すぎ」の看板が目を引く。商店街があるわけではなく、個々の店舗が名乗りを上げる。本来「激辛」とはなんのゆかりもなかったが、そのインパクトがヒット。2009年20店舗でスタートし、2021年には43店舗へ。「激辛グランプリ」など年間を通してイベント。入り込み客は2008年3千人から一挙2009年6万人、2013年19万人、2019年55万人超。
〇相模原市「レトロ自販機」。約70mにわたりレトロ自販機100台が並ぶ。若者の「昭和人気」呼び込む。タイヤ業者が「待ち時間に楽しんでもらおう」と設置したのが始まり。大渋滞が発生するまでに。
〇小さなヤカンと大きなヤカンの譬え。小さければすぐに沸くがすぐ冷める。プロジェクトが軌道に乗るまでは5年はかかる。だから「4年はガマンしよう」。
〇先進事例がそっくり成功事例ではない。失敗事例は「反面教師」に。成功事例を3つ見て、その共通項を探す。上勝町の事例をマネできた自治体は今のところ、ない。複数の成功事例から再現性の高いものを見出すことがポイント。
〇「魅力ある自治体」ランキング上位30のうち、それが人口増加につながったのは13自治体にとどまる。このように各社が発表するランキングを自治体のKPIに組み込むことはナンセンスだ。ランキングを上げても人口が減れば意味がない。地域ブランドは必ずしも自治体を潤沢にしない。「地域が潤うようにブランド化していく」ことが望ましい。
〇人口3万人を切ったら市は町になろう、と提唱する。そのことで権限を返上する。それにより、自治体経営は楽になる。
〇時代は「競争の地方創生」から「共創の地方創生」へ。キーワードはシビックプライドと公民連携だ。
〇「シビックプライド」とは。「都市や地域に対する市民の誇り、愛着」。類似語に「郷土愛」がある。こちらは郷土、つまり生まれ育った場所への愛着。シビックプライドには、そこは関係ない。
〇「シビックプライド」には、自分自身が関わって都市や地域を良くしていこうとする、当事者意識に基づく自負心が内包される。
〇日本で「シビックプライド」が言われるようになったのは20101年前後。議会質問では2008年に発出。
〇草津市、朝来市、加西市、多摩市、養父市、羽村市、那須塩原市などが名乗りを上げた。アイデア溢れる市長。
〇シビックプライドの精神は、人口減少時代における「定住人口の維持」を目指している。あるいは、行政資源が縮小するなかで、市民と共に創り出す地域運営を志向している。
〇戸田市「tocoぷり」。地域コミュニティをさらに活性させるため、地域の情報共有だけでなく市民同士をつなぐツール。「交流」「広聴」「広報」の3機能。現在はLINE公式アカウントに発展。合言葉は「市民はキャスト」。市制施行50周年を祝う「戸田50祭」を市民26名が企画。来場者32000人、シビックプライドの醸成に貢献。イベントがではなくこうして携わることによって。
〇相模原市「みんなのシビックプライド条例」。愛称「さがみん条例」。本村市長の陣頭指揮で「シビックプライド」と「SDGs」を標榜。小中学生に「シビックプライド授業」。市職員が出向いて授業をする。市のファンサイト「さがみはらむすび」、マイクロツーリズム(キャンプ場の活用)などを展開し、シビックプライドを醸成。企業は「ファンマーケティング」に力を入れる。
〇「協力」「協働」の「協」は、3つの力を「+」合わせている。
〇「関係人口」。定住人口、交流人口と異なり、「地域や地域の人々と多様に関わる者」と定義される。Webも含む概念。宝塚市の「シティプロモーション戦略」に「住み続けたいと思う人(定住人口)や、働き、ボランティアなどで活動する人(交流人口)、来ないまでも、市の商品などを購入し、SNS等でつながる人など、何らかの関りを持ってくれる人(関係人口)を増やしていきたい」。ほかに佐久市、鹿児島市など関係人口に価値を見いだす自治体は多い。補助金も付く。
