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〇「ふくしのトータルサポート」ほか       栃木県栃木市

 

1.    概要

 

平成2285

   トータルサポートセンターについて

   市営住宅多数回落選者優遇措置制度について

 

2.視察詳細①トータルサポートセンターについて

 

〇「制度優先・機関優先」から「人優先」に。児童、障がい者、高齢者等に対する医療、保健、福祉、教育等のサービスはこれまで「縦割り」で実施されてきた。利用する側がそれを知り、選択するというかたちだった。これを改善し、当事者中心に、その人のライフステージに合わせて相談、コーディネート、支援を一元的に展開するしくみを作る。行政の側が、当事者に合わせた情報提供やサービスを行うために、関係機関の連携を図り、一貫した支援体制を構築。

〇もと旧栃木市で採用していた制度だったが13町合併時、これを採用した市長が落選。しかし新市長もこの理念を理解し、改善しつつ現在に至る。今後この名称も再検討する意向がある。

〇そのための組織としてH17年4月、保健福祉部に「福祉トータルサポートセンター」を設置した。そのコンセプトは

   総合的に考える。

当事者にどんな支援が必要か、ケアマネジメントを行うことで現在の課題を複合的に考える。重度心身障がい児に対する支援として、医療や診療所、訪問看護、入浴などの福祉サービス、教育、救急(人工呼吸)など、親がすべて別々の窓口で対処していたことに一元的に対応する。

   長期的に考える。

ライフプランニングで将来の展望を視野に考える。年数を経れば本人の状況も変わる。法律や制度内容も変化する。従来なら「あとは自分でやってください」となるところ、追いかけてフォローする。就学前と小学校入学後で、フォロー体制も変化させる。障がいを持って出生した人の就労・自立までをトータルサポートセンターの支援計画でフォロー。全市民を対象とすべきだがまずは子どもを対象に、ここまでほぼできあがった。ここからは「就労から先」に取り組んでいく。

〇対応の具体的な方法は

   相談から始まる。

市役所や関係窓口に相談に来た市民。相談を受理し、ケース検討会議で情報を共有。毎週1回、火曜日に開催。始まりは1件に1日がかり。通常は23件。センター所長が座長となり、進める。窓口を1つにしてしまうと、かえって来にくい人も心配される。そこで行きやすいところ、どこででも相談を受け付けることにした。医療機関、健康保健センター、保育園や学校など含む。ここから健康増進課、福祉サービス課、こども課、教委、総合支所などがトータルサポートセンターを中心にまとまり、ケース検討会議を実施。特に教委についてはスムーズにいくまでに壁があった。子どものためにメリットがあることでつながることができた。

   検診から始まる。

出生後の医師の見立て、新生児訪問、乳幼児健康診査、幼稚園・保育園、5歳児発達相談、就学時の健康診断、小中学校での巡回などそれぞれの場面で発見する。

特に乳幼児の1歳半、3歳児検診では保健師、医師のほかにサポートセンターの心理職が同席する。また5歳児発達相談では年中さんを対象に、教育と福祉がクロスして取り組む。障がいの発見が1年早まるケースもある。これまでに1200人を対象としてきた。プライバシー保護の観点からデータベース化していない。ここが課題となる。紙データで対応している。現在のところ、介護はケアマネが担うが介護までの世代をトータルサポートセンターが担っている。今後は合体する方向を模索。

   巡回から始まる。

園、学校を巡回訪問、相談に回ることで「二次障がいの軽減」を図る。また関係機関のスキルアップにつながる。家庭巡回では親が「うちの子がうまく通えない」、学校巡回では「難しい子がいる」との相談を受け、アドバイスする。

〇トータルサポートスタッフは

   専任職員6(うち保健師1、心理職3)

   専門員7(心理職4、言語聴覚士2、作業療法士1)。非常勤。週14日から毎日勤務まで形態はさまざま。

 

3.感想①トータルサポートセンター

 

 従来、心配を抱える親が市役所に来てサービスを探して回るのが常だった。当事者は大変、役所は受け身。当時の市長が親の会の人の苦労を知った。同じ話を役所の窓口、それぞれの機関で何度もしなければならない。隣の課へ、教委へと動き回らなければならない。これを転じて「この人に何が必要なのか」を市の側で考えることにした。それを担う部署を設置した。市長は情熱を傾け、試行錯誤を繰り返しながらこれを実現。対応している部署に「担当職員が来る」というしくみを創り上げた。

