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○「役所を動かす質問のしかた」セミナー        大阪市

 

1.    開催概要

日時 平成31年2月12日 午前10時~12時半

会場 新大阪丸ビル別館

講師 元・廿日市市副市長 川本達志氏

※同氏の今回の講演は11日、12日各午前・午後の4コマで開催されましたが、都合により上記の1コマ「私がうなった質問はこれだ!!」のみ受講しました。

 

2.    受講意図

 

議員20年の経験が終わろうとしていますが、一般質問の出来栄えで「これでよし」と思ったことはありません。ただこちらの要求をぶつけるだけのレベルからどのように質を高めるのか、質問される側の心理、答弁の組み立てから見た話は参考になるだろうと思いました。

廿日市市で執行部、副市長を務めてきた氏の経験からの話をお聞きし、さらに質問の内容を高めたいと思い、受講しました。

 

3.    セミナー概要

 

○議会が権限を持っている。議員は構成員であり、個々の議員に権限はない。その意味で、一般質問で行政を動かすのはとても難しいことだ。

○執行部は“答弁”をすることに真剣で政策を考えることはない。“とりあえず”にならざるを得ない。質問1回で「やります」にはならない。実現までどう準備するか。「権能」の発揮のしかたを学ぶことが大事だ。「権限」でなく「権能」だ。

○最終的に何を目指して質問しているだろうか? 最終成果は予算か条例しかない。それに近づけるのが質問の意義だ。そのプロセスとして、課題を明らかにすることも成果の一つである。①予算化条例化で事業として実施させる②課題の存在を明らかにする③前提となる事実や現状を開示させる。

○質問の3タイプ。

①自己主張型。自らの立場や意見を表明することを目的とする。議事録や議員広報に載せるため。チラシに書くための「自由演技」で、執行部は聞いているだけでいい。国政に関することもあり、執行部は当たり障りなく答弁する。

②課題・責任追及型。政治的課題について責任を追及し、政治的イニシアチブを握ることを目的とする。首長を立てる人が増えればこれは減っていく。国会で野党がやることだ。

③政策提案型。これが主流だ。住民にニーズのある課題について、解決のための施策・事業を提案し、執行部に予算化・条例化させることを目的とする。

○政策提案型質問の構造。質問の意味がわからないものがある。この場合は執行部から議員に聞きに行く。それでもわからない時がある。不安ながらも答弁を書いておく。これを答弁すると「わかった」となる。これでは何も動かない。起承転結があると入りやすい。政策作りも起承転結である。執行部と一緒に作るというイメージで。予算編成とは、人件費、公債費、扶助費、公共施設の運営経費、などなどを引いた後の残りわずかな部分をどう使うかだ。

○現場が要求する額の総計は使えるお金より大きい。そこで査定が始まる。優先順位が決められる。上位に残るために、部課長が説明をする。現状認識の上での「予算要求」→課題認識→仮説(事業案)→検証→提案→期待される成果。

○マーケティングの基本「AIDMA」。人の動くしくみを理解する。役所も「やりたい」と思わなければ動かない。

A:Attention注意

I:Interest関心

D:Desire欲求

M:Memory記憶

A:Action行動

チョコレートの新商品発売を例として、宣伝→パッケージ→欲しいと思わせる→覚えている→店頭で買う、という流れを作る。

○これらがあいまいなら、予算要求で生き残れない。この構造に則った質問でないと頭に入ってこない。議員は現状認識には力を持つ。すぐに「こうしたらどうか」に行きたがる。課題認識で執行部が「議員の言うとおりだな」とならないと進まない。行動に移らない。「こうしたらどうだ」の前に、課題がぼんやりしている、検証もされてないと質問があいまいになる。そうすると答えもあいまいになる。

○まず、現状認識。数字を用い、ストーリーを作る。数字はウソをつかない。が、それだけでは味気ない。現状認識は不可欠、自分で確認する。ヒアリングや取材の生データは効果的。執行部が「ああそうか」と気づく内容に。正確さを担保するためには出処の明確な省庁発表の数字を使う。役人は役所の情報を信じるものだ。金額、人数、割合など、e-StatRESASなどを活用。複数の人に取材した話、集会での話などに基づく物語。住民の視点に立った物語がよい。例:所得水準と就学援助制度。「これでは教育を受けられません」と、ある家庭の物語として「パートで働く」「子どもと触れ合えない」「朝ごはんが作れない」と理解を深めていく。単に隣の町との数値比較では説得力が弱い。財政担当は、隣の町との比較はまず否定したい。「ウチので十分なんです」と言いたい。それを否定される質問は拒否される。数字対数字では執行部が勝ち。数字で勝てないのが「物語」だ。調べればわかる数字を議場で問うのはムダ。国会ではテレビで国民に知らせるという狙いもあってやっているが、それは市では意味がない。ムッとさせるだけ。

