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○オープンデータの取組/広報市民記者瓦版事業   福井県鯖江市

 

1.オープンデータの取組

 

・「オープンデータ」とは、行政が持つさまざまなデータを公開し、市民が活用できるようにすること。新しい活用方法の開発で、経済効果を見込む。

 

・国の取組。H24.7、国のIT戦略本部が「電子行政オープンデータ戦略」。25.1、経済産業省「Open Data METI」開設、統計情報・白書を公開。H25.62020までに「世界最高水準のIT利活用社会を実現する」ことを目標に「世界最先端IT国家創造宣言」。

・鯖江市の取組。H24.1、鯖江市内のトイレ情報をオープンデータ化。その後、人口、気温などの統計、避難所、AED、観光・文化財など50種類の情報をオープンに。これに対応し、民間で90種類以上のアプリが開発されている。近隣市町、県、国へと広がることでさらに価値が高まる。

Linked Open DataチャレンジJapan2012において「人の流れ賞」を受賞。H25.3、オープンデータ流通推進コンソーシアムから「最優秀賞」およびGoogle賞。国のH25年版情報通信白書で鯖江市の取組が取り上げられた。NHK、日本経済新聞社など取材多数。

・これらにより、市民から電話がかかり問い合わせに追われていたがこれに手を取られなくてすむように。また市民も便利に。

 

2.感想

 

 いただいた資料より、オープンしている情報一覧から前述以外のものを紹介しますと、

・鯖江百景の位置情報 ・さばえ検定100問 ・議会一般質問

・街なかぶらりMAP ・農産物直売所 ・避難所 ・消火栓 ・駐車場情報

・道路工事情報 ・工業出荷額や米の生産量 ・市役所部課一覧

・市広報 ・子育て支援施設 ・wi-fi設置場所 などなど。

これに対し、利用するためのアプリを見ますと、

・トイレ情報やAEDの検索アプリ ・バスモニター ・観光情報

・避難所へのルート ・百景へのルート ・地球と鯖江の温暖化調べ など。

これらは市民にアプリ開発に長けた人がいて、市と強く連携をしながら進めている状況。その方は後述の「市民記者」でもあり、市民参画の活発さが伺えます。

これらのオープンデータとアプリを活用した好例として「バスどこサービス」があります。停留所で待っているがまだバスが来ない。いまどのあたりを走っているかを即座にモニターできるというスグレモノです。

「こういうサービスがあると便利だし、楽しい」との思いをカタチにしていく情熱、そして市民と市との「風通しの良さ」を強く感じます。

最近テレビでも、あの大震災のデータ分析で、発災の後、燃料の不足がトラック搬送にどれだけ支障をきたしたか、とか、1週間後にはどんなものが売れたのか、といったことが緻密にわかることが報じられ、データというものへの味方が一変しました。灯油やガソリンを運ぶトラック流通のシステムそのものが、製油基地を中心に範囲が閉じられているしくみが、被災地に乗り込む体制作りを遅らせた。お茶漬け、パックのカレー、さらに子どもの気を紛らわすためのおもちゃまで、被災者の購買心理の動向がきっちりとデータによって示されていたのです。私たちはいやがうえにも、これまでの常識を、勇気を持ってかなぐり捨てる必要に迫られています。

そのことを、こうして他の先進地がすでに取り組まれている。大震災の場面ならずとも、私たちの暮らしの中で、手に取るように、便利さが実感できる。そこに行き着くために必要なのは、すでに蓄積されている膨大なデータをこのような「目からうろこ」の発想転換で活かしていくことへの覚悟と、そして市民の中にある知恵や技術、何よりも情熱を、行政が結集していくことができるのかにかかっているでしょう。そこでは、市民の中で仕事をしている私たち議会人の知識や人脈も、大いに役立つと思います。

壁を立てず、オープンに。これがなかなか、行政という常識の中では困難であることも想像できます。

こうして私たちが視察に行かせていただいて、新風を丸亀市にもたらすことも、大事なことだと思います。ですから市議会の視察報告もまた、市役所職員と市民の皆さんへぜひ〝オープン〟になることを、私は願っております。

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3.広報さばえ市民記者瓦版事業の概要

 

・市民が読み、役に立ててくれているか。お知らせが中心で必ずしも市民に親しまれていないのではないか。みんなでみちを考えるきっかけとなるような広報にしたい。そのための発案が、この事業に結び付いた。

・「市民の声を広報に~親しみのある紙面づくりを目指して~」をテーマに掲げ、市民を巻き込むことを発案。ただし市が決めた「何かをやってもらう」のではなく市民が記者となり、「やりたいこと、やってみたいことを職員とともに実現する」スタイルとする。

1995年に鯖江市でも開かれた世界体操選手権が市民参加のはじまり。市民ボランティアでのおもてなしが盛り上がったことが発祥となる。

・市長が提唱した「若手職員チャレンジ枠」からスタート。「市民が主役のまちづくり」を掲げ、「市民がやったほうが良いもの」を審査会で検討した結果「市民主役事業」として立ち上げた。

・「市民目線」の広報を目指す。市長「だめならやめればいい。ともかくやってみよう」と後押し。

26年度に市民に募集。当初10名を見込んだが、結果は7名でスタート。任期は273月末までの1年間。募集時「応募の動機」を書いてもらう。

・募集に際して掲げた業務内容は、①市内のイベント取材、記事作成②紙面構成や特集記事、連載物の検討③レイアウト、フォントなど改善点、以上のみ掲げ、あとは自由に考えてもらうことにした。