〇ほかに「活動人口」「関心人口」「問題人口(クレイマー)」「弊害人口」という概念がある。人口減少は心配だが、こうした「負の」人口が減り、活動人口が増えるなら、人口減も良いかもしれない。活動人口率を増やすこと。海士町が好例。
〇「共創」。地方創生は「産官学金労言士」。公民連携で成り立つ。
〇三島市「共創指針」まちづくりや公共サービスの制度設計段階から民間事業者が加わる。大田市「共創のまちづくり行動指針」。福島市「共創のまちづくり推進指針」。門真市「公民共創指針」。民間事業者のノウハウや活力を結集し…社会課題解決を通じて新たな価値を創出(門真市)。宇部市「うべ・未来共創指針」。ほかに菊川市、高岡市のHPにも標榜されている。
〇「共創」とは、「自治体が地域住民や民間企業、NPO、大学等の自治体外と『共』に活動して、イノベーションの『創』出につなげること」。自治体間共創(「競争」でなく)の行きつくところは、新しい価値観の提示である。「共創」という共通概念により、公的分野に民間企業等が入ることは、自治体にイノベーションを起こす土壌となる。
〇自治体側の事情。事務量は↑増加、職員数は↓減少。「政策公害」とも呼ばれ(牧瀬氏の造語)、「自治体の多すぎる政策づくり」が不経済をもたらし、職員がうつになる。療養休暇の取得率に現れている。うつの人の割合は、地方公務員で2.3%、国家公務員は1.4%、民間は0.4%。両公務員で増加しているが民間では増えていない(これは、うつになるとリストラされているのか?)。また国家公務員が相手にする人には「まともな人が多い」。これからは意識的に政策を削減していくことが求められる。
〇増加する事務量に減少する職員が対応するための7つの方策。@残業A能力を高めるB非常勤を含む職員増C優秀な職員を採用D増える仕事を「断る」EDX化F一部を外注。Fに公民連携、市民協働も含まれる。「増加する事務量の一部を外部主体に担当してもらうことが共創の一つの背景である。民間企業等の視点が自治体に入り込むことにより、イノベーションが起こる(行政にない新発想)。イノベーションが自治体を前進させていく原動力となる。
〇共創の事例。麻布大学フィールドワークセンター。島根県美郷町の配館となった公共施設に「センター」を開設。獣医の大学、麻布大学学生がここに滞在、ジビエの調査。美郷町に高校はないが「大学はある」、とブランド化。
〇戸田市×ベネッセ。教育を中心に共同研究に取り組む。戸田市はほかにインテル、グーグル、青学とも連携し、ICTを活用した教職員研修を実施。目指すは「学力向上」。戸田市×ベネッセ×日本財団で子どもの貧困対策、宿題の見守りや学習支援も。戸田市×ままスクウェアでキッズスペースを併設したワーキングオフィスを運営。ジョブ型雇用を生む。
〇ほかに西条市、藤沢市、東大和市の事例。
3.感想
セミナーの最後に、講師がこんな話をされました。
「成長」と「発展」。どう違うでしょう?
答えに戸惑いましたが、面白い喩えが腑に落ちました。同じオタマジャクシがいる。「成長」とは、「大きなオタマジャクシ」になること。「発展」とは、カエルになること。
丸亀市は、今こそ「発展」をしなければならない。そんな確信を抱き、聴講を終えました。
午前もそうでしたが、セミナー最後に振り返りの10問テストが行われました。正解の一番多かった聴講者に、講演者の本がプレゼントされます。それを「学習」した私は午後、キアイを入れてテストに臨み、見事一番に。本をご恵与いただきました。「政策提言」に関する著作です。私の後輩に譲ろうと思います。
丸亀でもご一緒し、東京の自治体総合フェアでのカンファレンスでも聴講。偶然、岡山駅の新幹線ホームで出会ったのは私の議長時代のことでした。僭越ですが、この方こそ「発展」に次ぐ「発展」の人生のさなかにおられます。そのお知恵を丸亀市に注いでほしい。切なる願いを、わずかな時間ですが、訴えます。