○南学(みなみまなぶ)教授特別講座 東京都内
期日 平成26年8月21、22日
テーマ 1.行政サービスコストとABC(活動基準原価計算)
2.総合計画は有効か
講師ブロフィール
東洋大学経済学研究科公民連携専攻客員教授
三重県、さいたま市、鎌倉市、習志野市、高浜市、横須賀市、所沢市、
八千代市、ふじみ野市で、政策アドバイザー、公共施設マネジメント、
総合計画審議、行政改革などに有識者として招聘されている。
以下、文責は内田にあります。
1.行政サービスコストとABC(活動基準原価計算)
○導入部。冒頭からまんのう町の話題。
同町が管理運営する65施設180の契約を、技術者を町役場に置かないまま、前例に従い行っていた。業者の言いなりで、各セクションは前例を覆すことができなかった。これを一本化しようとした。電気保安技術者は高松から来るというしくみ。契約費用は3200万円から2800万円へと15%、400万円の節約を実現。一方で、一本化のためのコストが多くかかった。しかし、100万円の契約をするにも公務員30~40人分のハンコが必要だったが、これがなくなることで得られた節減効果は1000万円にもなると見込まれる。
3000の自治体が1800になった。自治体は30万人口を目指すべき。合併は、タテ割りを改善しなければメリットがない。
“公共施設廃止”の時代。どうまとめたら効率的か。ある企業では生産ラインで製品検査は1時間に3台というペースだった。検査のコストを見直す。ラインを分割すると、見えてくる。公共では事務事業のコストがわかりにくい。そこで、「ABC」を行政に当てはめてみる。図書館で本を貸し出すコスト計算すると、貸し出しに100円、貸し出し予約に500円かかっていることがわかる。このようなことを、これから述べていく。
○民間委託は安くなるか?
1972年、ローマクラブが発表した「成長の限界」レポートで電撃。あと50年でオイルがなくなると。
1973年、オイルショック。ここから低成長、コストダウンを目指し、民間委託が始まった。「行政サービスは公務員がやる」という時代の終わり。
〝仕事が減っても給料は上がる〟という公務員のしくみからの脱却。
官民コスト比較。ごみ収集で、官に対して民は46%、学校給食で55.2%、
電話交換で42.4%、守衛、35.3%…文化施設、44.4%、といった数字。
〝安くなる〟理由。①働きの違い。民間は直営の2倍以上働いている。氏が就職した1977年頃は公務員天国。横浜市役所ではごみ収集車には3人が乗り、昼食が近づき業務が中途半端になると11時半で〝休憩〟。②継続して仕事がない業務にフルタイムの給料を打つ。学校給食公務員は8月に何をやっているのか。聞くと研修とか、いつもやらない掃除とか答えている。3分の1が直営であり、給食調理員は50歳後半で高い給料水準で、まだいる。③公務員でなくてもできる単純労働に、給与の高い正規公務員が当てられている。以上が定説。しかし。
民間委託が高くつくケースもある。
3分の1が正規、残りがパートというのが実態。そこで大規模校1、中規模校2、小規模校1の計4校で、横浜で実験を行った(自校調理方式)。結果、大規模と中規模校は安くなったが小規模校は逆に高くなった。管理栄養士を小規模でも1人充てなければならないから。小規模校ではスケールメリットが生きない。横浜市の中心部で高齢化率は40%。子どもがいない小規模校。ここは民間委託に向かない。