・毎回見開き2ページ分を基本として担当してもらう。

・定例会議を毎月2回開催するがそのうちどちらか(昼か夜)1回出てもらう方式。どちらかに出ればよいこととしたことで、2度開催とはなるが仕事の人、家事のある人も参画できる。取材、記事作成は個々の日程で。ただし取材は基本的に市職員同行。

・記者はフェイスブックアカウント「広報さばえ市民記者」で登録してもらう。これを活用し、情報発信も会議も取材画像のやりとりもFB上で。

・福井新聞社の記者を招いての研修会を開催。

・腕章、認定証、名刺やIDカードを交付。

・市民総合賠償補償保険に加入。

・カメラは個人持ちまたは貸与。

・謝礼は年度末に地域通貨で。5000円程度。

・写真カメラ愛好家の市民の腕前を発揮した広報紙面。県外から移住した人が加わり、新たな発見もあり。

 

4.感想

 

 私がこの取組を知ったのは「公職研」という月刊誌。広報さばえ8月号の表紙がとてもユニーク。顔を映していない、大きなメタボのおなか。市役所職員のある方に協力していただいたそうですが、それはともかく、お腹に重ねて見出しが「あなたのため、そして家族のために、受けてほしい健診があります P2-5

と縦書きであり、腰のあたりには横書きで「あきらめないで、減量」とありました。思わず、2ページを開く気持ちになった市民も多いはず。

 もし市役所職員だけで広報づくりを続けていたら、このような表紙は思いつかず、思いついてもおそらくボツになっただろう。市民の発想だからできた、市民が加わったからこそ許された、そんな経緯を記事で読みました。

 視察にお邪魔し、それからの毎号を恵与いただきました。9月号は木の幹のセミの殻を下から見上げる昆虫採集の男の子。フレーズは「鯖江の夏は、まだ終わらない 9月はサバフェスがある!10月は「さばえ近松文学賞2014」の紹介。受賞した作品の「さわり」を、出身の漫画家、久里洋二さんのイラストを添えて。

11月号は「どくしょてちょう」をアップに「読書の秋に、うれしい新アイテム」と。12月がまたユニーク。市長賞を受賞した「〝マンガで魅せる〟さばえいいとこ探し」の高校生マンガ作品を全面に。そして視察時点での最新号、1月号にふさわしく飛翔するコブハクチョウの勇姿を市民が撮影…。

 とても重たい()おみやげをいただきましたが、内容もずっしり。市広報担当課にもお見せします。

 お話をうかがううち、「市長の後押し」ということに何度も行き当たります。そこで「市長ってどんな方ですか」とお聞きしたくなりました。72歳、現在310年目。県職員から副市長、県議を経て市長に。よく動く市長。災害時に堤防を見回りに行くと一人佇んでいるカッパ姿の人がいたが、それは市長だった、というエピソードも承りました。市民の中に神出鬼没、自分で運転しどこへでも。最前線をよく知る人。口ぐせは「現場へ行け」「市民を大事に」。先を読む人、職員は戸惑ったが、もうハラが決まった。市民を巻き込むことに情熱を傾ける人。「地方の元気が国の元気だ。人の増えるまちづくりを。若い人、女性の声を聞け」といつも言う。そんな答えが担当者の口々から出ていました。

 参考までに、鯖江市では広報媒体も充実。広報紙以外に、CATVでは毎日3回、10分の行政番組を放映。2週間ごとに更新。FMラジオ広報は毎日4回、20分番組を放送。市公式HP1日平均5件程度の各課からの更新。FB「めがねのまちさばえ」。市長自身も日々23件発信。ほかにYouTube「さばえシティ」、Ustream「さばえチャンネル」も随時、という状況。

 余談ですが鯖江市といえばネット上で「日本初!自治体に女子高生の課」というのが大きな話題に。去年4月のことでした。ネット上の情報を探ると、市長が動画で登場。「鯖江市役所JK課」は、「市民主役条例」に基づく市民協働推進プロジェクトの一つとして立ち上げ。「ゆるい市民」であるJKにもまちづくりに参画してもらおうとの意欲的でユニークな取組。「JKなどというコトバを使って、物議をかもしませんでしたか」と私も率直に質問を。「物議」は市民からはなく(慣れているのでしょうか)、逆に市外、都会のほうから「不謹慎」「男子高校生はどうなるのか」などのクレームが届いたとのこと。それは読み込み済みの範囲だったようです。それ以上に、JK課プロジェクト運営メンバーの活躍が、HP上に弾んでいます。

 〝メタボ表紙〟で鯖江市に注目し、お邪魔すると市長のパワーに圧倒され、そしてしみじみ、「やったもん勝ち」なのだ、今の自治体は、との感慨を新たにしました。行政、市長、議会。みんなが「やったもん勝ち」の意気で取り組んでこそ、市民は巻き込まれる、市民はシアワセになる、という方程式ではないでしょうか。

 語らない議会、守旧の行政、決断しない市長。こういうメンバーが揃うと、この時代は乗り切れません。

 この報告書を書きながら、市の広報紙への私なりのキャッチフレーズが浮かびました。「玄関先に届く広報から、目に届く、心に届く広報へ」。いかがでしょう。そのためには市民の汗と、行政担当者の知恵、そして為政者・幹部の決断が不可欠なのだと思いました。

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