○市民協働による防犯カメラ設置 千葉県松戸市
1.事業の概略、背景
正式な名称は「市民参加型街頭防犯ネットワークカメラ事業」。松戸市市民部市民安全課が所管。市民参加型というのは全国初。市民が主体となり、これに市が助成しているという仕組みはほかにもあるとのこと。
まず、導入に至った背景。松戸市内の犯罪発生状況は全国的に見ても深刻。千葉県がそもそも全国ワースト1。首都のベッドタウンであり、空き巣、出店(でみせ)荒らしなどの多発が特徴。平成24年、窃盗が全体の約8割を占める。推移を見ると、平成11年が刑法犯認知件数で戦後最悪。平成16年から防犯カメラの導入が始まり、これと逆比例して認知件数は減少。しかし平成24年、防犯カメラの設置増加にもかかわらず、認知件数がやや増加に転じたことに危機感。
これらのことから、防犯カメラのさらなる活用が重要視された。
平成16年スタート当初は松戸駅東口に15台設置。現在は116台。殺人放火、ひったくり事件などで犯人が写っており、解決に貢献した例は多い。しかし主に駅前、幹線道路に設置されていて、限界があり、逃走経路にも逆利用される。
県下の近隣市と比較し、松戸市の設置台数は多くない。犯罪者は犯罪のしやすい地域に流入する傾向。実際、松戸市のこの取り組みで犯罪が減ると、周辺市で犯罪が増えている。
法的整理。防犯カメラを一般に規制する法律はない。憲法13条にプライバシー権。「何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう、姿態を撮影されない自由を有する」。このことと公共の福祉目的との兼ね合い。人権侵害を防ぐために、最小限のプライバシー侵害を認める、との考え方。刑事訴訟法197条の2の照会は報告の義務を課す(平成16年の国会答弁)。
判例整理。京都府学連事件で昭和40年最高裁。「蓋然性」、起こりそう、逃げて来そう、という意味があるとの意見書を提出しもらうことでクリア。「必要性」、デモ隊撮影は必要、合憲との判断。「相当性」、予想が成り立つとの証拠が必要。平成2年大阪地裁「西成カメラ撤去」の案件、OECDの8原則を検討。集めた情報をどう開示するのか、市民がどう参加するのか、が焦点に。平成8年最高裁「ミニパト事件」。町が防犯組合へ補助を出し、ミニパトを買うことに。これを警察に寄附させたという経緯で、地方財政法28条の2との兼ね合いを検討。財政負担が違法とされた案件。あくまで「防犯目的」であると明らかにする必要が結論づけられた。
2.具体的な取り組み
転出者にアンケートを行うと、この町の心配は①放射能②防犯となった。かつてマンガでも「不良の溜まり場」として描かれたことがある。そこで防犯カメラの威力を発揮し、不安を軽減、犯罪に対する〝体感治安〟を向上させることを目指す。
業者はプロボーザルで決定、仕様は市が作成する。市民もくるめて構想する。自分だけで好きにカメラをつけるのではない、町内の安全を優先させる。
一方でカメラによる「監視社会」につながることを懸念。市民に信頼されることに配慮。近隣トラブルも回避。映りたくない箇所にはカメラそのものにマスキングを施す。
大量調達でスケールメリットを達成。行政コスト意識にもつながる。市側負担は録画サーバーの運営と、年間1000台2100万円の運営コスト。
ではカメラは県や警察が運営すべきなのか、市なのか。警察が関われば捜査や監視に画像を使われるとの心配。市がやれば、防犯、抑止目的となり、画像は原則として見せない体制になる。
H15から繁華街と幹線道路には116台の設置。ネット時代到来前の設置であり、住宅街にはカメラ設置はなかった。これを、ネット回線を活用しコスト低減を図って住宅街、軒先に設置することに。これまでのものもネット化に合流。画像はデータセンターで一括管理。
カメラの仕様。本体価格は10万円未満。周辺機器を併せて15万円程度。これを各個人、月額約2000円×7年間の割賦払いで負担。トラブル回避のため、設置者の画像閲覧は不可とした。各戸に「防犯カメラ作動中」の警察署、市名義で警察マークも入った看板を掲示。これだけでも効果あり。
システム。VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)ルーターで画像を暗号化し、安全な回路を確保。画像保存は1週間。自動上書き。
今後の方針。25年度400台、26年度600台、27年度800台、そして28年度は1000台設置を目標。いま、概ね市内均一で設置が進んでいる。個人負担を伴うので、理解を求めながら進める。すでに現時点で400台分の申し込みが入っている。
3.感想
「そんなに良いことなら市が100%負担で付けてはどうか」「映されるのはいやだ」「警察に使われるのでは」。
こうした声もあるものの、根気強くこの事業を進めているとのことでした。
前述の申し込み希望400件の内訳は、町会・自治会が74台、事業者が215台、個人が130台だそうです。理解が浸透していることを感じます。ごみ置き場の「持ち去り」にも、効果が大とのことでした。
とても分かりやすい説明をしていただきました。要は、「セコムのカメラを外向きにしてもらい、画像を市に提供して下さい」。このように説明すると、住民は仕組みがよく理解できます。ここにもご苦労の跡がにじみます。
警察でなく市が推進することで市民が安心している、警察に提供する場合のルール化も明確。これで市民の納得が進んでいるのでしょう。「抑止であって捜査協力ではない」と説得。捜査に提供する場合のきわめて限定的な条件付けも公表。これは大切な観点と思います。
カメラそのものにも画像の品質にも経年劣化はあり、およそ10年が目安。
誰しもが安価で安全を確保したいものです。「安全は公共が確保するもの」という固定観念があれば、この事業は頓挫したでしょう。そのカベを乗り越え、「犯罪の多い町」との実情も追い風に、この事業は成功した、そのような印象を持ちました。行政が果敢に戦略を打ち出す、その良い見本であるとも思いました。こういう局面での「市民協働」はとても珍しい、そしてまさに先進的な例と思います。これを参考に固定化された市民協働のビジョンを払拭して、「できることから始めよう」、そんな気持ちも与えていただきました。