○佐々木信夫氏セミナー「地方議員、地方議会の改革」 東京都
日時 2017年7月10日 10:00~12:30
場所 アットビジネスセンター池袋駅前別館
講師 中央大学大学院教授 佐々木信夫氏
1. 受講意図
議会基本条例制定から選挙も行われ、議会メンバーも大きく入れ替わりまし
た。
条例制定はスタートであってゴールではない。若返った丸亀市議会でここからどう改革を維持・拡大していくか。あらためて自分の置かれた立ち位置から議会改革を学び直し、現今の課題に対応したアップデートな意識をつけたいと思い、受講しました。
2. 講演録
(以下、文責は内田にあります。)
○東京都議選の話題
都議選での公約①公用車23台を正副議長2台のみに②議員立法を増やす
(都議会ではここ25年で議員立法は1本だけ。増えればいいものではない
が、公約としては分かりやすい)。③議会基本条例を作り、通年議会を目指
す…公約が「2年遅れ」だ。
○シカケがなさすぎる。議員だけにやらせても無理だ。法制局を整えないと
できない。問題意識はあっても技術がない。都議会に法制局なし。
○31次地方制度調査会のテーマは
・人口減少
・自治体ガバナンスのあり方 だった。
議員選出監査委員の廃止案や地方議会の在り方が話題になった。廃止で
なく選択制に。また住民訴訟が起こされ、これに耐えられない市長は大
きい仕事をしなくなる。
・首長でなく「議長が」招集する議会の在り方を。70年間、市長が招集し
てきた。
・議会事務局長を「特別職」(副市長と同格)にしようとの案も出た。
・自治体ガバナンスとは、①舵を取ること。議決事項を増やし、職員定数
も議決事項とするなど。②統制すること。
○小池都政の話。首長が政党の党首では、「二輪車」でなく「一輪車」だ。
○首長改革は“名古屋発、大阪経由、東京止まり”か?
名古屋の「減税日本」は4年でほぼ消えた。5年で名古屋はほぼ元通りとな
った。新党はほぼ、2回目の選挙で消える。都民ファーストは“お中元”み
たいなもの。開けてみないと中身は分からない。
○都知事給与は2900万円。これを半減、1450万にすると公約。地方の市議
報酬、全国平均は700万円。都議会議員政務活動費は720万円。
○小池バブル。「7つの政党を渡り歩き“私は一人旅”」。ファーストは「小池
さんが好き」の集まりだ。
○「知事」とは、中国では坊さんのことを言う。
○日本の地方制度で、議会は提案、議決をし、首長は執行する。アメリカに
はトランプ大統領の作った法案はない。
○前後長らく、大臣→知事→市長で、地方の首長は大臣の部下だった。2000
年まで。
○ニューヨークでは、議員は同市民の所得上位2割部分の報酬を取る。政策
秘書が5人。スタッフをこれだけ雇えるだけの報酬を受け取り、仕事をす
る。日本では国会議員でも秘書3人。日本では地方は国の仕事をやるのが8
割だった(機関委任事務)から、日米で制度は同じでも中身が違う。
○日本では国の集権体制確保のため①統一性②公平性③国の指導力、これら
を担保するために地方議会に権限を与えなかった。議決事項は制限され、予
算は増額修正のみ許される。自己決定、自己責任、自己負担の原則は国の集権の後回しにされた。
○国がPLAN→県・市がDO→SEEやCHECKは国と地方が共同で…
は負わない。結果責任を誰も負わない。
○議会に権限を付与して
①多様性
豊島区も消滅都市に入っている。一人暮らし老人、結婚しない若者が多
い。このように政策は厚労省が一本でやるのは無理。市職員が「声掛け
運動」を展開するなど、企画立案から地方でやる必要がある。
②迅速性
問題処理のスピードが国発では遅い。半年でやるべきことに10年もかか
っている。
③参画
「参加」は、Yes、Noを言うこと。「参画」は、計画から加わること。
『観光農園』と名付けると誰も来ないが『フルーツパーク』だと賑わう。
○都庁の前に保育所が1つだけある。あとは区や市におカネをあげるだけ。
地方発でないと適格な施策ができない。ビル3階に空き家があっても保育
所はできない。
○横浜市長、林さんの発想はいい。BMWを日本で一番売った人だ。クルマ
を売るときはまず客の主人でなく奥様と親しくなる。何か困ってますか?
