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〇大野ですくすく子育て応援パッケージ         大野市

 

 令和6年11月5日 午後2時30分〜午後4時

 

1.視察意図

 

 大野市HPで拝見した表題の取り組みは、市の総合計画というバックボーンを背景に全庁の機構改革、子育てと教育を結合するという意欲的なもので、行政のいわゆる「縦割り」のしくみが市民の暮らしに不都合を生じている、もともとその根源は国の文科省、厚労省の「縦割り」にあるのでしょうが、地方の知恵と危機意識、市民へのサービスの精神で、これを乗り越えようとしている、そのように思って、視察に伺いました。

 

2.視察概要

 

〇第6次市総合計画が令和3年にスタート。全6分野のうちの一つ、「こども分野」では「未来を拓く大野っ子が健やかに育つまち」を掲げた。ポイントは、「働きながら子育てができる環境や地域で子どもを見守る体制の充実、子育ての不安や悩みなどに対する相談・支援体制の強化」。具体的には、子育て部門を「教育委員会に移して」、一貫して行うこととした。「市民生環境部福祉こども課」から「市教育委員会事務局こども支援課」へ。

〇子育て「3つの柱」。@結婚から子育てまで切れ目のない支援体制A保護者のニーズに応じた子育てサービスBサポートを必要とする子どもと家庭を支援。これを基に「パッケージ」作成に着手。あらゆる世代をターゲットにしたパンフレットを作製。市のサービス全体を「見える化」。「緊急ダイヤル一覧」も載せた。庁内10の課・室の事業を網羅している。

〇市として大幅な財政支援。医療費は20歳まで助成。保育料は第2子以降無料化、所得制限なし。在宅育児応援手当ても所得制限を撤廃(県は制限がある)。子ども預けない人に1万円を支給。

〇次年度はさらにパンフレットを充実させ、14の課・室の事業を掲載へ。認定こども園に「国産材の木製玩具購入補助」、小中学校の給食はすべて大野産米を使用、川遊びの環境体験学習を推進。市内に産科がないことから、妊婦一人の時の救急車支援。家族への連絡サービスも。

〇その翌年度は庁内20の課・室、施設の事業を網羅。医療的ケア児受入れ拡充、家事援助や一時預かり「無料券」の配布を拡充。問い合わせ先はORコードで市のHPに誘導する工夫も。

〇さらに翌年度は20の課・室に加え49の事業も掲載し、分野別に整理した。こうした一元化で、こども支援課が押しているというイメージから各課が意識と意欲を持って取り組むようになった。長期休業中の子どもの居場所づくりにも注力。保護者に「小休止」を取っていただきながら子育てを楽しむ環境を整備。

〇そして今年度。各課に問い合わせてもわかりにくいことから、事業ごとに誘導することにした。課ごとのQRコードから事業ごとのQRコードへ。これにより、サービス制度が「あるのに知らなかった」を防ぎ、ちゃんと情報が伝わっているかに気を付けるようにした。子育て応援チケット10枚を配布。11時間のサービスを受けられる。これを活用してリフレッシュ。とても喜ばれている。ほかに「子ども子育て会議」を年に34回開く。PTAや保護者会のナマの声・意見が届く。また「ニーズ調査」もやっている。「自由に書いてください」の欄に切実な声が届く。

〇予算決算ベースでパッケージの成果を検証する。残念ながら実績額が下降しているのは、子どもの数が減っているからである(予防接種の回数など)。実績の数々は「感想」に例示。

〇今年度、こども支援課内に「こども家庭センター」を開設。子育て世代の総合相談窓口として好評。説明の後、見学させていただいた。

 

3.感想

 

 大野市は福井から越美北線、愛称九頭竜線でさらに1時間走ったところにあります。星空をウリにする町。言葉を返せば、人口減少の問題が切迫しているところと言えます。市内に産科がない。こうした説明を受けて、子育て支援への取り組みは真剣にならざるを得ない。そのことが伝わります。まさに全庁を挙げての取り組みとなっていました。

