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〇まちづくり円卓会議                大阪府大阪狭山市

 

1.視察意図

大阪狭山市の吉田友好市長が自ら旗を振り、全庁体制で取り組む「市民が起点のまちづくり」。その具体的展開手法はバラエティに富んでいます。

その一角をなす取り組みとして、「まちづくり円卓会議」があります。

市役所から歩いてすぐのところに「市民活動支援センター」もあり、今回の視察ではこちらにもお邪魔させていただきました。

いただいた資料には、市長自らがメディアに登場して「市民が起点」を熱く語る記事、市長の名でのプレゼンテーション資料(大学で市長自らが講演した時のパワーポイント)、円卓会議情報誌、市広報にも大きくページを割いての「市民活動の広場」など、その取り組みの「熱さ」が伝わってきます。

ここでは私も少し「冷静さ」を取り戻し、説明いただいた順を追って、紹介してまいります。

 

2.「まちづくり円卓会議」設立までの背景

市の所管窓口は政策調整室、市民協働・生涯学習推進グループ。

194月、吉田市長2期目のマニフェストが発端。

「先頭切って走り、叫ぶ市長」と、担当者の弁。担当者は「鍛えられています」。

行政レベルでも、大阪府から市への権限委譲が進んできた。NPO認可、障害者手帳発行、パスポート発行、建築確認など。ここからは市から地域へ、住民へ、権限が委譲される時代へ。「税金の使い道は、市民に近いところで決める」という発想から、「まちづくり円卓会議」が生まれた。

現在、自治会加入率は67%。同市ではS42年からニュータウン開発が進み、その世代が高齢化。高齢化率が著しく高い現状にあり、「支え合うまちづくり」が急務。

50歳から住みやすいまち」というランキングがある。首都圏、関西圏、中部圏258の自治体中、千代田区、港区などに続く4位という好成績を誇る。要因は物価が安いことや大学附属病院の充実など。「住みにくいまちは人口減少するだろう」。

同市には校区ごとのコミュニティセンターは存在しない。68の集会場がある。

 

3.「まちづくり円卓会議」の概要

中学校区単位の地域協議会を「まちづくり円卓会議」と称する。市内に3校区。

「地域のことは地域で考える」をコンセプト。H19、地域担当職員1名を配置。

20年、「新しいまちづくり制度」全体説明会を開催、「円卓会議事業実施要領」を策定、「円卓会議運営費補助金交付要綱」を策定。

中学校区単位の設立は全国的にめずらしいが、これは小学校区で実施の選択肢がなく、

市長マニフェストでこの単位からスタートしたため。

多様な団体で構成。自治会、住宅会、NPO、市民活動団体、事業所ほか。「顔の見える人材発掘」を目指す。

ユニークな「予算措置提案権」。自治法上「予算編成を委ねる」とは規定できないものの、地域の予算執行を「住民発」の発想で行う。議会の予算議決権は狭まらないようにする。各議員も2校区でオブザーバーとして各校区円卓会議に参加、1校区では議員でなく一市民として参画している。

行政主導でなく地域主体の立ち上げを心がけた。3つ勢ぞろいを目指さず「1つから」。

「やらされている」「してやっている」の感覚にならないよう配慮。

地縁型とテーマ型との固執がある。テーマ型の人びとが突っ走ると地縁型の人びとが後ろ向きになる。

既存の組織の整理、発展的統廃合の進め方がこれからの課題。

制度導入で参考にしたのは三重県名張市と大阪府池田市。

今後の展望として、地域におけるコミュニティ市役所といえるまでに発展させたい。

市長3期目のマニフェストとして、「まちづくり円卓会議」の条例化を進めている。具体的には、交付金化を目指す。監査の対象として会計のしくみを確立する。組織をNPO化する、という方向。

 


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4.
「新しいまちづくり制度」

207月、住民に呼びかけ説明会を開催。動員をかけず、各団体に呼びかけ。市民55人、職員32人で開催。

将来的には「地域におけるコミュニティ市役所、ミニ市役所的な機能を担っていただく」との構想。

目的として、市民に「身近なところからまちづくりに主体的に関わっていただく」「市民団体間の交流」「地域内コミュニティをより強固に」「地域のニーズに合った事業」とある。

