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○「政治参加教育」について松本正生氏と面談    2015.2.24東京都内

 

1.視察意図

 

 昨年6月の市議会は流会となり、質問に代えて市長に政策提言をしましたが、その中で「政治参加教育」に触れました。

 これは、それに先立つ5月、東京で開催された自治創造学会に参加し、東京大学大学院准教授、村上祐介氏の「教育委員会改革と首長・議会の役割」と題した講演を聴講し、その最後の質問コーナーで私が尋ねたことに対し「学校で政治参加の教育をしてはならないという決まりはない。議員さんたちも積極的に出て行くべきだと個人的には思う」との回答を得たことがきっかけでした。

 昨年11月号月刊誌『公明』に掲載された埼玉大学社会調査研究センター長、松本正生氏の小論に、氏が同大学ゼミ生とともに埼玉市内の小学校を訪れて模擬選挙を展開していることや若者への選挙教育、主権者教育を提唱していることを知りました。

通常国会に「18歳選挙権」の法案が再提出され、いよいよ来夏の参院選からこれが実現することとなりそうな現在、これまで教育の「政治的中立」のスローガンのもとで政治的に「レトルト」状態に置かれている日本の子どもたちにも、適切な政治参加教育を施すことなくしての18歳選挙権の付与は、当人らにとって混乱のもととなり、そのねらいは結実しないだろうとの思いから、このたび松本氏に面談を申し込み、東京都内にある同大学オフィスにての面談が実現したものです。

なお「政治参加教育」という言葉は私が便宜上使っているものであり、社会一般では、主権者教育といった言葉が用いられていますが、私はこの語が最も適切と思うので、文中、この語を用います。

以下、文責は内田にあります。

 

 

2.面談の内容(個人的な面談であり、主旨のみ)

 

○大学に入ってからの教育では遅い。高校は大学受験を、中学は高校受験を照準としているのだから、そういう中で育った子に政治参加教育をしても〝手遅れ〟である。むしろ中高では「試験に出ないことは余計」という風潮がある。それならば小学校でということになり、さいたま市選挙管理委員会の熱心な職員の後押しもあり、市内小学校を大学ゼミ生とともに訪れ、模擬投票を実践している。

 

20歳まで「子どもだから政治は関係ない」と言われ、20歳になると急に「大人だから」と言われて、若者が投票に行くことは難しい。家庭も「丸投げ」状態。幼い頃に親に手を引かれて投票所に連れられて行った経験のある子は、それだけでも投票に行くことにそうでない子と違いがある。

 

○手順としては、こちらから申し出、学校からの依頼を受ける形で実施している。

一昔前ならば学校で政治を教えること自体がタブー視された。が、今では学校から依頼がある。他市の小学校からも依頼が入る。私とゼミ生だけでは間に合わなくなっている。さらに最近は、父兄会も巻き込み、親御さんたちも投票するスタイルを取る学校もある。

 

○ポイントは、子ども向けにやさしくしないこと。大人と同じ体験をさせること。そのほうが子どもは楽しい。道具も用語も全部、大人と同じセットで。先生たちも投票。先生たちも新鮮で、楽しんでいる。大学ではカリキュラム一杯でもはやこういうことが実施できない。

 

○「主権者教育」とは、〝一人前の大人になること〟だ。幼稚にしない。例えば着ぐるみキャラクターが登場して「お昼の給食のデザートはどれがいい?」という投票では意味がない。難しくして良い。そのほうが記憶に残る。

 

○小学校では6年生の1学期に憲法を学ぶ。その後の2学期だと、小学生も受け入れてくれる。5年生ではまだだめ。5年生は記載台に行っても迷っているが6年生はまず決めて、迷わず記載し、投票している。

 

○大学のゼミ生8人がローテーションで活動している。司会、候補者役など輪番で務める。選挙公約や問題提起なども学生が考える。学生のためにもなる。

 

