○「よくわかる地方財政と自治体予算」セミナー    東京都

 

     日時 201822日 10001700

     場所 アットビジネスセンター池袋駅前別館

     講師 足立区教育長 定野 司氏

 

1.    受講意図

 

「あれもこれも」の時代から地方自治の環境は大きく転換し、選択と集中が議論されることとなりましたが、議会側から見れば行政は依然として「前年通り」がまかり通る空気であり、全庁横断、いわゆる“横串し”という言葉は多くの職員が語るようになったものの、それを実践する仕組みも職員意識もまだまだ希薄であると思えてなりません。

 そこで改めて財政や予算のしくみから学び、丸亀市の行財政が本気で“横串し”を突き刺す行財政となるように、提言をしようと思いました。

 

2.    講師プロフィール

 

定野司氏は現在足立区の教育長。教育畑から出た教育長でないところが出色で、同区の財務課長、総務部長という経歴の持ち主。その間、財政的に決して豊かでない同区にあって大胆かつ戦略的な行財政改革を断行した実績を持つ。今回はこの観点に教育長としてのエピソードなども交えてわかりやすく行財政の中身を説き、公務員マインドなどにも言及されていた。

 

3.    講演録

 

 (以下、文責は内田にあります。「略」とある部分は、講師があまり触れ

なかったところです)

○本日お話したいこと①

 ・持続可能な自治体とは、進化する自治体

 ・なぜ、役所は進化しないのか?

 ・この世に生き残る生物は、力の強いものでも、頭のよいものでもない、

変化に対応できるもの

 ・しかし、生物界にある競争による自然淘汰と突然変異が、役所の世界に

はない

 ・獲得形質(=あとから頑張って獲得したもの)は、生物界では遺伝しな

いが役所の世界では「前例踏襲」という形で確実に遺伝する

 ・つまり、自治体は進化する可能性がある

 ・その原動力は、自治体を動かすみなさんだ!

○普通会計とは? 自治体財政の状況 地方財政の3つの機能 略

 →財源保障機能は、国が困っている自治体に与えるものだが、実は国が困

らせているのだ。

○地方財政計画と地方交付税 地方交付税依存の大きさ 略

 →日本の自治体の6割は地方税より地方交付税の方が多い。これで“自治

体”と言えるのか? 国から1/2の補助があるからと飛び付く。この仕

組みでは本当に必要なものができない。

○地方債の4つの機能①世代間の負担の公平②財政負担の平準化③一般財源

を補完④経済対策の原資

 →地方債は許可制から協議制へ。かつて、借金を返すのは自治体なのに国

に「借金させてくれ」とお願いに行くシステムだった。

○地方財政の財源不足額 自治体の決算 経常収支比率の推移 略

○公債費負担比率の推移 財政力指数の分布 健全化判断比率 略

○財務諸表と従来の財務指標の比較

 →これまで見えてなかった「体力」が見えるように。例:住民一人当たり

資産額、有形固定資産の行政目的別割合、歳入額対資産比率、資産老朽

化比率、純資産比率、社会資本形成の世代間負担比率、住民一人当たり

負債額、基礎的財政収支、債務償還可能年数、住民一人当たり行政コス

ト、行政コスト対有形固定資産比率、性質別・行政目的別行政コスト、

行政コスト対税収等比率、受益者負担の割合

○決算から始まる財政課の仕事 略

   →財政課の仕事は秋の決算から始まる。年中忙しく、財政をわかってもら

うための努力をする間がない。

○形式収支と実質収支 略

  ○ジャンプ方式…夕張破たんのメカニズム 略

   →出納閉鎖の2か月は「二つのサイフが開いている」。これを利用し、一

時借入金の操作をする、特別会計というマジックを使う、という仕掛け。

これを見抜ける、これを止められる議会に。

  ○翌年度から前借する繰上充用 略

  ○例題:ちり紙交換はなぜなくなったのか?

   ・若い人は知らない。かつて玄関先に古紙を出しておくと「ちり紙」に変

わった。事業者が回収して製紙工場に売れば「儲け」が出たからだ。

   ・古紙相場が下落しカネにならなくなった。回収は税金で行うことに。

   ・これが再びカネになるように。持ち去りの横行。税金をかけて犯罪者

を生む世となった。

   ・これを防ぐために、古紙の相場を守るべきだった。パルプ輸入の関税を

上げるなどすべきだった。自治体も連携して取り組むべきだった。

○例題:赤字バス路線に税金を使うべきか?