分析すると、①契約、管理監督、支払いなどの間接業務が増えるもの。学校給食など。 契約に際しては仕様書の作成や入札、管理監督では管理費用が必ず伴う。②専門的業務は民間も人件費が高く、チェックできない。パソコンのプログラミング。職員給料表の改定に毎年1000万円かかります、と業者から言われたら払わざるを得ない。「50万円にしてよ」と言うと「どうぞ他社に」と居直られる。住民票。大から小まで自治体ごとのフォーマット。ベンダーは大もうけ。ちょっと改正するのにひとつひとつがカスタマイズされているから。③カルテルを結ばれたら対抗できない。コミ収集・運搬。最初は安く契約。3社の競争で、3社がそれぞれ収集車を100台準備しているわけではない。3社間で争わないほうがトク、と気づく。協同組合化し、やがて「委託料を上げて」と陳情となる。上げないと契約が不調に。結果、直営時よりも高くなった。
○マクドナルドの半額バーガー
マクドが半額バーガーを出し、吉野屋も200円台に下げた。半額にすると、客が増える。ここで利益率を考える。
固定費と変動費に分け、銀座の真ん中の儲かるマクドと山の中のマクドを比較してみる。銀座のマクドは半額バーガーでも儲かることがわかる。
役所の予算はここにいう「変動費」(事業費)のみで算出しているから予算書がわかりにくい。給与費しか載せず、保険料、福利厚生費など含む人件費ではない。
款と節は分かるけれど項と目はわからない。
事業別予算説明書が出てくるので、給与費の中に職員の「人件費」は出てこない。それは〝総務費〟の中にまとめられているから。
また電話、パソコン、庁舎清掃やメンテが入っていない。固定費、人件費、固定費含むフルコストで比較分析できないしくみになっている。
→公会計では固定費と変動費が別々なのでコスト分析ができない。
○図書館コストを試算
わかりやすくするために単独館を選択。2週間、職員10人に30分刻みで「どんな仕事をしたか」の日報をつけてもらって計算。利用者年間30万人で割り算すると、
・開館準備に来館者1人当たり277円
・貸し出しと返却、返本後の整理に1冊当たり176円
・予約受付に1冊当たり566円
・返本の催促に1件当たり1844円
・簡易なレファレンスに1件当たり913円
・複雑なレファレンスに1件当たり5319円
・お話し会等の企画実施に1人当たり14912円 と出た。
カバーを施し、書架に並べるのに1冊当たり300円かかり、こういう手間を考えると購入コストは1冊1500円にもなる。高給の公務員が会議を開き「どの本を買うか」と検討するだけで大きなコストがかかる。寄付を受け付けると修復などでさらに高くつく。買うほうが安い。返本の催促は、昼間は市民が在宅していないことが多く、夜の電話となる。残業コストがかかる。返本の督促ハガキは年間50万件、1200万円である。返本を元の書架に戻すのはどうしても人手である。お話し会は、企画、起案、チラシ製作、募集、受付、会場設営、後片付け、事後の報告、などにコストが30万円かかった。参加者は20人。1人当たりは上記のコストとなる。
→図書館はタダじゃない。本を買ってプレゼントしたほうが安くつく。公務員
を半分に。
○公務員の〝時給〟は6000円
今、東京駅にいる。東京駅のマクドは130円だがここからバスで10分の神田のマクドで65円だ。わざわざ神田に行くほうが安いか?
10分かけて神田まで行くことの「自分のコスト」を考えてみる。
一般に、公務員の人件費は、時給3000円と言われているが、そうか?