具体的には中学校区単位に1会議で設立。まちづくり提案や地域別計画の策定を担う。

その具体的形態として「まちづくり円卓会議」が機能している。

 

5.「まちづくり円卓会議事業実施要領」の詳細

21年度から施行。

会議の目的

・身近なところからまちづくりに主体的に関わる市民自治への契機づくり

・より市民ニーズに即した事業選択

・地域内コミュニティの醸成や市民協働の推進

・地域内で活動する各種団体の連携促進

→市の担当から発信を声かけする。「こんな会もあります」と促す。

市は会議の運営費を補助する。

予算措置提案の限度額を500万円と定める(ハード事業を除いている)。対象事業は

・地域コミュニティ育成事業

・地域の福祉に関する事業

・環境に関する事業

・防犯・防災に関する事業

→円卓会議からの事業提案を受け、市ではそれぞれの担当部署が予算化する。

別に円卓会議への補助金交付要綱があり、上限10万円と定める。対象となるのは

・講師謝礼など報奨金

・研修会参加等の交通費

・消耗品費、郵便・通信費

・会議のお茶代、会議室使用料など

 

6.市民活動支援センターの概要

年末年始以外オープン。9時〜22時。

業務委託。1024万円/年。NPO大阪狭山アクティブエイジングが受託。

公募方式。3年契約。

VIC(ボランティア・インフォメーション・センター)の機能を担う。ボランティア活動の紹介、情報募集、活動団体登録などを通じ「ボランティア情報の交差点」を目指す。活動団体を登録するだけでなく、「こういうことをやりたい」という市民の登録も行い、希望の団体が見つかればお知らせするという活動も行う。

団体登録冊子「しみんのちから」を発行。

福祉ボランティアの窓口である社会福祉協議会、学校教育ボランティアの窓口である教育委員会とも連携している。

経験豊かなスタッフがボランティアをしたい市民の相談に対応。

ミーティングルーム、ミーティングスペースとして活用。50人収容の講堂あり。

専用貸し事務室3室。貸しロッカー8本。

無線LAN、自販機・給湯、メールボックス、印刷機・コピー機・紙折り機・丁合機、パソコン・プロジェクターなど常備。

研修会の開催。まちづくり大学、市民活動支援セミナー、まちづくりサロンほか。

 


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7.
感想

まだまだ、教えていただいた事項のすべてを書ききれていません。

市長の情熱が引っ張っているという感。これでこそ市長、との思いを抱きます。

緻密な戦略、計画性、整合性を持ち、試行錯誤しながらも市民を巻き込むことに成功していると思います。

以下、ここまでで紹介できていないご恵与いただいた資料から補足しつつ、述べます。

 

@「円卓会議ニュース」

 円卓会議が情報誌「円卓会議ニュース」を年4回発行。編集から配布まで円卓会議が

行う。事務は市が担当する。活動の意義や内容をわかりやすく説明。コミュニティカフ

ェ、花いっぱい運動、ウォーキング、健康講座・元気教室、防犯パトロールなどの模様

が写真入りで紹介され、イベントの開催の案内も載っています。市にこのような提言を

行った、という記事もあります。

 めくっていくと協賛企業の広告もありました。広告収入はウォーキング大会などのイ

ベントに活用。

 

A「まちづくり大学」の運営表

 ほぼ毎週土曜日、午前または昼の開催。

 開講式となる6月第1週冒頭で特別講義として市長自らが登壇。市民活動支援センタ

ースタッフがオリエンテーションを行う。

 その後の講座内容は市民活動支援セミナー、さやまの歴史、行財政改革・地方分権、

財政、都市計画、市民自治、議会、ごみ処理対策など多彩。講師は市担当部局や大学教

授など。講師も「協働」で。

 