○現状認識。議員の知っていることはまず執行部も認識していると考えた方が良い。その認識を具体的な現実として改めて示す。むしろ認識は行政担当者のほうが詳しい場合もあるから「逆取材」も有効。締め切りギリギリまで通告しないのは得策でない。情報には正確さを担保。

○執行部の思い①現状認識が間違っている。「このままでは夕張のようになる」→破たんのメカニズムも知らないで言っている。夕張市はいろいろな“課題の宝庫”だから関係の書物を1冊読んでみると良い。北海道新聞の本が面白い。夕張市はS35年に人口10万余から50年に5万人、H2年に2万人台、22年に1万人台に。20年間で人口半減、次の10年でさらに半減、次の15年でさらに半減。こういうことがないと「夕張のように」はならない。現状認識が間違っているとここから先に何も広がらない。「夕張のようになる」という前提がないのに質問している。夕張市の「財政破綻年表」。バブル崩壊でリストラもせず、合併も廃校もせず、炭鉱施設を市営住宅に引き受け、スキー場は閉鎖せず…。このようにしない限り「夕張のように」はならない。

○課題認識。執行部が「予算をつける必要があるな」と思うように。問題発見能力は日頃の問題意識と学習、これしかない。「現状ではダメだ」と発見させるように。その前提として「現状」を知ることは不可欠。正確な現状認識から課題を認識させれば「共感」を獲得できる。「虐待の事実」→法整備、児童相談所の整備→これがマッチすれば解決。それがしっかり機能してなければ事実と制度にギャップがあることになり、課題が浮かび上がる。これを示すのが質問だ。ここから現行制度改善へ、「なぜギャップが起きているのか」を示せないといけない。そのためには制度をしっかりと学習する必要がある。問題だ、問題だ、だけでは課題が明確に示されない。原因は人なのかカネなのか権限なのか。児相へのヒアリングなくして質問なし。課長や部長でなく専門知識持つ「係長」に聴くこと。

○議員は職員からリスペクトされている。理念の強さ、しつこさがあって初めて「じゃあ、やってみるかな」と思うものだ。この議員という特殊な地位を活用しない手はない。虐待の報道に、行政もマスコミも皆、どうすればいいのか迷っている。そこが議員の出番だ。真剣に考え、制度を知る。リスペクトされている議員の姿に職員が協力しよう、となる。質問者の姿勢も相まって共感が生まれる。

○ひとつのテーマを継続して。仕事は成果を出してこそ。成果を出すには「段取り」が必要。質問、答弁、調整のストーリーを考える。質問は成果を出すための推進力と位置づけ、1回の質問で成果を出そうとしないこと。「今回の質問は課題認識のレベルにとどめよう」というのが段取りだ。課題認識→課題があることを認識しながら対応しないのは仕事をしてないことになる。「カネがない」とは言わせない質問の積み立てを。

 

(休憩)

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○リーサスを活用し課題を示す。「私はこう思う」。決算カードを見極め、どれだけお金があるのかを知って質問を。数字を示してエビデンスを。数字の背景をしっかり調べる。

○市町の仕事はソフトの仕事だ。ここが県と違う。道路、空港、港湾など。県の行うソフトは市のバックヤードとなる。ソフトの延長にハードがあるだけ。ハコモノ行政は市町の仕事ではない。ホールで何をやるのかが市の仕事だ。

○カネがない、と言い出したら「こっちのもんだ」と思っていい。カネがある、とは財政当局は絶対に言わない。カネがない、それは財政の口ぐせだ。実は交付税はジャブジャブとあり、国は「使え」と言っているのが現状だ。

○テーマを続けることと同じ質問を繰り返すこととは別。テーマは一貫して「深堀して」いくことが大事。同じ質問を繰り返しても執行部は過去の答弁を繰り返す。それしかない。量的、あるいは質的な変化がない限り、同じ答弁になる。

○執行部が「一目置く」議員とは。理路整然と論理を展開する。議場内外での主張に筋が通っている。執行部のあいまいな答弁には本気で怒るが、ときにユーモアを交える。

○仮説。「こうしたら解決するのでは?」というプレゼン。簡単な言葉で、市民に説明することを前提とし、自分が理解できている言葉で話す。議会報告会を意識することだ。論理的に。創造的に。興味を引く工夫。実現可能性を。できそうだと感じるように。「気づき」と「共感」で人は動く。質問とはプレゼンだ。パネルも数字だけでは効果が薄い。写真を。

○仮説。受け売りは仮説ではない。他自治体の成功事例から単純に「同じようにしたらどうか」では全然響かない。首長はマネが嫌い。受け売りでなく「現状」→「課題認識」→「仮設」→「検証」→「提案」。このプロセスの「検証」のところで他市の事例を加えると効果がある。

