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○放課後子どもプラン                                愛知県東海市

 

1.視察意図

 

 「子育てするなら東海市」。名古屋のベッドタウンとして、放射線状にいくつもの市が存在している愛知県ですが、とりわけ東海市は、子育てに手厚い施策を展開しています。

 放課後子どもプランは、小学校の図書室など特別教室を活用して安心・安全な居場所をつくり、文化活動、スポーツ、読書や学習の場を提供する事業。放課後児童クラブと放課後子ども教室の2事業を連携させながら展開。具体的には、低学年の登録児童が参加する児童クラブの児童が16の全学年を対象とする子ども教室に参加し、文化、スポーツなどの体験教室、図書室開放、土曜日の施設開放をいっしょに活用していくしくみ。

 市長自身が子育てに力を入れることを宣言して立候補し、「市長在職中は子育て無料」を高らかに約束している東海市。その施策の詳細と、ちょうど夏休み期間の学校を実際に訪問し、放課後児童クラブの様子を拝見しました。

 

2.放課後児童クラブ

 

 ・放課後子どもプランの一環として実施。

  子育て支援課と教育委員会社会教育課が連携。小学校低学年児童を対象に、

  保護者が昼間、こどもを見られない家庭に対し、遊びや生活の場を与える

  事業。正式には「放課後児童健全育成事業」。

 ・開設は、通常日(月〜金)下校時間から午後6時まで

          土   午前9時から午後6時まで

      春、夏、冬休み 月〜金 午前8時から午後6時まで

              土   午前9時から午後6時まで

      学校の代休日  土曜日に準じる

 ・開設しない日は、日、祝日、振替休日、年末年始、一斉避難訓練日など

  ※暴風警報、地震情報が出された場合の取り決めあり。

 ・これまで児童館で行っていたものも順次、学校に移した。今年4月から、

  全部学校に移した。所轄も福祉から社会教育課へ。

 ・利用料 無料…愛知県下で2市のみ。

 ・利用できるための事由

  家庭外での労働、出産前後、疾病、介護、その他市長が認める理由の場合

 ・その他

  ○広さについて、国のガイドラインは11.65u。実際の運用で十分クリ

   アしているものの、もし対象を低学年だけでなく4年生にまで広げると

   キャパがオーバーする。やるとしたら別棟を建てるしかない。

  ○学校図書室活用は12校中8校で実施。これはクラブ室に近い位置に図書

   室がある学校だからできる。クラブ室と一体活用。残りの4校はクラブ

   室と図書室が遠いので不可。

  ○放課後児童クラブが学校を利用することで学校側の意見。セキュリティ、

   光熱水費、修繕料もかさむ。気になるところ。なお2校では耐震施策に

   際して完全分離させた。気兼ねなく使えている。

  ○「4年生まで見てほしい」という声は、あまりない。3年になると塾やお

   けいこに行かせるためか、利用が減る。また3年になると一人で留守番

   もできる。

  ○今後の課題は部屋の確保。建て替え時期が来れば、分離して建てる。ま

   た終了時刻を6時から7時にしてほしい(保育園といっしょにしてほし

   い)との要望が強く、現在検討中。仕事の退社時刻を考えると、無理か

   らぬこと。

 

3.放課後子ども教室

 

 ・地域の人材を活用した体験教室はボランティアにより平日1回と土曜日に

  行っている。

 ・読書推進、学習機会の提供を行う図書館教室は平日2回行う。

 ・土曜日の学校施設開放を行う。

 ・16年生を対象。

 ・実施は、平日 授業終了後から下校時刻(学校ごと、季節でも異なる)ま

         で 1週間に3日程度の実施

      土曜 午前930分から正午まで

  ※春、夏、冬休みも実施していたが、利用者が少なく、去年から取りやめ。

 ・市内12すべての小学校の特別教室、図書室等を活用して実施。

 ・24人の臨時職員を配置している。

 ・利用料 無料

 ・無料ゆえに登録者は多い。登録者のうち実際の利用している実績も4割と

  高い。

 

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4.感想

 