  (これは今、中学生公民の教科書に載っていて授業でやっている。教育も

「先生が正解を教える」ものから「答えのないことをグループで共有す

る」ものへと変化しているのだ。しかし行政は“答えを出さなければな

らない”)

   ・少子高齢化とモータリゼーション進展でバス利用者は減少。そこで規制

緩和したが、これまで上手にやっていたのにこれにより、不採算路線は

撤収される流れに。結果、バスは税金で走らせることになった。

   ・事業者は補助金頼みで努力しなくなる=ディスインセンティブになる。

   ・車内に子どもの絵画を飾るなど、涙ぐましい努力をしているところもあ

る。「バスは地方公共財」と考える考え方もある。

 ○自治体財政の7つの課題

  1.人口減少社会における財政運営の難しさ

   →税収減だから本当は支出も減らさないといけないはずなのに。

  2.進むインフラの老朽化と対応の遅れ

   →子どもは減るのに学校は減らない。

  3.自治体間競争という言葉の錯覚

   →「隣の町はやっているのに」の市民感情が悪しき競争を呼ぶ。自治体

    にひとつスポーツセンターが必要なのか?

4.増え続ける医療費・生活保護費

5.補助金という誘惑 国と地方が仕事を分ければいいのに。国が1/3、県が

1/3の補助ならやるしかないことになる悪しき仕組み。

6.外から見えない特別会計の存在 20もあるとわけがわからなくなる。

7.臨時財政対策債のわな 国はお金を印刷できるが地方は現金がないと始

 まらない。国と地方の差は①危機感の差②リーダーシップの差だ。

  ○持続可能な自治体のための7つのヒント

  1.住民ニーズをとらえた施策の選択と集中を行う

   →1億円を10事業に1000万円ずつ分けていたものを、1000万円で効果

がないものはやめる。

  2.NPMで現場の知恵を活かす 行政評価、目標管理で、現場の知恵を用い

て解決。これがNPMの良いところ。

3.行政評価で目標・プロセスを明確にする

   →職員は「そもそもこの仕事は必要なの?」と考えたことがない。職員はプロ同士“あ・うん”の呼吸で「なぜあるのか」「なくなったらどうなるのか」を議論しない査定を行う。

2008年、環境省の事業仕分けに参画したことがある。これは地方が国

 に陳情に行くのとは逆の立場だ。

4.行政改革で小さな自治体をめざす

→公共をいろんなセクターでやることで役所は小さく。

5.公会計制度改革でコスト意識を醸成する

 6.協働で築く社会(新しい公共)を実現する

 7.元気な職員を育て、改革の原動力にする

○行政サービスの需要曲線の変化

 「あったらいいな」「隣の町にもある」…これはニーズでなくウォンツだ。

 隣の町のものを借りるとか、隣の町といっしょに作るなどの発想を。

 ・家庭力の低下:子どものしつけは家庭でなく学校でやる。すると勉強は

学校でなく塾で、となる。保育園と幼稚園はいっしょにして“しつけ”

をやるべきだ。

※この3月、足立区が『5歳児プログラム』の本を出版する。

・地域力の低下:台風前には近所総出でどぶさらいをしたもの。今は蓋に

からむビニール1枚拾わないで役所に電話する。近所の草むしりに参加

しないと千円徴収された。「けしからん。役所の仕事だ」と役所に電話

する。そうでもないんですけど…と思うが。

   ・人間力の低下:健康受診率はなぜ低いのか。自分の身を自分で守れない

時代。

  →「市民が神様」でいいのか? みんな全部聞いちゃっていいのか?

