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〇「紋別市教育大綱」について           紋別市

 


   令和6年5月16日 午前9時30分〜11


1.視察意図

 HPで拝見し、紋別市での教育ビジョンと実践に特筆すべきものがあると感じました。目を引いた項目だけでも、市長がかなり積極的に関わっていると思われる総合教育会議、ユニークで充実した教育大綱の構築、特に生涯学習における生涯学習情報誌や生涯学習ちゃんねるの運用、指導者を発掘し養成する「紋育バンク」などです。具体的なそれらの運用と、そもそも誰が、どのようにこの体制を押し進めているのかを知るべく、視察に伺いました。



2.視察の詳細

〇総合教育会議。H27よりこれまでに27回開催。会議の事務は教育委員会学務課庶務係が対応。市長と教育委員会が相互の連携を図りつつ、地域の教育の課題やあるべき姿を共有。「承認」主体の会議ではなく「議論」主体の会議となることを重要視。市長と教育長、教育委員のみならず、政策担当部局の職員も参加し、積極的に意見を出す。市長から「熱議の場に」との指示があり、市長が中心で会議を進めている。

〇市も「高校支援」の部署を持つ。市長の指示のもと、横浜高校と連携し、野球に力を注いでいる。

〇教育大綱。「地域で支える」を主眼。民意を反映することを心がけた策定。教育委員会が毎年、事務の管理・執行の状況について点検及び評価を行うこととしている。これにより成果を検証している。

〇生涯学習情報誌・生涯学習課ちゃんねるの運用。コロナにより生涯学習の場が休館に。そこで「いつでも・どこでも・だれでも」学べる環境が必要。

〇具体的には、紙ベースで生涯学習情報誌「とっかり」を発行。高齢者には動画はハードルが高いので紙にした。職員が企画・構成、企業との打ち合わせ、執筆、HPでも公開。題材は、例えば「市内の石像・石碑調べ」など。

〇YouTube番組。職員による企画・構成、企業との打ち合わせ、動画撮影・編集(市教委)YouTubeで公開。1番組5分を心がける。5分の番組に8時間をかけている。例えば港での「競り」のようすを撮影、授業で活用。このようなプロセスで「市民の中に入っていく」ことになり、そこにいる「人材」を発掘・登用することにつながる。「やってよかった」との高評価。

〇広がり。学校授業での活用(例:「知ってる?ゴミの行方」「紋太GENKI体操」「カニのツメ なぜここに?」「紋別流氷考察」など)。テレビ局等から動画素材の使用申請も寄せられる。各種事業、講座でも視聴する。ほかになど。

〇特徴。地域「もんべつ」に関する学びを発信。いつ見ても使える地域学としてアーカイブに。10年後も学べる。授業へのナマ配信ではない。

〇課題。動画編集スキルが必要。コロナ後は、事業再開するも負担が大きく、1月に1本のペース。ネタ探しに苦労。

〇経費。初期費用としてパソコンとソフト代25万円。報償費(謝礼金)13万円(@5000円)。カメラは動画機能付きの一眼レフで既存のものを活用。

〇学校支援地域ボランティア派遣実績。一覧表をいただいたのでその中から注目すべき項目を抽出。対象、内容、派遣ボランティアの順。

・紋別小5年生37名 競りの見学 漁協組合長

・潮見小1、2年生  「夏を楽しもう 盆踊り」踊りの花菱会

  コロナで開催できなかったが、新1年生に教える。日舞の先生を招へい。

・紋別中3年生70名 ギター演奏 ギタークラブ

  音楽の先生がギター不得意でギタークラブに依頼。

ほかに水産加工会社の見学、博物館から「アイヌの衣食住」、スーパーマーケットの職場見学、農協青年部長が「酪農業の学習」、どうぶつ病院院長が「動物病院のお仕事」、フィッシングクラブが「釣り体験」、落語会が落語学芸会、漁協女性部が「鮭・蟹・帆立貝を捌く」、浄水場職員が「浄水場の仕組み」、警察署が職場見学、柔道連盟による柔道教室、同剣道教室、警察署が薬物乱用防止教室、バードウオッチング、スキー授業など。小学校では体験的なもの、中高になると職業経験的なもの、キャリア教育が多くなる。