○先進自治体事例は知っている。良いことだともわかる。でもマネはしたくないとの心理がある。「他市でやっている」と言うのが逆効果になるときもある。

○理解や納得を生むためには。当事者や住民の意見を聞く。これは議員の強みを生かすこと。執行部はパブコメ程度で、基本的に住民の意見を聞かない。新しいものには見て見ぬふりをする。ここで議員の強みを生かせ。他団体の成功事例の紹介は短く要点を押さえて。大学の先生など専門家の意見を聞き、紹介する。電話でもメールでも対応してくれる。彼らは聴かれることに喜びを感じている。

○住民の要望をそのまま質問するのは良いが、行政全体の中での優先順位を自分の中で熟成させる。質問しただけで責任が果たせるのか、考えて。自分の受けた住民要望だけなら議員の「部分最適」に過ぎない。執行部は「全体最適」を目指す。「民意の反映」に止まらず、議員の仕事は「民意の統合」へ。これが時代の流れだ。

○財源を示した「提案」。わが自治体の現状に合わせて、具体的な政策に落とし込むのが「提案」だ。コスト概算を含めた提案を。「約300万必要ですが、難しくない」など。「支出可能です」を示すには、係長に聞けばよい。財源を考慮しない提案は、プロの仕事ではない。財政調整基金の取り崩しやスクラップ事業の提案、人件費削減の提案も。

○良い質問の絶対要件①現状認識が正確で共有できる②課題認識が時宜を得て共感できる③仮説(提案)が十分検証されている。

○答弁に対する対応。答弁→意味→対応の順に。

・「実施は困難です」→できません→同じ質問は時間の無駄?

・「研究します」→やる気はありませんが頭の片隅には置いておきます→事情が変わったり、問題状況が深まったら再度質問を。不作為の責任を問う。

・「検討します」→時期はわかりませんが実施を前提に執行部内で考えます→ほったらかしにされる可能性があるので時期を見て進捗を確認、再度質問を。

・「実施に向けて検討します」→予算措置を考えます→予算に組まれたかを確認。

○廿日市市で実際に役所が動いた質問例。団地の住民からの要望を聞いた(浄化槽の老朽化)1回目の一般質問。「市として調査すべきでないか」。ここで執行部は「調査しません」とは言えない→執行部が調査。市全体として課題があることを認識するも市は「住民の自己責任だ」と判断し、動かない。→住民との意見交換会「こうしたらいいと思うが」→2回目の一般質問。「A団地、B団地、C団地ではそれぞれ事情が異なっている。浄化槽改修積立金がある団地には補助金を出す、という条件設定でどうか」と提案。研究して見ます、程度の答弁→執行部との調整→住民意見交換会で制度の煮詰め。役所も同席→3回目の一般質問。住民意見を踏まえた具体的な制度提案と財源提示。「前向きに」の答弁→制度導入、予算化。このように質問は「組み立てる」ことを考えよ。課題が見えると行政はマジメだから放ってはおけないものだ。

○役所が動いた質問のポイント。

・住民の意見を多数集約

・既存制度を理解して制度と現実が生んでいる課題の齟齬を明確化

・解決策の仮説を住民と調整

・質問を複数回にわたって進める

・役所との事前調整

このようにいろいろなポイントを組み合わせて、役所は動く。

○一般質問と議会の意思。質問は議員個人の考えに基づいている場合が多いが、議員の満足のためではない。また選挙のパフォーマンスでもない。一方で、議会の意思は“機関”の考えである。この両者は関係ないのか。議会の“機関意思決定”を前提としての一般質問のはずだ。その意味で、一般質問は、議会の機関意思決定への手段だ。その理想形としての会津若松市議会。同市議会編集「議会からの政策形成」はぜひ一読を。「議会こそまちづくりの主体」とある。○政策形成機能を議会として内在化させた会津若松市議会。

①意見交換会で出された意見を広報広聴委員会が整理し、ここから問題を発見する。

②広報広聴委員会で課題の設定を行う。

③意見交換会で②の課題を報告し、意見交換を重ねる。

④政策討論会で重要性の分析を行い、さらに意見交換会で問題所在議論を深める。

⑤政策討論会で政策作り。

⑥意見交換会(パブコメ)、本会議と委員会で議案審議、議決。

⑦意見交換会で議会を評価。

リーダーシップ持つ議長を選ぶことが重要だ。

○議会が機関としての政策的意思を持つ。議会は、議員提案も委員会提案もできる。委員会も機関である。その委員長が委員会として質問をするのは緊張感がある。予算修正もできる。調査もできる。専門家の意見も聴取できる。しかし、これらは議会の機関としての権能であるので、議会としての意思がまとまれば、執行部は無視できない。それは、議会としても政策執行の結果には責任を持つということだ。議会が政策をリードすべきだ。

