○投票率向上への取り組み 栃木市
2018年10月18日 栃木市選挙管理委員会を視察
1. 栃木市の選挙関連の概要
○人口16万人余り、県内3位だが有権者は13万人余りで県下2位。18歳
以上の人口が多いということ。
○衆院選小選挙区では市内に3つの選挙区が混在。選挙事務は大変。
2. 投票率向上へ、栃木市の取り組み①年代別の主権者教育
○平成27年6月の公選法改正で70年ぶりに有権者拡大。これをチャンスと
して、積極的に主権者教育の取り組みをスタート。
○小学生時代から取り組む。年代別に取り組む。
○これまでは現在の有権者に「選挙に行ってください」との啓発のみ。これ
からは「未来の有権者」にも主体的に政治や選挙に参加してもらう。
○学校での出前講座
H27、1中学、1小学、1特別支援学校高等部をモデル校として実施。
H28、市内の各高校で実施、県と共催。NHKの取材。
H29、2高校、1中学、1小学校。
H30(12月実施予定)、1高校、1中学
○小学生への取り組み。
①28年1月はまだ法施行前。出前授業、選挙クイズ、模擬投票。給食デザ
ート選挙。デザートは何がいい? アセロラゼリー、チョコレートムース、
ヨーグルトの3択。ポスターも本格的。理由を楽しく話し合う。家でも食
べたいものを議論するきっかけに。当選したメニューを実際に給食に出す。
②29年12月は外部講師による出前講座。総務省事業を活用し、市からの
持ち出しはゼロ。「若者と政治をつなぐ」をコンセプトに活動している講師
により「小学生の自分と政治へのつながりを見つける」をテーマに講座。
明るい選挙推進協議会委員も参加。地元ケーブルTV取材。
③29年夏休み選挙ポスター教室。芸大学生5人に講師を依頼。ポスター作
成を通じて小学生と大学生がともに選挙への関心を高める。
④明るい選挙啓発ポスター市の審査。市で1次審査、入選50点、そこか
ら優れた30点を県の2次審査へ。審査員は小中学校図工・美術の先生、
協議会会長、選挙管理委員長。
⑤同ポスター入選作品展。市役所1階市民スペースに50点。市長、市議
選挙に合わせた実施も。
○中学生への取り組み。H27年度から、中学校での生徒会役員選挙にタイミ
ングを合わせて出前講座。実際の投票箱、記載台、投票用紙を用いる。投票
立会人も実際の推進協議会委員が務め、外部の人の前で緊張しながら。「七
つ道具」も揃えた。地元ケーブルTVが取材。
○高校生への取り組み。
①夏休みを利用しボランティアスクールを開催。小学生向けの模擬投票テ
ーマを決めたり、選挙クイズを考案。
②意見交換会「なぜ、若い人の投票率が低いのか」「どうしたら投票に行く
か」をテーマに。
③出前講座。初めて有権者となる生徒を対象に。
○大学生への取り組み。
①短大での出前授業、模擬投票。
②投票所での選挙事務に参加、受付係、名簿対象係等。
③期日前投票での投票立会人。
④大学「地域デザイン科学部」演習のテーマに取り上げ(3年次必修)、大
学生の立場から見る同世代有権者の投票行動の動向調査。
⑤選挙や政治意識に関する意識調査の実施、分析、若者が参加しやすい方法
の検討。スマホアプリを活用、大学で中間発表を11/6に開催する予定。
○若年層への取り組み。
①期日前投票所投票立会人登録制度。10、20代の有権者を対象に、期日前
投票立会人候補者名簿に登録してもらう。すべて公募で、多数の場合は18
歳、19歳を優先。
②18歳誕生月にメッセージカード、選挙冊子を送付。その際に①に「登録
しませんか」と誘う。
○以上の「年代別主権者教育」にかかる費用は全体で50万円である。
3. 投票率向上へ、栃木市の取り組み②明るい選挙推進協議会の取り組み
○イオン栃木店に期日前投票所を開設。
①H27年4月の県議選からスタート。
②近所にスイミングスクールがあり、送ってきたついでに投票。子どもも一
緒に投票所に入れることが功を奏する。
③これを含め、市内に期日前投票所は11カ所。公共交通の便が少なく、
役所まで来られない人も多いが、イオンなら買い物ついでに寄れる。
④投票率が箇所別で一番高い。駐車場の一角を無料で借り、プレハブを建設。
プレハブリース代は市が負担。しかしこれも国、県の選挙では全額補助対象。
⑤LANケーブルで二重投票を防ぐ。近くの児童館が既存の投票所なので
ケーブルが短くて済む。
○協議会研修会の開催。活性化と委員の知識向上のため、大学教授等を招いて
研修会を実施。1年目は内部で実施したが2年目は自治会・婦人会役員も招
く。これにも国から補助がある。
○高校生による学校を越えた街づくりクラブ(蔵の街になぞらえ「蔵部」)と
協議会とがコラボして街頭啓発。期日前投票立会人の業務に従事、小中学校
での出前講座にも参加する。街頭啓発にはゆるキャラ「めいすいくん」も登