〇人材リスト「紋育(紋別で育てる)バンク」。毎年8〜9月に各学校に調査をかけて人材を発掘。バンクを基に学校からの依頼に応じて人材を派遣する。謝礼金は1時間2500円。公開。公開することで「うちでもやりたい」となる。R5実績は76件、226時間で右肩上がり。もともとあった「まなびあいバンク」は形骸化。これを活性化させるためにR3からこのような手法に切り替えた。

〇R6からは紋別市地域学校協働本部が立ち上がり、人材派遣窓口を一本化。地域学校協働推進員の配置を2名体制から3名体制に。地域人材を活用した「意味ある」授業を目指す。活用理由を明確にし、丸投げにならないように。研修会を行い、魅力あるモデルを作り、実りを深める。

〇紋育バンクによるメリット。学校側は開かれた教育課程、地域連携が容易、働き方改革、CSとの連携、地域人材発掘など。行政側としては地域人材の発掘、人材育成の場の創出、学校と社会教育との関係構築、社会教育主事の活躍、講座の充実。これらにより、学校と地域が連携できる基盤が構築される。

〇活用に際し、学校、地域、市教委の3者打ち合わせは、ほとんど毎日。



3.感想

 膨大な資料をいただきました。@総合教育会議開催履歴A紋別市教育大綱B教育大綱改正内容について(総合教育会議資料)C教育に関する事務の管理及び執行状況の点検及び評価報告書。これらには視察の時間内で目を通すことができず、説明はこれとは別の、この日のために作ってくださった視察向けの資料に基づいてなされました。心から感謝します。

 視察は午前に行われましたが、前夜、私はホテルを出て港を散策してみました。大きな音が聞こえ、見ると漁船がたくさん並んで大勢の人が作業に従事していました。翌日、ホテルの人に聞けば、たぶんホタテの稚仔の水揚げだろうとのこと。視察の中で、授業に使う「このチョークも、ホタテの貝殻で作るんだ」というように切り込み、子どもたちの興味を引き付け、ふるさと教育に結びつける。このような工夫がたいへん緻密に行われている印象を受けました。

 また、紋別に残る古文書をひもとくと、日本で最古のコーヒーがこの地で飲まれた、ということが判明するそうです。その知識に止まらず、200年前にここで飲まれたコーヒーを再現してみよう、となれば子どもたちも目を輝かせることでしょう。夕刻には浜辺も散策し、巨大なカニのツメのモニュメントに驚きました。職員の方々の名刺にも登場する紋別市のシンボリックな存在。その近くには砕氷船、夏場は釣り船として使われるという「ガリンコ号」の姿もありました。これを題材に、作詞作曲教室も開いたと伺いました。まさに多彩。関係者のご苦労と挑戦に脱帽。

 列席いただいた職員の中に、これらを果敢に進める若き職員がおられました。全庁横断、のみならず市役所の内外を縦横に飛び回る。うるさいと扱われ、時には協力を拒まれることもあるが、うまくその上司に取り入ったりしながら難関を突破している。こういう「一人」がいるからこそ、「紋育」が「紋育」たりえているのでしょう。

 話の中に何度も出てくる「とっかり」とはこの地方の言葉で「アザラシ」のこと。市のマスコットでもあります。その生態や、風物詩の流氷を学び、子どもたちはふるさとを誇り、愛し、また町のおじちゃんおばちゃんを知り、おじいちゃんおばあちゃんからいろいろなことを知る。「紋育」という言葉に、私はあこがれを抱くまでになりました。

 これら工夫と情熱は市民と職員の心の発露なのでしょう。それをうまく回転させる。それが行政と教育の手腕、ということになりましょう。丸亀市で、これにどう学ぶか。期待が膨らみます。

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