というところから始まる。下地づくりが大事。従業員が1000人いるなら保
育の人は100人要るだろう。企業として保育所を作らせ、待機児童をゼロ
にする。すべて現場発にすべきだ。
○美濃部都政のときに70歳以上の医療費を無料化した。その頃全国から「死
ぬなら東京」と言われた。
○議員定数は、プロシャ国に倣っただけで、議論もしないまま上限を定めた。
これが今回廃止された。
○委員会委員は何人必要か。これに委員会の数を掛ければ、それが議員定数
となる。それ以外に根拠は何もない。
○市長は給与、国会議員は歳費。これらはフルタイム。地方議員は報酬。こ
れは「日当」である(地方自治法203条)。県議は県の部長級80万、市議
は市の課長級40万、町議は20万円という相場。ニューヨーク方式では、
地元企業の儲け上位2割のレベルを見て決定している。報酬についての、
千代田区が研究している。
○機関委任事務がなくなり、今は8割が固有事務、2割が法定受託事務になっ
ており、国政選挙の事務も議決事項となっている。つまり「10割自治」に
なっている。議会は10割をテリトリーに入れているのだ。
○議会は4つの役割を持つ。
①決定者 ②監視者 ③提案者 ④集約者
提案者であるためには、法制局が必須だ。法科大学院出身者を雇ってはど
うか。
○アメリカでは、議会と執行部との調整ができない。日本では、議会が不信
任を出して首長に判断させる仕組みがある。この点、アメリカより日本の
制度が優れている。
○日本のように執行部を並べて質問する議会の姿は、アメリカ人には妙な光
景だ。執行部の出席は自治法上「必要に応じて」とある。米連邦議会が大
統領を呼ぶことはない。
○日本の国会では、質問するのは野党のはずなのにテレビに出るから与党ま
で質問をしたがり、時間を決めている。
○世界では、議員内閣制が標準。市の部長には議員が就任する。議会主導が
世界の標準。
○会派で議決拘束は間違い。自治体議会には政党を入れないのがいい。
○米GAO:監査は専門者が議会の付属機関に位置付けている。議員選出監
査を廃止するだけではダメだ。
○団体自治とは、県や他市の介入を認めないこと…①決定者
○住民自治とは、多くの人が決定に参画すること…②監視者③提案者④集約
者
○選挙権が18歳になるのはいいことだが、被選挙権が25歳のまま。ここが
日本らしいところ。25歳では若手のなり手がない。被選挙権も18歳に。
無投票当選は、選んだ人も選ばれた人も不幸だ。“政治的正当性”なし。
だから“なり手”を拡大すべきだ、
○クオーター制=割当制
ストックホルム市庁舎でノーベル賞授賞式が行われる。その8、9階に議会
がある。100名の議会で女性51、男性49。人口割でみるとこうなり、議長
は女性になる。このように「女性への割り当て」「若者への割り当て」が違
法でないようなルールを作ればいい。
3.感想
以前に香川県市議会議長会でお招きし、講演を聴講したことがある佐々木信夫氏。公明党の機関紙誌にもしばしば登場されます。
私の印象ですが、議長会での講演は、やはりさまざまなお考えの方々がいる場面ですのでやや「当たり障りのない」という感じでした。方や今回。狭いセミナールームに参加者は17名。県議会から村議会まで。おそらく佐々木氏の人となりを知り、北海道から高知(が最南?)まで、熱烈に駆けつけた議員ばかり。今を時めく都議選の「深読み」から話は始まり、準備されたレジュメにはほぼ従わず、2時間半のセミナーは進んでいきました。公明党の聴講者がいることに少々、配慮されていた節回しもありました。
こうしたセミナーでいちばんアタックが強いのは、アメリカの制度など、私たちが知らない情報を取り出しながら比較し、今の私たちの立ち位置を示してくれることだと思います。「中国で“知事”とは、坊さんのことです」というさらりとしたうんちくまで、そうなのか、と私も深読みします。
冒頭の「聴講意図」に書いた通り、4年に1度、選挙で人が入れ替われば、やがてあの熱心に続けた条例制定への議論を知る人も減り、それで必ずしも退化すると決まったわけではないが、逆にそれを進展させるべく人材を議会、議会事務局両面で育成しなければ間違いなく議会改革、議会の在り方は退歩する。その危機感が私には強くあります。市議会議員の全国平均報酬額はほぼ700万円であり、それは都議会議員の政務活動費よりも低い、と聞いて何だか考えさせられますが、私たちも与えていただいた政務活動費を使って全国に行き、刺激を受けて、滞りがち、「前年度通り」主義に陥りがちの行政にしっかりと電流を流さなければならない、時にはAEDのように。そう思います。
議員定数について、また委員会に何人必要か、について言及がありました。思っていたことが“やはり”とうなずけました。プロシャに倣っただけ。深い根拠の議論はされなかった、と。なのに私たちは学校で「議員が多いほど少数意見が尊重される」と教わってきた。それは議員の数が5とか6とかの話で、村議会の存続が議論されるレベルでは生きていましょうが、給料を上げるのに賛成派、反対派が数を頼んでぶつかり合う、という時代はたぶんもう卒業した。合意形成へファシリテートができる、優れた、選ばれた、審査された人が議員に任じられ、少数の市民の声もあまさず拾える技能と情熱を持って議会のミッション、議員の使命をまっとうする。それがあるべき究極の姿でありましょう。その先には、きっと18歳選挙権の向こうに18歳被選挙権、そして若者・女性への割り当てを合法化するクオーター制度も見えてくるのだと思います。議員の報酬がいかにあるべきか。その議論もまた、市民の「議員を選ぶ目」にかかってくるのではないでしょうか。
丸亀市議会では委員会の数を4から3へ減らすという議論が進行中。実を言うと、私の提唱がにわかにここで現実味を帯びるとは予想していませんでした。失礼ながら、「現状でいいじゃないか」という姿なき声が支配している一面が、失礼を重ねますが行政と同様に議会にもある、そう感じていたからです。しかしここにきてにわかに現実味を。本来、専門性を頼んでのスピーディで高度な審議結果を望めるが委員会という制度。しかるに丸亀市議会では、その委員会での採決結果が本会議でひっくり返るという事象が実際に現れた。このことの不都合を訴えてきましたが、「これはなかなか刺さらない」との感触がありました。けれどもいよいよ現実のものに。ここからさらに、氏の教える①決定者②監視者③提案者④集約者、とくに提案者としての活動の質の高まりへ、私も大いに発言、行動をしてまいりたい。
併せて、新庁舎建設に向かうこの機に、議会事務局長を特別職級に、そして事務局を「議会局」に、さらに法制執務に強い職員体制にという構想に、心から賛同し、その実現を目指して声を上げてまいります。