 「すくすく応援パッケージ」として網羅的に全庁を再編成する、各課・室をツリー構造に示したパンフレットの一部があります。そこにある部署名を書いておきます。

 子ども支援課、地域子育て支援センター、子育て交流ひろば「ちっく・たっく」、児童デイサービスセンター、総務課、産業政策課、環境・水環境課、秘書広報室、建設整備課、市民生活統計課、地域文化課、生涯学習・文化財保護課、福祉課、農林漁業振興課、スポーツ推進課、健康長寿課、防災防犯課、交通住宅まちづくり課、教育総務課、図書館。ツリーにはそれぞれの部署に導くQRコードが付されています。

 これを令和6年度には再整備し、それぞれの取り組みごとに直接誘導することにしました。例えば不妊治療助成、産婦検診、新生児難聴検査、妊婦さんの救急車利用、母乳ケア、ブックスタート、などなどです。

 いただいた資料の最後にはこのパッケージによる実績がたくさん、網羅的に、執行予算額と前年度比を上下矢印で示したものが掲げられています。熱心に取り組むも執行額が減っている。これはそもそもの少子化によるものですから深刻だがいたしかたのないことだと思います。その項目は、

 産婦検診、不妊治療費助成、新生児聴覚検査、インフルエンザ予防接種助成、児童デイサービスセンター利用者数、母乳ケア(外来費用の助成など)、ブックスタート、チャイルドシート・自転車用ヘルメット助成、休日の小児救急診療者数、多胎妊婦の支援(相談会)、妊婦さんの救急車利用(登録件数と搬送件数)、歯の健康(フッ素塗布や歯みがき指導、健診)、子育てライフサポート(家事援助チケット)、保育料免除、こども医療費助成、障害児・医療的ケア児の保育、子どもの預かり、在宅での子育て支援、3人っ子学校給食費助成、図書館で宿題支援、
BG
(B&G海洋センターでのプール開放と海洋性リクレーション)、大野産米を使ったおいしい給食、夏休み子どもチャレンジ教室、エキサイトウィーク開催(夏・冬休みに弓道、陸上、工作などの教室)、放課後の居場所、公民館を学習場所として無料開放、障害のある子どもの移動支援、全国大会出場経費助成、スポ少年団支援、中学生ジュニアクラブ活動支援、世代を超えて地域課題解決交流、防災キャンプ体験や防犯カメラ設置助成、若者・新婚世帯への住宅賃貸費用・引っ越し費用・定住・3世代同居支援、UIターンと就職支援、「お父さんと遊ぼう」開催、子育てと仕事の両立支援(企業への認定と支援)、起業・創業支援、男女共同参画「子育て講座」、以上です。

 説明いただいた会議室を出て、市庁舎に隣接する「こども家庭センター」にもご案内いただきました。奥が庁舎。手前が隣接する「結とぴあ」。ここにセンターが入っています。

 

 

 部署のようすに特段のものはありませんが、ワンフロア内で機能をひとつにしている印象でした。右に木のつくりで「こども家庭センター」の看板が立っています。

 東京を除いて全国どの自治体でも少子化対策を重要課題としていますが、人口3万人余のこの市ではそれは切迫しており、このままではいけないとの意識がこうした施策展開に表出しています。その意識が、おそらく制度や予算だけでなく、職員一人ひとりの仕事の態度にも出ていくのだと思います。国のなせることは予算の配分しかない。それをどのように実あらしめるかは自治体の責務であり、腕の見せ所とも言えましょう。地方創生のボールは、国でなく地方にあります。「うちはさほど困ってないから」という意識では、最後に足元をすくわれます。言葉は悪くて申し訳ないですが、「課題先進国」などと言われます。そこに私たちが学ぶものは多く、「後追い」では住民が不幸だ、との意識を、大野市の取り組みから学ばせていただかなくてはなりません。


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