○地方議員のための地方財政制度と予算審議の基本講座 大阪市内
1. 開催概要
日時 平成28年10月13日(木) 10~16時
会場 大阪科学技術センタービル内セミナールーム
講師 関西学院大学専門職大学院 経営戦略研究科教授 稲沢克祐氏
2. セミナー概要
① 氏のプロフィールと地方財政制度
○新宿でリハビリ職員として勤務するも縁あって群馬県庁職員に。
簿記1級を取得、財政畑の人となる。地方財政のプロに。
ロンドン駐在。ヨーロッパ各国の財政制度を調べる仕事に就く。
その後、大学で教鞭。もとの県庁仲間から依頼されて地方財政アドバイザーとなり、経験を活かして今日に至る。
○英国で学んだNPM、指定管理、PFI、行政評価を日本で展開。英国では決算書がバランスシートだった。日本で“デジャブ”。かつて英国で体験したことがいま、行われている。
○現在は秩父市のアドバイザーを務める。「決算報告書」が評価シートになっている。
② 第一部 自治体の環境変化と予算審議
○人口減少、高齢化を前提にした予算編成が必要。
人口減少だから交付税減というのはまちがいだ。
余った施設を売る、貸す。そうすることで価値が上がる。そのままだと負担増の要因となる。
※参考『一番やさしい 地方交付税の本』誤解・曲解・未解のまま、地方財政に向かう現実に切り込む。行政サービスの水準をどこに置くか=ナショナル・スタンダード
※参考『自治体の予算編成改革』
○財源は中央集権的。このことはフランスに似る。北欧は分権分離型。
○今後、日本で自治体にかかるインフラ資産の更新費用はこれまでになく大きいものになる。秩父市議会では「今後インフラを30%削減していくこと」を議決した。立派な判断だ。子や孫に劣化した資産と借金を残すことを避ける勇断をしなければならない。秩父市は上水道を「広域化」「値上げ」「民間委託」。これでクロ現代や日経で取り上げられた。これには住民説明が重要。それを経て、この3つの組み合わせで子孫に〝水〟が残せる。
○公共施設の「複合問題」。老朽施設を作り替えずに複合化する。単なる「合築」とは異なる。複合効果、相乗効果を見込める。その効果をチェックすること。複合化にメリットあり、合築にデメリットあり。
○財政民主主義の三要件。①租税や公債などの負担を負わせる政府(自治体)の行為には議会の議決を経て国民(市民)の承認を得る②歳入歳出は予算形式の文書にして議会の議決を経る③決算も議会の承認を得る。このように必ず議会の承認を得るのが財政上の民主主義だ。
○3月議会に示される予算は「もう決着がついている」。〝知らされるだけ〟だ。修正議決しかない。そこでも増額や新設はできない(A予算100を120にすることはできるがAが100だからBも100に、という修正はできない)。そこで9月決算が大事。そこで「課題を理解する」こと。なぜ9月に補正しなかったのか。来年度には載せるのか。課題があるのに予算措置しないのは問題である。9月にこれを指摘し、12月にチェックを入れることだ。これに首長が動かない場合には、3月に否決もあり得る。議会は財政規律を守る機能を持つ。増額は制限的だが減額はできる。議会の関与が義務付けられている意義がここにある。⇒決算が終われば予算が始まっている。議会は予算編成に〝伴走〟せよ。
③ 第二部 地方自治体の歳入(財源)と歳出(経費)の特徴
○財政自主権。自治体が自らの判断で。
○一般財源とは使途の特定なく、特定財源とは使途の特定がある。「博物館の入館料は博物館のために使う」。
○自主財源とは自ら集める財源、依存財源とは他から移転又は制限を受ける財源。国県支出金とは、国の目的を実現するためのもの。例:生活保護費の4分の3。国が責任を持つ。国が関与する。
④ 第三部 歳入科目(財源)の理解
○地方財政計画の意義。地方自治体の財源を、マクロ・ミクロの視点から確保する仕組みが地方交付税制度。地方自治体の財政を、マクロで確保するのが「地方財政計画」。マクロで確保された地方自治体の財源を、客観的に、衡平に、配分する仕組みが地方交付税制度。(地方交付税法7条)
○国庫補助負担金制度。「上の者は、下のできることに口を出してはいけない」。国庫支出金-委託金=国庫補助負担金
○地方財源保障(地方財政法11条の2)「…地方公共団体が負担すべき部分は、地方交付税法の定めるところにより地方公共団体に交付すべき地方交付税の額の算定に用いる基準財政需要額に算入する」⇒生活保護費、国が4分の3を見るとなれば、あと4分の1が執行できるよう、地方財政計画で配慮する。
地方財政計画
A自治体の裁量だが国が一定の責任を負うもの…高度な医療サービス
…基準財政需要額・留保財源で財源確保
B国が責任…ナショナル・スタンダード
…高校教諭の給与 公立高校+私立高校の私学振興
…基準財政需要額に入れるものもある。国が義務付けるようなもの
C自治体が責任…ナショナル・ミニマム最低水準=生活保護など
…義務教育の教員の給与など、国庫負担になるもの
…地方負担ができるよう、基準財政需要額に入れる
