○水俣「WEBの駅」 水俣市
1. 視察意図
日本ではパソコン保持台数をスマホがしのぎ、情報は外出先でも手軽に得
ることができるようになりました。
一方で情報発信する側も、広く市民に到達できるよう、WEBメディアの活
用にしのぎを削っています。
その両者の利便性を図るため、市が「道の駅」ならぬWEB上の仮想の“駅”
を設けているのが水俣市「WEBの駅」です。
市が行政情報を発信するというレベルから一歩進んで、住民の利便性に踏
み込むこの取り組みを勉強させていただきました。
2. 視察の概要
○ねらい。「地域のポータルサイト」として、地域の情報を集約し、地域の連
携、新たな産業振興、サイト運営を通じた地域協働力向上を目指す。
○経緯。平成26年度予算として地域活性化・地域住民生活等緊急支援交付金
が計上されたが翌年度に繰り越し。翌27年、先進地である天草市を視察、
プロポーザルで5社に提案依頼、約860万円で契約締結、仕様協議開始、
テスト運用を経て開設。年度末、商工会議所でショップ開設説明会を開催。
28年4月、本格始動。年間管理運用委託費は38万9千円。
○28、29年度の運用を経て30年度、情報発信検討部会で制度の見直しを進
行中。
○内容。市が住民向け交流サイト(ポータルサイト)を構築し、運用する。情
報発信型のポータルサイト(マンションの玄関に相当する)を設け、水俣の
旬な情報を住民、商店、団体が自ら発信する。例えば釣り自慢、PTA、自
治会の連絡用、商品の紹介などなど、自由に何でも発信することができる。
○住民自らの情報発信で、市内だけでなく近隣、市外の方々とも連絡を
取り、地域活性化に一役買ってもらうことも狙える。
○主な機能。
・個人、団体会員向けホームページ開設を無料で支援する。漁協、保育所か
ら個人HPまで、普段あんまりHPを設けて発信しようと考えないよう
な方まで利用。専門知識がなくても対話型でHPを作成、更新が可能。釣
り船の持ち主が「今日は空いていますよ」など発信し、「じゃあ行こうか」
となる。
・ネットショッピング機能(無料)
・空き家バンク(準備中。H31年度公開)
○利用対象者。個人会員、市民、市内に通勤通学。団体会員、市内に活動拠点
を持つ団体。異なるIDを付与。
○用途。釣り自慢、コレクション自慢、愛好会の作品紹介、お気に入り店舗の
情報発信。PTA、自治会でのスケジュール共有や伝言板。個人で新規にH
P公開。ネットショップで商品紹介。市内外からの商品開発のアイデア募集。
新人デザイナーの発掘。「コメント機能」を活用し、アイデアをもらう。
○経費は前述のとおり。但し、先行している「天草WEBの駅」の基盤システ
ムを使用する許諾を得たうえで水俣にカスタマイズした。このことはこの
先の拡張でも、天草の許諾を得られればこれに乗って展開することができ
ることは大きなメリット。天草の基盤システムは大きなコストを投入して
いる。
○KPI(目標と実績比較)。個人会員数500人目標に対し現在336人、団体
50に対し26、アクセス数、12000回に対し520733回。商品出品数1200
点と設定したが、現在出品なし、との状況。
○その他の効果。一時的なイベント活動媒体として集客アップに貢献し、しか
も市の歳出を縮減できた。キャンペーン応募数は30件から430件に。サイ
トが一時ダウンするほどだった。また保育園など、本来は市関連の施設だが
ここにHP公式サイトを設け、利用することで市歳出を削減できた。
○市民からの反応。課題として、SNSで間に合っているから参加しない、と
の声。認知不足など。
○今後の予定と課題。市公式HP、観光サイトの見直しとともに、これからの
運用方法を再構築検討中。H32年度公開へ、検討している。新規会員数の
伸び悩み、高齢者やそもそもネット環境にない人たちに用いられない。空き
家対策、移住・定住対策への活用ではいまだ情報整理を待っている状態。費
用対効果を数値化で「見える化」する必要がある。近年のFBなどの台頭で、
役目を終えた感がある。新たな活用方策を模索している。
3. 感想
「道の駅」構築で、誰もがタダでHPを解説することができると聞き、まず
抱いたのは「民業圧迫」にならないのか、との疑問。これに対し、むしろ逆に、
HPになど縁がなかった方々も興味を持ち、参入してみたら「さらに内容を充
実させたい」と費用を払っても拡充する向きもあり、ビジネスは拡大した、と
の返事に、そういうものかと感心。
WEBの駅は市民交流センターとセットで立ち上げた、というのが相乗効
果を得られた要因ではないかと思います。今、丸亀市で建設が始まった市新庁
舎と併設される市民交流活動センター。その活用のためにも、WEBの駅はハ
