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○市民とのパートナーシップ会議                  宮城県大崎市

 

1.視察意図

 

私の持論。市民との協働のしくみづくりにはまず、市職員が市民のところに飛び出すこと。それをまさしく実践しているのがこの大崎市の取り組みです。

準備していただいたプレゼン画面。そのトップの表題には、「自立性の高い住民自治の確立に向けて〜大崎市流・地域自治組織〜」とありました。総合計画に「市民が主役 協働のまちづくり」を掲げ、庁舎前に立つ最重点プロジェクトの看板に、この「大崎市流・地域自治組織の確立」が打ち立てられているとのことです。市町合併以来7年、この課題にずっと取り組んできた担当者が、静かに熱く、概要説明とともにご自身の意欲を語ってくださいました。

 

2.制度確立への背景

 

○合併は画一、公平、平等が前提となるが、合併前の16町を比較すると、高齢化率

において20%の地域と36%にも及ぶ地域がある。これだけ見てもそれぞれの地域が異な

る課題を抱えていることは明白。その課題解決のためには市役所が画一的な行政をして

いてはだめ。地域ごとの自発的な住民自治活動組織が育つこと、それを育てることが重

要、との考え。

 

○具体的には、小学校区(54)に地域づくり委員会を設ける。これとは別に7つ(旧1

6町)のまちづくり協議会を設置する。この枠組みは行政がこしらえたが、その中味

は地域ごとに決めた。ここが最大の「大崎流」。そうしないと、組織運営をどこまでも行

政が面倒見なければならないことになる。行政は「手を引く」。

 

○あくまで「補完性の原理」を貫く。「それは本当に行政がすべきことなのか」「私たち

にできることではないのか」

 

○地縁の町内会とテーマごとのNPOが自然に協働することは全国的に稀。

イベントで盛り上がるのではなく、地域課題解決≠ノ主眼を置いた問題意識。

協働とはいっしょにイベントをやることでなく、いっしょに課題を解決すること。

  

○行政の担当者はこの住民組織を回る。昼も夜も。本庁に座っていることはほとんどな

い。年間延べ何万人もの市民と会う。市民から覚えてもらうことが大事。ネクタイ姿は

相手が身構える。ちなみに当人は住んでいる地元で消防団員、スポーツ推進員、PTA

会長を務めている。

 

○まちづくり協議会の役割は大きく2つ。

 ・住民自治活動…活動の企画、団体支援など

 ・地域審議会機能…新市建設計画や市長からの諮問を審議


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3.行政によるさまざまな戦略(ここが重要)

○政策アドバイザーの設置(高崎経済大学准教授)

 ⇒新幹線で2時間。月に5日、来てもらっている。

○「市民協働推進部」の設置

○「大崎市地域自治組織推進本部」の設置

 ⇒市長を本部長に、庁議メンバーで構成

○「コミュニティ推進戦略チーム」の組織化

 ⇒地域の実情・特性に応じた支援のあり方を検討。教委の公民館職員と市長部局の

  まちづくり担当職員が連携

 ⇒「行政の画一的対応」から「住民活動の多様性」に対する支援へ

○地域自治組織活動カレンダーの作成(HP)

○地域自治組織活性事業交付金制度の導入

 ⇒住民の主体的な財源活用

 ⇒それぞれの組織のペースに応じた交付

 ⇒基礎部分、ステップアップ部分、チャレンジ部分で構成

 ⇒総務大臣賞を受賞。交付の仕方を工夫したことが評価された。

○大崎市地域自治組織活性事業交付金審査委員会条例の制定

 ⇒住民との協働による審査と交付決定

○地域自治組織支援基金の創設

 ⇒合併特例債40億円を基金に、その運用益3000万円でまかなう。

 

4.パートナーシップ会議の導入

 

○「行政vs住民」という対置構造を克服。「話し合い」の積み重ね。

 政策アドバイザーとまちづくり担当職員とは、住民の中に入るが、行政ができる・で

 きないとか、あれをしろ・これをしろとは言わない。あくまで「話し合いをしてくだ

 さい」に徹する。

 できること・できないことを明確にする。

 誰が解決するのか、を明確にする。

 

○パートナーシップ会議のルール

 ・対等な関係である

 ・情報を提供する

 ・目的を共有する

 ・話し合いである

 