○徴収率98.3%を標準。頑張って98.8%にした⇒増えた分は入れない。満額使える。逆に98.0%になってしまった⇒減った分も入れない。苦しくなる。
このようにインセンティブは地方交付税制度に含まれている。その上でさらにトップランナー方式には疑問がある。
○「補助裏」。100に対して国が50負担。残り50は補助裏。これは地方財政計画に入れる。交付税または地方税で手当てしている。「持ち出し50が出せません」という自治体がないよう、国策として保障している。これには場合によって45の借金を認めている。借金返済も保障の対象。
※ここで
「地方財政計画と地方交付税の関係について」
「地方交付税による財源調整及び財源保障」について、別資料を用いて説明あり。詳細は省略。理論的に求めた「これだけは収入があるはずだ」という数値に対し「これだけは出るだろう」という数値を引く、その差額を交付税措置する。基準財政収入額は標準的税収入の75%を算入。75%は、税収が減った時のためのショックを和らげる、増えた時のウマミは少なくなる、そういう仕組みになっている。
○国庫補助俯瞰金制度の概要
A負担金:国・地方の共通利害、ナショナルミニマムの維持、災害復旧など、国が分かち合うべき義務として交付。生活保護、保健所、義務教育職員の給与他
B委託金:本来、国の事務でありながら、効率性などの理由から地方に委託する場合に交付。国の選挙費、統計調査
C補助金:警察、在宅福祉事業、農業構造改革など特定事務事業の奨励のために交付。
D補給金:一定の不足分を埋め合わせるために交付。
E交付金:交通安全対策特別交付金、地方道路整備臨時交付金など、使途目的が自由。補助金に近いものと負担金に近いものがある。まちづくり交付金は「第二の交付税」とまで言われる。
○「補助金等適正化法」。これまで補助金で建てたハコモノ。中途でやめたら「全額返せ」と言われるから最初から使わないという傾向があった。これを改善し「10年経ったら転用してもいい、返さなくていい」ということにした。
○「許可」から「協議」へ。これまではダメなものはダメだったが、協議では、ダメと言われてもやれる。同意が得られていれば、借金を保障してくれることに。
○臨時財政対策債をやめろとの議論があるが、やめるなら標準サービスの低下は必至。こんなに借金をしていいのか?との議論があるが、臨時財政対策債は保障が手厚い。批判には当たらない。ただ作るのはいいが維持費は?ここをチェック。
○財政健全化法は、・議会と監査がしっかり監視せよ・国が口出しするほどではない程度の〝健全〟に過ぎない・見る力を議員が持て、ということ。
○人生設計にもローンは必要だ。それが過度かどうかを議会がチェック。
○受益者負担適正化の論点。
ある市で、公民館貸室有料化が話題となった。説明会では反対の嵐。しかし参加者へのアンケート結果では有料化当然11.8、やむを得ない73.2%。合計85%の人が負担やむなしという意見に傾いた。議会でも反対意見があったが、このことを説明し、可決、有料化へ。市民からは文句が出なかった。
○公共施設は全額税金で作る。しかしランニングコストの一部は利用者負担で。施設の性質により、官的な要素と民的な要素の割合によってその負担割合は違ってくる。
○「自分の世代が良ければ良い」「将来世代が迷惑する」から適正な税の執行へ。
○3町が合併したケースで、2役場が余った。1階は市民センターに使い、3階は貸し出した。ヤマトのコールセンターに貸す。しかし老朽化、エアコン不備の問題もあり。すり鉢議場の形態はしかしコールセンターに最適だった。情報遮断のためのコストは要したが、結局1000万円の収入につながった。また雇用創出、にぎわい創出にも一役。
○道の駅の多目的スペースに診療所を設けた例もある。医療サービス向上と収入増につながった。しょせん、多目的スペースとは無目的スペースになりがち。
○収入増のために知恵を。やるべきことをやらないで「機会損失」。
⑤ 別冊資料「地方財政の果たす役割」による説明
○地方財政をマクロで見ると、世界の中では特殊な日本の自治体
○歳出は国:地方は4:6。これに対して一般行政費割合では2:8。学校教育費では1:9。民生費3:7、国土開発費3:7。外国に比べ、日本の自治体はたくさんの仕事をしている。二大ハコモノは学校と公営住宅。9割は自治体が管理している。
○米国に交付税制度はない。日本はシャウプ勧告により、イギリスの交付税制度が持ち込まれた。ラッキーだった。しかしサッチャー時代、自治体が「図書館をやめます」などの事態となった。
○国と地方の国際比較。アメリカ、カナダ、ドイツなど連邦国家では地方支出が大きくなる。イギリス、フランス、イタリアなど単一国家では国支出が大きくなる傾向がある。日本の自治体はオールマイティで、何もかも自治体が担っている。
○地方交付税16兆円は自治体固有の税収。だが国が地方に代わって徴収し、地方に行く。国の段階で地方交付税は使い道が決まってない〝中間的支出〟。地方に来て初めて決まる。