年間200日働く。17時ピッタリに帰る人はいないから、年間2000時間と設定。年金積み立て、退職引当金などを含む、給与でなく〝人件費〟として算出すると、一人年間1200万円となる。時給は6000円。神田まで10分で行けば、1000円を超すハンバーガーとなる。
→10分の休憩時間には1000円を払っている。
○何を、どの部分をアウトソーシングするか
住民票交付を例に取り、事業費を活動ごとに分析してみる。
従来の「性格別」の区分だと、
・人件費 ・償却費 ・消耗品費 ・水光熱費 となる。これを、
受付→検索→印刷→交付という活動ごとの業務プロセスに分解し、それぞれに人件費がいくらか、償却費が…と計算する。ここから、検索は個人情報と関わる、印刷は外部委託するほどではない、ことがわかり、結果として、「受付」と「交付」の部分だけをアウトソーシングするのが適切、と判断される。
さらに、受付と交付業務を他の部署もまとめることで、アウトソーシングの効果が高まる。
○「ABC」
活動…Activity
基準…Based
会計計算…Costing これを称して「活動基準原価計算」
ねらいは「コストの可視化」「見える化」
例:佐倉市 全公共施設の固定資産台帳を作る。「なんでだろう」が見えてくる。
水道代が高いことを見つけ出し、学校で漏水が発見された。
これまではコスト意識を強く言われなかったのでこの概念が普及しなかった。いよいよ普及の時が来た。
ABCは全庁で行う必要はない。
トヨタ「1秒短縮したら7億円」と認識。「カンバン」方式。適正在庫のシステムを実現。
フォードはかつて一つの生産ラインから1種類のクルマしか作れなかった。日本では、一つの生産ラインからひとつも同じクルマが出てこない。作業員が振り向くと、秒単位で、次のクルマの、前と異なる部品が来ている。
アメリカでは日本のクルマ輸出によって失業者が続出。「失業を輸出するな」と1980年、貿易摩擦。その後アメリカが日本を視察。トヨタの「カンバン方式」を学ぶ。
→「損益計算書」や「バランスシート」など財務会計手法は経営状況の全体を
みるためのもの。管理会計手法は「いくらかかっているか」の原価をみるた
めのもの。
○公務員のコスト試算(札幌市の例)
・部課長会議1回20分 69000円 市の1年間の会議コストは9936万円
・課長決済1件 11666円、部長 21416円、局長 22249円 市の1年間
の決済コストは17.9億円
・出勤簿1回30秒で押印するとして、1課当たり1日801円、市の1年間の
〝ハンコ〟のコストは9056万円
・議会本会議に理事者が座っていることでかかるコスト 年間3億円
○公務員制度は身分制度である
本来の公務員の仕事、「給与表」が適用される公務員の仕事は、
・定型的業務や現業業務は単純外部委託へ
・高度な専門業務は事業委託へ
これからは公務員の専門性が問われる。
○横浜市のメールボーイ
文書を各出先に届ける職員。仕分けに6人、あとは配る人と分けていた。
仕分け中には、配る人はお茶を飲んでいる。
そこで配る人に仕分けも手伝ってもらうようにした。
6人を4人に減らせた。
○「特定信書便」制度のスタート
郵便局は扱いを断った。
ヤマトは迷った。
そこに日通が名乗り出た。
その後、ヤマトも追っかけ参入した。
感想
感想の前に、レジメの後半は時間切れで説明いただけませんでしたが、そこに、あと延長してもらってでも説明を願いたい、魅惑的なフレーズがいくつもありました。
まず人員削減について、
・人員削減よりも政策評価が必要
・もともと余っている人員で「削減」か
・事業の効率化による「削減」か
・政策の見直しによる「削減」か
・「削減」目標のもとでは、真の「削減」は無理
また「一律削減」の悪弊について、
・「一律」は「査定」の限界の表現
・強力な縦割り組織の「抵抗」
・誰もが傷つかず、誰もが疲れる
・繰り返される「一律」の麻薬性
さらに「予算と決算」というページでは、
・ニュースになるのは役所では予算、企業では決算
・固定費を意識できない予算構造
・だれもわからない決算数字
・決算重視でなければ改革はできない
最後に「改革と改善の違い」の項目では、
・改善は現場の、改革はトップの責務
・改善の積み重ねが改革なのではない
・「事務事業評価」で改革はできない
