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○地方議員のための予算審議のポイント

 

1.セミナーの概要

 

日 時 2012126日(木) 10001600

会 場 一般財団法人 日本経営協会 中部本部会議室(名古屋市東区)

講 師 関西学院大学専門職大学院 経営戦略研究科教授 稲沢 克祐氏

講義名 地方議員のための予算審議のポイント

      〜財政健全化法・公会計・行政評価の視点から〜

 

以下、文責は内田俊英にあります。

 

2.講師のプロフィル(自己紹介より)

 

福祉分野を志したが群馬県に帰省し県庁に就職。税務経験。簿記3級独学取得。

財務を所管ののちロンドン駐在2年。サッチャーの「NPM」の時代を目の当たりにした。現在のギリシャよりもひどい国の財務内容。サッチャーは「短期間、国民に痛みを伴う」路線で成功。ブレア登場で黒字化した。そこで学んだのはサービスの削減でなく「サービスの質の向上」。

帰国後、イギリスで見たことが三重県や大分県臼杵市で始まっていた。行政評価、企業会計導入、バランスシートなど。99年にはPFI。

「改革の光が強ければ影も濃い」⇒「マネをすれば影だけが濃くなる」⇒ここに自分の使命を見いだし、大学で教鞭を執ることにした。

 

3.第一部「自治体の環境変化と予算編成」

 

○今後10年間のマクロでとらえ、1年後とのミクロ(単年度予算)を考える必要。

○人、物、カネの3つのストック・サイクルが変化していく。

・人…団塊世代、高齢化

・物…道路や橋、施設の高齢化⇒長寿命化対策の必要性

・カネ…身の丈を越えた補償(三セクの赤字など)に苦しむ

○自治体予算は市が編成するも議会議決なくして成立なし。

○民vs官

・「量入制出」入るを量って出るを制するのが企業予算⇒CUP損益分岐の考え方

・「量出制入」公共サービスがどこまで必要かを量って見合う収入を決めるのが官

 ところが日本の地方自治体には課税自主権がない。方向性はあるが。

 ⇒ロンドンでは毎年税率がちがう、区ごとに税率がちがう。区を移動すると歴然。

 ⇒ちなみに英国では公務員と言えば国家公務員。地方は「自治体職員」。

○今の危機はフローの危機、これからの危機はストックの危機

○これまで大量の団塊世代への退職金は「終ったわけではない」。地方債に振り替えただけ。

団塊世代と共に「過ぎ去った」のではない。

○長『寿』社会とはなかなか言えない日本の今後。

○インフラ資産のシミュレーションによると、2020年、新設インフラはゼロに。

⇒現在のインフラの更新すら困難な時代になる。補修のみに予算は消える。

○秩父市でシミュレートしたデータがある。このままでは毎年113億の維持費がかかる。

維持・長寿命化しないと40年で橋が落ちる。すれば60年は持つ。⇒長寿命化で維持費

54億に圧縮できる。これがFM(ファシリティ・マネジメント)

○自治体には不足しているものと余っているものとがある。少子化によって空いた学校、

合併によって使わなくなった旧庁舎。FMとは、

・量の改革…いらないものにはお金を入れない。

・質の改革…持つべきものには、中途半端にせずに投資する。

⇒「モノよりもヒトに投資すべき」と言うけれど、モノに投資をやめると破綻する。

 勇断なくしてヒトへの投資はない。

○自分の市の人口ピラミッドを確認し、それをそのまま10年先にずらしてみるとよい。

65歳以上が1.8倍に、小中学生が3分の2に。これは大変だとわかる。部活ができない

中学校も出る。施設の再編成が必須。

 

○地方財政の環境変化。許可制→協議制→自由制となるが、野放図な自由化で破綻へ。

○地方債の格付けも下がり、デフォルトも心配される。

○財政健全化法の基本は、「債務調整はしませんよ」という考え方。アメリカのように「債

権者が腹を切る」というやり方。そうしないと自治体の差別化が生じる。「潰れる市は潰

すべき」との考え方。市長と議員は解任、職員は4割削減し、市を3年で救う。

○合併算定換えを経て、H32年に5段階圧縮、一本化へ。ここからが自治体の正念場。市

 職員研修でこのことを話すと職員は愕然とする。これを言えるのは議会なのだ。

 