ード、ソフト両面展開という観点から、一考の価値があるのではと思います。
行政のHPはもちろんあり、これとは別建てでWEBの駅がある。行政から
の発信とは別に、市民と市外の人々との交流ができている。ネットという手法
を、このように柔軟に使いこなすことがなされていることに、大きな魅力と、
そして先進性を感じます。「上から目線」ならぬ「行政目線」。それを行政が見
事に脱した姿と見えます。
いただいた資料にこの取り組みの「ねらい」が書かれていて、それは「人と
の交流やコミュニティ再構築によるぬくもりと活力の創出、さらに、地域力を
集結させ、近隣地域や市外支援者との連携を図り、地域活性化の活動支援を目
的としたシステム」とのことです。この文脈には、市の人口減少、産業縮小へ
の厳しい現状認識があり、WEBという新たなツールを活用しての起死回生、
という切なる願いが込められているように感じます。そういう危機意識があ
るか、そこに反省の余地があります。
その具体的な展開として、①地域情報の共有化②コミュニティの維持拡大
③新たな産業創出プランドづくり、を挙げています。ここにある「地域資源す
べてをデータベースとして集約化するという強い意識は、縦割りを指摘され
る行政機構に鋭く斬り込むものであり、運用は大変に困難を伴い、なかなかす
べての住民にまで波及しないネット環境というものの宿命も背負いながら、
それでも市役所が市民にできることは何かを追究し追究し抜いた果ての選択
と決断ではなかったのかと想像されます。
視察当日は会議室に行政の担当職員だけでなく開発に携わった業者からも
出席いただいており、そのお立場からの説明やアピールもしていただきまし
た。思えば前々日、上天草市で「ケーブルテレビに市役所職員も出演」との視
察で伺った際にも、ケーブル会社社員が同席していただいたことと思い合わ
せ、行政が、さまざまな今日的なメディア、民間活動と隔離されての行政運営
はあり得ないとの印象を新たにした一場面でもありました。
この「WEBの駅」の中核をなすコンセプトを、その民間事業者の方から懇
切に説明いただきました。それは「情報タワー」という構想です。マンション
に住む各人がそれぞれの部屋を持ちながらもポータルサイトたる玄関では情
報を共有できる。そして行政は何階に、ある方面の業態は何階に、またある業
者集団は何階に、というような整理が一目で見て取れるポータルサイト。自分
の用向き、関心、興味の赴くままに、好きな場所にアクセスできる。これはW
EBという形態を行政が巧みに活用したひとつのありようだと思えます。行
政は、その、住民全体が入居するマンションの数層を占める住民の一員でもあ
る。相互にまったくカキネなく、公民入り乱れて情報が取り交わされる。大き
な理想形ではないでしょうか。
余談に近い話となりますが、今回の視察行程を組むに当たり、上天草市のケ
ーブルテレビの件は天草市との共同運用であり、事実上は規模の大きな天草
市が母体的な存在であることを視察先で伺い、また水俣市にお邪魔してこち
らも奇しくも、天草市の構築された基盤を、了解を得て使わせてもらっている
ことを知ったこと、そして天草市オリジナルのあのアーカイブズを見学させ
てもらったこと、この3つのことが重なって、天草市のオリジナリティにあ
らためて驚嘆したことでした。
自治体発の政策がやがて国の取り組むところとなり、日本の“標準装備”に
至るというケースは、これまでにも珍しくはありません。自治体間競争から自
治体間協働ということが言われるようになった今日、先進的なアイデアや果
敢な取り組みが近隣市町に波及し、また連携を生むというあり方は、とても今
日的であり、個々の自治体の先進地視察を超えて、そうした連携の姿そのもの
が大きな魅力と説得力をもつもののように思えます。誰がその先鞭をふるう
のか。そこにこそ、「国の指示待ち」を排する地方のあり方、いや日本の国の
あり方があるのではないかと、そのような感想を抱きました。
ともかく、アイデアのない自治体はダメだ。たとえ、一つのアイデアが行き
詰ったとしても、それに携わった行政職員はそれで腐るのではなく、良い経験
を積んでまた次のチャレンジをするだろう。そういう職場を作らねばならぬ、
と、そんなことまで考えた次第です。
「TTP」なる言葉を最近耳にします。「テッテイテキにパクる」という意
味だそうです。企業なら企業秘密ということもあるが、行政の善政合戦ならば
どうしてパクりパクられるということが許されないはずがありましょうか。
「我が道をゆく」という奢った孤島感覚が、大きく市民に迷惑をかけているよ
うな行政だけは、市民はご免こうむりたい。ネット社会の向こうをにらんだ、
鋭い感覚を研ぎ澄まさねばなりません。