   市民は顧客でありながら主権者だ。悪しき顧客主義が市民に主権者であ

ることを忘れさせる。これからは“主権者教育”だ。

 ○予算の7つの事項 予算の7つの原則と例外 略

 ○予算編成の流れ 略

  ○行財政運営の基本原則 予算編成の基本原則 予算編成方針 略

  ○予算要求のポイント(経常経費) 略

   →長く続いている事業ほど議論が不足している。

  →長く続いているものは“間違いない”、これが怪しい。最初は国・県補

助をしていたものを、国・県が手を引いたときになぜやめなかったのか。

この時に「やめるくらいならじっとしていよう」というのが役人マイン

ドだ。

  ○予算要求のポイント(政策経費) 略

   →役所でやる必要があるのか? チェックしないとずるずると続く。役所

が仕事を始めるのは簡単。公立保育所を作るのは大変ではない。民間だ

と大変だ。チェックに経費や目が届かない。

   →事業を立ち上げるのはいいが「職員の経費を見ていなかったよ」などと

いうケースも。新事業に対しては「ほかに経費は増えないのか」をチェ

ック。

  ○予算要求のポイント(共通)

   ・要求なきところに査定なし

   ・要求ばかりで努力なし

   ・要求の裏に努力あり →そこを財政がよく見ること。

  ○予算査定のポイント

   ・そもそも自治体の仕事なのか

   ・予算編成方針、全体計画に沿ったものか

   ・住民、議会からの要望

   ・既存事業との均衡、調整

   ・職員の増加を伴わないか

   ・将来の財政負担

   ・国庫補助金など特定財源の見通し

   ・採算性、受益者負担は適正か

   ・執行方法に無理無駄はないか、効率的か

   →本来、査定は市長の仕事。財政課長は偉くなった気になるものだ。

 ○予算の議決 予算の執行管理 中期財政計画 略

 ○本日お話したいこと②

  ・なぜ働くの? 成果=能力×モチベーション

   人生は仕事だけじゃない、でも、仕事が楽しいと、人生はもっと楽しく

なる…124時間-睡眠=16時間。その半分は仕事だ。

   ・足立区の包括予算制度 事前査定から事後査定へ…現場の問題を現場の

知恵で解決すると楽しい。

   ・足立区の行政評価制度 予算主義から成果主義へ…目標、目的を持って

仕事をすれば成果がわかる。

   ・複線型人事制度 目標管理からキャリアデザインへ…自分で自分の将来

を描くと気持ちいい。

   ・なぜ働くの? 自分が成長するのがわかるから

  ○私の八か条

   ・明日にしない、今日やる(動く)

   ・黙ってやらない、しゃべりながらやる(動く)

   ・早く歩き(時間)、早くしゃべる(情報)

   ・時間を守る、節約する

   ・情報を待つのではなく、取りに行く

   ・悪い情報ほど早く広める

    →区長までは30分以内に。続いて議会に。後から聞くとイヤな気持ち

になり「なんで言わなかった?」となる。

    →失敗は許されるが黙っているのは許されない。

   ・苦しいときこそ笑う

   ・悩みは共有する

  ○包括予算制度

   足立区は16年間この方式を取る。現場の問題を現場の知恵で解決。

  ○予算編成の現状と課題

   ・財政課はカネがあってもカネがあるとは言わない。

   ・財政課職員がいくら優秀だとしても、すべての事業に精通しているわけ

ではない。

   ・行政評価で切り込めるほど、予算編成の制度が成熟していない。

   ・財政課は切りやすいところから切る。

   ・「切る」能力が評価される。

   ・政策、施策が当たらない。

   ・事業課は、判断が財政部門の査定に委ねられる。

→「どうにでもしてくれ」

   ・事業課の目的は「与えられた予算を使うこと」となる。

   ・事業課は危機感やコスト意識が欠落。それは財政課にのみある。

   ・努力しても評価されるのは財政部門。

    →「時刻表は2課で1冊とする」「鉛筆は何本」これで2億円削減した

が、それで褒められるのは財政課長。

   ・創意工夫、努力を惜しむようになる。自分で考えなくなる。

    →もらったお小遣いは使い切る。

   ・かくして行政評価が崩壊する。

  ○包括予算制度の骨子

   →枠配分とは、配分されたものを使うことではない。

   →原課の課長は財政部長とやりとりする。このことから原課の上位部長は

予算にノータッチだった。枠配分により、今では原課の上位部長がしっ

かり関わっている。

   →各部へのインセンティブ。実質収支の1/2は次年度以降に備えて積み立

てるが、残る1/2は各部の判断により、予算編成時に利用することがで

きる。

○包括予算制度 3つのねらい

 1.政策意図の明確化

  首長の意思を受けて査定に臨む。今はマニフェストで簡単にわかる。

 2.現場主義、顧客主義の徹底

 3.権限と責任の分担による公務員意識の改革(庁内分権→部長の質が問われ

る)