○予算編成の意義

@総額の規律の維持⇒民主的に決め、総額を押さえる意義

 ・債務残高に注目。「ワニの口」のようになってないか(上顎が支出、下顎が収入、差

  額=口の開け方が借金)。子どもは減っているのに債務残高は増えてないのか。

 ・単年度主義は、借金が増えるしくみになっている。「始めたものはしかたない」でな

  く、「5年後の借金はどうなるのか」を、議会がきちんと見る。

A効率的な資源配分⇒不要不急な支出を振り替える意義

 ・財政民主主義。住民の代表者による議決で初めて成立するしくみ。倹約だけではな

  い、使うべきところに使うことを、議会も行政評価でチェックする責務。

 ・増分主義。積み上げ予算の悪弊。「税収は増える」という大前提で、増分をどこに回

  すかという発想で組んできた。査定はゼロベースから。「先輩が査定したものを査定

  しなおす必要はない」との考えを排する。

 ・成果指向の予算編成へ。首長の決断分の予算はトップダウンで確保。これらのこと

  を議会の決算で首長はきちんと説明を。

B効率的な執行⇒入札改善などで執行額を減らす意義

 ・決算審査は重要

○性質別経費から見た予算へのチェック

・人件費

 ⇒退職金、給与、各種手当、福利厚生費にダブつきはないのか。

 ⇒職員研修費は減らしすぎていないか。

・扶助費、福祉費

 ⇒上位計画との整合性を常任委員会別にしっかり審議する。

・委託料、補助金

 ⇒委託料に含まれる従業員の賃金で「ワーキングプア」化。板橋区「指定管理条例」

  を参照。

 ⇒既得権化にメス

 ⇒静岡県清水町では減額を一方的にせず説明する。外部評価のすごい手腕あり。

・公共施設の維持管理費

 ⇒FM

・特別会計への繰出金

 ⇒受益者負担原則は守られているのか。


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4.第二部「財政健全化法と予算審議」

 

○「何をやってきたのかを見てこそ予算がある」

⇒来た道を見て、先に進む。

○財政健全化法は小さな法律だが「議会」「監査」という言葉が10数回も出てくる。それ

 だけ議会と監査の機能に重きが期待されている。

○旧法では「いきなりレッドカード」。健全化法で、是正を図るイエローカードのシステム。

○普通会計を良く見せるために企業会計にしわ寄せ操作→操作をできなくした。

見せかけで数値をクリアしても指標で明らかとなる。

○例えば国保が赤字→国保料の値上げ→さらに払えなくなる→黒字を目指して赤字が膨ら

むことになる。

○旧法「普通会計」=新法「一般会計等」

「一般会計等」=一般会計+特別会計の一部 ⇒これが決算審査の対象

○「公営事業会計」=公営企業に属さないもの(国保)+公営企業(電気・交通)

○新法のもと、議会は「見ました」ではすまされない責任を持つことに。

○新法のもと、決算を「認定」することの議会責任あり。認定で見たものを次の予算に生

 かすことが想定されている。

○イエローカードの健全化団体になると「健全化計画」を策定し「議会議決」。レッドカー

ドの再生団体になると「再生計画」を策定し「議会議決」。レッドに転落することはよほ

どの不正、時限爆弾≠ェない限り今後ありえないだろう。そのために議会によるチェ

ックが強く期待されている。

○「財政健全化4指標」は「決算のときに見るもので予算には関係ない」と思っていない

か? 地方自治体はすべて「未病」状態。生活習慣病の予備軍であって「いつ発症して

もおかしくない」と考えるべき。イエローになったつもりで予算審議すべきだ。イエロ

ーになってから「健全化計画」なのでなく、各自が独自の「健全化計画」を持っていて

当然。

○「この予算により、4指標はどうなるのか」を見るために議会議決がある。分子と分母

 それぞれ主なものだけ示させるとよい。

○今後、議会による減額修正は100%、あり得る。増額も市長限度内であり得る。否決も

あり得る。将来負担が増える予算組みは認められない、とした場合、取るべき手法は@

否決、A改善を求める付帯決議、B修正議決。この場合、議会事務局充実が必須の要件

となる。議会事務局の「共同設置」が言われているが、効率化を目指すもので向上には

ならない。すべきでない。そこで「事項要求」を行う。これにより「影響を与える」。

○そのように考えればこれからの議会による予算審議は、12月議会であらましを示させ、

 それへの結果を3月議会で聞くようにする。これで初めて「責任ある議決」ができる。

 

5.第三部「新地方公会計改革と予算審議」

 