・コスト分析と人件費の「可視化」が出発点
こう眺めると、講義は最後の結論部分には達していたということでしょう。それにしても講演の時間があっという間に過ぎました。
丸亀市では議会改革の第2ステージというような位置づけで、今、予算と決算の連結化が制度化されようとしています。今回の講演内容にマッチする取組みと思います。特別委員会の果敢な取組みに期待しています。
仕組みとともに、議会議員の市財政への切り込みの技術と情熱も持ち合わせたいところです。そのために、大いに参考になりました。間もなく決算特別委員会も始まりますが、委員の皆さんにぜひお伝えしたい内容とも言えます。
私は、議員になる前に20年の市職員経験があります。といっても財務畑にいたわけではないので、おカネのことには無頓着な公務員でした。その「心当たり」からも、氏の指摘はまことに「耳に痛い」ものがありました。
これまではそれほど「コスト、コスト」と言われなかった、というのも事実でしょうが、さりとてムダが野放図にされていたわけでもないでしょう。「コスト意識を持って」とは、常に言い聞かされたフレーズのように思います。が、まさにそれは「フレーズ」で終わっていました。
「鉛筆や消しゴムは最後まで大切に使おう」とか「紙はウラも使おう」とか「封筒は再利用しよう」とか、そういうこと以前にも、自分というコストに気づくべきでした。こんなに人件費がかかっている、という認識を持ったのは、恥ずかしながら議員になってから。しかも手に取った分厚い「予算書」は、そう簡単に「人件費」を開示してはくれません。まさに教授の指摘どおりです。
そして「こういうものなんだ」と、その風土で10年20年と過ごせば、もう何の疑問も抱かなくなります。そのことから、まさに、現場は改善をしてもらいたいが、改革はリーダーである市長、そしてご意見番の私たち議員が旗を振らなければとあらためて痛感します。
そのために、氏の解説は現実の調査結果に基づいた数字を基盤に、リアリティあふれるものであり、職員のどなたにも、このレポートをご覧いただきたいと願っています。
氏の言われる「公務員天国」時代の恩恵を受けた私として、手を返したように公務員コストを〝槍玉〟に上げるのは心苦しくもありますが、それが手に取るようにわかるだけに、私の務めは大きいと思います。
これから具体の改革の場面で、職員へ、また市民への報告の場面で、これらの情報をお伝えしてまいります。
2.総合計画は有効か
○導入部
ある商工会議所専務が市に要望した。「商工予算を増やせ」。これに対して市が「どう増やすの?」それに対して専務は答えられなかった、というエピソードを紹介。ただ、予算をつければいいのか、役に立つのか、という問題提起。
所沢の例。地方公務員の能力限度。コンサルに依頼するもコンサルは公務員経験なし。地元に住んでいるのでもない。1000万円かけても〝有名どころ〟が2~3日調査に来るのみ。値切って100万円にでもしようものならコピペの世界。作文経験のみが問われる世界となる。豊富なデータベースから適当に取り出して貼り付けるだけ。それ原案は「読んでそつなく、わからない」。市民が参画するといっても審議会委員は自分の関心のあるところだけ見て、ちょっと意見を言い、了承する。公務員の限界があり、コンサルの限界があり、市民の限界がある。それを乗り越える時代の要請。
これまでの「総合計画」は〝まんべんなく〟の思想。でもこれでは発展がない。これからは「戦略計画」の時代だ。
これまでの総合計画があるならそれは「方向性」のみと考えるべきで、実践は戦略計画で。
従来の総合計画策定の流れ。各部局をこれからの10年間方向付けるものである。まず課の中の議論から始める。10年先が見えているのでもなく、大した発想もないままに、予算の積み上げ作業となる。これを寄せ集めると、予算は実際の3~4倍に。そこから財政課が調整作業に入る。これに半年かかる。その後、できた原案を議会や市民に示す。ここまでで1年をかけている。策定完了までには2年がかかる。私は所沢市で総合計画審議会委員長を務めたが、こういうあり方での総合計画は疑問。市長に「半年間で、6回の審議で終わらせましょう」と説いた。
横浜市は、ペリーが来航したころ人口300人の村だった。それが今では300万人。その都市計画はきれいな言葉に満ちていたが裏は地主と議員たちとのドロドロの戦いだった。美辞麗句の計画を「ホチキス計画」と呼ぶ。
