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〇田勢康弘氏セミナー「令和新時代 どう生きる日本」

 

1.    概要

 

日時 202025日 1030分〜12

会場 東京都永田町のセミナー会場

講師 政治ジャーナリスト 田勢康弘氏

 

2.    受講意図

 

いつも四国新聞1面「肩」のところに逐次連載されている氏のコラムを楽しみに愛読しています。政治記者としてのキャリアは長く、今のジャーナリストとしての見識に大きく貢献しています。先日の、中曽根康弘氏の逝去に伴うコラムでは、同じ「康弘」であったことから記者時代に仲間から「ヤス」と呼ばれていたとのエピソードなど、彼ならではの挿話を交えての書きぶりが魅力的です。

一方、いつかテレビでお姿を見たことがありましたが、あまり滑らかな話しぶりとは言えない様相でした。

どんなお人柄でこの「令和新時代」を語るのか。ちょうど前日、公務で上京しており、この日は帰るだけの日程でしたので、と言うと「ついで」のようで失礼ですが、関心を持ち、セミナー会場に向かいました。

 

3.    セミナー内容

 

〇かつての「郵政解散」。小泉チルドレンと呼ばれた自民新人議員が83人誕生。「小泉道場」などとも呼ばれ、彼らに講演を、との依頼が来た。その時に、西郷隆盛の話をした。遺訓を現代語にして話した。「ここに政治に必要なことはすべて書いてある」と。その中に山岡鉄舟の有名な言葉がある。鉄舟は西郷と勝との会見をセットした人物であり、勝に命じられ敵中に一人、西郷のところに交渉に乗り込んだ。江戸無血開城の仕掛け人だ。「三舟」の一人。かつてはただの剣術使いだった。身長は188pとされている。「命も要らず金も要らず…始末に困る」これは西郷が自分のことを言ったのでなく鉄舟のことを評した言葉。こちらから5条件を提示したその5番目に徳川の殿様の「身柄を預かる」としたが鉄舟は「それは飲めない」と言う。「もし、島津の殿様がそうなるのだったらあなたはそれを受け入れるか?」と。西郷は鉄舟のことを「胆力のある人物だ。信用できる奴だ」と評した。83人にこの遺訓を読んだことがあるかと聞いたら、ゼロだった。講演の最後に、稲田朋美が「心がけることを教えてほしい」と聞いてきたので「黒塗りの車に乗るのをやめたらどうですか? 電車を使えば、大衆の暮らしが分かります」とアドバイスをしたが、実行した人はいない。

〇日本では、政治家の教育がうまくいかない。

〇トランプ政権を揺るがす候補者が38歳、アイオワ州で登場してきた。大統領選挙になるかも知れない。他の候補と比較し、若いことがトランプを恐れさせる。ハーバードから海軍へ。奨学生として「ローズスカラシップ」を受けたエリート中のエリート。故郷で市長を12年。もしこの人がトランプを倒して大統領になったら日本は深刻だ。安倍総理は「トランプ命」。アメリカではトランプのペットとして「トランペット」などと評されているが、日本のマスコミは総理に“ソンタク”してそれを報道しない。「トランプの代わりにラッパを鳴らしている」。彼が大統領になったら、日本の立ち位置が崩れるだろう。

〇「桜」の一件。小さなことだが大きな問題だ。どれだけ隠すか、菅さんの辞任説、河井克行・案里夫妻の背後に菅さんがいる。連座制で2人とも辞めるのか?

広島選挙区の大物の後ろに古賀がいて、その配下に岸田がいる。姑息な鑑定。検察庁長官の人事延命も。官邸側が情報をもらしているのではないかとのフシもある。すでに末期であり、次が動き出している。

〇「経済」。「脱却」はウソだ。株を見ても、公的なところが株を買うのは株を上げるためである。官邸の言うことを聞かなければならない。官邸相場だ。デフレ、円安維持。異次元の金融緩和策をずっとやっている。国債を買い集める。金を借りない国民、金を貸さない金融機関はひたすら国債を買う。日銀は国債だらけだ。530兆の8割。GDP並だ。これでどうなるのか。「今は黙っていよう」のムード。借金1100兆円は世界一。GDP2.3倍。アメリカなら1倍でも大騒ぎなのに、安倍も黒田も苦にしていない。エコノミストは証券会社が背後にいて給料をもらっているから悲観的なことを言わない。デフレの大波に飲み込まれるとの予測もある。コロナの影響で、オリパラ後は大変なことになる。アメリカもおかしなことになっている。ダブついた金で国債、自社株を買い、投資をしない。金融ゲームになっているのが心配だ。