○議会が総合計画の対案を作る栗山町議会の例。専門家招き議会が勉強会。先進他市の調査。総合計画案策定委員会を設置。素案の策定。総合計画審議会の委員を本会議場に招いて討議。議長から対案プレゼン、ネット中継も。総合計画人議会委員との意見交換。町長提出の原案を修正可決。

 

4.    感想

 

まず、セミナーの本筋から離れた傍系のエピソードを書きます。

10時から12時半までのセミナー。その中間の休憩時間に、私は講師と名刺交換し質問をしました。私が思うところ、自治体が政策・戦略を前面に出すべき時代なのにわが丸亀市には「政策課」はあるが「政策」がない、そして政策展開をリードすべき副市長やアドバイザーがいない、との質問です。氏はおおむね、次のようにアドバイスを。政策がない、決断をしない首長ならば議会がまとまり、機構についても条例案を作るしかない。アドバイザーなら若い人がいくらでもいますよ。採用するための増額修正をしたらいい、と。

このレポートを書いているのは、セミナー受講の後に迎えた3月定例会での代表質問も終えた時点。私はこの質問で、「議会がまとまって」という段階には至らないが行政の組織条例の改正を提案、部長を減らした財源で副市長を複数に、あるいは政策アドバイザーを設置する、という内容でした。新庁舎の建設が始まり、この春は無理でも今年の夏には機構改革を行い、これを新庁舎での組織機構の基本にするという、スケジュールもタイトな提案でした。「議会がまとまって」ということができなかったのは、そもそも行政の組織機構に関する条例案は議会が提案するのになじまない、という定説があると後日、質問通告の前に知ったからでした。ちなみにこれとは別に「議会は何でも提案できる」とする学説もあるそうです。せっかく今回のセミナーで元気をもらったのですが、実際には「議会がまとまって」行政機構を改編していくということにはならないようです。政策提案型議会、というのは行政機構に“口出し”することではない、とは、そのセミナーの前週に参加した高沖秀宣氏の考えでもありました。行政が政策や戦略を前面に出すことに消極的であること、それ自体が課題だ。個々の行政課題や提案が、家の中のそれぞれの電気製品についての議論とするならば、私のテーマは「この家にはそもそも電気が来てない」という次元のもの。私には痒いところに手が届かないまどろっこしさがつきまといます。究極、首長も議会議員も選挙で市民が選出したものだ。首長の専権事項に、私がとやかく言うべきではない、そのように私は考えるべきなのでしょうか。この問いは私の中で止むことがありません。

 さて休憩時間が終わり、後半へ。そこでネットとつなぎ、国のデータ書庫である「リーサス」の活用について紹介がありました。先ほど私が名刺交換をさせていただいたことから、「丸亀市を見てみることにしましょう」となりました。

 驚いたのは、リーサス上の丸亀市のデータを一瞥して、副市長であった氏がすらすらと丸亀市の財政の特徴、傾向性、さらにそれを質問する具体的な進め方まで語ってくださったことでした。なるほど。このように数字を読み解く能力が必要とされるのだ。生半可な「訳知り顔」でなく、徹底的に勉強をした上で、近い将来にこのデータを読み解いた質問をしよう、そのように心に期しました。

 ここからセミナー本筋に戻ります。

「民意の反映」に止まらず、議員の仕事は「民意の統合」へ。これが時代の流れだ。ここに強く共鳴しました。一般質問が単に個々の議員の要求、要望の域を脱して、「議会の機関意思決定への手段」と考えられるべきだ。一見、議会意思と一般質問はそれぞれ別の意味を持ち、働きをしていると思われますが、そうではないとの氏の理論に納得しました。そしてその理想形が会津若松にある、との紹介。驚いたのは会津若松方式の政策形成システムを推進しているのが「広報広聴委員会」であるということ。この1年間、広報広聴委員会の副委員長として年間5回の「議会だより」発行を通じ、その内容を刷新してきたことに少々の自負を抱いてきましたが、その先に、このような大きな仕事の峰が待ち受けているのかとの感慨。同市議会の編集した書に「議会こそまちづくりの主体」と書かれてあると学び、課題の深さ、高さにあらためて気づかされた心地です。この山のどこまで登ることができるのか。自分ひとりの登山ではない、ここにこそ、議会という集団ゆえの困難さとやりがいがあるのでしょう。

議員という職をいただいて、そびえる山を眺めているだけなのでは職務を全うできない。長年の経験と「古株」であることからの人脈を杖に、会津若松市議会という頂上を目指したいと思います。

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