○市民協働事業 愛知県豊明市
1.視察意図
最後の感想の部分に書くべきかもしれませんが、視察の光景を思い起こし、深い感慨があります。私たちの視察に対して、こういう対応も珍しい、と。しかし、すぐに思い返しました。これこそがこれからの行政視察の「標準的な姿」になるのではないか、と。
職員が、自分の思い、自分の情熱、自分の行動の足跡を、限られた時間の中でてきぱきと説明する。どこかの首長が財源不足を理由に「視察予算はゼロ、ネットで調査できる」という見解を述べていましたが、「それは違う」と、そう感じる瞬間でもありました。
今回の視察テーマ「市民協働事業」に3つの質問項目を設けさせていただきました。@市民協働課の業務内容、A市民提案型まちづくり事業、B公用車の無償貸し出し。視察での説明は一応これに沿ってのものでしたが、実際には、それは「豊明プログラム」とでも言えそうな、立派な説明ユニットがすでに完成されているものを拝聴した、というのが適切です。視察者が多いだけではなく、他市に赴いての発表も受けているとのこと。いつの日か丸亀市にも来ていただきたい、それがしめくくりの言葉となりました。
2.市民協働事業の概要
@経緯
・H18年度からスタートした総合計画。その策定準備の進むH16年度の機構
改革で、市に市民協働課を設置。職員8人。スタートする総合計画に「協
働」が盛り込まれることを見越しての措置だった。
・同課の係として、町内会や地縁団体、NPO、豊明まつりを所管する「市
民活動振興係」を置いた。(課としては他に、男女共同、国際交流、統計も
所管した)この係の係長は職員から公募。手を挙げたのが、現在の課長。(視
察で説明を担当してくださった)
・同年度、さっそくNPO懇談会、市民活動支援講座、NPOフェスタを行
い、市民活動室の改修の検討に入った。
・H17年度。同10年度から設置していた市民活動室をリニューアルオープン。
アダプトプログラム制度化、NPOインターンシップとして職員派遣、市
民情報誌「コラボ」創刊、市民活動情報サイト開設、市民活動推進補助金
制度化。
・H18年度、総合計画がスタート。「協働で創るしあわせ社会」を標榜。市民
活動への補助金「はじめの一歩補助金」募集。卵からひよこへ、にわとり
へと目指す団体に最初の3年の補助。10万円限度、事業費の2分の1。の
ちに提案型の制度となり、全額補助に拡大。
・H19年度、協働推進委員会設置、市民協働に関する管理職、職員研修の実
施。市民活動総合補償制度スタート。提案型委託事業の制度化。協働推進
計画を策定。指針+実行計画+職員向けQ&Aで構成。実行計画には「い
つまでに何をするのか」を明確に。
・H20年度、市民提案型まちづくり事業(全額助成)。この年、恒例の「豊明
まつり」予算が1300万円から200万円に減額され、市民協働にとって節目
の年となる。市民のまつりへ、見事に転換(次項)。
・H21年度、市が所有する備品、車を市民活動、地域活動に貸し出す「コミ
ュニティ備品・公用車貸出制度」。赤字を抱えるNPOや地縁団体に市税減
免制度創設。議員提案で「協働のまちづくりをすすめるための地域社会活
動推進条例」が上程、可決。
・H22年度、NPOや地縁団体の保有する「軽自動車税減免制度」。区交付金
充実へ、見直しに着手。
・H23年度、ガンバルコミュニティ支援交付金。25種類の補助金を「地域一
括交付金」とする制度化を検討。
A協働推進委員会
・「協働のまちづくりをすすめるための地域社会活動推進条例」に基づく委員
会と位置づけ。
・協働推進計画の検討、同計画の進行管理、市民活動・地域活動施策につい
ての検討、提案型まちづくり事業、NPOと行政との事業協力に関するガ
イドライン、貸出制度の検討、条例の逐条解説、地域社会活動活性化プラ
ン検討など多彩な活動を担う。
B地域社会活動推進条例
・市の備品貸し出しの制度化を進めていたH22年、これも含めた市民、議会、
市が一体となった協働のまちづくり条例が議員から提案され、実現。
・特徴として、区・町内会を位置づけ。町内会加入の努力義務を明文化。区
長会の役割を条例化。
Cコミュニティ備品貸出制度
・町内会、子ども会NPOほかを対象。
・机、イス、テント、焼きそば鉄板、カキ氷機、プロジェクター他多種。
・貸出し実績 H22、57件、H23(1月末)、96件。
D公用車貸出制度
・前記と同じ対象。
・2tトラック、青パト、軽トラック
・貸出し実績 H22、34件、H23(1月末)、108件。軽トラックは狭い道で
好評、青パトは講習を受けた団体に限定。
E市民提案型まちづくり事業
・行政で解決できない課題、公共性、公益性が高いものに交付。
・1事業15万円を上限。予算45万円。
F市民活動室
・消防庁舎移転に伴いH10年設置。その後リニューアルし充実。商工会館同
居であることから商工会が受付業務を受託。夜はシルバーが管理。〜22時。
・登録110団体。
3.豊明まつりリニューアル事業
ここからは説明者が交代。若き担当者がパワーポイントを駆使し、BGM付き、シナリオも完成されたもので、NHK「プロジェクトX」を思わせる出来栄え。
あらすじ?は、まつりの予算よりもまず学校の耐震化が緊急ということになり、市長の意向、議会からも反対はなく、これまで1300万円、記念の年では1500万円が予算付けされていた豊明まつりが突如ゼロ査定に。何とか200万円を確保したものの、まつりの存続が危ぶまれた。
市役所職員の意識改革。「まつりの火を消してはならない」「しかし、ほんとうにできるのか」。全員が手弁当、町の公民館、集会場で集った市民と懇談、粘り強い説明を行う。ステージの設営から駐車場の警備、ゴミ回収まで自分たちの手で。
そしてその成功を機に、行政と市民、市職員と市民との間に信頼関係が築かれた…。
4.感想
「予算はあきらめても、事業はあきらめない」。
2年目を迎えた2009年は桶狭間合戦450年にちなみ「のぶなが総踊り」を考案。半年の準備期間で30回、深夜まで市民との打ち合わせを行った。作詞作曲、振り付けもすべて市民の手で。マスコットの「のぶながくん」も職員の発案、経費ゼロで着ぐるみも完成。
メディアも「手作りのまつり」として取り上げてくれた。1300人のボランティア。
2年前、「頼れる市民はゼロだった」。そこからまつり実行委員会を立ち上げ、新たな仲間作りからスタート。新しい企画、公式サイト、折込チラシ…行政単体ではできなかったこと。
2010年、会場を移転。もはや「職員の参加」は当たり前に。そして新たに「青年交流会」もスタートした。
以上のようなお話を、エピソードとて最後に伺いました。
「なかなか思うように事が運ばなくても、私たち市職員が市民を怒鳴りつけるわけにはいかないんです」。その一言に、まつり成功への苦闘と、そして成功したときの喜びの爆発、さらに行政職員としての大きな自信と誇りが垣間見えました。
この報告書の冒頭に、かなり詳細に、この市の「協働」への取組みの足取りを紹介しました。丸亀市職員の皆さんにアピールしたい気持ちからです。「一日にして成らず」です。そしてまた「始めなければ何も起こらない」のです。私たちも「行政がやれ」ではいけないことを、市民の皆様にも訴えていくつもりです。
春が近づき、桜まつり、お城まつりの気配もすぐそこです。例年どおり、今年もお城まつりの予算は2000万円。それを楽しみながら、この豊明市の取組みを、思い起こしてみようと思います。