〇「カジノ」。11/8トランプ当選。11/17トランプタワーで総理が大統領と対談。誰が仲介したのか? それはアデルソンというユダヤ系随一の金持ちだ。アリゾナの新聞がトランプ支持を発表したのに世界が驚いたが、そこには裏の事情があるとされる(ここでは省略)。ラスベガス、マカオ、シンガポールなど、韓国のカジノ以外はアデルソン氏が牛耳っている。彼は日本では横浜に狙いをつけた。11/17の対談テーマはTPPだったと日本では報道されたが、本当は日本のカジノについてだった。帰国し、IR3年で成立させた。シンガポールのカジノを安倍総理が視察したことは、日本では報道されなかった。安倍総理の次にトランプが会ったのは孫正義。アデルソンの持つ180の会社の一つにネット見本市の会社がある。これの買収をめぐり、孫はアデルソンに気に入られた。次の大統領選でもしトランプが破れたら、日本のこれまでは“チャラ”になる。

〇「中国」。見方を変える時だ。民主主義とは程遠い、信用できない、マナーが悪い、ひどい国だ、などが日本の持つイメージ。しかし札幌駅の回転寿司に先日行ったら8割が中国人である。1時間半待たされた。そこで中国人に聞いてみた。「日本でいくら使いましたか?」答えは200万円。何を買ったか。シャワートイレを10個買った。中国でも売ってるでしょ? 「日本で買う方が安い」。こういう時代が来たのだ。中国人で「お札」を使っている人はいない。アリペイ、ウィチャットペイでスマホ決裁。アリババの社長は幼児、「算数11点だった」とのエピソードがある。「子どもに勉強しろと言うな。人工知能に勝てるわけがない。遊ばせろ。知識でなく知恵が必要だから」が彼の信条。中国では全員に「信用度スコア」として点数を付けている。要素として、親の職業、母の里、出身学校、成績、共産党かどうか…など。900点満点。500点より上なら空港で並ばなくてすむ、金融審査に通りやすい、など特典がある。700点だと結婚ではひっぱりだこだ。アメリカでもこれが始まり、次は日本だ。アリババは、中国そのものである。

〇中国で自動運転車を体験した。100q/hで飛ばす。不安に感じたが「人よりずっと安心です」と関係者。中国では試運転も公道で。中国は「2周遅れのアドバンテージ」だ。かつて電話もない社会からいきなりケータイへ。だから町に電柱がない。日本の強みはエンジンにあった。そこでハイブリッドに力を入れたが、電気自動車に席巻された。取り残された日本。何で食べていくのか。

〇今の日本に「受験戦争」はない。日本には競争がない。韓国や中国は競争の社会だ。「顔面偏差値経済」。良い顔をしないと点数が悪く、不利益になるから、男性の化粧や整形が流行っている。

〇上海の国営テレビ局を訪問し、驚いた。紙が1枚もない。日本の放送局は台本に埋もれている。1時間の番組に5冊の台本があるくらいだ。「なんで紙がないのか」と聞けば「なんで紙が要るのか」と。すべてはタブレットで営まれている。

〇無人のコンビニ。日本が今度は「2周遅れ」になる。習近平が支持される時代に、中国国民の暮らしはレベルアップしたから。

〇「ゴーン」。弁護した国は知っていた。しかし知っていただけでは罪を問えない。あれはニッサンのクーデターだった。ルノーに買収されるなんてとんでもない、と考えた日産。社内で済ませずケーサツ沙汰にした。ゴーンはけしからん、と思っている人は少ないのでは? むしろ痛快に感じているのでは?

〇「韓国」。慰安婦の像が問題になった時に、像の前で1週間、インタビューを試みた。「日本をどう思う?」と尋ねると意外にも「日本はけしからん」と言う人はいない。8割が「日本ダイスキ」。インタビューはこれで番組にならなかった。政治と大衆は異なる。千年、日韓は非難しながらやってきた。仲が悪い、お互いに「相手は失礼だ」と考えている。私が幼い頃、茶碗を持たずに食べていたら親から「朝鮮人みたいなことをするな」と言われた。韓国の茶碗は鉄だから熱く、持てない。また膝を立てて食べる。隣と仲良くしなければ。

〇私は中国に生まれ、山形のある町が実家。地方が疲弊しているのは、農業政策の失敗から来ている。水田を守らず“票田”を守った政治家がいるのだ。かつて養蚕農家が2千軒あった。今は1軒のみ、それも間もなく、なくなろうとしている。中国の絹に押された。そこで「桃を植えましょう」となった。桑畑は8年、他の作物を作れないのだ。桃は大暴落。続いてブタもやったがうまくいかず。「絵に描いたような水飲み百姓」だった。「もう、国の言うことは聞かないことにしよう」となり、農水省様、農協様に背いて、米沢牛250頭で大成功。現在では250頭をコンピュータ管理のサイロにより、夫婦2人で営むことができる。基本は第1次産業を疎かにするとダメなのだ。