 →公務員意識とは「慣性の法則」である。

○包括予算制度 5つの特徴

 1.財源の80%以上に適用(ただし現在は60%。生活保護費をはずした)

 2.予算枠ではなく財源を配分

 3.人件費も例外ではない

 4.流用、執行委任なども権限移譲

 5.行政評価をフィードバック回路とする

 →財政課長は査定の権限がある、との思い込みをやめる。

 →「あいつが切った」との言い訳ができなくなる。

○包括予算制度の仕組み(実例に沿って)

 ・市民課窓口の番号札交付をやりたい→財政課長は「市民課だけに入れる

  ことはできない」→今なら、市民課だけで実現可能に。封筒広告の収入

で賄えた。このように財源を浮かすのに各部長が汗をかく。部長は“経

営者”たれ。

・公務員を嘱託職員に切り替え→組合反発→現場の部長だからこそ組合を

 納得させられる。

・予算要望は部長に上げるのでなく区長へ。

 ○足立区の行政評価の歴史 略 →産みの苦しみ5年間。行政評価室長は病

気になる。行政評価は包括予算制度により、予算削減のツールでなくなっ

た。目的は、目標と成果の“見える化”。仕事をしたのかしなかったのかの

“見える化”。

 ○足立区基本計画の3つの特徴(H29年度~)

  ・行政評価を組み込んだ基本計画

  ・「協働」を経営理念と位置付けた基本計画

  ・人口減少社会の到来を見込んだ基本計画

  →区民評価委員会が4月上旬~9月中旬に区民目線で行政評価。10月決算

に間に合わせて作業。

 ○施策体系、評価の実際 略

 ○現場の知恵事例①粗大ごみ無料持込み制度

  →都内各区が粗大ごみ有料化の中、足立区は「持ち込みは無料」へ。区民

に人気を博し、45割の区民が持ち込むようになった。回収車を減らす

ことができ、これによりこれまでの赤字が大幅に縮減。職員が面白くな

り、次々とアイデアを出すようになった。作業員を1名減らして籠のス

ペースを増やす。収納量が増え、中継所に帰らなくて済むようになった。

労働強化として反対をされたが、民間委託し、4台を3台に減らせた。

こうした赤字削減効果を区民に返すことはできないが、その代わりに日

曜収集を始めた。また「資源買取市」を始めた。これは盛況、好評を博

している。

  →廃ペットボトル自動収集機を区内46店舗に設置し、ポイントカード制で

成功。スーパーも「面積を取らなくていい」と好評。

  →燃やさないごみ、粗大ごみの資源化事業。燃やさないごみの90%、粗大

ごみの40%を資源化し、埋め立て処分量(都から処分料を取られる)

6000トンから2000トンに。区内雇用創出にも貢献。一石三鳥。分別の

細分化もなく、区民に負担をかけない。

→歳入歳出いっしょに考えるのが包括予算制度。

 ○複線型人事制度の導入

   幅広い知識・経験を持つ職員、特定の専門・得意分野を持つ職員それぞ

れが、自らの適性を活かしキャリア形成が可能な人事制度。

   採用後23の職場を経験し基本スキルを身につけた後、「幅広い」コー

スと「専門」コースに分ける。

 ○求められる能力と職員像

  ①職務遂行能力②コミュニケーション能力③問題解決能力④専門性⑤課題

設定能力

 ○複線型人事制度のメリット

  ・職場研修等による知識・ノウハウの継承、職務を通じた後継職員の育成

により、組織のレベルアップを図ることができる。

  ・職員の意思で専門分野に進むことで、目標、取り組むべき課題が明確に

なり、モチベーションの向上と成果が期待できる。

  ・職員の意欲や適正、専門知識を活かし、自分に適したキャリア形成が可

能になる。

  ・キャリアアップに必要な専門研修の受講、民間企業への派遣の機会が与

   えられる。

  ・資格取得支援や昇任選考推薦が受けられる。

  ・「財務」「法務」「税務」「福祉」「教育」「管財」の6分野で募集。

   以下、詳細な育成プロセス 略

 ○「新しい公共」2つのアプローチ

  ・請負型(アウトソーシング、市場開放)