○これからの地方公会計のポイントは「ストックの観点から食い込む」こと。

○財務書類4

@貸借対照表 A行政コスト計算書 B純資産変動計算書 C資金収支計算書

@とBがストック関連で重要。

○平成182月行政改革推進法622項で「政府は、地方公共団体に対し…企業会計の

慣行を参考とした貸借対照表その他の財務書類の整備に関し必要な情報の提供、助言そ

の他の協力を行うものとする」

○これを受けて平成187月「骨太の方針2006」の「原則6」に、「最大限の資産売却」

 「ストックはストックへ=売却収入は債務償還に充当」「債務残高の縮減に貢献する」

○市有地の売却。「看板を出したまま」というケースが多い。「あれを売れば負のストック

を減らすことに貢献できる」という意識で。バランス64だったものを54にできる、

という意識で。

○会計改革とはガラリと変えることではない。資産・債務改革に資するツールの整備とし

ての公会計改革である。一気に複式簿記に変更するというのではなく、ヒトモノカネを

財務に載せるという作業から。

○フローとは、収支が黒字になること。ストックとは、将来負担を見ること。

○貸借対照表の左側は、「どんな形で保有するか」ということ。右側は、「財源をどこから

 調達するか」ということ。

○企業では調達先が他者か自己かを区別。資産は企業も民間も同じ。財源の見方は官民ぜ

 んぜん違う。

○右上「負債」は、将来世代(私の明日から以降)が払うもの、右下「純資産」は現役+

 過去世代の払うもの。その比率を64から54にする(→「ストックからストックへ」)

ことで将来負担を減らす。今の日本は65歳以上の世代比率が世界最高、15歳未満の比

率が世界最低なのだから。

○将来負担を減らす(増やさない)ための「公共資産分析」の視点。

@有形固定資産(学校など)の目的別ウェートの状況と経年変化の分析が重要。

A売却可能資産(普通財産。廃校になった学校と土地など)の主なものの掌握、売却の

 推移を分析することが重要。⇒売る気があるのか。どれだけ売れたか。今年はどこま

 で売るのか。財産収入にどれだけ計上しているのか。

 ⇒高く売ることも大事だが、土地の特性(商店街に近い、など)を見極め、行政の側

 から提案していくのも視点として大事(商工会の意向を探る、など)

○投資等の部の分析の視点。「(1)投資および出資金」とは、@投資および出資金−A投資

損失引当金。これが計上されている場合は、自治体が5%以上出資している由縁の団体

30%以上の下落をしているといった経営悪化に陥っていることがわかる。

○長期延滞債権。税、納期の来ている債権、保育料など税以外の債権で1年を超えて滞納

しているもの。1年を超えれば回収率は落ちる。いままでどうしていたのか。どのくら

い過年度収入を見込んでいるのかを確認する。

○流動資産。減債基金を財政調整基金のように使ってはいけない。


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6.第四部「行政評価と予算審議」

 

○「行政評価」とは、「役所がやる仕事か?」を見極めること。

○三田市で氏が講演。その翌日から、三田市は動き出した。「議会による評価」

○秩父市では評価シートの裏が予算要求シートになっている。改善方針が明確に。氏の講

演を聴いた翌日から議会が動く。決算特別委員会で。→市はつじつまの合う予算を作る

ようになる。

○議員が「読む力」。議員が「新要求を審査できる力」。

○手法として、@市が行う行政評価を見せてもらう A議会がする(小松島市) B決算

 に基づいてやる がある。

○秩父市の例

@予算事業と評価事業のズレがあった→一致させた

A22年度評価を用いて24年度編成はできない(古いから)。→101日に評価すること

 にした。予算で使ったものは決算でも使える。行政評価は2度登場する。@事中評価

 (10月)→A議会自ら課に聞き取りをして評価(議会がやるのであって議員ではない)

 →B事後評価

○決算で「どんな事業が行われ」→「どんな実績があり」→それが妥当だったかを検証し、

 →改善策を練る。→それを次年度予算要求につなげるサイクル。

○「改善を読み取れる行政評価にしよう」。改善要求がゼロの予算、または要求したものの

 ゼロにされたもの。その理由はブラックボックスの中。これを明らかにする。

○「公的関与」19の項目のどれかに該当しないものは「公的関与が認められない」=官

 がやるべきでないもの、となる。(資料P.27

○「公的関与」チェックの3ポイント。

@妥当性 A効率性 B有効性

・需要 → 投入 ここで問われるのが@妥当性

・投入 → 活動 ここで問われるのがA効率性

・活動・結果 → 成果 ここで問われるのがB有効性

例:市民の健康診断受診…需要

  事業予算化…投入

  57%が受診した…活動・結果

  それでどうなった?…成果

@妥当性…ロジックがしっかりしているか、官がやることか、水準は妥当か。など8

 のチェック項目

 ・もう100%所期の目的を達成しているのに、120%目指して続行している。

 ・経年により、所期の目的が変化している。団体保護の既得金になっている。→こう

  いうものをオモテに出す必要がある。議会で議論する必要がある。

 ・ニーズの低下。合併時には喜ばれたが今は特定の人しか使ってない。

 ・過剰なサービス。他市と比較して突出しているもの。

 ・国・県も同種のサービスをやっている。対象や水準を見直す。など。

A効率性…投入予算は人口5万に10億円。それを9億円にできないか。受診項目を減ら

 せないか。10のプロセスを8に減らすためにやり方を変えられないか。

 ・実施主体の妥当性の4チェック項目。この4つ「はい」でも直営堅持か?