収入で62:38、支出で42:58。財源移転35%。
この結果、歳出規模と地方税収のギャップが地域における受益と負担の関係を希薄化し、歳出増に抑止力が働かない。国と地方の役割分担の大幅な見直しと併せて、地方が自由に使える財源を拡充するという観点から、国・地方間の税財源の配分のあり方を見直すことが必要。
○人口一人当たりの税収額指数の比較。地方法人二税で見ると、東京が突出246に対して奈良県40.1。6.1倍という開きがある。しかし国で見ると、東京と奈良でサービスは変わらない。これは財政調整制度が働いているから。これはしかし東京都民の税金が奈良に回っていると考えるべきでない。東京都民も奈良県民も同様に支払っているが、税収が結果的に違うということ。イギリスでは、ある区と隣の区とで税金が3倍も違うこともあるが、日本ではそうはならない。イギリス、ドイツ、フランスでも税で調整している。
○地方財政計画とは、常に自治体に財源が保障される仕組みである。「計画」と名はついているが単なる計画ではない。
○国の予算と地方財政計画との関係。「85兆円要るのに80兆円しかない」。それをどうするかが地方財政対策(12月)である。足りないがゆえに「対策」と呼ばれる。
①表は右から読む。地方財政計画(歳出)のグラフ。行政サービス維持のために、自動的に決まる。
②次のグラフは地方財政計画(歳入)。地方交付税で不足を埋める。そのとき、「官」の考え方は「量出制入」。サービス水準ありきで、そのための財源を確保する。「民」の考え方は「量入制出」。利益を見積もり、費用を抑える。これまで「減税すれば景気が良くなる」というセオリで来たが、それが通用しなくなって10年が経つ。
③次のグラフは交付税特会。次に右端が一般会計歳入と歳出。このようにして国と地方の財政が決められる。
3. 感想
議会がどこまで自治体予算に関与しているか。いま「関与」という言葉を見つけるまでに「介入」「口出し」という言葉を浮かべましたが、どちらも適切ではなく、「関与」が穏当だろうと思います。でも私の思いとすれば、もっともっと「口出し」をしたいのです。「介入」では、印象が悪すぎます。
口出しをするためには勉強が必要。そういうわけで今回、大阪でのセミナー受講となりました。
受講から日が経ち、こうして資料をめくってみると、当日理解できたことも、今となっては難解の極み。「付け焼刃」であることが露呈されます。行政、なかんずく財政当局の皆さんにナメられないようにと、それでも「付け焼刃」を鍛えます。
講師はチャンスを得て「簿記1級を取得」と語っていましたが、私もかつて「3級」のテキストに挑戦したが、その本に会計士さんまでもが「1週間勉強しないと忘れる」と吐露していました。それに勇気づけられたわけではありませんが、私も覚えるよりも忘れるほうが早い、そんな中で複式簿記の勉強も頓挫している状況です。
諸外国と比較しながらの講師の話には説得力があり、なぜ日本ではこうなのか、という、私たちには外国のことがわからないのでこういうものかと思っていたことも、高い視野から眺めることができました。イギリスの実情を置き換えると、香川と徳島でこんなに税額が違う、また東京と奈良で行政サービスが随分と違う、ということになります。日本ではそうはならない。そのためのメカニズムが整っている。が、その一方で、「国から来るお金」という感覚を離れられず、「倹約しなければ」とか「税収を増やす努力をしなければ」という意識が薄くなる、との指摘もなるほどと思いました。
地方の時代、地方創生、というならば、それにふさわしい税財源、国と地方の税配分も行われなければならないと思うが、実際には「国が指示する地方創生」「国が吹けども地方は踊らず」という様相ではないでしょうか。もっともっと、地方議会が「口うるさく」なければならないということだと思います。
「忘失」「忘却」との戦いですが、あきらめず、財政に「口出し」できるように、これからも研修を重ねて受講してまいりたい。
「議会は予算に〝伴走〟せよ」
この言葉を忘れずにいたいと思います。
3月議会で予算案が示されてからどうなるものでもない。あれは〝周知〟に過ぎない、ということに共感。だからこそ9月の決算が大事であり、12月のチェックが決め手であり、それを受けての3月議会なら、予算案修正も否決もあり得る、というのはそのとおりだと思います。だからこそ、わが丸亀市議会でもこれまでの「決算特別委員会」を発展させ、議長らを除く全員で当たる「予算決算特別委員会」に。9月には4つの常任委員会に重ねる4つの「分科会」形式で行ったが3月の予算ではそれも撤廃。議長を除く全議員で予算全体を鳥瞰し、網羅的に審議をした、それはよくぞやったものだと思っています。が、その結果の検証のうえに、さらに内容、質の向上を目指さねばなりません。やりがいのある、これからの仕事が待っています。
同僚議員との議論を重ね、今回のこのセミナーの内容、いただいた「難解な」資料も再び三度と読み解きながら、「付け焼刃」でなくなる日まで、悪戦苦闘を決意します。