○第1回鳥取リノベーションまちづくり講演会
日時 2015年5月28日 19時
会場 鳥取市とりぎん文化会館第2会議室
講師 ㈱サルトコラボレイティブ代表取締役 加藤 寛之氏
1. 講演の詳細
○この会社は遊休不動産を利用し、まちづくりを進める会社。鳥取市内で第1号となる「ホンバコ」がオープンした。ちなみに「サルト」とはイタリア語で「仕立屋さん」のこと。お客の体に合わせて作る。そしてちゃんとお金をもらう、というコンセプト。会社のマークには「針」をデザイン。まちの「仕立屋」。
○まちづくり≠合意形成
まちづくり≠ワークショップ
まちづくり≠市民参加
まちづくり≠コミュニティ・デザイン これら4つはツールである。これではまちは変わらない。
○まちに元気がない理由≠既存店舗の売上減少
まちに元気がない理由≠コミュニティ(子育て・高齢者)
まちに元気がない理由≠空き店舗がある
まちに元気がない理由≠駐車場がない
まちに元気がない理由≠お客さんが来ない これら5つは元気がない理由ではない。求められている価値が変化したのだ。今では「用のないまち」になっている。元気にする、とは、まちに新しい価値を作り出すことだ。
○まちの役割。昔はまちが元気だった。モノを提供できた。いま、ネットと大型店に譲った。未来は「仮説を立てるしかない」。まちには栄枯盛衰がある。
導入期⇒成長期⇒成熟期⇒衰退期
会社は、成長期のときに次の商品の導入期をセットする。そうしないと会社は滅びる。メリットシャンプーは私たちの幼少から今もあるように、スパンが長いものもある。まちはいま、衰退期。だからいきなり成長を期待せず、導入期をセットする。いろいろ試すのが導入期だ。エネルギーが要る。いっぱい小さく試すことだ。
○仕掛けの第一はファンづくり。このまちは「誰に」お客さんとして来てもらうのか。まちづくりとはファンづくりだ。ファンとは、
①他人はどうあれ自分は好きだ
②いいところを自ら探す
③多くの人に語りだす。ファンがファンをつくりだす。
まちはお客さんが変えていく。事業にフォーカスするのでなく〝人〟にフォーカスする。イベントを試みて失敗する。それは、「こんな人に来てもらいたい」というターゲットがないから。いっぱい来ても成功ではない。8万人が通る商店街でも店はつぶれている。
○まちづくりとは、みんなのため、全員のために、全方位でやることと思いがちだ。そうではない。
○衰退している自分たちのリソースは小さい。人・モノ・金・時間。全方位をターゲットにしていたのでは、誰にも伝わらない。
○鳥取で、アップル社のようにはできない。大阪のようにはできない。大好きな人をどれだけ呼べるか。
○普及のS字カーブ。縦軸に普及率、横軸に時間のグラフ。エベレット・ロジャースの理論。流行は、右上方に直線ではない。S字を描いて伸びる。最初は大変。火が付いたら早い。あとは落ち着く。
○まちには「きざし」がある。人は、2.5%がイノベータ(先頭を走る人々)、13.5%が初期採用者(すぐ飛びつく人々)、34%が初期多数派(追いかける人々)、34%が後期多数派(その後をついてくる人々)、16%がラガード。イノベータは、100店舗中3店舗未満である。イノベータと初期採用者の合計、16%、つまり2割未満の人を捉えれば、まちの元気を出せる可能性がある。どうやったら16%の人を集められるかがキー。
○伊賀市の例。伊賀といえば「忍者」。それはもう知らない人はいない。伊賀栗、手裏剣選手権、Ninjaフェスタなどをやっているからこそ伊賀は忍者、となっているが、人口は5割減、売り上げも5割減、観光客は6割減の現実。ハツカネヅミが回転しているのと同じ。まちのコンテンツをファン視点で切り取ることが肝心。伊賀の日常を再評価すること。そのツールとして〝daco〟誌を発刊。ここでは①城下町の和菓子を特集。12軒ある。こういうことをちゃんと取材することだ。好きな人にちゃんと伝わるようにする。②伊賀牛。「一頭買い」という伊賀牛ならではの特色を出す。7店舗ある。「伊賀の人は伊賀牛を食べている」ということをちゃんと出す。③酒。11蔵ある。伊賀の米は「ごはんが冷めてもおいしい」。こういうことを出していく。
○仕掛けの第二はチャレンジ場を作ること。大きな投資でないチャレンジの場を作る。伊賀の例。「伊賀風土Food」。店主は40代、しかし客は先代からの顧客で70代。40代のファンをつかむこと。先代の店を継ぎつつ、新しいことにチャレンジ。「海はないけど魚屋の惣菜が旨い!」と毎日FBで発信。月に1回ランチ会。「いいね」する人を増やし、巻き込む。他とのコラボ、ポスターづくりも。こうして70代から40代にも客を広げ、売り上げは1割アップ。すると和菓子屋が「ウチもやりたい」と和菓子会を開く。そこで店舗内にお茶のみスペースを設けた。これで和菓子屋も売り上げ1割アップを達成した。客は自分と同じ40代へシフト。
