〇全議員が小学校で「出前授業」 山鹿市議会
令和6年2月6日 山鹿市議会
1.視察意図
昨秋の「マニフェスト大賞」の受賞者による活動発表大会が行われ、オンラインで視聴しました。
その中で「躍進賞」に輝いたのが山鹿市議会。内容の「小学校に赴いての出前授業」というのが際立って私の目を引きました。なんでそんなことができるのか。今の、同じ日本の国の法制下で。
活動報告でだいたいのことは承知しました。しかしこの「そもそもなんで?」というところが知りたい。地図や乗換案内で調べるとなかなか新幹線駅からのアクセスが難しい地理的な様子ですが、ここは是非ともと、視察の受け入れをお願いしました。
2.視察の概要
○市議会として抱える課題は、市民から見て議会の仕事や議員の活動が見えないとの声。これまでも議会報告会を年1回、5会場(市役所と4市民センター)で開いてきたが「決まった人しか来ない」「若い世代がほぼ無」。議会だよりも年4回発行するも「紙媒体のみでは若い世代に読んでもらえない」。議員のなり手不足や投票率の低下が懸念される。
○議員定数削減の話が議会内で出た。前回R3年選挙ではわずか「+1」立候補で無投票の懸念がある。投票率は過去最低の68.32%。民主主義は小さなうちから、とのことで、市議会で関われる市立小中学校から啓発を始めよう、と決まった。
○前回選挙で議員20名中11名が新人に。正副議長は任期4年。前半2年はできなかったが後半3年目に入り、これを期に「小学校での出前授業」を議長から教育長に打診。教育長は元中学校長。快諾をいただいたので各議員に諮った(全員協議会)。大きな反対もなく、意見交換の上、実施が決定し、市校長会で学校の協力を依頼。内容の調整に入った。その結果、全員協議会で「模擬授業」を実施。全議員の前で議長が自ら「授業」を行った。
○目的は市議会について知ってもらう、議員の仕事を理解してもらう、選挙の意義を理解してもらう、投票の大切さをわかってもらう。これらを通じて「なりたい職業」ランク入りを目指す。
○学校での現状としては、小学校では「職業講和」をしている学校が多い。ここでは興味のある職業、自衛隊や保育士などについて聞く機会を設けている。中学校では職場体験で、コンビニやGS、ホテルなどへ赴く。ならば「議員」だってあっていいのではないのか、と考えた。
○授業の内容として、マニフェスト大賞で取り上げられた「ポリポリ村のみんしゅしゅぎ」に注目。これを使うことにした。絵本の朗読については、議員が行うよりも、読み聞かせボランティアにお願いしようということになった。こちらも快諾。この絵本を読んだ後に児童が投票をする。投票箱は選管から調達、投票用紙は議会事務局で手作り。
○令和5年、初実施。市内8つの全小学校へ、議員個々人が希望を出し、結果的にはあんまり調整も要せず、基本的には6年生を対象、学校の事情や要望により5年生も含めたところもありましたが、2月3日スタートで5月23日までの長いスパンでしたが各40分1コマの授業を議員が出向いて実施しました。例えば2/3、鹿北(かほく)小学校、5年生18人と6年生28人が受講。選管から準備した投票箱は2個。ここには6議員が参加。このように続きます。毎年6年生を対象にしたら、毎年同じ内容で行っても相手は次々と変わっていく仕組み。
○メンバーが決まったらその中から1人を連絡係に決める。この議員が学校との調整を担当する。この鹿北小は小さな小学校でしたが最大は2/14の山鹿小学校、5年4クラス、6年3クラスの計107人の大所帯、投票箱は7個。参加議員は11人。ここで5年生が参加したのは、生徒会の選挙が迫っていたのでその前にこの授業を受けさせたい、とのことから。