○大崎市の協働のこだわり

 ⇒各種事業や活動を一緒に行うことだけではなく、話し合いを含む一連のプロセスが

 協働である。

 ⇒素案段階から行政と住民が話し合い、ともに考え、プランを立てる。

 ⇒行政は仕掛け作り、きっかけ作りに徹する。

 

○パートナーシップ会議の実際

 ⇒行政発案の場合と市民発案の場合の2通りがある。市民にも提案権がある。

 ⇒具体的事案に応じ、その担当課がパートナーシップ会議を所管、運営する。

 ⇒意見はできるだけ政策形成に反映させる。また公表する。

 

 

5.感想

 

大崎市では平成26年を目途に、「協働のまちづくり条例」制定に向け、準備中。合併以来、着実・本格的に「市民との協働」が具現化していることにあこがれを感じました。

担当者いわく、「大崎市パートナーシップ会議」は全国初=B

合併はしたものの、市民と行政とが話し合うテーブルがないことを自覚。さらに、職員は異動する。職員はコミュニケーションが苦手。これによって、協働は、止まる=B

またいわく、「行政職員は話し合いが苦手。そこにまちづくり課がサポートに入る」。

さらにいわく、1回目は必ずどういうふうに進めますか?≠ゥら始める。従って必然的に、時間はかかる。例えば8回の会合を開いた、といってもそれぞれの会合の間に23回の打合せを行っている。ゆえにとても時間がかかる。それでも、地道にこつこつと、大崎市では今日も、市役所職員が市民の生活現場を回っています。

これこそ地方の時代の王道≠ネのではないでしょうか。

根気強く進めていくうちに、これまで来なかった人が来るようになる、発言したことのない人が発言するようになる、といった「目に見えぬ」成長がある、と言います。それにはワークショップがとても有効、とのこと。確かにまだまだ「それは行政がやることだ」の一方論は多いとのことですが。かつて合併前、「町長のいいなり」とも言われた行政の進め方に対して住民は「自分の意見が実現する」という手ごたえを感じ、「目覚めた」という市民も少なくないと。

象徴的なエピソードでしたが、公民館へ指定管理者制度導入に際しても、まず行政から「ありき」ではなく「公民館とは」との根本の問答から始めた、とのこと。その議論に3年を費やした、とも伺いました。これはもう堂々たる政治哲学ではないでしょうか。

さらに丸亀市の現在の課題にも関わるエピソードをひとつ。保育所民営化の議論に際して、「民営化方針」ありき、では行政主導になってしまう。そこで官民あらゆる人たちをパートナーシップ会議に入れる。そこで、民営化反対論者の「公立なら安心」という大前提が果たしてそうなのかを議論。「民営のほうが良いのでは」という意見も出るようになった、とのこと。戦略とは、まさしくこういうものを言うのではないでしょうか。

市役所職員は4月に始まり3月末に終わる「年度」サイクルに追われるように予算を執行し、議会に対応し、来年度の予算を見積もる…そのルーチンの呪縛にかけられて、ともすれば本来の「住民のため」という視点を置き忘れていはしないでしょうか。

もっと突っ込んだ言い方をさせてもらうなら、「市役所が何かを市民にしてあげねばならんのだ」という一種不遜な「思い込み」の中で、仕事をし、市民に接してはいないでしょうか。

地方の時代とは、住民自治の原点に気づくことではないのでしょうか。

ならば、大崎市のこの先進の取り組みは、単に全国初、だけでなく、民主主義の根幹にかかわる大きな自治体の革命であり、発見であり、開拓ではないでしょうか。

ある日、ある時報とともに、何か舞台転換が劇的に行われることはあり得ない。グラデーションの中で少しずつ色彩が変化するように、市民と住民とのあり方もまた、ある制度、市役所の機構改革、交付金の設立、などを機に夢が現実になるというものではない。じわじわと、「懲りずに」、これでもかと、市民の中に飛び込んでいく、その繰り返しの中でようやく、市民協働という、わかりやすくてしかも実現の難しいこの理想が、少しずつ見えてくるのだと思います。

協働とは時間のかかるもの。このことを心に期して、しかもスピード感を持ち、丸亀市でのこの大理想の具現化に、私は取り組んでまいりたい。

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