B市長の大学での講演レジメより

 上記まちづくり大学履修者にお誘いし、任意で加入する「まちづくり研究会」が人材

の供給源。これがあるから円卓会議が持続できる。現在206人。

 「あちこちで語る」市長。大学のほか日本都市センター、マスコミにも。

 レジメの中で市長が語る円卓会議のコンセプトは、

 ・人と人が顔を合わせ、言葉を交わしてこそ「地域」

 ・自分たちの地域は自分たちで、それが地域主権

 ・地域に応じた「仕組みづくり」は地域の人たちの力

 →円卓会議を地域づくりのきっかけに。

 商業施設の一角を借りてサロン「みらい」を開設。お茶を飲みながらの語らい、事務

局スペースとしても活用、出前講座の会場としても利用。毎日お茶を飲みに来る人も誘

い「ここで活動しませんか」と巻き込む。一日平均利用者は35.7人。カフェボランティ

アも当初10人から現在40人へ。

 「NPO化することが円滑な運営のコツ」「条例化ではNPOを切り札に」と市長。

 

C市民活動支援のちらしより

 根拠条例として「市民活動促進条例」がある。

 これに基づき、市民公益活動促進補助金制度がある。H16年度より。

 そのメニューは、

 〇チャレンジ部門…新規に立ち上げる「新公共サービス」に対し、

  補助率3分の2、限度額10万円、10位までを優先採択

 〇自立促進部門…チャレンジ部門以外のものを対象とし、

  補助率2分の1、限度額50万円、5年を限度

 公開審査を行い決定。補助金を受けた団体は報告会を行う。

 事務は市民活動支援センターが担当する。

 

「市民活動促進条例」と聞いて、これはもう半端なものではないと思いました。

別に頂いた「協働形態別事業数」という資料。これによると、形態別に、24年度は

@政策提言・企画立案過程における協働(市とは違った視点からの提案を期待)11

A委託契約(本来市が行うべき業務を委託し、さらに効率を高める)15

B補助金交付等(市が資金提供)33

C共催(市と団体とが共に実施主体となる)15

D事業協力(市と団体とが互いに出せるものを出し合い協力)61

E実行委員会・協議会(市と団体とが実行委員会を構成)4

F後援(団体が主催、市が後援)2

G情報提供・情報交換(市と団体とが情報を共有し公益目的を達成)7

Hその他 6件    合計154件。

いかがでしょうか。市民活動の盛り上がり、いやそれ以上に、協働への市のほうの熱と力が伝わってくるではありませんか。派手な祭りやイベントではない、小さな会議室の中でも市民が市民のために活動し、それを通じて自分を実現している、手ごたえを感じている、満足を得ている、そんな息吹が伝わってくるではありませんか。

広報「おおさかさやま」も頂戴しました。そこに見開きで、「市民活動の広場」というページがありました。

同じ「市民協働」という列車があるとしたら、丸亀市の列車はホームに止まっており、大阪狭山市のそれは全速力で走っている、という印象を受けました。

「市政」という情報誌があり、その20127月号に大阪狭山市の吉田友好市長が登場。インタビューに答えた市長は、わが市の自慢として「狭山池と多彩な市民活動」ときっぱり。記事には「これまで数多くの市長さんにうかがってきたが、『市民活動が最大の自慢』と答えられた方は珍しく、非常に強い印象を覚えた」とありました。

その成功の秘訣は官主導でなくどこまでも市民による市民のための「まちづくり大学」を成功させたこと。とはいえ、それを仕掛けたのはやはり市長であり市役所です。ただ主導しなかっただけ。そう思います。

これを基盤に人材が輩出され、それがやがて「円卓会議」に結実します。成功へのビジョンが美々しく整っていたわけではない、考えながら走った、走りながら考えた、そんな市長の横顔が感じ取れます。

我々も、走り始めなければなりません。脱線を恐れて止まっているべきではない。

私は市長ではありません。議員として、それでは何ができるか。同僚議員と語らって、議会が市長と市役所とを動かしていくことでしょう。

大阪狭山市を訪問し、さらに確信を深めた「市民の時代」の到来。次に選ばれる市長がどうであろうとも、私はブレずにこの道を信じ、歩みます。

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