歩いて暮らせる街づくり 愛知県碧南市
1.これまでの経緯
同市「大浜地区」は、古く南北朝、室町時代から栄えた地域で、数多くの
寺社、歴史・文化施設がある。また港に近く、醸造業など伝統的な産業が栄
え、商業の街でもある。いにしえのたたずまいを残した路地、小道は情緒豊
かである。
近年の商業衰退から、さびれつつある地区となり、住環境としては道路も
狭隘、住みにくい状況と言える。
そこでこの地域独特の資産をそのまま活かし、生活空間としての質を高め
つつ、かつ市民の交流拠点として再生させようということで今回の「歩いて
暮らせるまちづくり」事業が始まった。
平成10年度から構想スタート
平成12年度基本構想が完成
1 歴史資源を活用した回遊型交流拠点を形成
2 多世代居住を実現する安全・安心な生活空間づくり
3 まちづくりの継続的な推進体制の確立
平成13年度基本計画が完成
1 安全・安心 2 便利 3 快適
4 来てもらう、知ってもらう
平成14年度実現可能なプロジェクトの検討
平成15年度まちづくり構想図(案)を策定
平成16年度事業着手、平成20年度まで
2 事業の概要
○3つの目標と具体的プロジェクト
@ 安心・安全に暮らすための地域交通体系の整備
・駅前道路、駅前広場の整備。一方通行を解除し、道路幅を拡張
・寺町散策コースの整備。
・くるくるバスの強化。バス停は500mごと、270箇所。
4台整備、無料バス。
・来街者用駐車場の整備
A 快適・便利に暮らすための行政機能・世代交流機能の整備
・へきなんふるさと館(観光交流センター)を整備。元商工会議所を
美術館にする。(19年度)
・大浜まちづくりセンターを整備。元警察の建物を活用。(19年度)
B 回遊型交流ができるように寺町構想の推進・集客拠点の整備
・寺町散策コースの策定。
・辻の小広場の整備。(ポケットパーク)(17年度)
・大浜陣屋跡地の整備。(19年度)
・各寺社におけるサービス。
・大浜フィッシャーマンズワーフ(漁業関連の観光拠点)、れんがづく
りの倉庫。(18年度)
○国の「まちづくり交付金」の事業に認定を受け、補助事業となる。
○15年度事業として5箇所に案内板を設置。市民がワークショップ形式で。
○16年度事業は散策ルートを完成させる。
○住民主体のソフト事業に特色がある。
住民とともに街づくりを考える。地域ごとに辻広場の運営、管理について
考える。住民がイベントをつくる。魚市、クイズラリー、歴史と食文化を
体感できるイベント等。まちのみどころMAPをつくる。「大浜てらまちウ
ォーキング」を実施(平成15年10月19日)、併せて「大浜てらまち俳
句・ing(ハイキング)」を開催。寺町を吟行しながら散策を楽しむ企画。
○持続可能な計画推進で、まず「まちを知ってもらう」「まちづくりに参加し
てもらう」「滞在してもらう」「住んでもらう」という構想のもと、定住人
口を増やしていくというところに進んでいく。
○一方、住民もまちづくりの主体者としての自覚を持ち、実際まちづくりに
参画する。持続的に、まちの清掃美化、花づくり運動に進んでいく。
3.感想
碧南市のまちづくり構想が、そのまま丸亀市に当てはめられるわけではあ
りません。しかしいくつか、学ぶべき点があります。
少し前なら、この事業の着目点は「どのようにして国からお金をもらった
か」ということであったろうと思います。しかし現在ではそのことよりも、「ど
のようにして市民に参画してもらうか」、このことに重大な関心があります。
財政事情が良好で予算も潤沢、いわゆるハコモノ、道路改良、なんでも実
現できたという時代は、もう終わりました。まちづくりに動員できるものは、
お金ではなく、「人」「市民」という時代。ある意味で、これこそ普通の時代
といえるのかも知れません。
しかしなかなか、そういう理解は転換期にあって非常に難しいことを、常々
痛感させられます。「市民が理解してくれない」と嘆いているのでは埒が明か
ず、ここは行政がまず仕掛けを作り、市民に丸投げでなくまさしく「協働」
というスタンスで、ひとつのテーブルについてもらわなくてはなりません。
碧南市の「歩いて暮らせるまちづくり」は、寺町散策ルートを整備したり
交流ひろばを設けたりすることで成功したのではなく、まさしく「市民が考
えた」「市民が汗を流した」ことによって、「まちづくり」ができつつあるの
ではないかという感想を持ちました。
行政が行政の仕事をする、という当たり前のことを越えて、これからは市
職員が市民と語らい、縁の下にいて仕掛けをする、という、これまで経験の
あまりない業態の仕事をしなければならないのではないかということを考え
させられます。これを書いている私(内田)自身、こうして先進地に学ばせ
ていただきながら、少しずつ、そのことがわかりかけているのですから、市
職員の意識の変換も大変であるし、ましてやその向こうには「役所がしてく
れて当たり前」という感覚の沁みこんだ市民の皆さんがおられると思います。
トップである市長を先頭に、これは大変な変革の、舵取りの仕事であるなあ
と思います。しかし、こうした先進地の例が、心を強くしてくれます。
碧南市では、歴史が残してくれたものを洗い出し、見直して、そこに今日
的な考察を加えて、価値をつくり、価値を高めたのだといえましょう。その
真似事をするのではなく、私たち丸亀市でも、こうした新しいまちづくりの
コンセプトをしっかり理解し、まずは何より、「人材」「人財」をどうステー
ジに上げるか、このことを議論し始めなくてはなりません。
「まちづくりは人づくり」と言われるようになりましたが、「まちづくりは
お金から」という意識を脱却することがまず先決、そういう思いを強くしま
した。