○開票の時間を使ってクイズをする。投票前の緊張から一転、楽しい時間となる。投票までの前半は緊張して聴いているが、後半はほっとしたところでクイズなので、急に元気になる。

 

○昨今では明るい選挙推進協議会のメンバーが「立会人」を勤めてくれることもあり、ますますリアルな〝投票所〟となっている。

 

○議会の傍聴が、学校の授業にあっていい。議会や議員が学校に乗り込む前に、まず議会に来てもらうことも大事だ。アメリカでは議員を授業に呼ぶことが普通に行われている。首長選挙の公開討論会も子どもに開放。子どもたちも「聴きに行こう」という意識。「中立性」とは、〝触れない〟ことではない。(賛否、左右)〝両方とも教える〟ことが「中立」である。公正とバランスが取れていれば良い。

 

○アメリカで行われている「キッズボート」はネットで情報を調べて模擬投票をする手法で主権者教育を展開している。ドイツでは公的機関がやっている。

 

○「ボートマッチ」はオランダが発祥。問いに答えていくと「あなたにピッタリなのはこの政党です」と答えを出してくれるシステム。日本でも2007年から毎日新聞が始めた。残念ながら徐々に利用者が減っている。国政なら情報がいくらでもあるが、地方選挙こそ、そういう情報提供が必要なのではないか。

 

○明るい選挙推進委員のメンバーに学校長がいてくれると、話がスムーズである。

 

○さいたま市では市選管から市内すべての小学校に呼びかけ、手を挙げた学校で実施している。11月~1月にキャラバンを組んで訪問している。手を挙げた学校と、事前に打ち合わせをしておき、万全を期す。なおさいたま市には市立の高校もあり、ここでは政治意識調査までさせてもらっている。

 

3.感想

 

 プロフィルで私と同い年とは知っていましたが、お会いしてみると同大学同学部の同年卒業。マンモス校、中央大学の同じキャンパスで「会っていたかも知れませんね」と冒頭から話がはずみました。

 ときあたかも「18歳選挙権」実現が間近。やがては国が「やりなさい」と指示をしてくる時代が来るのかも知れない。先生の思想や理念がどうして共感を呼んで全国に伝播しないのか。また「お互いに」結構な年齢であり、後継者は育っておられるのか。そんなぶしつけな質問もさせていただきました。じっくり、やっていくしかない。それが先生の結論だったと思います。

 この面談のあと、いよいよ3月定例会の質問日が近づき、準備に余念がない中、ネットで「模擬投票ネットワーク」の存在を知り、こちらの林事務局長さんとも電話でやりとりをし、ネットに載っている学校での投票や学習シーンの画像を別に送付していただき、質問当日はパネルで画像を示しながら、私なりに万全の準備で提言をさせていただきました。別の書籍「選挙を盛り上げろ」という本にもめぐり合い、ここで読んだ林さんの言説も質問の中で用いさせていただきました。その一節に、「困難なのは教育委員会の管理職」とあり、また学校で実施を決定したのに市教委が取りやめさせたという実態も紹介されていて、松本先生に教えていただいたとおり、ひとりの頑張りでは「政治タブー視」の現状に切り込むことは難しいことを知ります。

 18歳選挙権の実現の流れとともに今、教育委員会制度の改革が行われ、今春からは首長による教育への「大綱」の制定と、首長と教委とがテーブルにつく「総合教育会議」が始まろうとしています。まさにこの時を得て、私たちは首長に強く提言するとともに選ばれる側に立つ者として、意識と行動を変革せねばならないと強く感じます。

 今ただちに私の提言が実現することは望めないとしても、多数の議員、学校関係者、そして市民が共感してほしい。未来は子どもたちの「一票」にあり、それを育ててこそ「教育」であろうと、私は信じて疑いません。

 そしてまた今、「地方創生」というスローガンが国の大きな思潮となっています。中央集権の象徴とさえ言われる教育の世界。それにあらがう「地方のアクション」が、丸亀市で痛快に実現することを、私は心に描きます。

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