地域イントラネット〜新潟県三条市
1.これまでの経緯
平成12年、現市長が就任(現在2期目)。「金物の町」三条市にあって、
市内最大の金物屋の社長が市長となった。
市長は常に「市民の声にすぐ動け」「これからは情報の時代」と。
平成13年制定のまちづくり総合計画(10カ年)の7本柱のひとつに「情
報ゆめNET構想」を置いた。これに基づき、
・産業の活性化や市民生活の利便性向上を目指した「地域情報化」
・行政運営の効率化や行政サービスの向上を目指した「行政情報化」
を掲げた。
具体的には、
・官における「地域イントラネット基盤整備事業」
・民における「新世代地域ケーブルテレビ施設整備事業」
・住基カード活用によるICカード実証実験
・ブロードバンドコンテンツ流通実証実験
を企画。
実施計画として、
・三条市テレトピア計画…総務省指定事業、平成13年〜5カ年計画
・三条市情報化計画…平成12年〜10カ年計画
このような計画に基づき、事業が始まった。
2 事業の概要
・官によるハード事業「地域イントラネット基盤整備事業」
平成12年度国庫補助を受け、市内の学校・公共施設49ヶ所を光ファイ
バで接続。「市民交流システム」「学校教育支援システム」を整備。
全小中学校(22)、図書館、勤労青少年ホーム、中央公民館、支所公民館
などの公共施設を自営の光ファイバ網で結び、ブロードバンドによる活用
を実現。
「市民交流システム」では、
・スポーツ電子広場…教室・講演会案内、施設紹介、指導者紹介・募集、
イベント案内、情報交換等
・生涯学習電子広場…同上
・市民交流室…市民の意見交換のための電子会議室
・ボランティア募集・登録…ボランティアの紹介と登録
「学校教育支援システム」では、
・なんでも勉強室Q&A…子どもが質問を書き込み、先生や上級生が回
答する掲示板
・デジカメ写真館…子どもの作品で校内、他校と交流するアルバム
・聞いて私の考え…新聞の投稿のように、子どもが主張を書き込む
・先生聞いて聞いて…電子メール機能で先生に相談、個別に対応
・教材、指導計画…先生間のデータベース。相互活用
・民によるハード事業「新世代地域ケーブルテレビ施設整備事業」に出資。
・このケーブルの一部を市が買い取る形で、地域イントラネットに活用した。
3.「学校教育支援システム」のメリット
・検討体制は、各校2名の教師、教育委員会2名、情報政策課2名で構成
・「教師用のメニュー」「子ども用のメニュー」を準備
・「教師用」では
○「教材・指導案・指導計画」について、データを共有、相互利用
○連絡掲示板…不審者対策にも用いられる
○教職員アドレス一覧
・「子ども用」では
○それぞれの子どもがユーザーIDとパスワードを持つ。
○先生、生徒の誰にでも投稿できる。
○タイプ、キーボードへの習得にもなる。
○デジカメ写真館では、デジカメに慣れる、載せるうれしさがある。
○「先生聞いて聞いて」では、先生と直接会っているところを人に見られ
ないで相談できる。
○「拍手」ボタンを設ける。自分の意見が他人に読まれていることを「拍
手」の反応で知ることができる。
4.「市民交流システム」のメリット
・市民と行政との協働を推進
例:地域通貨「ラテ」について、などテーマ別の会議室、情報公開、情報
共有化、市民の意見を聴く。市開催の会議室と市民開催会議室を設ける。
・コミュニティづくりに活用
「さんじょうスポネット」では施設の情報・イベントの開催情報のほかス
ポーツ掲示板、スポーツ広場など。初回発言の際にパスワードを交付する。
「生涯学習の広場」では催し物、教室開催案内、掲示板など
・ボランティアに市民参加促進
生涯学習人材バンク、ボランティア募集、スポーツ指導者紹介
・市ホームページは各課において情報更新を実施する。
・その他「三条ポータル」のページでは市民がそれぞれのホームページを自
由にリンクさせることができる。ここから、「三条のことはすべてがわかる」
ホームページを目指している。
5.その他の事業
・eまちづくり事業(地域情報化モデル事業)(国のIT事業に参加)