 視察で、その対応事例集もいただきました。7歳男児、水頭症がある。おむつ交換など全面介助が必要。入院中に退院後の1日のスケジュール、1週間のスケジュールを家族といっしょに考えていく。本人だけでなく家族への支援、緊急時の連絡体制も細やかに。住環境、療育・教育への支援もトータルに設計する。またカンファレンスを開いて事後も見守っていく。記述がとても前向きで、熱意と優しさにあふれている感じがします。関係者・機関の一覧が付いており、家族、病院、訪問看護ステーション、児童居宅介護事業所、入浴サービス事業者、短期入所事業所、養護学校、親の会・友人、市健康増進課、市福祉サービス課そして最後にサポートセンターの名があります。ここまで、粘り強く「縦割り」を打破していった当時の市長さんに敬意を表したい心地です。

 その市長が合併選挙で落選し、制度そのものが危機に見舞われたとも説明がありました。無に帰してもしかたなかったかも知れません。しかし新市長の下でこれが継続・発展したことは幸いでした。

 市職員に、こうした「ヨコグシ」政策を「自分で発案し実現せよ」というのも酷な話なのだろうと思います。しかし市民の苦悩に直面するのはまず市職員であることを思えば、「となりの課に行ってください」ですませる自分の執務に疑問や課題を抱いても、これまた不思議でない気がします。問題を仲間と共有し、同時に組織のタテの系列でも語り合っていく。そういう風土がまず、なくてはならないのだろうと思いました。

 

4.視察詳細②市営住宅多数回落選者優遇措置制度について

 

〇市に種々トータル884戸の市営住宅を保有。入居募集は毎月行っており、毎月の倍率は23倍。箇所によっては新しい住宅で7倍という部屋もある。家賃が高くても他には目もくれず「当たるまで応募」する向きもある。

〇まず優先入居者の優遇措置。優先入居者が優先枠の抽選に落選したケースで、優先枠でない一般枠での入居申し込みに加わることができることとした。

〇次に多数回落選者の優遇措置。公開抽選で3回落選したら2回、6回落選したら3回、くじを引けることにした。

〇合併前の旧栃木市から継続の制度。そこで旧市での落選回数もカウントすることにした。

〇多数回落選者からクレームが届いた。皆の目の前での抽選に不正はない。不運というしかない。通常、23回の応募では入れるのだが。国から通知があり、公平性の観点から、困窮度が高いと認められる場合には、この制度適用が「公平性が確保されている」と認められる道が開かれた。

〇具体的な抽選手法、優先入居、特定入居取扱い規定について説明あり(省略)

 

5.感想②市営住宅多数回落選者優遇措置制度

 

これまで私自身も、また同僚議員からもよく耳にした「何度も落ちる」という嘆きの声。昔なら「議員のチカラで」などとささやかれましたが、もちろん今は厳正な抽選。原則として応募者は誰もが立ち会えます。思えば「議員のチカラ」などと、のどかとも言えるがとんでもない慣行がまかり通っていたのでしょうか。

公的資金で住宅困窮者に住居を提供する。この高度な福祉のシステムですが、戦後の引揚者対策、困窮者支援というニーズから、時代と共に様相は変化しました。ある市民から先日、「市営住宅に税金を使うな」との声もありました。平等、公平とはどうあるべきか。それも悩ましく揺れ動くと考えるべきなのでしょう。

ここに取り上げられた落選者の救済措置。これそのものが果たして“平等”なのか、極めて議論の多いところでしょう。原点に立ち返り、「困窮度」を加味しながら、公平性を担保しているのが栃木市のスタイルです。

私も市当局に、これを強く訴えたことがありました。住民それぞれの困窮度はそう簡単に数値化できるものではなく、冒頭に述べたように「この住宅ヒトスジ。ほかの住宅には目もくれない」という人が果たして本当に“困窮”していると言えるのか。悩みや議論は尽きません。そして普遍のルールというものは、ないのかも知れません。

そんな中、当局も悩み、そして喘ぎながらの制度設計だったことだろうと拝察します。住民にやさしい息づかいが感じられる制度とも言えます。これを参考に、「ダメなものはダメ」との観念に疑問も呈しつつ、あるべき「ベター」を求める議論を続けるしかないのだろう、そう感じました。


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