   学校給食調理委託、保育所民営化、指定管理者、業務の外部化

  ・協創型(起業、参加)…市民が自ら始める

   孤立ゼロプロジェクト、避難所運営会議(職員は後で駆けつける)、公益活

動げんき応援隊、子育てサロン、働く準備支援・創業支援、開かれた学

校づくり協議会

 ○これまでの行革とこれからの行革

  ・従来型行革は、産業革命を歪んだ形で後追いしている→コスト削減、官

制ワーキングプア

  ・従来型の委託や指定管理者制度は、ほぼやり尽くしてしまった。しかし、

専門性はあるものの、定型的な処理が求められる戸籍・国保などの業務

は委託してこなかった。新たな外部委託のターゲットは、こうした“専

門定型業務”である。

  ・内閣府が、これまで立ち入れなかった公務員が実施すべき業務のもとで

の「民間委託可能」分野として「引渡し」「手数料の徴収・収納事務」を

示し始めた。委託範囲を明確にすることが大事。

  ・他自治体との共有化でコストダウン。自治体間の“ちょっとの差”には

目をつぶる。法律は同じなのだから。

  ・職員の勘、口伝えでやっている仕事は文書化、マニュアル化すれば委託

可能。

  ・民間にできるものは民間に、はもう終わった。ここからは「民間にでき

ないものもできるように」という時代。これが自治体に進化をもたらす。

 ○結語

    攻めの決算審査 守りの予算審議

  →来年度予算編成のさなかに行われる決算審査。ここで「来年度は検討し

ます」を引き出す“攻め”を。

  →もう出来上がっている予算案。守りの姿勢でよい。

  →地方自治は民主主義の学校と言われる。

まさにいつまでも卒業できない“学校”だ。

 

4.    感想

 

 講演録に書き漏らしたエピソードをまず一つ。

 教育長として、教員に質問をする。「その事業はどんな成果があったのですか?

教員「子どもたちの目が明るくなりました」

教育長「では、何ルクスくらい、明るくなったのですか?