○55億円かけた再開発の横にボロボロの8店舗があった。これをどうするか。まちの「期待感」を高めてから動く。「空気感」を読む。「家賃4万円で」「2か月でリノベーション」と発信。「ここなら投資しよう」となる。試せる、使える、挑戦できるスペースをオープン。いちばん良いところを与えてプロデュースしてあげる。
○三重県の情報誌に伊賀市が掲載された。ちゃんとしたコンテンツを伝えればちゃんと切り取ってくれる。次には若い人向けの雑誌(「OZ」)が取り上げてくれる。次に「まるごとイガ本」を刊行へ。「ニンジャからの脱皮」。「みんなが楽しめるまち」へ、2000万円の予算で実現。「まちの期待感」を醸成。
○まちに「新陳代謝」を。「新しいチャレンジが生まれる空気感を作る」。旧街道をイメージに取り込んだ「枚方宿くらわんか五六市」の例。人口40万人だが再開発ビルの店はつぶれていった。お金を投入しても元気は出ない。まちやの情報バンクがヒットした。これを契機にマーケットをH19年3月スタート。毎月1回の定期的なマーケット。出店250店舗、応募数約350店舗、出店料@3000円。ポイントは①不用品販売のフリーマーケットとの差別化。手づくり、こだわり、フェアトレード、エコロジー。②補助金に依存するイベントとの差別化。儲かるイベントへ。出店料の徴収とボランティアスタッフ、行政の協力。③ファンになってほしいのは枚方市民。年1回でなく月1回来てもらえるイベントで定着化。④新しいチャレンジを生み出す仕掛け。集客イベントでなく、まちの価値を作り出す。
○イベントは出展者のために。吉本を呼んで人集め、ではなく。補助金に頼らず稼ごう。実際、儲かっている。遠くからではなく枚方市民にリピーターになってもらう。集客ではなく「まちの価値」を作る。
○元気のなくなった地域商業は、
お客さんが来なくなる⇒魅力ある店舗が少なくなる⇒新しい動きがなく膠着状態⇒後継者がいない⇒新しい商売人が出店しない⇒新規参入のハードルが高い⇒商業の新陳代謝、ダイナミクスが停滞、となる。この最後の部分を変えないといけない。「商業は変わっている」。
2. 感想
21時までの講演会でしたが、帰宅の最終便に間に合わず、残念ながら最後数分を聞かずにタクシーで鳥取駅に向かいました。
最近にわかに脚光を浴びる「リノベーション」という言葉。北九州に続き鳥取市が名乗りを挙げたと聞き、参加しました。内容は、私の脳裏に描く丸亀市の商店街に、光が差し込むような気持になるものでした。そしてとても納得できるものでした。
商売のしかた、の話でもなく、改装の話でもない。氏が携わった伊賀市ほか豊富な経験を語りつつ、なるほど「商業は変わっているのだ」ということに気づかせる、それがリノベまちづくり成功へのカギなのだと教えられます。
かつて「ムーバス」と称したコミュニティバスの成功例をどこもかしこもがマネをして挫折した、それと同様に、商店街活性化もここに示されたどれをマネしても丸亀の成功が約束されるものではない。いくら投入するかでなく、どう改装するかでもなく、補助金をどこからもらってくるかでもない。16%、ととても具体的に示したそれらの人々をどう探し出すのか、それが「元気なまち」成功への秘訣と、とても説得力のある、切り口鋭い話の展開でありました。
セミナー開会冒頭に、市役所の担当課長があいさつに立たれました。行政がこうした知恵者とどうかかわり、一方で商店街の方々とどう連携していくのか。わずかな時間の講演では知りたいことがますます膨れ上がる状態ですが、その端緒につくことができた。それはどこまでも私の頭の中に止まっていますが、丸亀市で、具体的に行動を展開しなければ何も始まらない。その思いを力強く後押しされた心地です。
別添資料のとおり、同月の市広報に特集記事「リノベーションまちづくりを推進します」というのがありました。担当しているのは中心市街地整備課。夏にはさらに具体的に前進させ、リノベーションスクールを開催すると予告しています。
人がたくさん来ること、それが元気な商店街、とそんな単純なものではない。昔の賑わいよ、今ふたたび、という夢は抱くほうに無理がある。大阪の、1日8万人通行する場所でも、潰れる店は潰れる、と手厳しい指摘。私は商売の経験もなく、全くの門外漢であり、だからこそ講師のお話がお話として素直にすとんと聞けるのでしょうが、行政の人たちは、また商店街の人たちはこの講演をどう受け止めるのでしょうか。それぞれに、何とか打破をともがいておられます。私も私なりにそこに加わり、「求められている価値が変わったのだ」という大原理を訴えてまいりたい。