〇私の弟は築150年の古民家を買った。敷地は千坪。値段は“50万円”だった。これをカフェ&ロッジにしたところ、世界から客が押し寄せ、大成功。あるアメリカからの4人家族に聞いてみた。「どれくらい日本に滞在するのか」。答えは1年。日本人として、思わず「学校はどうするの?」と聞いた。教育は、学校に任せるものではない、との返事が返ってきた。かつて自分も、子どもとともにアメリカに5年住んだことがあり、1日も学校を休ませずに通わせたら、校長先生から責められたことがある。学校任せにするな、と。その校長が日本の学校を見て驚いた。「生徒が教室を掃除している!」。弟に続き、この町には7組が移住してきた。陶芸などしている。知恵を使えば何かできるものだ。ちなみに、出資50万円のうち30万円は町が補助してくれた。風呂とトイレは素晴らしくした。そうしないと都会の女性は泊ってくれない。地方創生大臣は、機能していない。

〇「政治家の公募制」。細川内閣時代に私が提案したものだ。責任を感じる。人を見る目がない人が人を審査することになってしまった。学歴、ハンサム…見る目が狂っていく。地味な努力をしない候補者。「雑巾がけ」と、竹下登は言った。およそ、「立派な人生を送ろう」と考えるような人は、選挙には出ない。しかし5人、立派な人が出れば、変わると思う。

50人の国会議員の前で話をしたことがある。まず「心から安倍さんを尊敬している人は?」と尋ねたが、みんな笑っているだけだった。ケータイをいじって出たり入ったりしている。立派な人の比率が下がっているのではないかと思う。立派な人は、むしろ中国に多いのではないだろうか。経団連会長も、存在感が薄い。学力も落ち、この国は大丈夫なのか、と思う。

〇地方議会は活発な議論をしているのか? アメリカの地方議会は、本会議は6時以降、職業のない議員はいない、ボストン市議会議員の報酬月額は10万円。市長や市職員は議会に時間を取られずに「仕事ができる」。

 

4.    感想

 

これを書いている日にも、田勢さんのコラムが四国新聞にありました。テーマはコロナウイルス。受講の日にも話題になっていましたが、「オリパラ後は大変なことに」との氏の言説も、その実施そのものが危ういものとなっていて、深刻の極みです。

それにしても、このように世界が見えている人の話を聞くこともとても有用とあらためて感じます。韓国の像の前で1週間インタビューを敢行、とか、上海のテレビ局訪問など、私たちの日常で思いも寄らない世界の見聞は、私たちの今いる場所を確認させてくれます。さりとて日常、ネット上には清濁さまざまな情報が飛び交い、それに目を奪われていては本業が成り立ちません。大いなる刺激を受け、また明日から、市民の中で、市民の目線で働きたい、そう思います。

2周遅れのアドバンテージ」のエピソードには心から納得もしたし、また不安と暗い気持ちが交錯しました。秋に張家港市を訪問。途中で立ち寄ったドライブインで、キャッシュで支払うのは私たちだけ。ところが。突然の停電で、コンピュータが作動せず。店員は何と、1個、2個と「正」の字をノートに書いて、勘定しているのでした。

それやこれや、この時代を生きて考えさせられることが多すぎます。便利さと、そしてコロナの恐怖と。しかし「知識でなく知恵を」との教えを思い出し、心して、この時代を生きなければなりません。

 最後の記述は、参加者との問答で突然、その話になったのだと記憶しています。日米の地方議員の事情はまったく異なり、そのままが理想なのではありませんが、私はその背後に、住民が議員に期待していることそのものが根底から違う、そのことを思わないではいられません。ボストンの市議は何人ですか? と問うのを忘れました。「議員が多いほど民意を汲み取れる」。それは本当なのか。それはまた、別のところでの話題としたいと思います。ただ「日本では政治家の教育がうまくいかない」との言説は、国に限らずのことと思います。「水田を守らず票田を守った政治家」。笑わせながらも鋭い批評。日本の地方議会のあり方を、これまたこれを機に、じっくりと考える、その端緒のヒントもいただいた心地です。

 お国がことなれば教育も農業もすべてが異なる。「教育は学校に任せるものじゃない」とのキッパリの一言に、何か殴られたような気持ちになります。風呂とトイレのきれいな150年の古民家で、ゆっくりと考え事をしたいという思いにかられます。

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