 ずい分な質問だと思います。付け加えて定野氏。「先生って、数値で答える

ことをしない人たちなんです(趣意)」。

 これを発言した定野教育長も、それを紹介した私も、決して悪意でなく、

これからのあるべき自治体予算への切り込みの参考に、まことに象徴的なや

りとりとして語られたことをどうかご了承ください。

 足立区は23区の中にあって財政が潤沢でない区の一つ。いや、定野氏は「ワ

ースト」と表現されていましたが、これもデータの歴然と示すところ。中央

区、港区、千代田区などの巨大な税収の“お世話になっている”。そういう特

別区のしくみを私は知りませんでした。戦後の政策で足立区に公営住宅が多

く建てられたことなど、決して同区民の悪口でないことをはっきりと申し上

げておきます。

 そしてだからこそ、足立区は行革で立ち向かうしかなかった。職員の数も

23区中、人口千人当たりの公務員の数で比較して最低。千人単位の職員削減

も行った。そして上述したようなまことに切れ味鋭い、しかも人情を感じる

行革の断行。氏は理系大学を出てさまざまな経緯から「不本意ながら」区に

就職、と自ら語られていました。そしてやらされた不本意な業務。職を辞す

るよりも職を変えることを、彼はやったのでした。理系の頭脳をフルに使っ

て。

それが冒頭のエピソードによく表れていると思います。

ここからは何点か、講演録を振り返りながら記しておきたいと思います。

財政課の仕事は決算から始まる、というところで、私は丸亀市議会が改革

の一端として挑戦している予讃決算特別委員会のあり方が間違ってないこと

を確信しました。これまで4つの委員会(=分科会)に分かれて行っていた予算

審議、そして選抜10名余の議員で行っていた決算審査。これでは議員各人が

予算決算にまさに“横串”で発言・提言できないばかりか、そもそも議員、

そして議会がそういう発想に立てない。私の提案したとおりであると思いま

した。それは何もこれまでの議会、議員各人が思考停止していたとか理事者

が悪意でこの仕組みを温存していたとかでなく、時代の要請に議会がついに

気づいた、ということなのだろうと思います。夜に及ぶ審議が続いたことか

ら発言時間に制限を設けたことは議員が自ら発言を窮屈にしたわけで、残念

ではありますが、それは今後の課題とし、かつての制度を知る私には大いな

る前進と思います。夕張の破たんを見抜ける議会に。フルコストが見えてい

る決算に。この仕事はなぜ必要なのかと、氏の言われる公務員の「あ・うん」

の査定に切り込む予算審議のできる議会に。これら氏の激励に応えるべく、

ここからさらに審議の力量をアップさせてまいりたい。

  「赤字バスを走らせるのは良いことか?」。この例題ではまず、中学の教科

書で実際にこれが出され、学校の授業というのは先生がフトコロの中に正答

をしまってあって最後にそれが示される、というあり方から、「正答はない」

ということをグループで共有するというものに変化している、ということが

とても強く印象に残りました。予算決算のレクチャーを離れて、私のいつも

唱える「主権者教育」、私が独自に使っている言葉で「政治参加教育」を、教

育長が後押ししてくれた、そんな思いになりました。ここでこんな話題も出

ました。ある区長が「投票率が25%だ。選管、何とかしろ」とハッパをかけ

た。でも選管の啓発よりも関心や興味を持たせる教育を、という内容。心か

ら共鳴します。「赤字バス」の例題以外にも、懐かしき「ちり紙交換」の悲哀

(?)歴史を教わり、その深い洞察になるほどと納得。現場初の「持ち込み無

料」の大英断に拍手喝采。現場の職員の生き生きとした姿が活写され、私の

目にも浮かぶようです。このレポートを書くに至るまでの日々、私は多くの

人たちにこの話題を語ったほどです。

  「家庭力低下」「地域力の低下」「人間力の低下」のくだりでは、財政問題

を離れて深い社会洞察がありました。なるほど、人とその暮らしがあってこ

その財政。人の営みを知らずして、予算も組めない道理です。昔はご近所こ

ぞって台風前にどぶさらいをしたものだが、今はビニールひとつ拾わない。

役所に電話をかける。議員として、心当たりは「おおあり」です。「けしから

ん」「役所の仕事だ」何度このセリフを耳にしたことでしょう。いちいちはも

っともだが、これからの時代に「収入が減なら支出も減」という大鉄則をど

う理解してもらうのか。まことに大きな課題、いや行政の抱える「悩み」だ

ろうと思います。議員はそのはざまに立ち、「あれもこれも」を転換していく

矢面に立つ。その覚悟が必要と痛感します。

  「予算査定のポイント」9点。とても大切な視点を教わりました。そして共

鳴もしました。「予算編成方針や全体計画に沿ったものか」。新年度に向けて

の予算決算特別委員会を進めながら、私は今回も、個々の計上予算の使い道

を聞くことも予算審議だが、それが本市の総合計画と整合しているか、財政

規律に合致していて過大な負債を背負わないのか、などをきちんとチェック

することがより重要。そのためには原課の後方に政策課、財務課も臨席すべ

きでないのか、と感じ、これからの行財政改革特別委員会ではぜひそうして

もらいたい、と過日進言したところです。

  最後に「求められる能力と職員像」。その5つの要素の5つめに、「課題設

定能力」とありました。まさにそうだと思います。

  国から交付金・補助金をもらうことが自治体の大きな仕事だった。議員も

何の疑念もなく、国会に陳情に行くことを自らの責務としていた。これから

は市民の方に向き替え、自ら、わが職域の課題は何かを見つけだす、その力

量が期待される。議員もまた同様であろうと思います。市民からの“ウォン

ツ”をそのままに役所と渡り合う、それも日常活動ではあるが、その上に、

その深くに、政策提言という大きな使命が横たわっている。

 ただ、公務員、議員ともども、私たちは「センパイの後姿を見て育つ」。良

くも悪しくも、というよりここではひたすら「悪しく」、公務員の側面が語ら

れる。しかし講師が冒頭で語ったように、地上の生物界で生き残るのは変化

に敏い生き物たちであったが、公務員にはそれがない。けれども逆に、生物

界は「獲得形質」を遺伝させないが、公務員はキッチリ「前例に倣って」進

化を遂げることができる。ここに希望がある。きっと公務員は進化する。こ

れを信じて、「良き前例」を紡ぎだす、良き丸亀市政と公務員を創り出すべく、

議員として、明日も飽くなき提言を繰り広げたい、そのように覚悟しました。


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