 ・経済性・手法の妥当性の4チェック項目。「わかっていながらバケツの穴」

  款・項に人件費見えない。

 ・バンドリング(バラバラを集約)の手法。逆にアンバンドリングもあり。

B有効性…がんの発見率が上がってないのなら、有効性は疑わしい。漏れがあるのでは。

 補助金出しっぱなしでは妥当でない。貸付にすべきでは。など4つのチェック項目

 ・やめたら何が変わるのか。やめたら誰が困るのか。

 ・似たものは一つにまとめる。

 ・前例踏襲。「成果30で甘んじるのか。100目指せ、さもなくばやめよ」

○予算使う改善策なら、まず要求せよ。予算使わない改善策なら、すぐ実行。

○総合評価の注目ポイント

A〜Dの4段階区分が妥当。点数評価は無意味。

A:適当 B:進め方改善を検討 C:規模、内容、実施主体の見直し D:休、廃止

BやCがあるのは改善する気がある評価と言っていい。Aばかりなら改善する気を疑え。

良い事業、悪い事業はない。良い評価、悪い評価はある。悪い評価とは、良いことばか

りの評価である。

○秩父市、茅野市を参考に。総合計画を進捗させるための評価という明確なスタンス。

市民からの改善案もあり。また市民にできることの提案もあり。「カウンターパートとし

ての市民」

 

7.感想

 

まず本論以外のことを書きます。

10時から16時まで、昼食休憩をはさんで緊張感を保ち続け、会場内は倦んだムードがなく、講師のスピーチはあまり抑揚もなく冗談を口にするでもないのに聴講した私たちには大変に深い理解と充足感が得られました。これは講師の「スピーチ力」によるのでしょう。いっしょに参加した議員と、昼食休憩時、また全講義終了時、心地よい疲労とともに「すごかったね」と感想を共にしました。

すべてが理解できたとは思っていませんが、聴講者の「レベル」(?)を承知し、難しすぎもせずわかりきっていることも話さず、ムダもなくきっちりと話を進めていく手法に感嘆。昨年議員になったばかりのある人も「わからなかったけれども、ずっしりと勉強になった」と実感を込めて感想を語っていました。

私は退出前に氏と名刺交換をしました。尼崎在住ならば本市からも遠くはなく、講演にはできるだけ応じてくれるとのことです。いつか、議会と市執行部との共催で氏を招聘し、対象者全員にこの感覚と手応えを味わってもらいたいものだと考えています。

 

「議会の責任はさらに重く」「決算は見ました≠ナはすまない」「新要求を審査できる議員力を」。静かに語られる氏の言葉を私は必死で書き取りました。「良いお話でした」で済ませないように。近づく予算議会に何かひとつからでも活かし、新年度の予算執行の実りに貢献できるように、との願いは強いです。

議員経験13年を終えようとする今頃になって「予算審議のポイント」を勉強するというのもいかがかと思うし、それをまたこんなに新鮮に受け止めるとは、「今まで何をしていた」となじられるかも知れません。申し訳ない心地ですが、今の時代だからこそ、そして今の自分だからこそ、清新な気持ちで、これらの知識を血肉に、現場で闊達に、これら習得したスキルを生かしてまいります。

近づく3月定例会はいつもどおり、予算議会であるほか、今年は議会改革が大きな焦点となります。議会基本条例の最終調整作業に従事しつつ、その議論の中で予算審議、決算のあり方についても話題に上りました。まだ条例本体の制定という大前提の前でおおわらわであり、この先の議論に積み残してあることも多々ありますが、その大きな一つがこれだと思います。とりあえず今年の3月定例会では私みずからこれらの知識をできる限り使ってみることとし、氏の招聘の構想と共に今後、丸亀市議会としての予算・決算、行政評価への取り組みのあり方検討へ、大きな参考にしていけると思っています。

しばらくはいただいた冊子を手元から離さず、新年度予算の審議の座右に置くことになるでしょう。講演の中で紹介のあったいくつかの先進地のように、行動に出る議会へ、私もアクションを起こします。

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