○授業の実際。タブレットに資料を準備し、学校へ。教室の電子黒板に映し出して授業。ミラーリングで容易で使いやすい。何の接続も不要。「ギカイを知ろう」。①議会と児童会②議員の仕事。「医療費無料化も議会が決めたんだよ」③山鹿市議会について。「議員は何人いるでしょう? などクイズで。50人、100人と答える子も。どこにあるのかも知らない子が多い。「いつか来てね」④「ポリポリ村のみんしゅしゅぎ」を使って投票、開票、結果発表。ドラゴンの迷惑行為に対策を考える。「追い出す」「利用する」。これによって、自分たちの投票で村の将来が決まることを学ぶ⑤自分たちのまちの決まりは自分たちで決めよう、とベアさんディアさん⑥参加の議員各人が「自分が議員になったワケ」を語る⑦あなたも議員になれる! で締めくくり。
○全行程を終えた6月、校長会から御礼の言葉と共に「今後も継続したい」旨が伝えられた。人生で、人は100回ほど選挙に行くことになる計算。ぜひ「皆勤賞」を。そして議会としては子どもにとって政治家が「なりたい職業ランキングベスト10入り」を目指して、を合言葉に挑戦している。
○これからの課題。学校行事や授業の都合があるので、日程調整を早めに取り掛かる。学校側としたら2月は良かった。子どもたちとの対話の時間をどう作っていくか。前年度授業を受けた学年をどうするか(5年生が6年生へ)。継続していく仕組みの構築。議会基本条例の見直しを今年行った。中学校長からも要望あり、これからどうするか。崇城大学の学生との連携も視野。中学・高校生20人に議会に来てもらう試みを近く予定している。
○いざ投票となると皆真剣に。「通ってほしい」と投票箱に手を合わせる児童もいた。
○数値でみる実績。市内全10小学校、22学級510名。参加した議員の延べ人数、57人。読み聞かせボランティアは21人。県選管からも視察あり、マスコミ各社取材、県明るい選挙推進協議会で紹介、全国高校生活指導研究会東京大会で発表、熊本大学の授業で模擬授業を実施。熊本県議選では「4人に1人が無投票だった」との事実との対比で封じられた。
○出前授業のあと、市の図書館にも特設コーナーが置かれた。
○秋、早稲田大学マニフェスト研究会による「マニフェスト大賞躍進賞」に輝いた。
3.感想
この山鹿市議会の快挙を知ったのは、マニフェスト大賞の受賞者たちによる発表大会をオンラインで受講したときでした。同じ日本、一つの選挙法や教育法の中で営まれている。現職議員が小学校に赴いて? 本当に? にわかに信じがたいことでした。
正副議長のお迎えを受けました。縷々説明を伺ううち、決定的なことを知りました。議長、副議長の任期が議員任期と同じ4年間ということです。視察が進む間に、事務方にすぐ調べてもらってくれました。熊本県内各自治体議会の議長任期。全14議会中、4年任期が山鹿市議会を含め6議会、2年任期が7議会。残る1年任期なのは熊本市議会、という結果でした。ちなみに、翌日伺った八女氏は福岡県ですが、こちらも任期は4年とのことでした。驚きが深まりました。
20人の議員中11人が新人になった。人は誰でも最初は気心が知れないもの。議長になって2年間はおとなしく(失礼)過ごしたが、これでいいのか、と一念発起。意外にも、と言うと失礼かもしれませんが教育長は難なく攻略(!)。まずここまでで、これは「ウチでも」とはなかなか行かないなあ、との印象が脳裏をかすめました。さらに段取りはできたとしても、さて現場での首尾は。色々思えば、ハードルは決して低くない。そんな思いにかられます。
しかし。昨今の我が国の民主主義の状況、そして北欧などの政治参加の実態。世界の自由と民主主義が日増しに危殆に瀕する中で、国が、県がと言っていられない。まさに地方議会、基礎自治体こそ民主主義の学校。まさに「学校」です。私たちが主権者教育の当事者を任じなくてどうする。このように気持ちを励まされました。
とはいえ、議長のお人柄によるところが大であったろうとも、ご本人に接して推察します。名刺交換させていただくと、副議長はわが党の同志。にこやかなキャラクターできっと議長を支えておられるのでしょう。これで視察は終わりとせず、引き続きご教示ご激励をいただきながら、丸亀市議会の主権者教育を構築してまいりたい。その思いを強く抱きました。