市長は、政治家でありながら社長でもある。政治家力+マネージャー力が必要だ。
これからの「戦略計画」。縦割りの行政の状況で策定するのは難しい。やれるのは市長だけだ。議員にはできない。利害を背負うから。議員は「違いがある」から市長と対峙できる。
かつて横浜市職員だった時代。中田市長の〝茶坊主〟を務めた5人の中の一人だった(正式な肩書きは「参与」)。総合計画策定のあと〝沈没〟。トップが変わる中での「総合計画」に意味があるのか? 疑問である。
○レジメに沿っての本論
・ホチキス計画。寄せ集めて、綴じる。そうしないとどこかの分野から文句が出る。
・1970年代までは「やる計画」だったがこれからは「やめる計画」に。拡張計画から削る計画に。人口減少時代の総合計画など、見たことがない。
・「前年対比」という呪縛。公務員は役所を辞めない限り、この呪縛から逃れられない。収縮時代なのに計画だけが「成長型」。現実にそぐわない。これから必要なのは「ゼロベース」そして時限を切る「サンセット」型の思考だ。
・成熟型社会、言い換えれば「長期転落社会」に必要なのは「戦略計画」である。どんどん生まれる〝富〟を配分するのが総合計画。これに対し、重点政策には「戦略計画」が必須。そして戦略計画には、既得権を打ち破る専門性、「地域の未来」への構想力とロマンが必要だ。
・誰も全体像がつかめない「複雑系」の時代。人口1万人の町でも、全部が見えるわけではない。むしろ細かいところが見えすぎて、利害が錯綜する。大きい都市だと個人の能力を超え、全体が誰にも見えてない。成長時代には先が読めた。今は一歩先が読めない変化の激しい時代。フクシマ原発の先が読めない。ヒヤヒヤ、誰もわからない。そこに五輪東京開催が決定。一夜にしてインフレに。そこにイラク、ウクライナ、国内でも大型台風、大災害(講演の日も広島で土砂崩れ)。国際経済は乱高下。もう、誰にも読めない。ここからは〝対処するしかない〟。
議論し、合意形成ができたら、すぐにやろう、という時代だ。
・〝身の丈〟以上のホール建設。それは計画ではなく欲望でしかない。
・プロジェクトの効果。公務員がプロジェクトに関わる。明確な責任体制のもと。これにより、ひとつのプロジェクトを終えると次のプロジェクトを作れるくらいの人材が輩出できる。「人が育ては、次に続く」。この良き循環を。
・今年4/22、総務省から要請。〝要請〟という名の〝指示〟が出た。公共施設等総合管理計画の策定。実は国もこの通知を出すのに5年もかかっている。今では新味がない。
・1990年、日本はOECD諸国に比し最高の黒字国だったのが2000年、大転落してアメリカをも上回る大赤字国に。国交省が危機感を抱いたところで笹子トンネル事故。超寿命化が急浮上。これに慌てて、総務省も追いかけた形。
・計画策定にさまざまな国の補助。既存の施設の解体費を地方債で、など、議論もしないのは問題。
・H21.3、藤沢市や習志野市が白書を作った。しかし一切進まず。「ひとつにまとめましょう」は各地から猛反発。白紙に戻る。今となっては「公共施設白書」は時間のムダだ。白書を作るなら、ジャンルで特化した「公民館白書」とか地域に特化した「A地区白書」とかにせよ。それならば計画進める具体的な資料としての意味がある。
・国の指針で、公共施設等総合管理計画の計画期間は10年以上が望ましいとされるが、この時代に10年先の計画を誰が作れるというのか。
さいたま市、川崎市が作ったものの、具体性なく、目標値のみ。実行計画、年次計画は無理。できるわけがない。
・国の指針に応じた計画は3日で作れ。それとは別に、実質マネジメントはこれから半年で練る。そしてできたらすぐにスタートを。
・公共施設マネジメントは総合計画型にしてはダメ。戦略計画型に。
・まず事例を作る。3つの事例を組み合わせる。そうすれば住民に見えてくる。
・横須賀市では委員会を5回開いて策定する予定だったが3回で切り上げ、あとは具体論を始めた。例えば敬老会館をどうするか。これまで10~16時開館だったものを8~20時に。0~2歳の子ども一時預り、図書コーナー、子育て交流コーナーを設け、浴場は銭湯に。このようなモデルを作ることが大切。遊んでいる、効率が悪い施設にどう投入するか。