・高度情報化通信ネットワークの利活用促進(住基カードの独自利用)
「街なか行政サービス拡大特区」を申請
住基ネットの3原則「役所に置く」「公務員が監視する」「頑丈なカード」
を取っ払う特区に申請、認定を受けて行っている。これにより、
○証明書自動交付サービス
○申請書自動作成サービス
○公共施設予約サービス
○図書資料の貸出しサービス が可能に。
商業施設のビル内で利用できる。夜は8時まで、日曜日も。
公務員に監視させれば高くつく。アウトソーシング。
6.感想
「これからは情報の時代」と、新任市長が就任早々高らかに宣言しました
が、なかなか職員にその意識が定着しなかったとのことでした。
上述のように、市の総合計画の7本柱のひとつに情報化を位置づけ、ハー
ド、ソフトの両面の事業の計画を策定、国のIT戦略の活用、行政特区制度
の利用など、次々と積極的に戦略を進めていますが、担当職員はそのつど学
校の先生、市の担当職員からの反論を受け、「市長が言っているんですよ」と
押し切りながらの事業の推進だったそうです。
地方公共団体の運営に当り、なかなか国のIT戦略を先取するような発想
はできにくいものであり、また住基カードにはいまだに疑問や導入反対論も
多く、そのような背景の中での推進は注目すべきものです。
新進の市長の構想は、どの程度成功し、どの程度市民に歓迎されているの
か、興味がありますが、まずハード面の整備については、それぞれの自治体
に背景ととりまく環境があるのですから、本市にとって全面的に参考になる
ものというわけにはいきません。しかしソフト事業の面で、積極果敢に手を
打っていく行政の「変わった姿」に、市民は驚きを抱きながらその恩恵に与
っているのではないでしょうか。その点、私は非常にうらやましいものを感
じました。
ちなみに全国レベルでの高速インターネット利用可能率は80.2%に対
して三条市は84.4%、全国レベルを上回るハード整備を達成しています。
これに対し高速インターネット利用率は全国15.3%に対して三条市は5.
5%と低く、また高速だけでないインターネット全般の利用率についても全
国44.9%に対して三条市24.8%という数字は、三条市の抱える地域
特性と、今後の課題を物語っていると思います。
視察では、後半実際に市内の小学校を訪問、学校のホームページの更新、
管理をはじめパソコンを担当しておられる先生に、さまざまお話を伺うこと
ができました。
パソコンやインターネットの利用意欲や技術面については、学校ごとに温
度差もあり、活用の実際は一律に進んでいるとは言えないようです。しかし
子どもたちがこうしてインターネット環境に常に置かれて、利用ができる状
況にあることは、おそらく目に見えない効果を子どもたちに与えていること
と思います。どのようにハード面を整備しようとも、ありがたいのは使って
こそであり、今後もその利用促進が不断の課題となり続けることと想像され
ます。
学校の中におけるこうしたネット利活用のほか、市民もさまざまなITの
恩恵を受け得る環境に恵まれています。こちらも、これからどう利用者を増
やしていくのか、が課題と思われます。
わたし(内田)個人としては、ITが地域づくりの中で高齢者、子どもを
巻き込んだコミュニティづくりに貢献してほしいと願うものです。丸亀市に
おいてはすでにCATV網も整備が進んでおり、ブロードバンド化について
は時代とともに自ずから進んでいくものと思われ、ハード面ではこれでよい
と思っています。しかしソフト面において、市のホームページのさらに積極
的な活用による市民参加と市民との協働、子ども向けのコンテンツと学校現
場のIT意識の向上といった面において、三条市における取り組みは非常に
参考になるものと感じた次第です。さらに、地域のコミュニティのIT利用
の面では丸亀市はまったく進んでないと思われます。今後、介護にしても子
育てにしても、また生涯学習の面においても、ここに丸亀市におけるIT戦
略の突破口があるのではないかと考えております。