 いただいた資料の中に「東海市都市宣言」がありました(平成2234日制定)。5つのスローガンの2番目に、「子育てと結婚を応援するまち東海市」とありました。

 東海市の最寄り駅は名鉄太田川駅。そこは上りと下りの電車が上下に行き交うスタイルの新駅が建設中。その駅前に駅完成を待たず、商業ビルが建ち、その2階部分の大きな面積を「東海市民交流プラザ」が占め、その中に「東海市立市民活動センター」が位置づけられているのを発見しました。視察予定時刻まで、あつかましく中を見学させていただきましたが、まずカウンターで、「応援します あなたの出会いを!」という鮮やかなチラシとともに「東海市結婚応援センター」という看板が目に飛び込みました。ここに視察レポートを書きながら資料を再度読むにつけ、なるほどこの市が子育てと結婚を応援するまち、との宣言を着実に実行していることをあらためて確認しました。

 私どもがあまりに熱心にそのことを言うものですから、本来の「放課後子どもプラン」の視察を終えてのち、ご親切にも再度、急遽同プラザ公式見学をさせていただき、私のいつも力説している「市民活動センター」も施設の隅々まで、見させていただくことができました。予定外に夕刻までご案内いただき、まことに恐縮ですが、ほんとうにありがたいことでした。

 こうして、「どこにでもありそうな都市宣言」や「総花的な市長の公約」ではない、「本気でやっている」ことが市民に大きなインパクトを与えているであろう、東海市のこうした取組みはとても魅力的に感じました。

 さて、放課後子ども教室の体験教室開催一覧という資料もいただきました。教室名には、ジャズダンス、ソフトバレー、卓球、ドッジボール、ハンドボール、ヒップホップ、フラダンス、リズムダンスなどのスポーツ系のほか、ことばあそび、川柳、俳句、お抹茶、琴、銭太鼓、竹とんぼ、筆文字、民謡、昔の遊び、和太鼓、囲碁将棋、紙芝居、人形劇、ミュージカル、ゆかたの着付け、パソコン、科学実験、アートバルーン、アルミ缶アート、エコクラフト、絵手紙、押し花、折り紙、カプラ、キーホルダーづくり、切手アート、牛乳パックでルービックキューブ、クリスマス飾り、こま、ステンドグラス、ちぎり絵、万華鏡、パッチワーク、バッチ作り、ゆびあみ、お菓子作り、バレンタイチョコ作り、韓国語、マジックなどなど、子どもたちの期待感が伝わってきそうなメニューがずらりと並んでいました。

 そして訪問した学校では子どもたちが実際に、元気に過ごしていました。

 負担の公平、といい、利用者負担の原則、といいます。行政が、地方政治がどのように市民の税金を使うのかは非常に多彩であり、難しくもある問題です。地方の時代となり、その度はますます高くなっています。

 わが丸亀市でも今すぐに、これら放課後子ども政策の無料化を、と、私は叫ぶことはできません。その財源、恩恵に蒙らない多くの市民の同意、それが叶うのか、ここが判断の前提になります。その向こうで、市がどんな理想の姿を描くのかにかかっており、そこまでのビジョンを行政と地方政治が明確に描ききり、説明でき、そして結果責任を負わねばなりません。そこまでの、きちんとした考究と手配とができなければ、東海市のこの施策を実践することはできません。子ども政策の大胆な無料化に取り組む東海市は、子ども政策でも先進地であると同時に、このように独自性を勇気をもって実践している、その先進地でもあるように受け止めました。

 ところで東海市は、米沢藩主、上杉鷹山の先生として名を成した江戸時代の大学者、細井平州の生誕地として有名です。郊外には平州記念館もあります。

「先施(せんし)の心」とは、平州先生の教え。自分から先に行う、ということ。「自分から進んで働きかけることによって、相手のこころを動かすのです、と、平州先生はつねづね説かれました」と、資料にありました。まさしく、東海市のこの取組みこそ、この心を制度に実践したものと、私には映りました。地方の時代だからこそ、地方の「先施」の姿勢が必要です。

 

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