1. 視察意図
平成22年7月の豪雨で床上浸水441棟、床下浸水355棟の被害。
これを機に、山陽小野田市では本格的に災害対策に着手。その状況を視察させていただきました。
2. 概要
市役所の海抜は0.9m。市内に2級河川が2本走り、瀬戸内海に注ぐ。22年の豪雨では厚狭川下流が氾濫し上記の被害が出た。市職員総がかりで復旧に3日を要した。夜間でなかったことが幸いし、人命への被害はなかった。これを受けて次のような対策を講じた。
○自助・共助・地域防災力育成のための補助金制度の充実。H23年度から各地の自主防災組織への補助金を充実させ、24年度からは小学校区単位の防災訓練経費を補助。25年度から防災士資格取得に要する経費の助成。費用6万円に対して1万円。現在市内に80人。うち40人が補助を受けた。また消防にはゴムボートを導入した。
○緊急時の情報伝達手段の整備。民間のコミュニティエフエムが発信する避難勧告、避難所開設情報などの緊急放送時、自動的にスイッチが入る防災ラジオの販売をH25からスタート。現在962台。1台8000円に対し自己負担2000円、市の補助6000円。エフエムは朝7時から夜10時まで開局。これまでは親拡声機4台で対応していたが音声到達に限界。なおエフエム局へは市からFAXで読み原稿を送信することにしている。NHKの避難勧告だけでは具体的に「なぜ?どこへ?」がていねいに届かないとお怒りの声。これをカバーする。ただしこのラジオは「緊急地震速報」に未対応。
○厚狭川河川激甚災害対策特別緊急事業(県事業)として、河道の掘削、拡幅、排水ポンプ増設。
○今後の課題としてまず市民の意識の高揚。まだまだ公助に依存する意識が高く、公助7割、共助2割、自助1割。勧告で避難してくるのは実際には老人10人程度という実態である。
○発令しても届かない、行動に出ないのでは意味がない。防災メール、ラジオのさらなる普及が課題。市の車が通ったが聴き取れなかった、との声もあり。
○防災士のさらなる育成も課題。宇部市には300人の防災士がいる。校区に10~20人いるのが理想。職員の対応には限界。「一肌脱いでくれる」市民を探す。
○有帆川が氾濫すれば市庁舎も被災。その場合の事業継続体制が課題。
○洪水時には断水も発生した。洪水なのになぜ断水なのか。水道管を渡した橋が折れたことで上水道がストップ。広域で断水し、苦情が多く寄せられた。これは経験しないと想像できないこと。毎年10人の市職員が退職すると6年で60人。「知る人」が減っていく。風化させないことも課題。採用された60人は災害を「知らない人」である。
○洪水ハザードマップへの工夫。「被災歴」を記入した。また不動産業者にも周知した。H22浸水地域を破線で、津波浸水想定区域を水色着色。着色しないとここに山間部から逃げてくる可能性もある。
○氾濫を機に「防災基本条例」を制定。基本理念、市・市民・事業者等の責務と役割、「災害に強いまちづくり」の決意表明など。防災意識の高揚を目指す。
○市総合防災訓練を実施。H24~26年度は市役所3階会議室で「図上訓練」。これは大変で、市職員は嫌がるもの。そのつど「お題」を決めて何をすべきかを考えさせる。ダメ回答なら返すなど、厳しく。
○熊本地震で一層意識が高まり、津波から内陸地震へと関心が移る。ここも断層の上にある。震度6強を想定しての訓練を行う。
○市庁舎位置の海抜の低さとともにS38年の築。災害対策本部の移転設置の演習も行う。H28.10.2、自衛隊、機動隊と合同で実動訓練を初実施。
○これからは部長級を県、国の訓練に参加させることやマスコミ対応の訓練も課題とする。
○防災パトロールを毎年度梅雨入り前に実施。ポンプ場、危険ため池、土砂災害危険箇所、河川護岸改修、高潮対策かさ上げ、地滑り対策、がけ崩れ工事視察、潮位・水位監察局視察など内容を変えて実施している。
○市民との情報共有の課題。市内に58の緊急指定避難場所。職員を2名ずつ配置しても106人必要。残る職員でBCP対応しなければならない。うち4箇所が「福祉避難所」であり、ここにはさらに人員配置や施設の配慮が必要。
○市広報は月2回発行しているが、梅雨の時期に1㌻を割いて避難場所について周知している。法改正で災害種別ごとに○△×を表記しているが「覚えられない」とクレームあり。どの災害でも避難先はひとつと思われている。危険区域にある避難所は使えない場合もある。今から数十年前に、津波を想定せずに設置された避難所もある。
○大きな自治会だと、エリアによって一斉通知が適当でない場合もあり、また徹底に時間がかかる。「なぜ避難?」との問い合わせも殺到。説明が長くなり、緊急時には市民の頭に理解されない。自治会単位でなくピンポイントの避難体制が必要。
○熊本地震で応援に行った職員の感想として、これまでの災害が少ない地域ほど情報伝達手段がないことを実感している。
○市職員には非常時対応責務がある。職員の覚悟、日常からの準備、在宅時でもいつでも出動できる家庭内の体制を求めている。
3. 感想
視察冒頭、副議長さんから歓迎のあいさつをいただきました。議会としても災害時に何ができるのか、委員会として視察もし、市長に提言もしてきた。議会の「あり方」検討調査特別委員会を設置し、災害対応の要綱も作った。これからは「国に働きかける議会」を模索していきたい、とのお話を伺いました。災害対策本部の中に議会が組み込まれていない実情も今後のテーマと言われていました。
人間の誇る科学技術をもってしても、必ずしも災害への備えは万全でなく、そして技術の進展を上回るスピードで地球環境が変化し、災害は容赦なく襲い掛かるという印象です。自助・共助・公助という言葉が何度も出ましたが、「公が7割」という市民意識には、自助からは遠いものがあります。
財政支出には限りがあり、もう危険を伴う場所には住まないでほしい、との方向もありますが、日本で、それがすぐに実現できるとは思えません。それならば、住民の意識を変えていくことがこれからの防災施策として欠かせないことは自明です。
説明頂いた中に「災害を体験した人」は毎年着実に減っていく、との指摘がありました。ないに越したことはない災害ですが、ならばこそ、想像力の限りを尽くして万が一に備える必要があります。