場、子どもも集まり、親も来る。
○県選管、県教委との連携。県庁で行われる「未来の有権者育成推進フォーラ
ム」に参加。高校生から辛口意見。今は「選挙に行こう」という啓発ばかり
だ」との指摘あり。
4. 感想
その他、教えていただいたことをまず列記します。
選管職員は3人。学校との連携では、教育委員会から学校を推薦してもらう。
小学6年の12、1月、社会科で習うのに合わせて「総合学習の時間」を使う。
今後はデイサービスの現場での「社会的参加」のコーナーを利用し、投票し
てもらうことも検討していく。デイサービス利用者は投票所に行けないケースが多い。利用者の方々にも投票のチャンスを。
「行きたい人に手を差し伸べる」
「参加したい人に参加してもらう道を開く」
とても印象に残った言葉です。
そして“いまの有権者”だけをターゲットとせず“未来の有権者”たる若い世代にも政治参加を理解、実感し、社会参画意識を育む、とありました。
これはもう、単に行政の一課題としての「投票率の向上」を超えた、民主主義と人間生活に関わる大きな仕事、と言えるでしょう。
対応して下さった女性の職員は全国に出向いてシンポジウムや活動報告などで活躍しているとのこと。こともなげに、彼女の口からこんな言葉が出ました。
「異動で、せっかく選管に来たんですから、何かここで仕事を残そう、そう思っています」。
こういうのを職員力、というのだろうか、と考えました。
これを書いているのは12月議会を終えた年末ですが、一般質問で同行の議員が投票率向上のことを取り上げて栃木市のこの先進事例を紹介した翌日、私は市職員の「職員力」のことを取り上げて、同じこの栃木市の選管女子職員のことを紹介させていただきました。職員力向上であり、女性活躍のお手本です。
投票率向上の先に職員力の向上がある、いや、職員力の向上があってこそ、投票率の向上が目指せる。ニワトリと卵、どちらでもかまいませんが、この職員に大いに刺激を受けてもらいたいものだ。そのように強く感じました。
この国は、ともかく国の法律でがんじがらめだ。それに良さもあるが、地方の時代と呼ばれる割には地方の自由度がない。
教育委員会から文化、芸術、スポーツの業務が市長部局に移管できることになったのが数年前。丸亀市でもほどなく実現しましたが、いかんせんそれがうまく機能していない。そこで一部の議員から「元に戻せ」の意見が出る。これは、その後の運用がまずいからで、国の方針、方向性は一向に間違ってない、私はそう考えます。同様に、来春からは文化財に関わる業務も教委から市長部局に移せることとなりましたが、その趣旨と理想をしっかり理解してことに当たってくださらなければ、ただ混乱を招くこととなり、またぞろ「元に」の声が出るのかも知れません。石垣崩落は、もしかしたら意外な“恩恵”を私たちにもたらすかも知れません。行政が堅牢な市民の“砦”を構築するチャンスという恩恵を。
これと同じく、「未来の有権者」へのこのように優れた取り組み事案を示した以上は、「国のキマリで」という口上はもう聞きたくない、許されない。しかもプレハブリースの代金、講師謝金まで国のメニューで賄えると教えていただきました。もう前に進むしかなく、行政トップはその号令をかけるだけで、すでに道は開かれているのだと言わなければなりません。職員数もご覧のとおりです。
わが丸亀市選挙管理委員会も独自のポスターを作成したり新成人にメッセージを届けたり、また出前講座の開催など、比較的に開明的な取り組みをしてくださっています。しかし市議会選挙での「選挙公報」は、近隣各市に遅れを取りました。これをしも「議会から要請がなかったから」と言われれば元も子もありません。ともどもに、民主主義の堅固な構築と発展のために「一丁目一番地」なのが投票率、若者の政治参加です。「平和ボケで投票率が低い」などとうそぶいていれば、やがて投票に行かずに戦争に行かなければならない日が来る、そのように言ってでも、この国の民主主義、なかんずく地方の民主主義と政治参加を高めていくことは、考えてみれば行政の一分野で担う問題ではないのだ、深く教育次元で取り組むべきことなのだと、視察をすませて改めて思い至ったことでした。
「投票率が低いのを何とかせよ」と、議員が質問をぶつけるシーンにも何度か立会いましたが、それはまず立候補者の課題でしょう、と思わなくもありません。いま、議会だよりの改革や議会報告会の充実改善などにも、議会として取り組んでいます。選挙管理委員会がどうこうという以前に、教育問題として、そして議会そのものの資質として、考えられなければならない課題ではあります。けれども今回の視察はあくまで「投票率の向上」をテーマに栃木市の選管に伺いました。その限りでの報告書ではありますが、深く大きく問いを拡げたい、そんな心持ちになっています。