感想
2時間にわたる、緊張のとぎれないスピードある講義。
「身に覚えのある」話題の展開、説得力のある事例引用をしながらの理論の積み上げ。
「ペリーが来た頃の横浜村は300人。今は300万人」。知らない間に都市計画ができたのではない、神様ではない誰かが、もみくちゃになりながら今日を作り、環状道路やベイブリッジを成し遂げた。時代は変われど、人の世は神様ならぬ人間が、誰かがやらなければならないのであり、先の読めない政治と行政に引っ張っていかれる生活者は不幸そのもの、ということになります。
氏の、全国各地での行政アドバイサー体験もふんだんに盛り込まれ、ここに書いて良いのかためらいすら覚えますが、公務出張報告なのだからいたしかたありません。どうかご容赦ください。
この講義を通じ、総合計画の世は去った、ということを改めて確認し、「人口減少時代の総合計画など見たことがない」という辛らつな氏の言葉と同時に、裏返せば、人口減少時代の「戦略計画」という、氏の提唱するものもまた、私は目にしたことがない、それがいつわらざる状況です。誰が作るのか。そして誰がそれを具現するのか。雲をつかむようですが、それは〝私たち〟以外にはいないのです。
あの市長、この議員。
これほどに、地方の政治家が悶絶する時代を、近代の日本は経験したことがないでしょう。中央集権の「国の指示待ち・予算待ち」の時代が1世紀。ですからペリーの時代の前にもどって、「わが藩をどうするか」という議論が各地で起きなければならないのでしょう。
ですからこれほどにまた、地方の政治家がやりがいのある時代もかつてなかったことでしょう。
二元代表制のもと、それぞれの権能、使命が異なる。戦略計画は市長にしか打ち立てられない、と、氏は冒頭でおっしゃいました。フォローだったのか、議会にもできないが、議会は「異なる意見だからこそ、市長に対峙できる」と、エールも送ってくださいました。そのとおりと思います。市長にない苦労を、私たち議会人は背負っています。そしてその上で、議会が市長を動かす時代が、一日も早く、来なければなりません。
この講義を受講したのが8月。続いた9月議会でもこの講義の内容に少し触れたものの、今は12月議会を終えたところ。わずか3ヶ月ですが、この間にも、時代が音を立てて進んでいることを思い知らされ、受講の内容をあらためてかみ締めます。時代のスピードに追いつけない政治家を選んだ、選ぶしかなかった生活者こそ不幸そのもの、と、自分を含め、冒頭と同じ感慨を繰り返させてもらいます。
講義が終わったところで、私は名刺交換がてら講師のところに向かいました。
あの〝茶坊主〟というフレーズが大変に気になった、いや「気に入った」からです。わが丸亀市にあってもいま、市長の「茶坊主」が必要。そこで横浜市でのこの「参与制度」を少し詳しく質問しました。9月議会で紹介しましたとおりですが、秘書課に所属する調査等担当、という立場。課長級で構成し、2年くらいで交代するというシステムだったそうです。ときには市長の〝嘆き〟の声にうなずいてあげるのも仕事のひとコマで、5人のメンバーは「うなずきブラザーズ」とも呼ばれていた、と、ユーモラスに教えてくださいました。
梶市長。あなたにもブラザースをプレゼントしたい。9月議会、私は「あなたの軍師は誰なのか」との設問で臨みました。まさに、うなずきもするがタイコモチではない、骨太のシンクタンクを、市長は持つべきだと、あらためてここで訴えておきます。
もう一つ。感想を書いておきたいのは、「勉強せずにおくものか」「提言せずにおくべきか」との私の深い決意です。
12月議会。私たちは共同で「議員定数削減案」を上程し、春までの継続審査としました。
〝軍師〟に値する議員集団を作りたい。削減反対派の方々の思いも分かるが、あなたがたこそ、自分の「正論」を、いつも「数の力」で押し切られているのではないのか。あなたがたこそ議員削減をまっさきに提案するのが良き判断ではないのか。私自身は、そのように考えています。
話が飛躍しましたが、関係のないことではありません。これら激動の時代の中で、限られた議員としての時間を立派に見事に使いきりたい。そして氏の説く「戦略計画」の時代到来で、存在を示す議会と議会人として市民から評価いただきたい。さらなる精進を期して、感想を閉じます。